(原題:Enchanted )まさにアイデアの勝利と言うべきか。これはセルフ・パロディの極北とも評価したいような出来映えだ。
御伽の国の住人が悪い魔女によって現代のニューヨークに“追放”されるというメイン・プロットからしてシニカルだが、魔法の国の描写がアニメーションで“追放先”のニューヨークの場面は実写。しかも御伽の国のシーンは昨今隆盛のCGアニメではなく往年のディズニーの傑作群と同様である手書き風のフルアニメだというのが実にイヤラしい。
そしてアニメーション部分では(一応)美少女キャラのヒロインが、舞台がニューヨークに移ると30歳前後の平凡なルックスの女性に変貌し、二枚目であるはずの王子がただの太平楽なニイちゃんとして描かれる。ただし頭の中身はアニメのキャラクターのまんまなので、ところ構わず歌い出したりするが、当然周りからは変質者扱いされる(爆)。
彼らを迎えるニューヨーク側の人間もけっこう生臭い。ヒロインの面倒を見る弁護士はただでさえ日常業務で離婚訴訟の泥沼ぶりを目の当たりにしているのに加え、自身はカミさんに逃げられている。懇意になっている女性と再婚しようとするものの、6歳の娘は完全には納得してくれず苦しい立場だ。この状態で異世界からワケの分からん連中に押しかけられて悩みは深まるばかり。マンハッタンやセントラル・パークなどの名所も出てくるが、下町のゴミゴミとした治安の悪そうな箇所もリアルに紹介される。
しかし本作のエラいところは、そんな身も蓋もない描写も含みつつ、最終的にはディズニー映画伝統のハッピー・エンディングな体裁を取ることに成功していることだ。これは脚本が良く練られていることを意味している。当初は御伽の国と現代社会とのギャップを取り上げながら、徐々に魔法世界の側にニューヨークを近づけて、お約束のディズニー・ワールドを形成させる、その段取りというかタイミングが実に上手いのである(脚本担当:ビル・ケリー)。
ケヴィン・リマの演出は実にスムーズで、コメディ部分やアクション場面など盛りだくさんな素材を手際良くこなしている。お馴染みのミュージカル・シーンは素晴らしく、セントラル・パークでの賑々しいレビューや、男所帯で汚れ放題の弁護士宅をヒロインが“お友達”を大量動員させ、歌に合わせて掃除する場面など感涙ものだ(笑)。
ヒロイン役のエイミー・アダムスをはじめ、パトリック・デンプシー、ティモシー・スポール、そしてスーザン・サランドンと、揃った役者達は皆持ち味を発揮しての仕事ぶり。アラン・メンケン&スティーヴン・シュワルツによる楽曲も言うことなし。
一種の自虐ネタを後ろ向きにならずに堂々たる娯楽作に仕上げた本作の前では、微温的なパロディでディズニーの向こうを張ったつもりでいた「シュレック」の製作元・ドリームワークスなんぞは完全に顔色を無くすであろう。