ちょっと疑問に思う記述があったので、取り上げてみる。
あれだけ高騰していた原油価格が下落するワケR25 - Yahooニュース
(一部引用)
今年7月、1バレル147ドルまで急騰した原油価格が一転、下落傾向になり、100ドルを大きく割り込む水準に達している。ここにきて価格が急に下がったのはなぜか? 商品市況にくわしいファイナンシャルプランナーの三次理加氏にその理由を聞いてみた。
三次さんによると、1つはドル上昇。ここでポイントとなるのは原油がドルで決済されていること。たとえば、ドル安になると、取引量が同じでも産油国が得る実質的な価値が目減りしてしまう。それを防ぐために市場では原油価格に上昇圧力がかかるという。つまり、「2001年9月の同時多発テロ以降、ドル安が続いたことが原油価格高騰の一因となりました。しかし、この春以降はドル上昇が続いたため、原油価格は下落傾向に転じたのです」(三次氏)。
=====
ドル安になると原油価格が上がってしまう、ということの明確な理由というものはこれまでの所、何もない。多くは、その場での思いつきの域を出ない、適当なこじつけのようなものに過ぎないだろう。経済学者、原油相場のプロ、所謂「エコノミスト」といった人々が、何らかの答えを見出した様子はない。
この解説は、どう読んでも腑に落ちないのですけれどもね。
まず、ドル決済だから、
①ドル安になれば実質的価値が目減りする
②目減りを防ぐ為に上昇圧力がかかる
これって、本当ですか?
ドルペッグなので、他のユーロ換算とかにすると確かに価値が減少することになるが、だからといって価格が上昇するという話にはならないだろう。例えば某産油国通貨が1ドル=1ギルとすれば、ドルでもギルでも自国内で使う分には関係ない。ドル安でも、ドル製品ならば(米国製ってことかな)目減りもない。ドル圏以外の国から買うと高くなるけど、そんなのを嫌うくらいなら、ドルペッグを止めれば済む話だ。自国通貨を変動為替にすればいい。日本も同じ貿易黒字国だけど、ドル安(=円高)になると、嫌がるのにね(笑)。産油国の輸出が好調になると、利益が増えていいんじゃないか?何も今すぐドルを別な通貨にしろ、っていうわけでもないんだろうし。ドル圏以外の通貨国からの輸入が、そんなに多いウェイトなんですかね?
更に疑問なのは、目減りを防ぐ為って、どうやって産油国は防げるんですか?(笑)
これって、価格カルテルとかで意図的に値段を釣り上げるとかですか?
「自由な価格」という建前なのに、価格上昇圧力が一体どこからかかるんですか?
つまりは産油国が自分で価格上昇を演出するとか、誰かが値段釣り上げをしない限りは無理なのでは?
具体的に言うと、市場規模の小さいWTI の先物買いを大量に行って、釣り上げるとかですかね。
買い手が意図的に高い値段で買いたい、ということは普通は考えられないんですよ。安けりゃ万々歳、ってことです。ドル安であれば、なおのこと嬉しい、ってなるね。別に「高い原油」だからどうしても買いたい、とは思わないんですわ。それに、わざわざ高値で大量に買って、コッソリどこかに隠し持っておきたい、ということもないんですわ。単にWTI の市場操作が容易なので、投機筋が資金を突っ込めば買い支えることは可能、ということだわね。これに釣られて、ドバイとかバスケットとか北海ブレンドとかそういう価格も決まっていってしまうわけだから。「参照価格」みたいに、現実の取引に影響してしまうんですよ。
その演出をしたのは誰でしょうか、って話だわな。
オイルマネーで潤った人々、更には投資で潤った人々、これらと一緒に儲けようと企んだ人々、そういうことだな、多分。
需給逼迫というのは若干は影響したものの、実態としてここまでの価格上昇要因とはならないだろう。いくら中国をはじめとする新興国の消費量が増大したからだ、といっても、需要が何倍にもなったわけじゃないからね。一時的であっても、どこからも買えない、というようなことにもなってなかったし、在庫が置けない程売り切れ続出とかにもならなかった。むしろ、売れなくなっていく一方だったろう(笑)。それは売上数量がドンドン落ちていくので、在庫を抱えるのを怖れて買い付けは手控えられただろう、ということだわな。
それを、「需給で価格が決まってる、需給が逼迫してるからだ、米国の在庫が減ったからだ」みたいな、超こじつけ理論を並べていた連中の脳みその中身が心配だ。
本当に供給が追いつかないくらいに需要があったのなら、どうしてOPECの減産なんてことが起こったのか?そんなに超過需要があったのであれば、減産なんてしなくても価格は上昇するはずでしょう?
