次に監査委員の権限について、見てみたいと思います。
条文中では次のように規定されています。
地方自治法 第百九十九条
監査委員は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査する。
○2 監査委員は、前項に定めるもののほか、必要があると認めるときは、普通地方公共団体の事務(自治事務にあつては労働委員会及び収用委員会の権限に属する事務で政令で定めるものを除き、法定受託事務にあつては国の安全を害するおそれがあることその他の事由により監査委員の監査の対象とすることが適当でないものとして政令で定めるものを除く。)の執行について監査をすることができる。この場合において、当該監査の実施に関し必要な事項は、政令で定める。
○3 監査委員は、第一項又は前項の規定による監査をするに当たつては、当該普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び当該普通地方公共団体の経営に係る事業の管理又は同項に規定する事務の執行が第二条第十四項及び第十五項の規定の趣旨にのつとつてなされているかどうかに、特に、意を用いなければならない。
○4 監査委員は、毎会計年度少くとも一回以上期日を定めて第一項の規定による監査をしなければならない。
○5 監査委員は、前項に定める場合のほか、必要があると認めるときは、いつでも第一項の規定による監査をすることができる。
○6 監査委員は、当該普通地方公共団体の長から当該普通地方公共団体の事務の執行に関し監査の要求があつたときは、その要求に係る事項について監査をしなければならない。
○7 監査委員は、必要があると認めるとき、又は普通地方公共団体の長の要求があるときは、当該普通地方公共団体が補助金、交付金、負担金、貸付金、損失補償、利子補給その他の財政的援助を与えているものの出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監査することができる。当該普通地方公共団体が出資しているもので政令で定めるもの、当該普通地方公共団体が借入金の元金又は利子の支払を保証しているもの、当該普通地方公共団体が受益権を有する信託で政令で定めるものの受託者及び当該普通地方公共団体が第二百四十四条の二第三項の規定に基づき公の施設の管理を行わせているものについても、また、同様とする。
○8 監査委員は、監査のため必要があると認めるときは、関係人の出頭を求め、若しくは関係人について調査し、若しくは関係人に対し帳簿、書類その他の記録の提出を求め、又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができる。
○9 監査委員は、監査の結果に関する報告を決定し、これを普通地方公共団体の議会及び長並びに関係のある教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会その他法律に基づく委員会又は委員に提出し、かつ、これを公表しなければならない。
○10 監査委員は、監査の結果に基づいて必要があると認めるときは、当該普通地方公共団体の組織及び運営の合理化に資するため、前項の規定による監査の結果に関する報告に添えてその意見を提出することができる。
○11 第九項の規定による監査の結果に関する報告の決定又は前項の規定による意見の決定は、監査委員の合議によるものとする。
○12 監査委員から監査の結果に関する報告の提出があつた場合において、当該監査の結果に関する報告の提出を受けた普通地方公共団体の議会、長、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会その他法律に基づく委員会又は委員は、当該監査の結果に基づき、又は当該監査の結果を参考として措置を講じたときは、その旨を監査委員に通知するものとする。この場合においては、監査委員は、当該通知に係る事項を公表しなければならない。
ここで、第7項規定にあるように、「監査委員は、必要があると認めるとき、又は普通地方公共団体の長の要求があるときは、当該普通地方公共団体が補助金、交付金、負担金、貸付金、損失補償、利子補給その他の財政的援助を与えているものの出納その他の事務の執行で当該財政的援助に係るものを監査することができる。」となっており、監査委員の監査権限は公安委員会とその下級機関である道警にも及ぶと考えてよいと思われる。そして、知事の要求があれば監査出来ることになっている。知事は、前の記事に書いた損害賠償請求権限はないが、予算執行に係る監査権限は有していると考えられる。
