極東ブログのコメント欄での医薬品についての、ちょっとした論争を見たので、それについて少し書いてみたいと思います。実情について正確には判らないのですが、知っている範囲で述べてみます。
極東ブログの記事:
米国の話だが保障の薄い医療保険は無意味
まずアメリカの医療制度というのは、日本とはあまり比較にならないと思います。費用対効果で見れば、日本の戦後の平均寿命が延びたことには医療保険制度の恩恵があったと考えるのが自然です。アメリカよりも少ないGDP比でそれが達成された(他の先進諸国に比べてもGDP比医療費は少ないです)のは、日本の医療制度が優れていた面があったと思われます。コメント欄でもご指摘があったように、医療訴訟に関する費用がアメリカではべらぼうに高く、医療者側はそのリスクを避けるために高額な報酬を請求することになり、その対価として患者は満足のいく医療サービスを受けるというものです。日本でも医療訴訟件数が増加し続けておりますが、それでも訴訟件数や支払い賠償額は多くはないでしょう。加入しているメディケア、メディケイドなどの種類によって、予め使える薬剤やカバーされる医療行為の内容が決められており、finalventさんが「保障の薄い保険」ということを記事に書いておられますが、これは余りにカバー範囲が狭すぎて保険で認められる医療行為が実質的にあんまり意味がない(例えて言えば、「胃ガン手術はセカンドステージ進行例以上のみ」となれば、1stステージの初期胃ガンは全額自己負担となってべらぼうに高い医療費を払わねばならない、というようなことかな?)。アメリカにおいては、企業は高騰する医療保険の圧迫を受け、先日のGMの経営悪化・格下げ(所謂「GMショック」でしたね)の遠因となっているとも言われています。それほど医療費の負担が重いということになりますね。
日本における医療制度はベーシックな医療は殆ど医療保険でカバーされ、その対価は高いとも言えません。高額医療費制度があるので、実質的に一定額以上の費用がかかることはありません(特別室のような病室に入ったりしなければ、ですが。患者本人が「全て保険で」と選択すれば病院側はそうしなければなりません)。たとえ退院する時に請求されても、後で加入保険(国保、政府管掌、組合など)に請求すれば戻ってくることになっています。高度先進医療もあって高額な治療も公的に認められておりますが、これは確かに高額となる場合も多いと思います(これが高額医療費制度の範疇に入っているかは、ちょっと判りません)。時々報道などで見られるような特別な心臓移植が必要な場合などで、アメリカに行って手術するということになれば1億円以上は覚悟せねばなりませんが、日本で出来る場合にはそんなに高額とはなりません(数百万単位ではないかと思いますが、これも正確には判りません)。コメント記載で、「日本で保険が利かない治療を受ければ死なずにすむ人達がたくさんいる」というのは、おそらく誤解なのではないのかな、と思います。実際にどういった疾病でそういう実態があるのか、私の知る医師達(友人や同級生などに過ぎませんが)の範囲でもあまり聞いておりません。私は医師でもないので、本当のところは判らないのではありますが。
厚労省の追加承認した抗ガン剤については、既にガン治療に用いられており有効性も確認されてはいますが、現在まで正規の承認を受けていなかったものであり、日本国内で臨床試験を通常の手続き通り行うとするならば、使用できるようになるのが更に数年後(あるいは十年後とかの長い年月がかかるのかも)となってしまい、その間の患者の不利益を考慮してのことと思います。従来は正規の臨床試験を行い薬剤承認を受けますが、例えば、薬剤の承認申請時に効能が「胃ガン」となっておれば保険適用になるのは「胃ガン」のみであり、たとえその後欧米の知見や学会の研究などで「実は肺ガン(肺転移)症例にも効果が高い」と判明したとしても、保険適用にはならないのです。しかも、この薬剤を肺ガンに対して投与する場合には、他の全ての治療費が保険対象外となってしまうのです。そうなると、今まで胃ガン治療を行ってきて、新たに肺転移が見つかり両者に別々の薬を投与するとなると、全額保険外となってしまいます。こうした制度上の問題を解消するために、胃ガン治療については従来通り保険給付を行い、肺ガン治療についての薬剤投与については専門医が学会等の治療指針などに基づいて(およそ臨床試験的に)抗ガン剤投与を行い、その実費のみを保険外費用とする、というものです。薬剤会社が後で「肺ガン」適用への正規申請を行うには、「胃ガン」の効能で適用を受けたのと同じような臨床試験を一から行わなければならないため、製薬会社がその負担を嫌うとか膨大な時間がかかるとか、色々問題があるのですね。効能の保険適用を拡大することは、かなりの負担となるのです(新規申請と変わりません)。ですが、患者はそれまで待てない。欧米での臨床実績があり、日本の学会等でも研究目的で投与され効果が確認されているにもかかわらず、患者がその利益を享受できないことが今までの制度であったのですね。この解消目的が厚労省の決定であったと思います。
ですから、コメント欄に意見を書き込まれた医師の方は、真実を述べていると思いますし、日本の医療制度や水準というのは、世界的に見ても非常に効果的に行われてきたと思ってよいと思います。勿論、一部には医療過誤や様々な問題もあると思いますが、多くの医師達は今ある制度の中で、良心的に全力を尽くしていると思っています。
あと、finalventさんが、「健康診断不要で加入できる保険ってどうなの?」という疑問を表明されておりますが、これは日本の医療保険制度があれば、十分可能だと思います。先に述べたように、高額医療費制度があるので、実質的に第三分野の民間保険というのは差額ベッド代やもろもろ雑費、休業時の多少の収入補償といった意味合いであって、医療費の実費についてごっそり払うということは少ないのですね。年齢ごとの平均的医療費支払い額と疾病率が概ね予想ができれば、保険料率が設定できるということになると思います。「簡保」が似た制度で十分運営できていますし。
