元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「お坊さまと鉄砲」

2025-01-05 06:18:50 | 映画の感想(あ行)
 (英題:THE MONK AND THE GUN)脚本も手掛けたパオ・チョニン・ドルジの演出は、長編監督デビュー作「ブータン 山の教室」(2019年)よりもかなり手慣れてきた感じで、起承転結はキッチリと整備され、凝ったストーリー展開も違和感が無い。各キャストの動かし方は堂に入っており、娯楽映画としてのスタイルは練り上げられていると言って良いだろう。しかし、それが映画自体の存在感に貢献しているかというと、少し微妙ではある。

 2006年。第5代国王のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクが退位し、民主化へと舵を切ったブータンでは、総選挙の実施を見据えて各地で模擬選挙が行われることになる。周囲を山に囲まれたウラの村も例外ではなかったが、この地で敬われている高僧は、なぜか次の満月までに銃を2丁用意するよう若い僧に指示するのだった。銃なんか見たこともない若い僧は、調達するため仕方なく山を下りる。



 一方、アメリカからアンティークの銃コレクターのロナルドが“幻の銃”を求めてやって来て、村全体を巻き込んでちょっとした騒ぎになる。しかも、ロナルドは銃密売の疑いで当局側からもマークされており、事態は先の読めない様相を呈してくる。僧職にある者と銃というミスマッチ感、ガンマニアのアメリカ人とガイド、さらには警察当局といった多彩なモチーフを並べ、それらが混濁しないように進めていく段取りには欠点らしきものは見えない。どうして高僧が銃を所望したのかが明かされる終盤の処理も、誰でも納得出来るようなものだ。

 しかしながら、民主主義に対する疑義をあからさまに表明するような姿勢は、賛否が分かれるのではないだろうか。国王はクーデター等でポストを失ったわけではなく、真に国の民主的な発展を願っての勇退であった。それだけ国民を信頼していたということだろうが、あいにく有権者の意識はまるで追いついていない。

 映画はそのあたりをシニカルに描こうとするが、かといって王政が継続するのも何かと懸念材料が多くなる可能性がある。そういうことを考えると、果たしてこの監督が題材として取り上げるのが適当だったのか、疑問に思えてくる。前作の延長線上であと何本か手掛けても良かったのではないか。とはいえ、キャストは皆好演だし、ヒマラヤの風景はすこぶる美しい。不要な刺激や緊張を伴わない肌触りの良い作劇なので、幅広くアピール出来る内容ではある。
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「フーリング」

2025-01-04 06:15:31 | 映画の感想(は行)

 (原題:FOOLIN' AROUND)80年作品。諸手を挙げて評価するようなシャシンでもないのだが、この頃のアメリカ製娯楽映画のトレンドを象徴したような内容で、一応は記憶に残っている。聞けば本作は日本公開時は別の(ある程度客を呼べそうな)映画の併映だったらしく、配給元もあまり期待していなかった様子なのだが、こういうお手軽な作品が世相を反映しているケースもあったりする。

 ミネソタ大学の学生であるウェスは、古い教科書を売りつけた教授に仕返しをするため、教授の車を木の枝にぶら下げるという暴挙をやらかし、一気に問題児としてマークされる。次に彼はアルバイトとして理系学生のスーザンの実験台になることを引き受けるが、上手くいかずに酷い目に遭う。しかし、怪我の功名で彼女と仲良くなり、偶然スーザンが大手建設会社の会長の孫娘だったこともあって、その会社に就職してしまう。ところが、現社長の母親は彼女にイヤミったらしい管理職の男との結婚を強要しており、ウェスは何とかそれを阻止すべく、手段を選ばない行動に出る。

 ウェスのキャラクターこそ型破りだが、筋書き自体に意外性は無い。有り体に言えば、1930年代のスクリューボール・コメディを焼き直したような内容だ。時あたかも70年代(特に前半)の混乱期が過ぎ、何となく保守回帰の空気が充満していたというアメリカ社会。それに呼応するような懐古趣味のハッピーエンド風ドラマである。

 マイク・ケインとデイヴィッド・スウィフトによる脚本は笑いの趣向をたっぷり詰め込んでいて、リチャード・T・ヘフロンの演出はストレスフリーにドラマを進める。終盤はマイク・ニコルズ監督の「卒業」(68年)との類似性を感じさせるが、あの映画にあった“毒”は不在だ。

 主演のゲイリー・ビジーは好調で、おふざけ演技もソツなくこなす。相手役のアネット・オトゥールも魅力があるし、ジョン・カルヴィンやエディ・アルバート、クロリス・リーチマンといった顔ぶれも悪くない。なお、映像が一見キレイだが陰影も的確に捉えていて印象的だと思ったら、カメラマンはウォルター・ヒル監督との仕事などで知られるフィリップ・H・ラスロップだった。チャールズ・バーンスタインによる音楽も及第点に達している。
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「クレイヴン・ザ・ハンター」

2025-01-03 06:23:46 | 映画の感想(か行)
 (原題:KRAVEN THE HUNTER )楽しんで観ることが出来た。一応は少なくない予算を投入したマーベル系の大作だが、俳優組合のストライキの影響で封切りが遅れ、しかもR15指定ということもあり、興行面では比較的不利だったようだ。しかしながら、筋書きにはそれほど瑕疵は無いし、キャストの仕事ぶりも万全であり、これは好評価に値すると思う。

 主人公セルゲイ・クラヴィノフは、幼い頃にマフィアのボスである冷酷な父親ニコライとともに狩猟に出かけた際、巨大な異形のライオンに襲われたことをきっかけに、スーパーパワーを身に付ける。やがて父親の元を去り、長じてクレイヴンと名乗り金儲けのために動物を狩る者たちに次々と制裁を加えるようになる。そして、彼の代わりに無理矢理に組織を継がされそうになった弟のディミトリをフォローするために、裏社会の抗争へと身を投じる。



 クレイヴンはマーベルコミックではスパイダーマンの宿敵になる悪役だが、ヴェノムと同様にここではダークなヒーローとして扱われている。元より主人公の出自と環境が反社会的なものであるため、作品自体のカラーも暗い。だが、クレイヴンの周りにいるのは札付けのワルばかり。そいつらがどんな目に遭おうと知ったことではないし、それどころかカタルシスさえ覚えてしまう。

 敵役も全身が硬い皮膚に覆われた怪人ライノや、強力な催眠術の使い手であるザ・フォーリーナーなど、かなりキャラが濃い。もちろんラスボスはニコライなのだが、そこに行き着くまでの段取りは悪くないと言える。J・C・チャンダーの演出は「トリプル・フロンティア」(2019年)の頃よりも格段の進歩を遂げ、話はテンポ良く進む。アクション場面もよく練り上げられており、意外性のある立ち回りのアイデアには感心する。

 主演のアーロン・テイラー=ジョンソンは「キック・アス」(2010年)の少年役とはまるで別人のマッチョ野郎に成長しているが、力量は認めて良い。ヒロイン役のアリアナ・デボーズは魅力的だし、ディミトリに扮するフレッド・ヘッキンジャーやライノを演じるアレッサンドロ・ニボラも存在感がある。そして何といっても、ニコライ役にラッセル・クロウというクセ者を持ってきているのが大きい。

 なお、今作でソニーズ・スパイダーマン・ユニバースも終了ということだが、これが本家のマーベル・シネマティック・ユニバースとどう関係してくるのか、興味の尽きないところである。
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