吉行さんに頂いたコメント(会社更生(民事再生)法適用と詐害行為取消権について)で論点が複雑化しつつあるので、もう一度整理してみます。
破産法、会社更生法や民事再生法を適用しなかった場合について、詐害行為取消請求が心配だ、ということであると理解しました。
通常の破産法・会社更生法・民事再生法適用では、個々の元借り手の債権を目的として詐害行為取消請求を行ったとしても、民法425条により効力を生じないと考えてよい、ということです。全ての債権者の利益を考慮する場合においてのみ、効力を生ずるからであって、一部債権者(この場合では個々の元借り手)の利益が最優先されるとまではいえないでしょう。共益債権であったとしても、払えない場合には例えば会社更生法133条1項の適用を免れるものではありません。
これら法制度によらない、私的整理という性格を持つ事業清算のような場合にはどうなるのか、ということです。これについては、前回記事で述べたように、法定充当による整理が行われることになったものと考え、個々の元借り手からの債権申出の無かったものについては、請求先が消滅した後では権利行使するべき相手を失うであろう、ということです。
貸金業者Xが事業清算をする為に債権残高1000の債権を500で売却、債務800を払わねばならない、と。足りない300は債権放棄で、売却代金500を債権者A、Bに弁済、株主資本は分配がゼロ、ということであるとします。債権放棄と株主資本部分は親会社Yが100%負担したものとします。この清算確定後に、元借り手のCが過払金返還を主張して、自分も債権者なので払ってくれ、と請求してきたらどうなるか、ということですね。
ア)Xは数個の債務全部を消滅させに足りない給付を行った
イ)清算時点で確定していた債権はAとBで、XとCの間では弁済指定がない
ウ)先に弁済期が到来したのはAとB
よって、法定充当に従い弁済した、ということをXは主張可能なのではなかろうか、と。
ここで、元借り手Cには「債権がある」し「詐害行為取消権もある」が、法定充当に従い弁済されたのであれば、詐害行為の主張が通ることを期待するのは困難ではないか、という主旨です。たとえXが元借り手の債権の存在を調べて明らかにすることが不可能ではなかったとしても、そのことが「Cの持つ債権が弁済期にあった」ことを自覚させることにはなりません。Cの債権が、先に弁済期が到来するわけではなく、Xにとって弁済利益が大きいということにもなりませんので、Cの債権への弁済よりAやBへの弁済を先に行うことが詐害行為に該当するとまでいえないのではないか、ということです。
しかし、Cが別な主張をすることも有り得るかもしれません。それはAやBの債権も同様に弁済期にはなかった、という場合でしょうか。長期借入金などの場合には、それを繰り上げて返済することになると思われますので。
すると、
エ)A、B、Cの債権はいずれも弁済期になかった
だから489条4号規定の如く、債務額に応じた分配とすべし、という主張ですね。
この場合には、先に弁済を受けたA、Bが再度の分配やり直しに応じなければならないのか、ということがあります。これについては、民法706条規定により返還する必要はないのではないかと考えます。
○第七百六条
債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。
つまり、AとBへの弁済として給付した500はXから返還請求する権利を有しない、ということです。CはXへの請求はできますが、AやBへの請求権は持たないでありましょう。Xは錯誤によってAとBに弁済をしたわけではありませんから、XはCから請求されることはあっても、Cが債権申出を行ったとして先に弁済を受けたAやBが返還すべき理由はないように思います。
詐害行為取消権の消滅時効がいつまでか、というのは案外裁判によって違う判断が出ることがあるかもしれず、2年を経過すれば本当に請求権が消滅といえるかどうかは判りません。過払金返還請求権に関する消滅時効の考え方も、判例によって若干異なる部分はありましたので。
普通に考えると、清算行為から2年以内であって、実務的に債権者AやBの同意が得られるとか、親会社が債権放棄分を増加させてCに払うということが可能なのであれば、詐害行為取消権の主張に応じて裁判には至ることなく対処可能な場合があるかもしれません。
どうしても事業を清算したければ、決算公告のように広く周知させる努力を行い、債権申出機会を一定期間取った後、順次保有債権売却や債権者への弁済を進め、最終的には株主と親会社の債権部分だけが残ることになると思いますが、存続会社を少なくとも2年間は残してCのような過払金返還請求者が現れたら随時弁済処理をするような仕組みを残すべき、ということになりましょう。あまりに返還請求が多額で払えなければ、残しておいた存続会社の破産を選ぶしかないのではないかと思います。破産法制に則り処理するのであれば、責任範囲が無制限に及ぶこともなく、次々と現れるかもしれない元借り手の詐害行為取消権に苛まれることもないでしょう(笑)。これまで借り手のもとに、足しげく取立に通っていたのが、全く逆の立場に置かれるだけに過ぎないでしょうね。
いうなれば借り手の受けていた恐怖みたいなもので、逃げたくとも逃げられず、次から次へとやってくる取立屋がドアをドンドン叩くとか、何度も繰り返される電話とか、そういうのに耐えていた人々の立場を今は貸し手であった側が味わうのもいいかもしれません。過払金返還請求とか、詐害行為取消請求とか、そういうのに少しくらい怯えるだけならまだまだカワイイもんじゃないでしょうか。清算したい貸金会社にしても、早い話が「飛べば楽になる」ってだけですな。破産すれば処理は進みやすくなりますよ、どうしますか、ってことです。借り手が自己破産することに痛痒を感じないでいたからこそ貸し込んでいたのだろうし、今度は貸金会社が破産すべきかどうかを苦しんでみる番なのかもしれません。これはこれまで苦しんだ人々の怨念かもしれませんね。
It's my turn!
