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福井日銀総裁の法的責任はどうなのか・2

2006年06月26日 22時12分47秒 | 法関係
ちょっとしつこい感じで申し訳ないのですけど、前の記事(福井日銀総裁の法的責任はどうなのか)に「はなちゃん」さんという方からコメントを頂きましたので、それを再掲致します。


『当事者が、投資ファンドに出資し、有限責任組合員となることは、「投資事業を行う組合契約を締結して、共同して事業の全部または一部を営む」、ことにほかならないことは、「「投資事業有限責任組合契約にかんする法律」の規定から、自然にみちびき出される結論と思われます。したがって、今回の日銀総裁の投資行為(これを就任後も継続してきた行為)が日銀法26条1項4号に違反する可能性は否定できず、単なる金融商品の購入と同視して、簡単に違法性はないと言い切ってしまうべきではないと感じています。』


このように、「日銀法第26条第1項第4号」規定に抵触する可能性があるのではないか、というものです。私は前の記事での検討で、「アドバイザー就任」というのが問題になるのではないだろうか、と考えたのですが、「投資ファンドの性格」ということについては全く考えておりませんでした。そこで、少し検討してみました。


コメントにありましたように、「有限責任組合員」という可能性がある訳ですが、村上ファンドがそうなのか、福井総裁が出資していたファンドが果たしてそうなのか、というところから見てみます。


まず、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(以下、単に「有責法」と略)は、04年からスタートしており、福井総裁が村上ファンドに出資をした時点では、同法は施行されていませんでした。福井総裁が就任した03年から同法施行前までと、04年の同法施行後では多少事情が異なるかもしれません。


では、それ以前にはどのような法律であったかというと、「中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律」(以下、「中小有責法」と略)という法律であったと思われます。この法律は平成10年(98年)に施行されており、特徴としては上場企業株への投資は対象外となっていることで、所謂中小ベンチャーへの投資を促進するということで整備されたものと思われます。この法律制定に関わっていたのが当時の通産省で、その後経済産業省に変わりましたが、村上氏が「自分もベンチャー投資の法律制定に関わった」とか何とか語っていたのは、この法律のことなのかもしれません(全く違うかもしれませんが。あくまで推測です)。福井総裁が99年に村上ファンドに出資した時点で、村上ファンドがこの枠組みを用いていたのかどうかは不明ですが、恐らく違うと思われます。「上場企業には投資できない」という制限があるためです。


なので、予想されるのは、磯崎氏の記事を参考にするならば、やはり民法を根拠とする「任意組合」ではないかと思われます。私募ファンドの形で組合員を集め、投資組合を組成したのではないでしょうか。この時点での福井総裁の立場としては、組合員ですから「共同事業者」というような立場になるのではないかと思われます。組合の債務に対しては、有責ではなく、「無限責任」だそうです(恐!)。組合に「アドバイザリーボード」を置く、という任意組合や「中小有責法」による組合(所謂ベンチャーファンドとか呼ばれるもの)は珍しくないそうです。後者であれば、無限責任を負う業務執行者(GP)と有限責任を負う出資者(LP)とに分かれているようです。


ところが、一度「キャッシュ・アウト」(by 福井総裁)された時があり、この分配金は単純に「組合の成功報酬としての分配金」なのか、一度組合を解散(清算)して「新たに別な枠組みの組合を立ち上げた」のか、よく判りません。登記とかの記録でも調べるならば、何か判るかもしれませんが、私の調査能力では無理です(笑)。時期としては、01年に242万円が支払われた、という報道でしたので、この時点で何か変更があったのかもしれません。仮に、任意組合から有責組合に変更したとしても、「有責法」ではなく、「中小有責法」の範囲ですよね。


まとめると、

・村上ファンドの組合形式は、当初民法上の「任意組合」で運営し、「中小有責法」規定の組合は組成されていなかったかもしれない

・01年の時点で、組合の解散と新たな組合の立ち上げ(「中小有責法」規定の組合)、ということが行われた可能性がある

・04年の「有責法」施行以降には、任意組合から「有責法」による組合に変更した可能性はある

(もしも、01年時点で「中小有責法」規定の組合が組成されたのであれば、04年以降の法改正で「有責法」規定の組合に自動的に変更されていると思われます)



もう一度、日銀法第26条第1項を見てみましょう。

第26条  日本銀行の役員(参与を除く。以下この条、第三十一条及び第三十二条において同じ。)は、在任中、次に掲げる行為をしてはならない。
一  国会又は地方公共団体の議会の議員その他公選による公職の候補者となること。
二  政党その他の政治的団体の役員となり、又は積極的に政治運動をすること。
三  報酬のある他の職務(役員としての職務の適切な執行に支障がない職務の基準として第三十二条に規定する服務に関する準則で定めたものを満たすものと委員会において認めたものを除く。)に従事すること。
四  営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。


この4号規定である、「営利事業を営み、その他金銭上の利益を目的とする業務を行うこと。」に福井総裁の行為が該当しているのかどうか、です。

福井総裁の投資は99年から継続されていたのですが、総裁に就任するのは03年3月以降、ということだそうです。
03年以降に村上ファンドに出資を継続することによって、
①「営利事業」を営むと考えられるか
②「金銭上の利益を目的とする業務」に該当するか