需要の伸びは世界的に見れば、ここ20年間で減っていたことはないでしょう。それなのに減産するのは、多すぎたってことだろうね。供給過剰なら、価格は下落していくでしょうね、きっと。魚だって、野菜だって、そういうもんですから。
参考記事:
原油価格のこと
原油価格とバブルについて・2
原油価格とバブルについて・3
原油価格と投機筋の話
過去の変動からは、「ドル安になると原油が上がる」法則なんてものは、そもそも存在していない。都合のよい部分だけを短期的に取ってくれば、いかにも相関性のあるグラフを作り出すことは可能だろうけど(笑)。
80年代後半は概ね1バレル20ドル前後で、86年頃に10ドル近辺をつけたものの、湾岸戦争前までには大して目立った変動なんてなかった。ブッシュ(父)時代の90年に、40ドル超という急騰劇があったが、約半年で落ち着いた。その後、再びボックス圏相場みたいに落ち着いた推移を示し、96年頃に25ドルの高値圏にあったが、その後日本の経済失速、アジア通貨危機、ロシア危機、LTCM破綻などを経て、98年終わりには約11ドルくらいまで下落基調となった。90-95年の間に、世界の年間石油消費量は約1億トン増加していたが、価格上昇なんて殆どなかった。98年には95年よりも1.7億トンの消費量増だったにも関わらず、半分以下の価格まで落ちた。
ドル為替は、例えば95年の急激な円高局面があったが、特に原油価格上昇ということでもなかった。大体18~21ドル程度だった。ユーロ/ドルで見ても、92~94年頃に1.45のユーロ高局面から1.10くらいのドル高となったが、原油価格は目立った変動はなかった。その後95年の1.35近辺から2000年の0.85割れという、かなり強いドル高ユーロ安トレンドの期間を迎えたが、原油価格はボックス相場から98年の11ドルという安値~00年約38ドルの高値という上昇期間を迎えた。
97年7月のOPEC生産量は2684万B/D(日量バレル、以下この表記)で、特別多くもなく少なくもなかった。ドル相場に特に目立った影響を受けていたとは思われない。ドルが相対的に高い時に原油が安くなり、逆にドル安になれば原油高という現象なんて、存在していなかった。石油消費量は毎年増加を続けていたが、それは非OPECの生産量が伸びたものと考えられ、いくらOPECが減産決定をしたとしても、他の供給国が生産するのであれば需給がタイトになる、ということでもなかったであろう。このことは、過去の参考記事中でも指摘したことだ。
97年7月のOPEC生産量と、06年12月の減産決定時の割当量2580万B/Dとでは、アンゴラとイラクの割当量がないから単純比較は難しいけれども、大して違ってなどいない、ということだ。中国がこの10年間では大幅に原油輸入量を増やしていたはずなのに、OPECが減産しなければならない理由というのは、一体何か?中国の大量消費によって需給が逼迫しているのであれば、97年の頃の生産量とあまり違いがない、ということが起こると思うか?
