元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「テロ,ライブ」

2025-02-21 06:21:26 | 映画の感想(た行)
 (英題:THE TERROR LIVE )2013年韓国作品。作劇や画面構成に荒さは見られるのだが、緊迫感が全編を覆い、最後まで目が離せないヴォルテージの高さを獲得している。マスコミの欺瞞を取り上げた映画は過去にいくつもあるが、韓国映画が手掛けると(穏やかならぬ社会情勢も相まって)興趣が尽きない。本国ではいくつかの賞を獲得している注目作だ。

 ソウルの放送局SNCでラジオDJを務めるユン・ヨンファは、少し前までテレビの人気ニュースキャスターだったが、不祥事を起こしてラジオ番組に左遷された身である。ある日生放送中にヨンファは、怪しいリスナーから漢江にかかる麻浦大橋を爆破するという予告電話を受ける。イタズラだと思った彼は適当にあしらっていたが、やがて本当に麻浦大橋で爆発事件が発生。



 ヨンファは直ちに警察に通報しようとするが、このスクープを自分のテレビ局復帰のチャンスに仕立てることを思い付き、警察に知らせず犯人との通話の独占生中継を始める。これには上司のチャ報道局長も大乗り気で、結果として番組は史上空前の聴取率を記録するのだった。

 犯人が爆弾の扱いに長けていることは分かるのだが、番組出演者のイヤホンにまで爆破物を仕込むというのは、かなりの無理筋だ。また、途中で入り込んでくる警察関係者の傲慢な態度も納得出来ない。手持ちカメラを多用したと思われる映像はブレが激しく、臨場感を出す以前に観ていて疲れてしまう。爆破テロの画面がモニターのみで扱われているのも、低予算ぶりが窺えて愉快になれない。

 しかし、この映画の構成は実に非凡だ。他人の不幸を自身の利益に繋げようとするマスコミ人種の悪習は御馴染みだが、本作ではそれに加えて、他局との仁義なきスクープ合戦や当局側との鍔迫り合いなども織り込まれ、一筋縄ではいかない様相を呈してくる。さらにヨンファの元妻がリポーターとして麻浦大橋に出向いているという緊迫したプロットも用意され、ストーリーは先が読めない。結局、考え方に一本筋が通っているのは犯人側だったという、皮肉なモチーフが実に効果的だ。

 脚本も担当したキム・ビョンウの演出は観る者を捻じ伏せるほどパワフルで、それに応える主演のハ・ジョンウの頑張りは評価出来る。イ・ギョンヨンやチョン・ヘジン、イ・デビッドなどの他の面子も言うことなし。なお、この事件(および製作意図)の背景には、韓国社会を覆う閉塞感があることは間違いない。そのことが強調されるラストの処理は、大きなインパクトを残す。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」

2025-02-17 06:06:22 | 映画の感想(た行)
 (原題:九龍城寨之圍城 TWILIGHT OF THE WARRIORS: WALLED IN)手が付けられないほどの面白さだ。建て付けは昔ながらの香港製アクションドラマなのだが、97年の香港の中国返還以降に存在感を失ってきたこのジャンルを、今一度盛り立てようという製作陣の気迫が漲っている。舞台を清朝時代に軍事要塞として築かれた九龍城砦に設定し、その勇姿の最終形態を香港映画の総決算と新たな一歩のメタファーとするコンセプトには、感服するしかない。

 80年代、中国本土から香港に密入国した青年チャン・ロッグワンは、持ち前の腕っ節の強さを活かして非公式の格闘技シーンで活躍する。しかし、胴元との約束を一方的に反故にされた彼は、ヤクの束を奪って逃走。追われてたどり着いたのは、剣呑な連中が跳梁跋扈する九龍城砦だった。一悶着あったものの、何とかそこの住人たちと打ち解けたチャンだったが、ボス同士の勢力争いや城砦を我が物にしようとする外部勢力の侵攻などに巻き込まれ、仲間と共に激しい戦いに身を投じるハメになる。



 まず圧倒されるのが、精巧に再現された九龍城砦のセットだ。狭いにエリアにそびえる12階建ての奇態なエクステリアで、上空には旅客機が超低空で通過する。まさに“魔界”と言っても良いような場所では、そこに住む人間たちもまさにカオスだ。

