以前から何度も取り上げているが、道警裏金事件の続報です。知事が道警に返還請求を行うということになるのだが、これらの法的根拠は何に基づいているのかが、よく分らない。以前の記事には全くの私見を書いてみたのだが、果たして根拠法令及び条文が何なのか、明確に伝えて欲しいと思う。道のHPにも載せてくれたらいいのだが。
参考記事:
道警裏金問題1
道警裏金問題2
で、高橋知事は次のような会見を行ったようである。
北海道知事、道警に3700万円の追加返還要請 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
道の監査権限とその監査結果に基づく知事の返還請求は、どのような権限に基づくのか。もしも、道公安委員会または道警本部長がこの返還請求を拒否した場合には、知事に損害賠償請求権はあるのか。これはどのような法的根拠によるものなのか。監査委員が、住民監査請求を棄却するという決定を行った場合に、住民側にはどのような権限があるのか、この辺が良く判らないのである。昨年に裁判があったのだが、被告適格の問題で却下ということであったので、一体どういう訴訟ならば住民側がこうした行政の決定を覆せるのか不明である。ちょっと検討してみたい。
道警の裏金事件に沿って考えてみる。住民側は、情報公開請求によって(これも訴訟のこともあるが)捜査費などの不正支出の存在を突き止めたとする。次に行うことは、監査委員への住民監査請求であるが、札幌地裁民事第五部の平成16年(行ウ)第5号「違法公金支出金返還請求事件」(昨年11/19判決、以下単に「返還請求訴訟」と呼ぶ)に出ていたように、この住民監査請求は棄却の決定を受けることもある。この場合に、住民側が求めたいのは、①「棄却決定」を取り消すこと(監査を実施してもらう)、②不正支出を止めさせ、返還すること、③知事や監査委員に正しく職務権限を行使してもらうこと、といったものが考えられる。だが、現実の住民訴訟は異なっているようである。
通常の感覚を持ってすれば、「不正支出があるようだ」→「住民監査請求」→「請求棄却」(請求通り監査実施なら問題なし)→「住民訴訟提起」となっていく訳ですが、監査請求が棄却されたら裁判で争うのは「監査するかしないか」ということが自然な感じがするのですが、何故かそうではなく、「監査するべき事実内容」とか「本当に不正支出があり、それを返還請求できるか」という個別具体的な事柄の訴訟提起ということのようです。なんでだろうね。行政から「監査しないよ」と言われたら、住民側は「不正支出があったことの証明」をして、なおかつ「返還するように命令せよ」ということを争わねばならないなんて。住民側は調査権がある訳でもなく、行政機関の職員たちから調査に協力してもらえる特権がある訳でもないのに。そんなことを住民がするより、監査してもらえるか、してもらえないかを争って、「監査せよ」という命令を発令してもらえる方がはるかに有効だと思うけどね。個別の不正支出一件ごとに返還請求などしなくとも済むし。どうして、そういう訴訟になっていないんだろうね。
地方自治法を見てみましょう。
(住民監査請求) 第242条
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合においては、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下本条において「請求人」という。)に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
4 第一項の規定による請求があつた場合においては、監査委員は、監査を行い、請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
以下、略
(住民訴訟) 第242条の二
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
2 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる期間内に提起しなければならない。
以下、略
これで見ると、第242条第4項による監査をしない決定の場合には、第242条の二第1項に基づき住民訴訟を提起できる。訴訟で請求できるのは、同一~四に掲げるもので、先の返還請求訴訟はこの第四号に基づく請求と解されている。法の専門家(裁判官)がそう言うのだから、多分そうなのだろう。
