遅くなりましたが、先日のコメントで問題提起(→会社更生又は民事再生手続と過払金返還請求について)されておりました詐害行為取消権について書いてみたいと思います。何度も申し上げて恐縮ですが、私は法学部出身でもなければ、法学的基礎教育を受けたことはありませんので、経済学同様あくまで素人考えですので、それを考慮してお読み下さい。
問題とされましたのは、貸金業者等の返還すべき過払金が発生する可能性のある会社が事業を売却・清算したり、会社更生又は民事再生法の適用を受けようとする場合に、過払金返還請求があることをどう処理するか、仮に売却・清算・更生・再生手続を受けたとしても詐害行為取消権を行使するべく提訴されてしまう可能性をどう考えるか、ということです。
1)基本的な考え方
前回書いたように、会社更生(民事再生)法適用後に過払金返還請求がある場合には、
・共益債権として取り扱う
・払えるものは随時弁済
・払えないほどに多額であれば裁判所の判断に従う
ということになるかと思います。
存続会社があり、事業継続ということであれば、その会社が支払うことになるでしょう。保有債権を別な会社に売却したとして、その債権に係る返還請求に関しては購入した会社が返還することになり、それ以外の返還請求―例えば現在残高のない完済者の場合―については、元々の貸金会社が支払うことになると思います。返還が多額になり過ぎて元々の貸金会社が倒産するのであれば、破産手続きに従うものと思います。
2)詐害行為取消権とは
問題となるのは、売却・清算・更生・再生等の手続後に、各完済者等が過払金返還を求める為にそれら手続を詐害行為として取消訴訟を提起してきたらどうなるのか、ということです。
まず民法の条文で「詐害行為取消権」をみますと、次の通りです。
○第424条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
つまり、過払金返還請求者(面倒なので以下、単に「元借り手」と呼ぶ)も債権者であり、この債権者を害することを知っていながら各種手続を行ったのだから、取消を求めることができる、という主張ですね。利益を受けた者や転得者が元借り手の過払金が含まれていたことを知らないはずがない、不当利得が混ざっていたことを知っているだろう、だから詐害行為なのだ、という理屈かと思います。確かに一理あるかもしれません。これが適用になれば、たとえ会社更生法、民事再生法や清算等の手続を経ようとも、それらを取り消しできることになり、債権者への分配を改めてやり直さざるを得ないということになってしまいます。パラパラと提起される詐害行為取消訴訟の度に配分やり直しをすることになる、ということですね。それが妥当であるかどうかを、次に検討してみます。
3)会社更生法適用は詐害行為なのか?
各種手続を行った後から元借り手が詐害行為取消権行使の為に提訴するとして、これが妥当なのか否かということですね。通常であれば、会社更生法申請に伴い債権届出せねばなりませんが、この時点では漏れていて届出をしていなかった元借り手の方々が訴えるということになります。会社更生法適用が決定され、既に更生手続開始となっている会社に詐害行為取消権の請求について考えてみます。
根本的に会社更生法申請は、債権者を害する行為なのでしょうか?民法424条規定のごとく、債権者を害するかどうかです。普通に考えれば、裁判所が認定するものですから、債権者を害するものであることは少ないでありましょう。本当に債権者に不利になるのであれば、会社更生法は適用にならないからです。また、詐害行為取消権には民法に次のような留保があります。
○第425条
前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
会社更生法を取り消すことが果たして「すべての債権者の利益」といえるでしょうか?そもそも会社更生法を申請するということは、多くの債権者に損害が及ぶことになると考えられるからであって、多くの債権者の利益保護をも考慮するものであるはずです。つまり、会社更生法申請が裁判所に認められ、適用となるのであれば、それは「債権者の利益」にかなうものであるはずです。従いまして、425条規定により詐害行為取消権が効力を生ずることはなく、更生開始後に過払金返還請求を行う元借り手の提訴があっても、会社更生法を取り消すことはほぼ困難ではないかと思われます。これは民事再生法適用後であっても同様かと思います。
また、詐害行為取消権の請求は時効消滅規定があるので、無際限に請求可能なわけではありません。
○第426条
第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
この「債権者が取消し原因を知った時」というのは、裁判所の判断を聞いてみないと何とも言えないかもしれませんが、普通に解釈すれば会社更生法申請後の債権届出公告の時とか、更生開始決定の時といったことになるのではないかと思います。
4)会社更生法や民事再生法以外ではどうか
倒産、清算で処理を終了した後になって、元借り手が詐害行為取消権を請求してきたらどうなるのか?