 黒社会のパワープレイは劇中ではすべて網羅できないほど複雑だが、中国返還よりも前に取り壊されると分かっていながら、目先の欲得や私怨に拘泥してしまう古くからの住民たちの人間模様はシニカルだ。対して、チャンとその仲間たちは城砦の中の混沌を抜け出して道を切り開こうとする。その構図は鮮やかだ。



 活劇場面は凄まじいヴォルテージの高さで、思わず興奮させられた。ワイヤーアクションやCGも使った“有り得ないシーン”の連続なのだが、繰り出されるタイミングと豊富なアイデアに満ちた立ち回りの連続は、もう見事としか言いようがない。演出担当は活劇映画には定評のあるソイ・チェンだが、それよりアクション監督の谷垣健治の手腕が大きく貢献していると思う。

 チャン役のレイモンド・ラムをはじめテレンス・ラウにトニー・ウー、ジャーマン・チョンら若手の健闘は頼もしく、ルイス・クーにリッチー・レン、ケニー・ウォンといったベテラン陣も存分に持ち味を発揮している。70歳過ぎても身体能力の衰えは見せないサモ・ハン・キンポーが珍しく悪役に回ったり、ラスボスのフィリップ・ンは実に憎々しく、さらにアーロン・クォックまでゲスト出演しているのだから、本当に嬉しくなる。ペーソスに満ちたラストまで存分に引っ張ってくれる快作で、香港での大ヒットも十分納得だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「敵」

2025-02-08 06:08:58 | 映画の感想(た行)
 これは楽しめた。筒井康隆による原作の同名小説こそ未読だが、彼の作品はけっこう目を通している。そして痛感するのが、筒井の小説ほど映画として仕立てるには難しい素材は無いってことだ。今までも「時をかける少女」のようなジュブナイル系を除く映画化作品は数本あるのだが、いずれも大成功とは言えない。ところが、本作はかなり健闘していると思う。

 主人公の渡辺儀助は77歳。大学教授の職をリタイヤし、都内の古い一戸建てにひとりで暮らす。妻には先立たれ、子供もいないのだが、本人はあまり気にしていない。時折講演に招かれたり、気の置けない友人と酒席を共にしたりと、悠々自適な毎日だ。ところがある日、パソコンの画面に“敵がやって来る”という不穏なメッセージが表示される。それから彼の周りには不可解なことが頻発し、いつしか何が夢か現実か分からないような境遇に追いやられる。



 有り体に言えば、その“敵”というのは儀助にとっての“老い”であり“寿命”なのだろう。しかし本作はそれを“語るに落ちる”ようなレベルでは決して扱わない。何がどのような状態でどの時系列で主人公に迫ってきているのか、それを明かさずに観客を巧みに翻弄する。

 時折訪ねてくる、かつての教え子である鷹司靖子は果たして“本物”なのか。行きつけのバーで儀助と知り合う女子大生の菅井歩美は、主人公の空想の産物かもしれない。ついには死んだはずの妻の信子まで現われるようになる。さらに、それらを現実(らしきもの)と結び付けるものとして、儀助の日常の細やかな描写が有効に作用している。特に、彼自身が丹精込めて作る日々の食事は絶品だ。観ていて実に美味しそうに見える。

 終盤近くには筒井作品の常としてカオスなドタバタ描写の釣瓶打ちになるが、これをしっかりと制御するのが四宮秀俊のカメラによる精緻なモノクロ映像だ。結果としてエクステリアが浮ついた軽薄なものになっていない。脚本も担当した吉田大八の演出は堅調で、今までの彼の仕事の中では一番良い。

 主演の長塚京三はまさに妙演であり、この複雑な主人公像を上手く活写している。瀧内公美に河合優実、黒沢あすか、中島歩、松尾諭、松尾貴史といった他のキャストも万全だ。なお、意味ありげなラストショットはたぶん原作には無いのだと思うが、それまでの展開をひっくり返すようなテイストで、本当にスリルたっぷりである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「近頃なぜかチャールストン」

2025-01-17 06:16:56 | 映画の感想(た行)
 81年作品。監督は岡本喜八だが、彼の全盛期は60年代か、強いて言えば70年代半ばまでだろう。本作もそれほどアピール度は高くない。同監督のファンで、全作品をチェックしたいと思っている映画ファン以外には、現時点ではあまり奨められないと思う。しかしながら、この年のキネマ旬報ベストテンにはランクインしており、リアルタイムで鑑賞していれば印象は変わったかもしれない。