極東ブログの記事:
米国の話だが保障の薄い医療保険は無意味
まずアメリカの医療制度というのは、日本とはあまり比較にならないと思います。費用対効果で見れば、日本の戦後の平均寿命が延びたことには医療保険制度の恩恵があったと考えるのが自然です。アメリカよりも少ないGDP比でそれが達成された(他の先進諸国に比べてもGDP比医療費は少ないです)のは、日本の医療制度が優れていた面があったと思われます。コメント欄でもご指摘があったように、医療訴訟に関する費用がアメリカではべらぼうに高く、医療者側はそのリスクを避けるために高額な報酬を請求することになり、その対価として患者は満足のいく医療サービスを受けるというものです。日本でも医療訴訟件数が増加し続けておりますが、それでも訴訟件数や支払い賠償額は多くはないでしょう。加入しているメディケア、メディケイドなどの種類によって、予め使える薬剤やカバーされる医療行為の内容が決められており、finalventさんが「保障の薄い保険」ということを記事に書いておられますが、これは余りにカバー範囲が狭すぎて保険で認められる医療行為が実質的にあんまり意味がない(例えて言えば、「胃ガン手術はセカンドステージ進行例以上のみ」となれば、1stステージの初期胃ガンは全額自己負担となってべらぼうに高い医療費を払わねばならない、というようなことかな?)。アメリカにおいては、企業は高騰する医療保険の圧迫を受け、先日のGMの経営悪化・格下げ(所謂「GMショック」でしたね)の遠因となっているとも言われています。それほど医療費の負担が重いということになりますね。
日本における医療制度はベーシックな医療は殆ど医療保険でカバーされ、その対価は高いとも言えません。高額医療費制度があるので、実質的に一定額以上の費用がかかることはありません(特別室のような病室に入ったりしなければ、ですが。患者本人が「全て保険で」と選択すれば病院側はそうしなければなりません)。たとえ退院する時に請求されても、後で加入保険(国保、政府管掌、組合など)に請求すれば戻ってくることになっています。高度先進医療もあって高額な治療も公的に認められておりますが、これは確かに高額となる場合も多いと思います(これが高額医療費制度の範疇に入っているかは、ちょっと判りません)。時々報道などで見られるような特別な心臓移植が必要な場合などで、アメリカに行って手術するということになれば1億円以上は覚悟せねばなりませんが、日本で出来る場合にはそんなに高額とはなりません(数百万単位ではないかと思いますが、これも正確には判りません)。コメント記載で、「日本で保険が利かない治療を受ければ死なずにすむ人達がたくさんいる」というのは、おそらく誤解なのではないのかな、と思います。実際にどういった疾病でそういう実態があるのか、私の知る医師達(友人や同級生などに過ぎませんが)の範囲でもあまり聞いておりません。私は医師でもないので、本当のところは判らないのではありますが。
厚労省の追加承認した抗ガン剤については、既にガン治療に用いられており有効性も確認されてはいますが、現在まで正規の承認を受けていなかったものであり、日本国内で臨床試験を通常の手続き通り行うとするならば、使用できるようになるのが更に数年後(あるいは十年後とかの長い年月がかかるのかも)となってしまい、その間の患者の不利益を考慮してのことと思います。従来は正規の臨床試験を行い薬剤承認を受けますが、例えば、薬剤の承認申請時に効能が「胃ガン」となっておれば保険適用になるのは「胃ガン」のみであり、たとえその後欧米の知見や学会の研究などで「実は肺ガン(肺転移)症例にも効果が高い」と判明したとしても、保険適用にはならないのです。しかも、この薬剤を肺ガンに対して投与する場合には、他の全ての治療費が保険対象外となってしまうのです。そうなると、今まで胃ガン治療を行ってきて、新たに肺転移が見つかり両者に別々の薬を投与するとなると、全額保険外となってしまいます。こうした制度上の問題を解消するために、胃ガン治療については従来通り保険給付を行い、肺ガン治療についての薬剤投与については専門医が学会等の治療指針などに基づいて(およそ臨床試験的に)抗ガン剤投与を行い、その実費のみを保険外費用とする、というものです。薬剤会社が後で「肺ガン」適用への正規申請を行うには、「胃ガン」の効能で適用を受けたのと同じような臨床試験を一から行わなければならないため、製薬会社がその負担を嫌うとか膨大な時間がかかるとか、色々問題があるのですね。効能の保険適用を拡大することは、かなりの負担となるのです(新規申請と変わりません)。ですが、患者はそれまで待てない。欧米での臨床実績があり、日本の学会等でも研究目的で投与され効果が確認されているにもかかわらず、患者がその利益を享受できないことが今までの制度であったのですね。この解消目的が厚労省の決定であったと思います。
ですから、コメント欄に意見を書き込まれた医師の方は、真実を述べていると思いますし、日本の医療制度や水準というのは、世界的に見ても非常に効果的に行われてきたと思ってよいと思います。勿論、一部には医療過誤や様々な問題もあると思いますが、多くの医師達は今ある制度の中で、良心的に全力を尽くしていると思っています。
あと、finalventさんが、「健康診断不要で加入できる保険ってどうなの?」という疑問を表明されておりますが、これは日本の医療保険制度があれば、十分可能だと思います。先に述べたように、高額医療費制度があるので、実質的に第三分野の民間保険というのは差額ベッド代やもろもろ雑費、休業時の多少の収入補償といった意味合いであって、医療費の実費についてごっそり払うということは少ないのですね。年齢ごとの平均的医療費支払い額と疾病率が概ね予想ができれば、保険料率が設定できるということになると思います。「簡保」が似た制度で十分運営できていますし。