返還請求訴訟で問題となったのは、平たく言えば、署長が不正支出の決定を下したら、その不正支出の返還を命じる権限があるのは誰か、ということであり、第242条の二第1項、第四号に書かれる「相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求」の「執行機関又は職員」に該当するのは、知事ではなくて道警本部長であると判示している。
どういうわけか、「監査して欲しい」という要求だったのが、「誰に返還請求の命令をお願いするか」に問題が変わってしまっている。住民訴訟提起によって、当初の問題点が変わったのだろうか?いや、そうではないはずで、住民側の要求というのは本来同じであり、きちんと「監査してくれ」ということなのであり、住民訴訟提起によって「不正支出分を返還請求する命令を出してくれ」となってしまい、最後の裁判所の判断は「求めるべき相手が違うので却下」という結論になってしまった。
これでは、住民側は、誰に何をお願いできるのか、まるで判らないだろう。
監査委員に頼めば「監査しないよ」と断られ、「じゃあ住民訴訟だ」と提訴したら、請求するべき相手が、どうしたことか道警本部長だ、という。元々は監査委員にお願いしたんじゃないか。それを断られたら、普通は監査委員とかその監督権限を有する知事に頼むしかない、と思うだろう?ところが、住民訴訟のルールというのは違っているんだそうだ。
これを一般には、たらい回しという。
監査委員の「やらない」という決定を覆す住民側の方法は、裁判で「やる」の決定を出してもらうことだ。だが、監査委員には請求できず、知事にも請求できず、実際の執行機関であるところにしか頼めないんだと。それも、住民が調査して、不正支出の事実を明らかにしなければ、行政の執行機関の責任者に「返還請求するように命令してくれ」とは請求できない。会計検査院長ですら、「捜査機関ではないので、犯罪認知は事実上不可能」とまで言っていたのに、一般住民がそれ以上の「捜査能力」を発揮して警察の「不正支出」を証明しなけりゃならない、ということなのだそうだ。どうしてこんなルールになるのだろう。
最初の方に書いた住民側の要求の③が望ましく、②の請求は一件ごとで効率が悪いし、第242条の住民監査請求に続く住民訴訟(第242条の二)の提起は面倒なだけで大きな効果が得られない。①の「住民監査請求」棄却決定の取り消し訴訟ってのは可能なのだろうか?普通に見れば無理のような気がするけど。自動的に住民訴訟の流れにのっけられてしまうような気がする。
この続きは、また。
もう少し「返還請求訴訟」の判決について、見てみます。
参考記事:
道警裏金問題1
道警裏金問題2
で、高橋知事は次のような会見を行ったようである。
北海道知事、道警に3700万円の追加返還要請 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
道の監査権限とその監査結果に基づく知事の返還請求は、どのような権限に基づくのか。もしも、道公安委員会または道警本部長がこの返還請求を拒否した場合には、知事に損害賠償請求権はあるのか。これはどのような法的根拠によるものなのか。監査委員が、住民監査請求を棄却するという決定を行った場合に、住民側にはどのような権限があるのか、この辺が良く判らないのである。昨年に裁判があったのだが、被告適格の問題で却下ということであったので、一体どういう訴訟ならば住民側がこうした行政の決定を覆せるのか不明である。ちょっと検討してみたい。
道警の裏金事件に沿って考えてみる。住民側は、情報公開請求によって(これも訴訟のこともあるが)捜査費などの不正支出の存在を突き止めたとする。次に行うことは、監査委員への住民監査請求であるが、札幌地裁民事第五部の平成16年(行ウ)第5号「違法公金支出金返還請求事件」(昨年11/19判決、以下単に「返還請求訴訟」と呼ぶ)に出ていたように、この住民監査請求は棄却の決定を受けることもある。この場合に、住民側が求めたいのは、①「棄却決定」を取り消すこと(監査を実施してもらう)、②不正支出を止めさせ、返還すること、③知事や監査委員に正しく職務権限を行使してもらうこと、といったものが考えられる。だが、現実の住民訴訟は異なっているようである。