 不良少年の小此木次郎は悪さをしてブタ箱に入れられた際、そこで無銭飲食で捕まった年嵩の男たちと知り合う。彼らは自分たちを独立国であるヤマタイ国の国民と名乗っており、次郎は呆れつつも興味を持つ。後日、それぞれ釈放されるものの、次郎は彼らのことが気になってガールフレンドのトミ子と一緒にヤマタイ国を探す。



 すると何と、そこは行方不明になっている次郎の父親が彼らに無償で貸していた物件だった。次郎はヤマタイ国に乗り込むが、スパイ容疑とやらで捕まった挙げ句に、無理矢理に“帰化”させられてしまう。こうして若造と怪しい老人たちとの奇妙な共同生活が始まる。

 オッサンどもは製作当時からすれば戦中派ぐらいだろうが、別に先の戦争に対する屈託や物言いが横溢するわけではなく、ただ何となくバカなことをやっているだけだ。しかしながら、やたら年寄り臭くなることは何とか回避されている。その理由はたぶん、脚本に岡本御大だけではなく次郎に扮する利重剛が加わっているからだろう。

 彼は本作が撮られた時期はまだ二十歳前であり、ヤマタイ国創立などという年寄りのお遊びを一歩も二歩も引いた地点から見ていたと思われる。その醒めた立ち位置は、ヤマタイ国の地下に不発弾が見つかったり、保険金殺人事件を追う刑事たちが勝手に話に加わったり、さらに関西から来た殺し屋が乱入してきたりといった荒唐無稽な筋書きを前にしても少しも揺るがない。いわばキャラクターに媚びないようなテイストを取り入れていることが、本作の(岡本喜八の映画としては)特異性を際立たせて評論家筋にウケたのだろう。

 しかも、意味も無くモノクロで撮られている点も好事家の興味を引きやすい。利重剛以外のキャストは、財津一郎に本田博太郎、小沢栄太郎、田中邦衛、殿山泰司、岸田森、寺田農、光石研、速水典子など、かなり豪華。タミ子役の古館ゆきも良い味を出している。なお、音楽担当は大御所の佐藤勝で、ここでも安定した仕事ぶりを見せている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「太陽と桃の歌」

2025-01-12 06:17:05 | 映画の感想(た行)
 (原題:ALCARRAS)第72回ベルリン国際映画祭で大賞に輝いたヒューマンドラマだが、出来が良いとはとても思えない。もちろん、舞台になっているスペインのカタルーニャ地方の風俗など私は知らないし、ましてやそれに対する映画祭審査委員の思い入れなんか理解の外にある。しかし、それらを差し引いてもアピール度の低さは拭えない。

 当地で3世代にわたって桃農園を営んでいるソレ家が例年通り収穫を迎えようとすると、突然地主から収穫後に土地を明け渡すよう言い渡される。桃の木をすべて伐採して、代わりにソーラーパネルを敷き詰める予定らしい。頑固者の父は猛反対するが、母と妹夫婦はパネルの管理をすれば楽に稼げるのではないかと密かに期待する。かと思えば祖父はギャンブルにハマっているし、長男は畑の片隅で大麻栽培を始める始末。家族それぞれの思惑が交錯する中、季節は夏の終わりを迎える。



 まず、時代設定が判然としないのには参った。スマホを持っている者がいるので現代の話のようだが、十分に活用しているようには見えないし、情報を収集している様子も無い。また、収穫物の桃の取り扱いが手荒いのも気になる。あれでは実に傷が付いて売り物にならないだろう。あるいは、ジュース用か何かとして出荷するのだろうか。

 そもそも、この地方の主要農産物は米やジャガイモであり、果物ならばブドウであって、桃はポピュラーではないはずだ。このソレ家にとっても同様で、たぶん桃以外に採算の取れる作物(オリーブか何か)を栽培しているはずであり、桃だけがクローズアップされる必然性は乏しい。一家の面々も魅力があるとは言い難く、父親以外は現実に対する切迫感は感じられない。ただ漫然と日々を過ごすだけだ。

 ここで思い出したのが、同じく厳しい状況に追い込まれた農民一家を描いたエルマンノ・オルミ監督の「木靴の樹」(78年)である。あの映画は傑作として名高いが、この「太陽と桃の歌」はその足元にも及ばないと言って良い。脚本も手掛けたカルラ・シモンの演出は凡庸で、ジョゼ・アバッドにアントニア・カステルス、ジョルディ・プジョル・ドルセといったキャストは馴染みも無いし、目立った演技もしていない。

