現在医療費の抑制策について問題となっているが、厚生労働省の考え方は根本的に間違えている。医療費構造の改革に必要なことを考えていない。診療報酬は、点数の加算によって成り立っているのであり、個々の点数の新設・貼り付けを繰り返してきた。過去のやり方がそのまま何十年以上か続けられてきており、既に医療情勢や時流には合っていないこともすぐに判るのであるが、新たな予算枠獲得→点数新設ということを毎年毎年(というか診療報酬改定のたびに)、馬鹿の一つ覚えみたいに続けてきたのである。点数削除・廃止と新たな点数増加という各項目の金額の大きさで考えるから、正しい医療評価には繋がらないし、点数が多く(予算がとられている)貼り付けられているところに医療投資が多くなるのは当然である。行政側の手法を一切変えようとしないところに大きな問題がある。単に面倒だからである。
また、薬剤費の多さについては厚生労働省も特段の施策を考えてはいないようである。日本の医療費構造として以前から指摘されているのは、他の先進国に比べて薬剤費比率が高いことであり、「薬漬け」と評されていた。医療機関に入る薬価差益解消を考えた結果が医薬分業であり、院外処方の推進であったが、結論的には、この政策が医療費の増加に拍車をかけることとなった。何故ならば、内閣府報告によれば、薬価差益は残されていること、同じ投薬をしたにもかかわらず院外処方の方が実際の医療費が多く患者負担が増大したこと、患者(利用者)サイドには院外処方のメリットはそれ程実感されていないこと、などが見られるからである。
ここ数年で、薬局を中核とする企業がかなり上場を果たしている。この変化は何を意味するのかと言えば、「マツキヨ」に代表されるような小売・物販の変化というのがあるが、他の大きな要因としては保険調剤が十分魅力的であるからである。その為、チェーン化された薬局があちこちに誕生することとなった。個人の弱小薬局は減ったのかもしれないが(規制緩和によってコンビニのドリンク剤販売が自由化されたが、その影響を受けたのは個人の薬局であったらしい)、実質的に調剤薬局は増加し医療費伸び率で言えば調剤部門が著しい。病院の薬剤部分の費用全部と薬局のそれを加えると、大幅な増額となっているはずである。病院側は、以前にあった「薬価差益」分を他の保険点数に転嫁することで分業促進に応じることとなった。これは日本医師会のような圧力団体のロビー活動の結果なのかもしれないが、病院側は薬価差益を失う代わりに他の点数増加で補うことが可能であったということである。これも医療費が増大する要因となった。 つまり、医薬分業によって、単に病院にあった薬剤関連費用を薬局に移転しただけではなく、薬剤関連費用の純増をもたらしたのである。
薬剤の大量購入は、保険で決められた薬価水準を大きく下回る単価の形で薬局の利益となっているのである。薬剤卸売り業者への十分大きな圧力となっており、以前は病院内に蓄積された薬価差益が、一軒一軒の薬局にばら撒かれただけである。例えば、イオングループは独自の薬局会社(イオン・ウェルシア・ストアーズ)を持っているのと、他のドラッグストア企業(ツルハ、スギ薬局等の東証一部上場企業など、計11企業)とのグループ形成を行っており、全国に1878店舗(イオンのHPによる)展開している。これほどのビジネスは、単なる小売ビジネスの変革によるものだけではなく、医薬品部門が収益ビジネスと成りえるからこのような展開を行うのであり、その一部には保険調剤が組み込まれているのである(利益に対する寄与度は不明である)。薬局には薬剤師の存在が義務付けられており、その既得権益に守られている上に、病院は物品販売(トイレットペーパーや化粧品やシャンプーなど・・・)をしないが、薬局にはこうした別な収益源が存在しており、新たに調剤費用の報酬と薬価差益が入る仕組みになっているのである。昔から、医療は営利事業ではない、とか言っていながら、雨後のたけのこみたいに大資本の企業系薬局の増加をもたらし、薬剤関連費用の増加を招いたのである(現状は薬局増加で飽和状態に近づいてきているかもしれないが、イオングループはドラッグストアを強化し、スーパーに次ぐ収益の柱とする、という報道が出ていた)。
