(原題:POPULAIRE )設定はとても興味深いが、脚本と演出が三流なので凡作に終わっている。やはり一つのアイデアを映画の成功として結実させるには、正攻法の練り上げが不可欠なのだ。
1958年のフランス。当時最もモダンな女性の職業と言われたタイピスト兼秘書になるために田舎から出てきたローズだが、実はタイピングは我流の“一本指打法”しか出来ず、なかなか正社員の座を得られない。
そんな中、彼女の度胸とコケティッシュな魅力が気になった保険会社の社長ルイは、その頃盛んに開かれていた“タイプ早打ち大会”に彼女が出場して入賞することを引き替えに、正式採用を認めることを持ちかける。ルイの家に住み込み、過酷な特訓を積んで、何とかノーマルな十本指でのタイプを身につけた上で大会に臨む彼女だが、並み居る強豪がローズの前に立ちふさがる。
垢抜けない田舎娘を磨き上げるスマートな中年男という、まるで「マイ・フェア・レディ」のような構図と、スポ根ドラマを合体させたようなアウトラインを持つ本作、残念ながら単なる“アイデアの提示”に終わっている。
だいたい、映画自体が長すぎる。世界大会まで描く必要があったのか? 市町村主催の競技会か、あるいはせいぜい県大会ぐらいまででセーブしておくべきだった。出場回数が無意味に増えれば、それだけ主人公二人の関係性をじっくり扱う余裕が無くなってくる。事実、中盤以降はバタバタして二人のロマンスも行き当たりばったりの展開にしかなっていない。
肝心の競技会のシーンも盛り上がらない。ユニーク過ぎる特訓の数々と、タイピングの“極意”みたいなものを、ハッタリかませた仕掛けでリズミカルに描いて欲しかったが、芸も無くタイプライターを叩き続ける場面が延々と続くのみ。対するライバル達の“必殺技”も披露出来ず、ガチャガチャとうるさいわりには平板だ。
レジス・ロワンサルの演出は冗長で、メリハリのないままストーリーだけを追っている状態。向こうウケを狙ったような、いかにもオシャレっぽいカラフルな映像が幾度となく挿入されるのだが、本編が腰砕けのままでは“浮いた”ような印象しか受けない。
ルイ役のロマン・デュリスとローズに扮するデボラ・フランソワは好演で、特にフランソワは巷では“オードリー・ヘップバーンの再来か”と言われているほどの存在感を発揮しているのだが、映画の出来がこの程度では、積極的に評価するのは差し控えたい。