 あと気になったのは、一家の女児が上半身裸で遊んでいる場面で胸の部分にボカシが入っていること。どう見ても5,6歳の幼女の描写に、そこまでする必然性は無い(却ってワイセツに思えてしまう)。何を考えて斯様な措置を講じたのか、当事者の感覚が疑われるところである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「デイ・シフト」

2025-01-11 06:19:11 | 映画の感想(た行)

 (原題:DAY SHIIFT)2022年8月よりNetflixから配信されたホラー・コメディ。他愛の無いシャシンなのだが、手を抜かずに真面目に仕上げられているので、けっこう楽しめる。まあ、一応この手の映画には付きもののゴア描写は満載であり、それが苦手な向きには奨められないが、ホラーにある程度の耐性があれば鑑賞後の満足度も低くはないと思われる。

 カリフォルニア州でプール清掃業を営むバド・ヤブロンスキーには、別居中の妻子も知らない裏の顔があった。それは、密かに数を増やしつつあるヴァンパイアどもを駆除するハンター稼業である。だが、勤務態度は万全とは言えず、一度はハンター組合から追放されてしまう。それでも娘の学費を工面するため組合に頼み込んで復職するが、規則に詳しい現場未経験の事務員セスが監視役として同行することを承知するハメになる。

 当初、陽光まぶしいカリフォルニアでヴァンパイア連中がどうやって増殖しているのかと思っていたら、何と彼らは特殊な“日焼け止めクリーム”を使用しているらしい(大笑)。さらにはハンターたちの“報酬”を決めるに当たっては、片付けたヴァンパイアどもの牙を引き抜いて組合に持参することが必須条件とのことで、いわゆる年代物の古参連中のものが高く評価されるというのは、呆れつつも納得してしまう。

 今回バドの前に立ち塞がるのは女ボスのヘザーで、彼女は大手不動産の社長であり、ヴァンパイアに相応しい物件を手広く扱っているというのも、悪くない設定だ。これが初監督作になるJ・J・ペリーはスタントマン出身とのことで、さすがに活劇場面(特に乱闘シーン)は優れている。また、木の杭とか銀の弾丸とかいったヴァンパイア映画に付き物のグッズの扱いも効果的だ。そして随所に散りばめられたギャグは精度が高く、何度か爆笑させられた。

 主演のジェイミー・フォックスは“いつも通り”であり、新味は無いが安定したパフォーマンスを披露。デイブ・フランコにナターシャ・リュー・ボルディッゾ、ミーガン・グッド、ピーター・ストーメア、ザイオン・ブロードナックスといった脇のキャストも良い。また、大物ヴァンパイア・ハンターに扮するスヌープ・ドッグが儲け役。さすがに劇中でラップを実演する場面は無いが、その存在感は作品のカラーによく合っていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「東京日和」

2024-12-23 06:16:11 | 映画の感想(た行)
 97年作品。去る2024年12月6日に惜しくも世を去った中山美穂の女優としての代表作は何かというと、岩井俊二監督の「Love Letter」(95年)だというのが大方の見方だろう。私もあの映画は傑作だと思うが、彼女のヴィジュアルが最も効果的に捉えられていたのはこの「東京日和」である。正直、作品としてはウェルメイドとは言い難い。しかし、中山の魅力を活写したという意味で、いつまでもファンの記憶に残ることだろう。

 写真家の島津巳喜男は、今は亡き妻のヨーコのことを思い出していた。ただし、彼女との生活はトラブルの連続だった。まず、ホームパーティを開いていた際にヨーコが招待客の水谷の名前を呼び間違えてしまい、ショックを受けた彼女はそれを切っ掛けに家を飛び出して3日間行方不明になったことだ。しかも、巳喜男の勤め先には夫が交通事故で入院したと嘘をつく始末。



 また、同じマンションに住む少年に無理矢理女の子の恰好をさせようとしたり、結婚記念日に出かけた旅行先でまたしても行方をくらましたりと、一時たりとも油断が出来ない言動のオンパレードだ。それでも巳喜男はヨーコのことが好きでたまらなかった。著名なカメラマンである荒井経惟と妻の陽子によるフォトエッセイの映画化だ。

 監督は竹中直人で、主人公の巳喜男も演じている。ただ、竹中の演出家としての力量は(他の諸作をチェックしても分かるように)それほどでもなく、骨太なドラマの構築なんか期待出来ない。本作もまとまりのないエピソードが漫然と積み上がっていくだけで、散漫な印象を受ける。まるで“明確なドラマ性は観る側で勝手に解釈してくれ”といった案配だ。