通常の感覚を持ってすれば、「不正支出があるようだ」→「住民監査請求」→「請求棄却」(請求通り監査実施なら問題なし)→「住民訴訟提起」となっていく訳ですが、監査請求が棄却されたら裁判で争うのは「監査するかしないか」ということが自然な感じがするのですが、何故かそうではなく、「監査するべき事実内容」とか「本当に不正支出があり、それを返還請求できるか」という個別具体的な事柄の訴訟提起ということのようです。なんでだろうね。行政から「監査しないよ」と言われたら、住民側は「不正支出があったことの証明」をして、なおかつ「返還するように命令せよ」ということを争わねばならないなんて。住民側は調査権がある訳でもなく、行政機関の職員たちから調査に協力してもらえる特権がある訳でもないのに。そんなことを住民がするより、監査してもらえるか、してもらえないかを争って、「監査せよ」という命令を発令してもらえる方がはるかに有効だと思うけどね。個別の不正支出一件ごとに返還請求などしなくとも済むし。どうして、そういう訴訟になっていないんだろうね。
地方自治法を見てみましょう。
(住民監査請求) 第242条
普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体のこうむつた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合においては、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下本条において「請求人」という。)に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
4 第一項の規定による請求があつた場合においては、監査委員は、監査を行い、請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。
以下、略
(住民訴訟) 第242条の二
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
2 前項の規定による訴訟は、次の各号に掲げる期間内に提起しなければならない。
以下、略
これで見ると、第242条第4項による監査をしない決定の場合には、第242条の二第1項に基づき住民訴訟を提起できる。訴訟で請求できるのは、同一~四に掲げるもので、先の返還請求訴訟はこの第四号に基づく請求と解されている。法の専門家(裁判官)がそう言うのだから、多分そうなのだろう。
返還請求訴訟で問題となったのは、平たく言えば、署長が不正支出の決定を下したら、その不正支出の返還を命じる権限があるのは誰か、ということであり、第242条の二第1項、第四号に書かれる「相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求」の「執行機関又は職員」に該当するのは、知事ではなくて道警本部長であると判示している。
どういうわけか、「監査して欲しい」という要求だったのが、「誰に返還請求の命令をお願いするか」に問題が変わってしまっている。住民訴訟提起によって、当初の問題点が変わったのだろうか?いや、そうではないはずで、住民側の要求というのは本来同じであり、きちんと「監査してくれ」ということなのであり、住民訴訟提起によって「不正支出分を返還請求する命令を出してくれ」となってしまい、最後の裁判所の判断は「求めるべき相手が違うので却下」という結論になってしまった。
これでは、住民側は、誰に何をお願いできるのか、まるで判らないだろう。
監査委員に頼めば「監査しないよ」と断られ、「じゃあ住民訴訟だ」と提訴したら、請求するべき相手が、どうしたことか道警本部長だ、という。元々は監査委員にお願いしたんじゃないか。それを断られたら、普通は監査委員とかその監督権限を有する知事に頼むしかない、と思うだろう?ところが、住民訴訟のルールというのは違っているんだそうだ。
これを一般には、たらい回しという。
監査委員の「やらない」という決定を覆す住民側の方法は、裁判で「やる」の決定を出してもらうことだ。だが、監査委員には請求できず、知事にも請求できず、実際の執行機関であるところにしか頼めないんだと。それも、住民が調査して、不正支出の事実を明らかにしなければ、行政の執行機関の責任者に「返還請求するように命令してくれ」とは請求できない。会計検査院長ですら、「捜査機関ではないので、犯罪認知は事実上不可能」とまで言っていたのに、一般住民がそれ以上の「捜査能力」を発揮して警察の「不正支出」を証明しなけりゃならない、ということなのだそうだ。どうしてこんなルールになるのだろう。
最初の方に書いた住民側の要求の③が望ましく、②の請求は一件ごとで効率が悪いし、第242条の住民監査請求に続く住民訴訟(第242条の二)の提起は面倒なだけで大きな効果が得られない。①の「住民監査請求」棄却決定の取り消し訴訟ってのは可能なのだろうか?普通に見れば無理のような気がするけど。自動的に住民訴訟の流れにのっけられてしまうような気がする。
この続きは、また。
もう少し「返還請求訴訟」の判決について、見てみます。