(英題:Sunday's Children )92年作品。スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン監督の両親を描いた「愛の風景」(ビレ・アウグスト監督作 カンヌ映画祭大賞受賞)の続編だ。今回は1920年代を舞台に、8歳のイングマールと厳格な父親とのふれあいが中心となる。脚本は前作同様イングマールが手掛け、監督は彼の息子ダニエル・ベルイマンが担当。これが演出デビュー作となる。
「愛の風景」が厳しい北欧の冬を、身を切られるような怜悧なタッチで綴った作品だったのに対し、この映画では輝く北国の夏の開放的な描写が印象的だ。“ピュ”という愛称で呼ばれるイングマールが駅で牧師である父を迎えるシーンから始まる。父は夏の間、母の実家があるこの田舎町に滞在することにしている(冬は遠隔の教会を回っている)。いつもいじめる四歳上の兄ダグや、仲が良くない母方の祖父母、自殺した時計職人にまつわる不気味な噂など、ピュの生活には屈託が少なくない。でも、目の覚めるように美しい自然と、素朴な人たちに囲まれた生活は、8歳の子供にとってはやはり天国なのだ。ただ一つの深刻な悩みは、頑固な父親との間の溝が埋まらないこと。一緒に住んでいても今いちしっくりいかない。そんなある夜、ピュは両親のケンカを盗み見する。二人が離婚寸前であることを知って激しいショックを受けるピュ。
日曜日、ピュは父親が運転する自転車の荷台に乗って遠い村の礼拝堂に行く。途中、川に落ちそうになったピュを激しく叱る父。帰り道、雷雨に遭ってずぶ濡れになり、無人の納屋で雨宿りをする。空は暗く、聖書の“最後の審判”の日のようだ。厳格と思われていた父はしかし、息子に自分の上着をかけてやり抱きよせる。ピュは初めて父親の暖かい心情に触れて感動する。再び出発した親子は“二人とも幸福な日曜日の子供だ!”と叫びながら雨の中を家路を急ぐ(注:北欧のキリスト教では、日曜日に生まれた子供は人の心を読む能力があるという説話があるらしい)。
どこかイヴ・ロベール監督の「プロヴァンス物語」を思わせる、しみじみとした親子のドラマで感銘を受けるが、この映画はそこで終わらない。68年、初老のイングマールが年老いた父を見舞うシーンが挿入されるが、これが意外な暗転なのだ(観ていて切なくなる)。ならば上記の子供時代の幸せな父との思い出はいったい何だったのか。
私はこう思う。後年、この映画の脚本を書くときにイングマールは気付いたのだ。どんなにつらい人生でも、一瞬の輝きさえあれば人間はそれを支えに生きていくことが出来るということを。もう一度父親の人生を見つめ直し、和解したい心境になったのだろう。あまりにも遅すぎた和解。でも、この意図はイングマールの息子ダニエルが引き継ぎ、こういう佳篇が生まれたことは、考えてみると実に感慨深い。「愛の風景」の厳しさとは趣を異にする作品だが、いい映画だ。バックに流れるバッハやコダーイの音楽が抜群の効果。ピュを演じるヘンリック・リンロースは本当に可愛い(^^;)。