先日、福岡市内のオーディオショップにて複数のDACを使っての試聴会が開催されたのでリポートしたい。DACというのは「Digital to Analog Converter 」の略称で、デジタル信号をアナログ信号に変換する機械のことだ。オーディオの世界ではCDまたはパソコン類に格納されたデジタルの音楽信号を、アンプに伝えられるようにアナログに変換する装置のことを言う。
通常、CDプレーヤーにはDACは内蔵されている。またAVアンプや一部のステレオ用プリメインアンプにはDACが配備されているものもある。単体のDACはCDプレーヤーのデジタル出力およびパソコンのオーディオ・インターフェースから同軸または光ケーブルによって接続され、DACからはアナログケーブルによってアンプに繋がれる。
DAC部分を別筐体にしたセパレート型のCDプレーヤーは、80年代前半のCD黎明期にすでに出現していたが、近年単体のDACが数多く出回るようになったのは、パソコンを音源として使うユーザーが増えてきたせいであろう。
DACのクォリティはサウンドに及ぼす影響が大きいと言われているが、DAC自体の「試聴」および「聴き比べ」が出来る機会は多くはない。それだけに今回のイベントは貴重だ。
用意された機器は4台。ORBのJADE-1LTD、FIDELIXのCAPRICE、LUXMANのDA-200、そしてNmodeのX-DP1である。どれも定価は15万円前後で、オーディオ用DACとしては中級クラスだ。なお、試聴に使用したCDドライヴ部は米国
PS AUDIO社の
PerfectWave Transport、アンプは
Nmodeの
X-PM10、スピーカーは同
X-RM100である。
まず聴いたのはJADE-1LTだ。電子機器の設計等を行っている大阪府のジェーエイアイ(株)という会社が手掛けるブランド「
ORB」のラインナップの一つである。まず、どちらかというと寒色系のNmodeの機器から暖かみのある音が出てきたのには驚いた。中低域の厚みもある。ただし、解像度・分解能はそれほどでもない。物理特性よりも独特の音色を楽しむために作られた製品のようだ。
次に試したのが
CAPRICEである。製造元の
FIDELIXはSONYにいたエンジニアが立ち上げたガレージ・メーカーで、製品は専門誌では高い評価を受けている。聴いた感じは高解像度でハイスピードという印象だが、中高域に魅力的な艶がある。このためか、聴き手を引き込むような臨場感と色気があり、玄人筋からウケがいいというのも納得だ。しかし、実用一辺倒で見た目の高級感はない。4台の中では最も小型なので、空いたスペースに押し込めるには丁度良いだろう。
LUXMANは我が国を代表する高級アンプメーカーだが、
DA-200も手抜きのない出来だと言える。とにかく、音像がキチッと整えられていて高音から低音まで万遍なく出る。音場も見通しが良い。だが、感心したのは最初の数分間だけだった。しばらく聴いていると、何とも言えない違和感が湧き上がってくる。全てが作為的なのだ。おそらくこれが“オーディオファンが喜ぶ音造り”であり、店頭効果は高いと思う。しかし、少なくとも私にとっては音楽が響いてこない。音色が乏しくモノクロームであり一本調子の展開である。同じLUXMANのアンプに接続するともっと違った印象を受けるのかもしれないが、今回に限っては評価は出来ない。
アンプとスピーカーがNmodeの製品であったせいか、
X-DP1は今回最もバランスが良かった。欠点は見つからない。デジタル信号をそのまま淡々とアナログに変換しているという印象で、聴いていて安心出来る。またヘッドフォン端子が優秀であり、その辺のヘッドフォン専門アンプよりもワイドレンジな音が出る。
もしも4台の中で選ぶとすると、個人的には滑らかな音のCAPRICEということになろう。けれども、この製品は電源ケーブルの交換が出来ない。ちなみにX-DP1の電源ケーブルを付属品から市販品に替えてみると音の重心が下がって情報量も多くなり、総合点ではCAPRICEに肩を並べてくる。何でもFIDELIXは少量生産なので注文してから数ヶ月は待たされるという。そのあたりの事情もユーザーとしては勘案しなければならない。
今回試聴したDACは、いずれもヘッドホンアンプ搭載機やプリアンプとして使用できる多機能型である。だが、一方では(この4機種の他にも)変換機能だけに特化した製品も存在しており、DAC単体として見た場合はそういう機器の方がクォリティは高いと言える。
もちろん、この4台のようなDACを手持ちのCDプレーヤーに繋げてグレードアップを狙うという使い方は有り得る。ただし、場合によってはCDプレーヤーを買い替えてしまう方が効果が高いケースも考えられる。導入するには機能と使い方、そしてスペースユーティリティを十分吟味して考える必要があるだろう。