元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「天地明察」

2012-10-31 06:50:29 | 映画の感想(た行)

 つまらない。まるで出来の悪いテレビの2時間ドラマを見ているようだ。展開にキレもコクもなく、単に“ストーリーを追っただけ”という感じで、上映時間がとてつもなく長く感じてしまった。

 江戸時代初期に活躍した天文学者・安井算哲(後の渋川春海)の若い頃を描く実録物だ。幕府の碁方であった算哲は、囲碁以外にも数学や天文学などの自然科学に通じていた。会津藩の命を受けて北極星を観測するため日本中を回った彼は、暦がズレていることを発見し藩主に報告する。算哲は改暦という一大事業を命じられるが、それは当時暦の運用を握っていた朝廷と対立することを示していた。

 この作品のどこがイケナイかというと、せっかく“理系”の登場人物を物語の中心に据えながら、彼が打ち込んでいる天文学や数学の深遠な世界を観客に垣間見せる技と仕掛けがまったく見当たらないことだ。これでは算哲はただの“仕事熱心な男”でしかなく、この題材を選んだ意味が無い。

 主人公だけではなく、算哲の支援者である水戸光圀、ライバルの関孝和、学者仲間の建部伝内や伊藤重孝に至るまでキャラクターが全然立っておらず、彼らがどうしてその地位にいてどういう矜持を抱いているのかさっぱり伝わってこない。どいつもこいつも薄っぺらで、まるで書き割りのようだ。

 それと、主人公達が碁を打つシーンが何回か挿入されるのだが、キレ味鋭い勝負事の厳しさがほとんど伝わっていない。私も一応囲碁をたしなむので、余計に気になってしまった。だいたい、本因坊道策との対局では算哲の初手天元こそ史実通りだが、道策の実際の受け手は目外しである。映画のように二手目で天元にツケたりはしなかったのだ。そのあたりのいい加減さも盛り下がる要因であろう。

 プロデューサーは滝田洋二郎監督の使い方が分かっていない。何度でも言うが、この人の得意科目は“おちゃらけ喜劇”と“ホラー”なのだ(ピンク映画時代の諸作を観るとよく分かる)。評判になった「おくりびと」はその二つのテイストも良い感じで配合されていたけど、今回は別に彼でなくてもいい題材だ・・・・というか、スクエアーな演出力を持った別の監督の方が相応しかっただろう。

 主演の岡田准一をはじめ、中井貴一、松本幸四郎、佐藤隆太、市川猿之助と多彩な顔ぶれを揃えていながらロクな演技指導が成されていない。良かったのは相変わらず可愛い宮崎あおいぐらいだ(^_^;)。久石譲の音楽や浜田毅も今回は生彩が無い。はっきり言って、観なくてもいい映画だ。
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「007/ゴールデンアイ」

2012-10-30 06:28:58 | 映画の感想(か行)
 (原題:Golden Eye)95年作品。お馴染みのシリーズ第17作目だ。5代目ボンド役としてピアース・ブロスナンが初めて起用された作品で、冷戦当時に開発された地上のあらゆる電子機器の性能を電磁波で不能にできる軍事衛星の制御ソフト“ゴールデンアイ”の争奪戦を描く。ボンドは前半ロシアで、後半はキューバの奥地で大暴れ。監督は「ノー・エスケイプ」などのマーティン・キャンベル。

 映画の出来はというと、正直言ってどうでもいいかなと・・・・。アクションのつるべ打ちなのは当然だし、退屈はしないんだけど、イマイチのめり込めない。アクションは派手でもどこかで見たパターンが多いし(戦車でのカーチェイスは面白かったけど)、ボンドガールはフツーのOLさんみたいだし、敵の組織“ヤヌス”にしたって幹部が3人しかいないし、その目的も“世界制覇”じゃなくって単なる銀行強盗だし・・・・。どうも小粒なのだ。



 主役のブロスナンは細身のせいかどうも迫力不足。ユーモアのセンスではロジャー・ムーアに負けるし、胸毛の多さではショーン・コネリーの敵ではない(?)。多少顔がデカくてラブシーンが下手でも、シャキッとした感じの前任者ティモシー・ダルトンの方が良かった。

 実を言うと、この映画の製作は前作から6年ものインターバルが開いている。その間に「ダイ・ハード」は出るし「スピード」も公開され「クリフハンガー」が多くの客を集め、そしてやはり「トゥルーライズ」という大金かけた007のパロディを先に見せられては、気勢が上がらなかったのも当然かもしれない(まあ、「トゥルーライズ」も大した映画じゃなかったが)。

 ここはひとつ“スペクター”の再登場を期待したかったところ。冷戦後のドラスティックな世界情勢なんかはどこかに置いといて、とことんアホな陰謀とやたらアクが強くて憎たらしい悪役、ゴージャスなボンドガールの跳梁跋扈を賑々しく楽しみたかった。監督も能天気なハリウッドの大作向けの人材を持ってくればいい(このシリーズではその方がいい)。あるいは逆に、2作目みたいにロマンティックな味付けで玄人向けのヨーロッパ製スパイ映画にするか。特色出してほしかった。

 音楽はエリック・セラだが、もろ雰囲気が「ニキータ」だ。あまり合っているとは思えない。ティナ・ターナーによる主題歌と名物のタイトル・バックは良かったけどね。
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「屋根裏部屋のマリアたち」