という2点を検討してみます。

まず、推定に過ぎない前提なのですが、03年の総裁就任時点では「中小有責法」に規定される組合であって、04年の「有責法」施行以降は同法規定による組合であったと仮定してみましょう。

「中小有責法」の条文は不明なのですが、現在の「有責法」は検索でき、元々が「中小有責法」をベースにした法律ですので、殆ど同じであろうかと思います。投資対象の制限範囲が取り除かれたのではないのかな、と。そこで、「有責法」の条文を見てみますと、関係する条文を挙げていきたいと思います。


◎第三条  
投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。

以下略


この条文によって、「各当事者が出資を行い、事業の全部又は一部を営むことを約す」ということになり、①の「営利事業を営む」と考えるのは妥当であると思います。つまり、「投資事業組合の有限責任組合員は、営利事業を営む者である」ということです。


◎第七条  
組合の業務は、無限責任組合員がこれを執行する。
2  無限責任組合員が数人あるときは、組合の業務の執行は、その過半数をもって決する。
3  組合の常務は、前項の規定にかかわらず、各無限責任組合員が単独でこれを行うことができる。ただし、その終了前に他の無限責任組合員が異議を述べたときは、この限りでない。
4  無限責任組合員が第三条第一項に掲げる事業以外の行為を行った場合は、組合員は、これを追認することができない。無限責任組合員以外の者が同項に掲げる事業以外の行為を行った場合も、同様とする。


この条文では、「業務の執行者が誰なのか」ということで、それは「無限責任組合員」ということです。村上ファンドでいえば、村上氏とかがこの無限責任組合員に該当することになると思います。福井総裁が出資しただけならば(アドバイザリーボードのメンバーを確実に辞めていれば)、②の「利益を目的とする業務」を行ったとは言い難いと思われます。すなわち、「単なる有限責任組合員は業務執行者ではないため、利益目的の業務を行ったことにはならない」と思います。



◎第十一条  各組合員は、やむを得ない場合を除いて、組合を脱退することができない。

◎第十二条  前条に規定する場合のほか、組合員は、次の事由によって脱退する。
一  死亡
二  破産手続開始の決定
三  後見開始の審判を受けたこと。
四  除名


この2つの条文は、「投資を止めることができるのか」という問題に関わってきます。福井総裁は03年の就任以前から出資していたので、途中脱退が行える状態であったかどうか、ということです。第11条によれば、「任意脱退」は原則不可、です。「やむを得ない場合」がどのような事由になるのかは、議論があるかと思います。第12条では、具体的な脱退事由が記載されており、福井総裁の場合に可能であったと思われるのは、4号規定の「除名」だけです。


従って、既に有限責任組合員となっていた場合には、総裁就任が決まった時点で脱退手続が行えたかどうかというと、二つの可能性があったと思われます。一つは、「やむを得ない場合」に該当するもので、恐らく組合の契約約款のようなものの規定によるのではないかと思いますが、定かではありません。もう一つは「除名」で、これも組合の規定があると思われますが、正当事由というのが何なのかは判りません。

よって、「有限責任組合員である場合、任意脱退は制限があり、総裁就任前の脱退は手続上困難と判断される場合も有り得る」ということですね。



今までは、「有責法」の規定による組合、という前提で考えてみましたが、民法上の組合のままであったなら、どうなるでしょうか。

①の「営利事業を営む」ということに該当するかというと、該当するでしょうね。民法第667条には「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。」とあり、「共同事業者」という立場であることには変わりない、ということだろうと思います。

②の「利益目的の業務」は、民法第670条の「業務執行者が委任されている場合」に該当すると思われ、必ずしも福井総裁が業務執行者であったとは言い切れない(でも、「アドバイザー」は業務執行者に該当するかもしれないが)。

脱退については、「中小有責法」の規定よりも、ややゆるいと思いますが、基本的には組合契約の内容によるのではないかと思います。


任意組合を継続していたとすれば、やり方としては次のパターンも考えられるかも(素人考えなんですけど)。

・まず、民法上の任意組合A(ファンドAと呼ぶことにしよう)をつくる
・途中で「中小有責法」規定の組合B(同、ファンドB)をつくり、ファンドAがファンドBに一部投資する
・続いて「有責法」に変わり、ファンドAは資金の殆どをファンドBに投資する

こうすると、実態としては「ファンドB」1本の場合と同じなのでは。ファンドAは仕組みだけが残っているが、全額ファンドBを買えばそれで済むように思うけどね。これなら、最初の組合設立時点からファンド自体は変わることがないのではないかな。


結論としては、福井総裁の出資が「有責組合」であっても、「民法上の組合」であっても、「営利事業を営む」ということになってしまい、日銀法第26条第1項第4号規定に違反する可能性があるのではないか。


ところで、全く無関係な話なのですけど、「コソコソ書く」つもりではない時でも、TB等を行うと当事者以外の他の方々から「ヤメレ」と制限されたりする実例がありますので、そういう突撃を受けるくらいならTBしないでおこう、とか考える場合もあるのではないか、と思います。