つまらない。まるで出来の悪いテレビの2時間ドラマを見ているようだ。展開にキレもコクもなく、単に“ストーリーを追っただけ”という感じで、上映時間がとてつもなく長く感じてしまった。
江戸時代初期に活躍した天文学者・安井算哲(後の渋川春海)の若い頃を描く実録物だ。幕府の碁方であった算哲は、囲碁以外にも数学や天文学などの自然科学に通じていた。会津藩の命を受けて北極星を観測するため日本中を回った彼は、暦がズレていることを発見し藩主に報告する。算哲は改暦という一大事業を命じられるが、それは当時暦の運用を握っていた朝廷と対立することを示していた。
この作品のどこがイケナイかというと、せっかく“理系”の登場人物を物語の中心に据えながら、彼が打ち込んでいる天文学や数学の深遠な世界を観客に垣間見せる技と仕掛けがまったく見当たらないことだ。これでは算哲はただの“仕事熱心な男”でしかなく、この題材を選んだ意味が無い。
主人公だけではなく、算哲の支援者である水戸光圀、ライバルの関孝和、学者仲間の建部伝内や伊藤重孝に至るまでキャラクターが全然立っておらず、彼らがどうしてその地位にいてどういう矜持を抱いているのかさっぱり伝わってこない。どいつもこいつも薄っぺらで、まるで書き割りのようだ。
それと、主人公達が碁を打つシーンが何回か挿入されるのだが、キレ味鋭い勝負事の厳しさがほとんど伝わっていない。私も一応囲碁をたしなむので、余計に気になってしまった。だいたい、本因坊道策との対局では算哲の初手天元こそ史実通りだが、道策の実際の受け手は目外しである。映画のように二手目で天元にツケたりはしなかったのだ。そのあたりのいい加減さも盛り下がる要因であろう。
プロデューサーは滝田洋二郎監督の使い方が分かっていない。何度でも言うが、この人の得意科目は“おちゃらけ喜劇”と“ホラー”なのだ(ピンク映画時代の諸作を観るとよく分かる)。評判になった「おくりびと」はその二つのテイストも良い感じで配合されていたけど、今回は別に彼でなくてもいい題材だ・・・・というか、スクエアーな演出力を持った別の監督の方が相応しかっただろう。
主演の岡田准一をはじめ、中井貴一、松本幸四郎、佐藤隆太、市川猿之助と多彩な顔ぶれを揃えていながらロクな演技指導が成されていない。良かったのは相変わらず可愛い宮崎あおいぐらいだ(^_^;)。久石譲の音楽や浜田毅も今回は生彩が無い。はっきり言って、観なくてもいい映画だ。