2012-10-29 06:47:44 | 映画の感想(や行)

 (原題:LES FEMMES DU 6EME ETAGE)出だしは“ユルい”と感じたが、恋愛映画の作り方に長けたフランス作品らしい“肌触りの良さ”が徐々に出てきて、結果的に気持ちよく劇場を後にすることが出来た。

 1962年のパリ。主人公のジャン=ルイは証券会社の経営者だ。息子二人は全寮制の学校に籍を置いているため、一年の大半は妻シュザンヌとの二人暮らしである。長年勤めていたメイドが辞め、代わりにジャン=ルイたちが住むアパルトマンの屋根裏に住んでいる中年女の紹介で、若いスペイン女のマリアが雇われる。

 この屋根裏部屋には彼女だけではなく、スペインから出稼ぎに来ている女たちが集団生活を送っていた。ジャン=ルイは一見屈託のない彼女たちと仲良くなるが、そのことは彼の家庭にも大きな影響を及ぼすことになる。

 前半、主人公と屋根裏部屋の住人たちが触れ合う場面は微笑ましいが、どこか表面的で空々しい印象を受ける。しかし、ここのスペイン人たちはフランコ独裁政権の恐怖から逃れるために、やむを得ずフランスに生活の場を求めていることが分かってくると、作劇にグッと奥行きが付与される。

 隣の国では生きるか死ぬかのシビアーな状況に国民が追いやられているのに対し、地続きの国境線を隔てたこちらでは太平楽に色恋沙汰を謳歌している。この落差の理不尽さが、観る者に粛然とした気分を味合わせる。

 さらに興味深いのは、享楽的な日々を送っているように見えるシュザンヌの造型だ。彼女は地方出身で、社交仲間から少しでも田舎者扱いされることを恐れている。そのため身なりや物腰に細心の注意を払っているのだが、そのことに対して心底疲れているのだ。ジャン=ルイとスペイン女達との付き合いを知って、シュザンヌが本音を見せていくあたりの描き方は上手い。

 監督のフィリップ・ル・ゲイは今回初めて知ったが、ラブストーリーの中に時事ネタを挿入させてスパイスを効かせる腕前は、なかなか達者だ。主演のファブリス・ルキーニは好調。おっとりとした憎めないキャラクターをうまく表現している。マリアの叔母に扮したカルメン・マウラの重量感も要チェックだ。舞台がスペインに移るエピローグは余計かもしれないが、明るいタッチで憎めない。
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対馬に行ってきた。

2012-10-28 06:57:08 | その他
 先日、長崎県の対馬に行ってきた。とはいっても観光旅行ではなく、出張だ。私が勤める職場ではビジネスのために離島に赴くことはめったにないのだが、今回特別に工事現場の視察をする必要性が生じ、足を運んだ次第である。

 ここで仕事の話をしても面白くないので、昼休みなどの業務の空き時間に見た観光スポットについて述べたい。まずは厳原町にある対馬藩主宗家の墓所である万松院(ばんしょういん)だ。恥ずかしながら、このような場所が対馬にあるとは知らず、地元の関係者に教えてもらって初めて訪れることが出来た。



 万松院は江戸時代初期に対馬藩主によって建立された天台宗の寺で、その墓地は金沢市の前田藩墓地、萩市の毛利藩墓地とともに日本三大墓地の一つとも言われている。かなり規模が大きく、敷地内には長崎県指定天然記念物となっている樹齢1200年の大スギもそびえ立っている。

 本堂には徳川歴代将軍の金箔の大位牌が飾られ、朝鮮通信使の資料や、朝鮮王朝から送られた三ツ具足(仏事用の香炉・花瓶・燭台の三点セット)といった珍しい展示物が並んでいる。とにかく、境内全体を覆う厳粛な雰囲気が印象深い。

 厳原町には武家屋敷に使われていたとおぼしき石垣などもあちこちに残っており、歴史好きにとっては興味の尽きない場所であろう。

 上対馬にある韓国展望所にも行ってみた。対馬の北端にあり、朝鮮半島まで49.5Kmしかない。天気の良い日には半島まで見渡せるらしいが、あいにく当日は晴れてはいたが海上にうっすらとガスが立ちこめていて、釜山の街並みを見ることは出来なかった。しかしそれでも青い海原と島々とのコントラストは素晴らしい。



 同じく上対馬町にある三宇田海水浴場は夏場は賑わうらしいが、シーズンオフの今は人もまばらだ。しかし、その風景の美しさには驚かされる。絵に描いたような白砂青松の浜辺に、遠浅でエメラルドグリーンの海。日本の渚百選にも選ばれているだけはある。

 以上挙げた他にも、調べてみると対馬には観光名所が数多くあり(もちろん、今回は仕事で行っているのでそれらを回ることは出来なかったのだが ^^;)、九州エリアの中でも無視できない地区であることが分かる。しかし、地元側はPRが得意でないせいか、全体的に知名度がイマイチなのは残念だ。

 その代わり、島内に目立つのは韓国からの観光客だ。走っている観光バスはほとんどが韓国人を乗せている。しかし、彼らは当地にそれほどカネを落としてくれるわけでもない。この状態を何とか打破しないと、島の経済的な地盤沈下は止まらないであろう。

 それにしても、旅館で食べた(今が旬の)アオリイカの刺身は絶品だった。次回は仕事ではなくプライベートで訪れたいものだ。
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