また分配をやり直さねばならないのだろうか。そうなると、倒産会社の資産を配分して処理したのに、毎回毎回それをやり直すことになってしまいます。
それが妥当なのかと言われると、そうではないだろうと思います。あまりに実際的ではないからです。
では、法的にはどう考えたらよいかということになりますが、私の考えたのは民法規定です。
○第491条
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。
この491条2項規定がポイントではないかと思いました。破産や清算等の手続終了後に元借り手が返還請求するわけですから、「全部の債務消滅には足りない給付をしたとき」ということになるかと思われます。元借り手の債務が残っていた、ということになると思うので。債務者(貸金会社)が複数(数個)の債務弁済をする場合であるので、この491条適用は可能かと思います。すると2項の適用を考えることになりますが、489条の準用となっていますので、489条を見る必要があります。
○第489条
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
会社の破産や清算手続を行う時点では、元借り手は債権の請求を行っておらず、債務者(貸金会社)も弁済を考えてはいなかったので、ここにある弁済充当の指定のないものと考え、法定充当を適用するべきと思います。この法定充当が認められるのであれば、1号規定のごとく弁済期にあるものと弁済期にないものでは「弁済期にあるものに先に充当」というのは合法と考えられ得るのではないでしょうか。過払金返還請求は請求がなければ「弁済期にない時」ということになるものと考えれば、「法定充当は合法」と思います。更に債務者(貸金会社)にとっての弁済利益が異なるわけではないので、過払金返還請求より先に債権者が存在していた(倒産や清算手続時点での債権者たち)のであるから、3号規定の如く「弁済期が先に到来したもの」に該当するものとも考えられ、法定充当を適用することには問題があるとも思われません。
よって、会社存続とか事業継続などにより過払返還請求が共益債権として処理可能である場合と、それが困難であって倒産や清算等手続後になった場合では取扱いに差異が生じたとしても止むを得ないのではないかと思います。詐害行為取消請求を行ったとしても、法定充当であったのであれば「詐害行為」と認定することは困難なのではなかろうかと思います。
喩えていえば、死亡した債務者が存在するとして、債権者が死亡したのであれば本人に債権請求はできません。債務者の相続権者たちに消滅時効の2年経過後(詐害行為取消権行使の原因認知から2年という意味)に事後的に債権請求するようなものであり、相続財産の処理が既に済んでいるとか、相続権放棄などで処理が確定してしまっているのであって、その後に債権の申立を行うとして個々の取消請求が有効に機能するとは思えません。会社倒産(清算)は法人の死亡のようなものという印象があるので、死亡後であっても無際限に請求が可能ということは考えられない、ということです。
問題とされましたのは、貸金業者等の返還すべき過払金が発生する可能性のある会社が事業を売却・清算したり、会社更生又は民事再生法の適用を受けようとする場合に、過払金返還請求があることをどう処理するか、仮に売却・清算・更生・再生手続を受けたとしても詐害行為取消権を行使するべく提訴されてしまう可能性をどう考えるか、ということです。
1)基本的な考え方
前回書いたように、会社更生(民事再生)法適用後に過払金返還請求がある場合には、
・共益債権として取り扱う
・払えるものは随時弁済
・払えないほどに多額であれば裁判所の判断に従う
ということになるかと思います。
存続会社があり、事業継続ということであれば、その会社が支払うことになるでしょう。保有債権を別な会社に売却したとして、その債権に係る返還請求に関しては購入した会社が返還することになり、それ以外の返還請求―例えば現在残高のない完済者の場合―については、元々の貸金会社が支払うことになると思います。返還が多額になり過ぎて元々の貸金会社が倒産するのであれば、破産手続きに従うものと思います。
2)詐害行為取消権とは
問題となるのは、売却・清算・更生・再生等の手続後に、各完済者等が過払金返還を求める為にそれら手続を詐害行為として取消訴訟を提起してきたらどうなるのか、ということです。
まず民法の条文で「詐害行為取消権」をみますと、次の通りです。
○第424条
債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
つまり、過払金返還請求者(面倒なので以下、単に「元借り手」と呼ぶ)も債権者であり、この債権者を害することを知っていながら各種手続を行ったのだから、取消を求めることができる、という主張ですね。利益を受けた者や転得者が元借り手の過払金が含まれていたことを知らないはずがない、不当利得が混ざっていたことを知っているだろう、だから詐害行為なのだ、という理屈かと思います。確かに一理あるかもしれません。これが適用になれば、たとえ会社更生法、民事再生法や清算等の手続を経ようとも、それらを取り消しできることになり、債権者への分配を改めてやり直さざるを得ないということになってしまいます。パラパラと提起される詐害行為取消訴訟の度に配分やり直しをすることになる、ということですね。それが妥当であるかどうかを、次に検討してみます。
3)会社更生法適用は詐害行為なのか?
