いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

『チーム・バチスタの栄光』と第三者機関

2008年10月15日 21時59分41秒 | 俺のそれ
これも移動中に読んだのだが、我が家で一番最後だった。
そういえば、偶然ドラマがスタートしたみたいだが、あまり期待できなさそう。まだ初回だけれども、原作から自分がイメージした田口と白鳥が、ドラマでの感じと結構離れている為に違和感がどうしても拭えないからなのかもしれない。
因みに、映画版は妻が友人と観たと言っていた。


読後の感想だが、かなり共感できる部分は多いし、登場人物を通して語られる現在の医療が直面している問題点は、よく描かれていると思った。更には、著者が持つ自論のような部分を登場人物に言わせるという古典的方法についても、かなり効果的ではないかなと思う。

率直な疑問を述べるとすると、何故「白鳥という官僚」の登場を必要としたのかということだ。第三者機関がないから、代わりに「探偵」役としての白鳥が必要とされたのだ、という意味合いではないかなとは思うけれども、要するに「捜査権限」を持つ人間を必要とするのだ、ということを示しているのだろうな、と思った。つまりは、「強制力」が発揮されるような人間ではないと究明することが難しいのだ、ということなのかもしれない。内部の人間である田口や院内の委員会等では、真相究明が行えないことが往々にしてある、という意図なのかな、と。それは間接的に強権を発動できる人間、絶対的権限・権威の登場が待たれる、ということになってしまい、現在多くの医師たちが反対している厚生労働省の第三者機関のような「捜査機関」が肯定されているようである。著者が実際にイメージする調査機関や機能というものについてのご意見を、もっと詳しく聞いてみたいと思う。

最後に、どこか掴みどころがなく昼行灯風な人物と思わせるのだが、実は有能かつ切れ者として設定されていた病院長は、著者が最も世話になった恩師か教授をイメージしたのだろうか。それとも、こんな人物が上にいてくれたらな、という架空の「理想の上司」像として作ったのかが気になった。ありがちな責任逃れを志向する上層部っぽく、面倒を避けるような事なかれ主義者のように見せていて、予想外の好人物として描いていたのは、多分著者が卒後の医師生活の中で「何かの発見」があったからであろうと思った。若い時には見えなかったけれど、自分が教える立場になっていき、いつしか答えを発見したのではないのかな、と。かつては「何てやる気のない教授なんだろう、どうせちっぽけな権力やイスにしがみつく小さき人間に違いない」というような先入観(それとも固定観念?)のようなものがあったのに、「自分が知らなかっただけ」という部分を知ることで先入観が誤りであったのだな、と思ったことがあったのではないだろうか。

現実には、あの病院長のような「大きな人物」というのは、あまり多くはないかもしれない。
それが、今の医療界や医療行政という答えなのだ。



高野和明著 『13階段』 

2008年10月15日 14時37分30秒 | 俺のそれ
移動中に読んだので、その感想など。
かなり流行遅れであることは、ご容赦を。


現在の刑事司法と死刑制度、法務省、刑務所、刑罰や矯正処置、前科を持つ人の社会復帰、犯罪被害者や遺族、事件報道、これらに関する問題点が盛りだくさんに詰まった、社会派事件小説である。難しい法学の本などを読まずとも、日本の置かれている状況が概観できるという優れた物語なのである。できるだけ法学知識に乏しい一般人に読んでもらえるとよいだろう、という作品であろう。

あとがきで宮部みゆきが書いているが、映画化されたことと著者には満足のいくものではなかったらしい、ということだった。恐らく、日本の映画界ではさしたる話題にも上らなかったであろうし、興行的には不成功に終わってしまったのかもしれない。映像化するのが難しい作品というものもあるから映画の評価はさておくとしても、刑事司法を巡る問題点に深く切り込めるような仕上がりになっていることが必要なのではなかったか、とは思う。『それでもボクはやってない』のような描出のやり方、というようなことだろうか。物語のミステリー(サスペンス?)性を重視するか、主な登場人物―傷害致死犯の若者と退官前の刑務官―の人間性に光を当てるということになってしまうと、本作品の良さが伝わり難いかもしれない。映画よりも、むしろ連続ドラマの仕立ての方が合ってるのかもしれない。

ともあれ、未読の方々には是非ともお勧めしたい作品である。
法が平等なのだろうか、正義とは何なのか、応報感情とは、死刑制度とは、そういった日頃には意識することがないけれども「心の奥底にある疑問」のようなものについて、考えてみるには恰好の物語である。何気なく日常で目にする数々の事件や死刑判決、そういったものが流れていく背景には、どういった世界があるのか、ということを知る機会となろう。前法務大臣の意味不明な失言ばかりに注目が集まったり、死刑執行について「死に神」扱いする前に、もっと焦点を当てなければならない問題が山積されている現状を憂うべきであろう。