遊技王か(笑)
破産法、会社更生法や民事再生法を適用しなかった場合について、詐害行為取消請求が心配だ、ということであると理解しました。
通常の破産法・会社更生法・民事再生法適用では、個々の元借り手の債権を目的として詐害行為取消請求を行ったとしても、民法425条により効力を生じないと考えてよい、ということです。全ての債権者の利益を考慮する場合においてのみ、効力を生ずるからであって、一部債権者(この場合では個々の元借り手)の利益が最優先されるとまではいえないでしょう。共益債権であったとしても、払えない場合には例えば会社更生法133条1項の適用を免れるものではありません。
これら法制度によらない、私的整理という性格を持つ事業清算のような場合にはどうなるのか、ということです。これについては、前回記事で述べたように、法定充当による整理が行われることになったものと考え、個々の元借り手からの債権申出の無かったものについては、請求先が消滅した後では権利行使するべき相手を失うであろう、ということです。
貸金業者Xが事業清算をする為に債権残高1000の債権を500で売却、債務800を払わねばならない、と。足りない300は債権放棄で、売却代金500を債権者A、Bに弁済、株主資本は分配がゼロ、ということであるとします。債権放棄と株主資本部分は親会社Yが100%負担したものとします。この清算確定後に、元借り手のCが過払金返還を主張して、自分も債権者なので払ってくれ、と請求してきたらどうなるか、ということですね。
ア)Xは数個の債務全部を消滅させに足りない給付を行った
イ)清算時点で確定していた債権はAとBで、XとCの間では弁済指定がない
ウ)先に弁済期が到来したのはAとB
よって、法定充当に従い弁済した、ということをXは主張可能なのではなかろうか、と。
ここで、元借り手Cには「債権がある」し「詐害行為取消権もある」が、法定充当に従い弁済されたのであれば、詐害行為の主張が通ることを期待するのは困難ではないか、という主旨です。たとえXが元借り手の債権の存在を調べて明らかにすることが不可能ではなかったとしても、そのことが「Cの持つ債権が弁済期にあった」ことを自覚させることにはなりません。Cの債権が、先に弁済期が到来するわけではなく、Xにとって弁済利益が大きいということにもなりませんので、Cの債権への弁済よりAやBへの弁済を先に行うことが詐害行為に該当するとまでいえないのではないか、ということです。
しかし、Cが別な主張をすることも有り得るかもしれません。それはAやBの債権も同様に弁済期にはなかった、という場合でしょうか。長期借入金などの場合には、それを繰り上げて返済することになると思われますので。
すると、
エ)A、B、Cの債権はいずれも弁済期になかった
だから489条4号規定の如く、債務額に応じた分配とすべし、という主張ですね。
この場合には、先に弁済を受けたA、Bが再度の分配やり直しに応じなければならないのか、ということがあります。これについては、民法706条規定により返還する必要はないのではないかと考えます。
○第七百六条
債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。
つまり、AとBへの弁済として給付した500はXから返還請求する権利を有しない、ということです。CはXへの請求はできますが、AやBへの請求権は持たないでありましょう。Xは錯誤によってAとBに弁済をしたわけではありませんから、XはCから請求されることはあっても、Cが債権申出を行ったとして先に弁済を受けたAやBが返還すべき理由はないように思います。
詐害行為取消権の消滅時効がいつまでか、というのは案外裁判によって違う判断が出ることがあるかもしれず、2年を経過すれば本当に請求権が消滅といえるかどうかは判りません。過払金返還請求権に関する消滅時効の考え方も、判例によって若干異なる部分はありましたので。
普通に考えると、清算行為から2年以内であって、実務的に債権者AやBの同意が得られるとか、親会社が債権放棄分を増加させてCに払うということが可能なのであれば、詐害行為取消権の主張に応じて裁判には至ることなく対処可能な場合があるかもしれません。
どうしても事業を清算したければ、決算公告のように広く周知させる努力を行い、債権申出機会を一定期間取った後、順次保有債権売却や債権者への弁済を進め、最終的には株主と親会社の債権部分だけが残ることになると思いますが、存続会社を少なくとも2年間は残してCのような過払金返還請求者が現れたら随時弁済処理をするような仕組みを残すべき、ということになりましょう。あまりに返還請求が多額で払えなければ、残しておいた存続会社の破産を選ぶしかないのではないかと思います。破産法制に則り処理するのであれば、責任範囲が無制限に及ぶこともなく、次々と現れるかもしれない元借り手の詐害行為取消権に苛まれることもないでしょう(笑)。これまで借り手のもとに、足しげく取立に通っていたのが、全く逆の立場に置かれるだけに過ぎないでしょうね。
いうなれば借り手の受けていた恐怖みたいなもので、逃げたくとも逃げられず、次から次へとやってくる取立屋がドアをドンドン叩くとか、何度も繰り返される電話とか、そういうのに耐えていた人々の立場を今は貸し手であった側が味わうのもいいかもしれません。過払金返還請求とか、詐害行為取消請求とか、そういうのに少しくらい怯えるだけならまだまだカワイイもんじゃないでしょうか。清算したい貸金会社にしても、早い話が「飛べば楽になる」ってだけですな。破産すれば処理は進みやすくなりますよ、どうしますか、ってことです。借り手が自己破産することに痛痒を感じないでいたからこそ貸し込んでいたのだろうし、今度は貸金会社が破産すべきかどうかを苦しんでみる番なのかもしれません。これはこれまで苦しんだ人々の怨念かもしれませんね。
It's my turn!
遊技王か(笑)