 しかしながら、ヨーコを演じる中山美穂は本当に素敵だ。映画をリアルタイムで観たときは、彼女は日本映画を代表する美人女優であると思ったほどだ。特に、野の花を片手に笑いながら走ってくるシーンはヤバいほどの吸引力がある。それだけに、彼女の早すぎる退場は残念でならない。

 あと、竹中の人脈の広さを証明するように、多彩なキャストを集合させていることには呆れつつも感心してしまった。松たか子に田口トモロヲ、温水洋一、三浦友和、鈴木砂羽、山口美也子、浅野忠信などの俳優陣はもちろん、中田秀夫や周防正行、森田芳光、塚本晋也などの監督仲間、さらに中島みゆきまで出ているのだから驚くしかない。大貫妙子の音楽と佐々木原保志によるカメラワークも要チェックだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ティアメイカー」

2024-12-15 06:27:50 | 映画の感想(た行)

 (原題:FABBRICANTE DI LACRIME)2024年4月よりNetflixから配信されたイタリア製の学園恋愛もの。設定がいかにも“古典的”で最初は面食らったが、屹立するキャラクターとキャストの頑張りで何とか付き合うことが出来、終わり近くにはけっこう盛り上がる。結果として観てそんなに損はしないシャシンかと思った。

 児童養護施設で辛い幼少期を過ごした女の子ニカは、十代後半になりミリガン家の養子として引き取られることになる。ところがこの施設で育った男子リゲルもミリガン夫妻は気に入ってしまい、一緒に迎え入れる。同年齢のリゲルとニカは同じ高校に通うことになるが、互いに抱えているトラウマのために家でも学校でも気まずい思いをするばかり。そんな中、ニカに思いを寄せる同級生のライオネルが引き起こしたトラブルが、リゲルを巻き込んで大きな騒動に発展する。エリン・ドゥームによるヤングアダルト小説の映画化だ。

 鬼のような院長が支配する孤児院で辛酸を嘗める主人公たちという、大時代な設定にはまず苦笑してしてまう。さらにいくらミリガン家に余裕があるといっても、2人同時に、しかも色気付いた(笑)年頃の男女を養子にするという筋書きは相当無理がある。通う高校は明らかに中流以上の家庭の子女を対象にした佇まいで、この学校の選択は養父母の意向なのは明らかだが、2人ともそこの生徒にしてしまうというのは考えものだ。せめて別々のところに通学するように配慮すべきではなかったか。また、リゲルとニカの周囲の生徒たちの造型も図式的で感心しない。

 だが、話が児童施設の虐待を告発する裁判劇の様相を呈する終盤は、興趣が俄然増してくる。主人公2人の言動の背景にあるものは、幼少時の体験にあることが強調され、けっこうドラマは深みを帯びてくるのだ。これが事故が元で生死の境をさまようことになるリゲルの容体と同時進行し、観ていて少し引き込まれるものがあった。

 リゲルを演じるシモーネ・バルダッセローニは二枚目ではあるものの、ミステリアスで悪魔的な風貌が強い印象を与える。ニカに扮するカテリーナ・フェリオリはかなりの美少女だが、性根が据わっていて大胆な演技も厭わないのには感心する。孤児院の院長役のサブリナ・パラビチーニも実に憎々しい。

 アレッサンドロ・ベデッティにロベルタ・ロベッリ、オルランド・チンクェ、ジュジュ・ディ・ドメニコなど他のキャストは馴染みは無いが、皆良い演技をしている。アレッサンドロ・ジェノベージの演出には特段才気は感じられないが、及第点だろう。ルカ・エスポジートのカメラによるロケ地のイタリア北部ラベンナの美しい風景と、音楽担当のアンドレア・ファッリが提供する流麗なスコアも効果的だ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「対外秘」

2024-12-09 06:30:15 | 映画の感想(た行)
 (英題:THE DEVIL'S DEAL)イ・ウォンテ監督の前作「悪人伝」(2019年)ほどバイオレンス場面は多くはないが、この新作もヴォルテージは高い。作劇には荒っぽいところも見受けられるものの、展開は予測不能で緊迫感があり、エンドマークが出るまで引き込まれてしまう。こういうネタを扱えば、最近の韓国映画は無類の強さを発揮するようだ。