06年には97年に比べると世界消費量が約5億トン増加していた。日量でなら、大体943万B/D、大雑把にいって約1000万B/Dもの消費量増加であったにも関わらず、OPECが減産するべき理由なんてものはないのだ。あるとすれば、それは「供給過剰」ということであり、供給量の伸びの方が大きかった、ということのはずだ。しかも、01年以降の原油価格は上昇してきていたのであるから、減産することは不当な売り惜しみ、価格吊り上げ行為にも等しい、ということではないか。
ドル安と原油価格上昇の似た傾向が登場するのは、01年以降の出来事であり、それは例の「9.11テロ」とアフガンでの対テロ戦争、そしてイラク戦争という流れが出来て以降のことだ。
98年のOPEC10の枠は2600万B/D以上あったのに、12ドル割れという価格下落があったので、7月には約2470万B/Dまで減産、翌99年春から1年間は約2300万B/Dまで減産となった。90年代後半の減産前までは、OPECの生産高は約3000万B/D超を記録していた期間はあった。イラクにしても、多い時には00年に280~300万B/Dの生産量があった。消費量増加分はロシアをはじめとする旧ソ連などの国々によって、ほぼカバーされていたであろうと推測されるのだ。
9.11テロ後に一時的に原油価格は上昇したものの、00年の生産量が多かったこともあり、テロ以降には非OPECを含めた減産交渉が行われた。イラクは00年に原油決済をドルからユーロに変更することを求めたり、1バレル当たり50セントのプレミアム支払を認めてもらう為に一時原油輸出停止を行った。原油価格は99年以降減産したりした効果などで上昇傾向にあり、00年9月頃にはイラク問題の余波などもある為か38ドルくらいに上昇した。イラクは更に米英に反発して、01年6月にも輸出停止を行った。
こうしたイラク問題や9.11テロがあったにも関わらず、00年秋以降の価格下落は続き、01年冬には20ドル割れの18ドル近辺となったのだ。OPECを中心に大幅な減産に踏み切り、01年7月に合意された生産枠は99年の減産時とほぼ同じ約2320万B/Dだった。9月に減産開始だったが(9.11が起こった月だ)、更に11月には非OPEC国の50万B/D減産協力(ロシア、ノルウェー等8カ国)と、OPECを含めて150万B/D減産を02年1月から行うこととしたのだ。OPECの多い時の生産力は、3100万B/D程度を00年に記録しているようなので、そこから見れば何と1000万B/D規模の減産となってしまった、というわけですね(あくまで生産枠の量なので、実際には達成されなければもっと多いかもしれない)。
原油価格上昇トレンドが作られたのは、この後からである。
ユーロ/ドルは00年のITバブル期に高値を付けてから、02年夏までは概ね0.9前後のボックスで推移していた(ドル円は、00年1月の102円くらいの円高から02年1月の130円超までドル高基調であった)。00年当時にはドルは高かった、ということだろう。それでも、00年9月には原油価格は40ドル目前まで上がっていた。ドル安が原油高を招くわけではないのだ。
そして今度は、02年以降にドル安基調が続いていった。
この大きな要因としては、FFレートが01年中に6%超から一気に1.75%まで引下げられ、02以降04年の1%まで「低金利時代」だったからではないかと思われる。低い米国金利に対して金利差がある通貨は相対的に高くなる、ということがあったのではないかと考えている。すなわち、ドルからユーロやポンドへの投資などになっていった。それとも、オーストラリアやニュージーランドのような高金利通貨であったかもしれない。
02年はとりあえず減産でしのぎ、03年には戦争でイラクからの供給が止まる、ということになるわけです。
それに、戦争時の原油高騰は前からの経験則で知っていたわけですよ。
まさか、世界経済がこんなに順調で、原油消費量も順調に伸び、かつての3倍にまで高騰した原油に文句を言う人はあまり目立っていなかったのですよ。みんなが儲かっていたから、少々の値段の上昇には気にも留めずにいたわけですよ。しかし、その原油高のダメージは確実に降りかかってきたのだ、ということです。価格が落ちているのはドルが上がったからではありませんよ。
単に、WTI に資金を大量投入してみよう、などと思える人がかつての何分の1かに減ってしまっただけですよ。投機資金が引き上げられたら、後は実勢に近づくまで修正されていくだけでしょうね。