詳細は忘れたが、日本では先発薬品が浸透しており、医師が出す処方は高価な先発薬品が多く、ジェネリック薬は非常に少ないということで、この傾向は大きな病院や公的病院に多く見られる、という研究報告が報道されていた。これも、当然の結果と言えるだろう。医師は最初の薬品を覚えるだけで、後から出る類似品についてはいちいち知識習得は困難であろう。新たに登場してくる薬品を憶える方が重要なのであり、これもかなり大変なのである。また製薬会社の営業担当は、影響力の大きな医師のいる「公的病院」や「大きな病院」をくまなく営業して回り、説明会を開いたりするのであろう。こうした営業努力も手伝って、医師達の頭に特定の薬品名がインプットされる。それを何年も書き続けたら、急に来月から「こちらの別な名前の薬」を書けるようになりますよ、となっても変えられるはずがないのである。また大病院の医師達は、薬の保険点数がどれくらいで、患者の自己負担がどれくらいかかるのか、などとは思いやらないこともあるかもしれない。少しでも自己負担金が少なくなるように、などという努力を、そういうところの医師達はしないものである。むしろ、高い点数の薬を好む人達もいるのかもしれない。それは大学病院みたいに診療報酬成績の競争が院内の診療科同士にあれば、点数を見かけ上大きくするために、薬剤単価の高い方が有利だからである。
調剤関連では医療費増加に直結することとなり、医療費抑制のために今後厚生労働省が「ジェネリック薬」利用を促進するかもしれない、という情報・観測が市場に流れたようである。株式はすぐに反応して、沢井薬品や東邦薬品あたりが値を上げたそうです。厚労官僚は本当に使えないね。これも私の記事に書いたことじゃないか(
医療制度改革6)。
医療費用の構造的な見直しを行い、前に提唱した標準化医療費のみの支払いであれば、病院経営においては出来るだけ不必要な投薬や無駄な検査を避けることで収益増加が可能となる。従って、「無駄な投薬はしない」ということが、動機として生ずることになるのである。今は、全く逆。多く使えば使うほど儲かる。投薬することが収入を支える構造になっているのである。ヨーロッパのどこか忘れたが、やはり定額制にすることで、抗生物質の使用量が大幅に減少したそうだ。これによって耐性菌を生み出すリスクも軽減されるのである。
こうした診療報酬の大改革を行わない限り、出来高制の弊害が出てしまい、医療費削減には繋がらないだろう。また医療・介護費は元々企業を儲けさせるために存在するのではない。困っている人を助けるためである。
これを書いてたら偶然見つけたので、次の記事を記しておきます。
やっぱり、普通の発想で言えば、誰でも考えそうなこと(
医療制度改革4)だと思います。
asahi.com:電子カルテ:オンラインの利点 - ENGLISH
この記事の一部抜粋:
電子カルテ:オンラインの利点
エスター・ランドフイス記者:マーキュリー・ニュース
米国西海岸時間2005年5月24日
米国保険福祉省マイク・リービット長官は23日、スタンフォード大学で講演し、電子カルテの基準を全米で統一すれば、医療サービスの質の向上、医療過誤の減少、医療費削減につながると述べた。「病院や診療所に行くたびに、これまで何度も記入したのと同じ情報をまた問診表に記入する必要がなくなる日は近い」と同長官は述べた。
米国の医者はどこにいようと、オンラインで検索すれば担当する患者の処方箋、検診結果、既往症などすべての医療記録を引き出せるようになることを同氏は夢に描いている。ブッシュ政権は、医療費削減のため10年間で電子カルテを導入することの必要性を主張している、と同長官は述べる。1960年代には米国の国内総生産のうち5.12%を占めていた医療費が、今では15.3%以上になっており、医療記録の電子化は「経済的に避けられない」ことだと同長官は言う。