各種手続を行った後から元借り手が詐害行為取消権行使の為に提訴するとして、これが妥当なのか否かということですね。通常であれば、会社更生法申請に伴い債権届出せねばなりませんが、この時点では漏れていて届出をしていなかった元借り手の方々が訴えるということになります。会社更生法適用が決定され、既に更生手続開始となっている会社に詐害行為取消権の請求について考えてみます。
根本的に会社更生法申請は、債権者を害する行為なのでしょうか?民法424条規定のごとく、債権者を害するかどうかです。普通に考えれば、裁判所が認定するものですから、債権者を害するものであることは少ないでありましょう。本当に債権者に不利になるのであれば、会社更生法は適用にならないからです。また、詐害行為取消権には民法に次のような留保があります。
○第425条
前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
会社更生法を取り消すことが果たして「すべての債権者の利益」といえるでしょうか?そもそも会社更生法を申請するということは、多くの債権者に損害が及ぶことになると考えられるからであって、多くの債権者の利益保護をも考慮するものであるはずです。つまり、会社更生法申請が裁判所に認められ、適用となるのであれば、それは「債権者の利益」にかなうものであるはずです。従いまして、425条規定により詐害行為取消権が効力を生ずることはなく、更生開始後に過払金返還請求を行う元借り手の提訴があっても、会社更生法を取り消すことはほぼ困難ではないかと思われます。これは民事再生法適用後であっても同様かと思います。
また、詐害行為取消権の請求は時効消滅規定があるので、無際限に請求可能なわけではありません。
○第426条
第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
この「債権者が取消し原因を知った時」というのは、裁判所の判断を聞いてみないと何とも言えないかもしれませんが、普通に解釈すれば会社更生法申請後の債権届出公告の時とか、更生開始決定の時といったことになるのではないかと思います。
4)会社更生法や民事再生法以外ではどうか
倒産、清算で処理を終了した後になって、元借り手が詐害行為取消権を請求してきたらどうなるのか?
また分配をやり直さねばならないのだろうか。そうなると、倒産会社の資産を配分して処理したのに、毎回毎回それをやり直すことになってしまいます。
それが妥当なのかと言われると、そうではないだろうと思います。あまりに実際的ではないからです。
では、法的にはどう考えたらよいかということになりますが、私の考えたのは民法規定です。
○第491条
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。
この491条2項規定がポイントではないかと思いました。破産や清算等の手続終了後に元借り手が返還請求するわけですから、「全部の債務消滅には足りない給付をしたとき」ということになるかと思われます。元借り手の債務が残っていた、ということになると思うので。債務者(貸金会社)が複数(数個)の債務弁済をする場合であるので、この491条適用は可能かと思います。すると2項の適用を考えることになりますが、489条の準用となっていますので、489条を見る必要があります。
○第489条
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
会社の破産や清算手続を行う時点では、元借り手は債権の請求を行っておらず、債務者(貸金会社)も弁済を考えてはいなかったので、ここにある弁済充当の指定のないものと考え、法定充当を適用するべきと思います。この法定充当が認められるのであれば、1号規定のごとく弁済期にあるものと弁済期にないものでは「弁済期にあるものに先に充当」というのは合法と考えられ得るのではないでしょうか。過払金返還請求は請求がなければ「弁済期にない時」ということになるものと考えれば、「法定充当は合法」と思います。更に債務者(貸金会社)にとっての弁済利益が異なるわけではないので、過払金返還請求より先に債権者が存在していた(倒産や清算手続時点での債権者たち)のであるから、3号規定の如く「弁済期が先に到来したもの」に該当するものとも考えられ、法定充当を適用することには問題があるとも思われません。
よって、会社存続とか事業継続などにより過払返還請求が共益債権として処理可能である場合と、それが困難であって倒産や清算等手続後になった場合では取扱いに差異が生じたとしても止むを得ないのではないかと思います。詐害行為取消請求を行ったとしても、法定充当であったのであれば「詐害行為」と認定することは困難なのではなかろうかと思います。
喩えていえば、死亡した債務者が存在するとして、債権者が死亡したのであれば本人に債権請求はできません。債務者の相続権者たちに消滅時効の2年経過後(詐害行為取消権行使の原因認知から2年という意味)に事後的に債権請求するようなものであり、相続財産の処理が既に済んでいるとか、相続権放棄などで処理が確定してしまっているのであって、その後に債権の申立を行うとして個々の取消請求が有効に機能するとは思えません。会社倒産(清算)は法人の死亡のようなものという印象があるので、死亡後であっても無際限に請求が可能ということは考えられない、ということです。