この第9項規定にあるように、監査委員は監査結果を知事だけではなく、各組織等に提出し、なおかつ公表しなければならず、第12項規定のとおり、監査結果に基づく措置を講じた場合には監査委員に通知するとともにその事項について公表しなければならない。従って、監査委員は道警監査結果を全て公表し、道警はその結果報告を受けて措置を講じたならばその内容について監査委員に通知し、その内容を監査委員は公表しなければならないのである。果たしてこうした手続きは守られてるのかな?公表までの期間がよく判らないが、住民訴訟において訴訟提起の期日設定がある以上、それにそうのが妥当な期日と言えよう(住民にだけ短い期間を適用し、行政機関だけが長い期間の適用が許されるというのは、おかしいと思うからである)。これは同法第242条の二で監査の結果・勧告の不服、それに対する措置の不服又は不作為への不服などがある場合に、監査委員からの報告・勧告などがあった日から不変期間で30日以内の訴訟提起となっているので、道警は監査結果から措置を講じるならば30日以内にこれを行う必要があるはずである。監査委員が知事に報告した日と、各機関に監査報告・提出した日は同じと考えてよく、そうでなければ第242条の二で規定する期日が不一致になってしまうからである(例えば、知事には1日に報告、議会には3日、公安委員会には5日となれば、訴訟提起の起算日が合わなくなってしまうのではないか?と思うからである)。
次に知事の監査委員への監査要求以外の権限を見てみよう。前にも書きましたが(
道警裏金問題2)、地方自治法第221条について再び取り上げてみます。
地方自治法 第221条
普通地方公共団体の長は、予算の執行の適正を期するため、委員会若しくは委員又はこれらの管理に属する機関で権限を有するものに対して、収入及び支出の実績若しくは見込みについて報告を徴し、予算の執行状況を実地について調査し、又はその結果に基づいて必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
2 普通地方公共団体の長は、予算の執行の適正を期するため、工事の請負契約者、物品の納入者、補助金、交付金、貸付金等の交付若しくは貸付けを受けた者(補助金、交付金、貸付金等の終局の受領者を含む。)又は調査、試験、研究等の委託を受けた者に対して、その状況を調査し、又は報告を徴することができる。
3 前二項の規定は、普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるもの、普通地方公共団体が借入金の元金若しくは利子の支払を保証し、又は損失補償を行う等その者のために債務を負担している法人で政令で定めるもの及び普通地方公共団体が受益権を有する信託で政令で定めるものの受託者にこれを準用する。
このように、地方自治法第221条の知事権限により、本来的には予算執行権限が及ぶ全ての機関についての執行状況等についての調査権を有し、必要なことを講ずべきことを求めることができることになっている。これは専ら予算執行に係る権限ということなのか、不正に支出したものについての返還請求権は規定されていない(よもや不正支出があろうとは法の想定外なのである)。「返還」とは「措置」に該当するのか私には判らない。しかし、「返還請求訴訟」での判決文によれば、知事には損害賠償請求命令の発令権限は有していないと解釈されたが、知事は公安委員会(と道警)に対して、「必要な措置を講ずべきことを求めることができる」となるのですから、公安委員会に対して要求は可能であり、「不正支出を止めろ」と要求することもできそうである。しかし、不正支出の返還については、知事は公安委員会にのみ債権・損害賠償請求権を持ち(或いは行使でき)、公安委員会が何処の誰から回収(道警が不正支出の損害賠償請求権を行使するかどうかは全くの自由)しようが無関係なのか?請求権がどうなっているか判らないのに、住民訴訟で誰にどの権限行使を請求するのか、これじゃまるで判らないだろ。どうやって住民はこれを知る事ができるのだ?予め、全国に「住民訴訟のやり方」という講習会や研修会を、裁判所が主催で開いてくれよ。それなら、間違わずに住民が持つ対抗権力であるところの、「司法権」を行政に対して行使できるから。
裁判所は「被告適格が否定されると,これを有する者が判然とせず,4号住民訴訟の提起が困難になるなどと主張する。しかし,そうであれば,被告変更の手続(行政事件訴訟法15条)を採ることも可能であるから,4号住民訴訟の提起につき,原告らに過度の負担を強いることにはならない。」と判示しているから、冷た過ぎると思うけどね。
つまるところ、高橋知事は、何の法的根拠を元に返還請求をしたのか、それは所謂「損害賠償請求権」に該当するものなのか、それとも単に「上級機関からの命令」に過ぎないのか、請求権は誰に(どこの下部機関)対して有効なのか、住民からの監査請求について「棄却」決定をしておきながら知事権限による監査要求には過去の監査を実施(当然監査請求時点も含まれている)するという監査委員とは何なのか、全然判りません。
道警が返還拒否した場合には、住民は誰を訴えるのでしょう?何を請求するのか?知事に対して、道警を提訴するように請求する裁判?道警に対して、道に返還するように求める裁判?監査委員に対して、公安委員会宛の勧告を出すように求める裁判?一体どうすりゃいいの?地方自治法第242条を読んでも、判りません。請求事項にも入ってないし。
監査をしない決定を覆すか、知事権限によって監査要求をさせるという訴訟は住民訴訟での請求事項に無いことでどうなるのかも判りません。これがもっとも効果的なんですから。不正一件ごとに争わずに済みますから。こういう訴訟を提起できる為にはどうすればいいのか、誰か教えてくれませんか?報道する側も、裁判所も、正確に国民向けの周知が出来るように、情報を出して欲しいです。国民にあるのは、司法という対抗権力くらいしか有効なものがないのですから。
このシリーズの記事:
知事の返還請求権とは~1
知事の返還請求権とは~2