 92年、釜山の地方議員のヘウンは次期総選挙での大手政党の公認を約束され、出馬を決意する。しかし土壇場になって、フィクサーとして裏で権力を振るうスンテが自分の言うことを聞きそうな別の男に公認候補を変えてしまう。激怒したヘウンは、スンテのそれまでの悪行を記した極秘文書を手に入れて反転攻勢に打って出ると共に、ヤクザのボスであるピルドから選挙資金を得て無所属で出馬。スンテも黙ってはおらず、仁義なき選挙戦は果てしなく続く。



 とにかく、出てくるキャラクターが濃い。ヘウンは党公認を期待していた序盤こそコメディ的で軽量級の扱いだが、スンテに正面から対峙する中盤からは腹黒さがクローズアップ。悪徳政治家としての凄みが出てくる。スンテも目的のためならば人の命など屁とも思わない悪党で、この2人に比べればヤクザのピルドは青臭く見えるが、それでも凶暴さは遺憾なく描かれる。報道倫理など完全無視のマスコミ連中も含め、全員がワルだ。最後まで正義が反映される局面は無い。

 くだんの極秘文書をめぐるやり取りはあまりスマートとは言えず、後半のバタバタした展開は気になるが、それでも本作の吸引力は大したものだ。ストーリー自体はフィクションだが、92年といえば韓国で初めて大統領選挙と総選挙が同時に行われた年ということで、軍人出身ではない金泳三大統領が誕生したことも含めて、激動の時期であったらしい。映画で描かれたことが絵空事とは思えないのも、時代設定を吟味したイ・ウォンテ(脚本も担当)の手柄だろう。

 へウンに扮するチョ・ジヌンは、いかにも抜け目のない俗物を上手く演じている。スンテ役のイ・ソンミン、ピルドを演じるキム・ムヨル、いずれも満足出来るパフォーマンスだ。余談だが、今でこそ釜山広域市は韓国第2の大都市として知られているものの、90年代前半まではオリンピックを開催したソウルに随分後れを取っていたらしい。本作は釜山の発展前夜を取り上げたということで、その混沌とした状況も映画のアクセントになっていると思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「タイムカット」

2024-11-17 06:20:21 | 映画の感想(た行)

 (原題:TIME CUT)2024年10月よりNetflixから配信されたSF編。タイムリープをネタにしているが、プロットには随分と穴がある。そもそも、設定からして納得出来ない点が散見される。ならば面白くないのかというと、そうでもないのだ。展開はテンポが良くて退屈しないし、キャストも十分機能している。カネ払って映画館で観たら腹も立つだろうが(笑)、テレビ画面だと気軽に付き合える。

 主人公の女子高生ルーシーが住む田舎町(ロケ地はカナダのマニトバ州のウィニペグ市郊外)では、2003年に未解決の連続殺人事件が起こっている。彼女の姉サマーも犠牲者の一人だった。ある日、納屋に設置された怪しげな機械に接触したルーシーは、2003年にタイムスリップしてしまう。そこは件の惨劇が起きる数日前で、サマーも健在だ。何とかして姉の命を救うべく、ルーシーは奮闘する。

 そもそも、簡単にタイムトラベルが出来てしまうメカが無造作にあんな場所に置かれていること自体が噴飯ものだ。両親の外観や振る舞いには、2つの時間軸で大して時の流れを感じさせないのもおかしい。父親は核エネルギーを扱っているらしい怪しげな大手企業に勤めているのだが、そんなアブナい会社のプラントが住宅地のすぐ近くにあるというのは失当だろう。

 肝心のタイムパラドックスの処理にしても、かなりいい加減で御都合主義に近い。それでも、シリアルキラーに主人公たちが追いまくられる段になると、けっこう盛り上がる。事件が発生する日時は分かっているのだが、何とかしようとするたびに障害が立ちはだかるという段取りは型通りだが悪くない。そして犯人は意外な人物で、その動機も強引ながら納得出来るものになっている。

 脚本にも参加しているハンナ・マクファーソンの演出は手堅く、91分という短い尺も相まって冗長な面を見せない。ルーシーに扮するマディソン・ベイリーをはじめ、アントニア・ジェントリーにグリフィン・グラック、マイケル・シャンクス、レイチェル・クロフォード、ミーガン・ベストといった顔ぶれは馴染みは無いが、皆良くやっていたと思う。それにしても、こんなシチュエーションの映画に接するたびに、あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズは実に良く出来ていたものだと改めて思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする