2023年作品。公開時には大ヒットで、その年の興収ベストテンにもランクインしている。私はわざわざ映画館まで足を運んで観る気はまったく無かったのだが、配信のリストに入っているのに最近気付き、どんなものかと思いチェックしてみた。結果としては“この程度のシャシンが一番客を呼べるのだろうな”という印象しか持てない。つまりは若者向けで、有り体に言えば超ライト級である。
数々の事件解決に関わったという大学生の久能整(くのう ととのう)は、広島で開催される美術展を観るために同地にやってくるが、そこで出会った女子高生の狩集汐路(かりあつまり しおじ)から、バイトを持ちかけられる。それは、狩集家の莫大な遺産相続に関して発生した不可解な出来事の解明だった。相続候補者は汐路を含めた4人だが、遺言書の内容を精査していくうち、整はこの家系にまつわる意外な事実を突き止める。田村由美による同名コミックの映画化だ。
私は原作はもとより、先だって映像化されたテレビドラマも知らない。だから立ち位置のよく分からないキャラクターらが出てくるあたりはコメント出来ないのだが、それらを除外し単発のミステリー物として観ても、中身は大したことはない。大時代な舞台設定や天然パーマの探偵役など、明らかに金田一耕助シリーズを意識しているのだが、話のレベルとしては横溝正史御大の作品群とは比べるのもおこがましい。
冒頭、狩集家の者たちが交通事故で死亡するくだりが描かれれるが、これは“事件”にもならない内容だ。そして、犯人の目星はすぐに付いてしまう。さらに、動機には説得力が無い。トリックらしいトリックも見受けられない。テレビドラマのスペシャル版として放映すれば実質1時間半以下で済むハナシだが、監督の松山博昭(および製作陣)は2時間を超えるシャシンに仕上げてしまった。
それでも、整に扮する菅田将暉をはじめ、町田啓太に原菜乃華、萩原利久、鈴木保奈美、滝藤賢一、野間口徹、松坂慶子、柴咲コウ、松下洸平など、キャストはかなり多彩。この顔ぶれだけで満足した観客も多かったのだろう。昔からテレビ番組のブローアップ版を劇場用映画に仕立てることはよくあったが、企画自体が安易と言うしかない。それでも商業的には悪くないのだから、送り手としてはやめられないと思われる。ちなみに、この映画はフジテレビジョン創立65周年記念作品とのことだ。