増加した1000万B/D分の需要は、OPECがかつての生産力発揮というだけではなく、非OPECの供給能力が向上してきたので、十分カバーされたのですよ。ロシアがそのいい例でしょう。或いは、旧ソ連の国家群がそうでしょう。彼らには莫大な富がもたらされたはずです。OPECが減産している間に、ロシアは供給力を高め、売れるものはせっせと売ったわけですよ。
原油バブルも更に壊れていくでしょう。
供給量が多いから下がるのではありませんよ。だって、石油は代替性が厳しいので、消費量を直ぐには減らせませんもの。
けれど、資源高で潤った国の多くは、今後厳しい状況に置かれることになるでしょう。何の努力もなしに、偶然庭先に生えた「金のなる木」で生涯幸せに暮らしましたとさ、なんていう御伽噺がこれまでには聞いたことがないからですよ(笑)。
ま、いずれにせよ、原油価格の変動の説明としては、いい加減なものが多いでしょうね、ということ。
あれだけ高騰していた原油価格が下落するワケR25 - Yahooニュース
(一部引用)
今年7月、1バレル147ドルまで急騰した原油価格が一転、下落傾向になり、100ドルを大きく割り込む水準に達している。ここにきて価格が急に下がったのはなぜか? 商品市況にくわしいファイナンシャルプランナーの三次理加氏にその理由を聞いてみた。
三次さんによると、1つはドル上昇。ここでポイントとなるのは原油がドルで決済されていること。たとえば、ドル安になると、取引量が同じでも産油国が得る実質的な価値が目減りしてしまう。それを防ぐために市場では原油価格に上昇圧力がかかるという。つまり、「2001年9月の同時多発テロ以降、ドル安が続いたことが原油価格高騰の一因となりました。しかし、この春以降はドル上昇が続いたため、原油価格は下落傾向に転じたのです」(三次氏)。
=====
ドル安になると原油価格が上がってしまう、ということの明確な理由というものはこれまでの所、何もない。多くは、その場での思いつきの域を出ない、適当なこじつけのようなものに過ぎないだろう。経済学者、原油相場のプロ、所謂「エコノミスト」といった人々が、何らかの答えを見出した様子はない。
この解説は、どう読んでも腑に落ちないのですけれどもね。
まず、ドル決済だから、
①ドル安になれば実質的価値が目減りする
②目減りを防ぐ為に上昇圧力がかかる
これって、本当ですか?
ドルペッグなので、他のユーロ換算とかにすると確かに価値が減少することになるが、だからといって価格が上昇するという話にはならないだろう。例えば某産油国通貨が1ドル=1ギルとすれば、ドルでもギルでも自国内で使う分には関係ない。ドル安でも、ドル製品ならば(米国製ってことかな)目減りもない。ドル圏以外の国から買うと高くなるけど、そんなのを嫌うくらいなら、ドルペッグを止めれば済む話だ。自国通貨を変動為替にすればいい。日本も同じ貿易黒字国だけど、ドル安(=円高)になると、嫌がるのにね(笑)。産油国の輸出が好調になると、利益が増えていいんじゃないか?何も今すぐドルを別な通貨にしろ、っていうわけでもないんだろうし。ドル圏以外の通貨国からの輸入が、そんなに多いウェイトなんですかね?
更に疑問なのは、目減りを防ぐ為って、どうやって産油国は防げるんですか?(笑)
これって、価格カルテルとかで意図的に値段を釣り上げるとかですか?
「自由な価格」という建前なのに、価格上昇圧力が一体どこからかかるんですか?
つまりは産油国が自分で価格上昇を演出するとか、誰かが値段釣り上げをしない限りは無理なのでは?
具体的に言うと、市場規模の小さいWTI の先物買いを大量に行って、釣り上げるとかですかね。
買い手が意図的に高い値段で買いたい、ということは普通は考えられないんですよ。安けりゃ万々歳、ってことです。ドル安であれば、なおのこと嬉しい、ってなるね。別に「高い原油」だからどうしても買いたい、とは思わないんですわ。それに、わざわざ高値で大量に買って、コッソリどこかに隠し持っておきたい、ということもないんですわ。単にWTI の市場操作が容易なので、投機筋が資金を突っ込めば買い支えることは可能、ということだわね。これに釣られて、ドバイとかバスケットとか北海ブレンドとかそういう価格も決まっていってしまうわけだから。「参照価格」みたいに、現実の取引に影響してしまうんですよ。
その演出をしたのは誰でしょうか、って話だわな。
オイルマネーで潤った人々、更には投資で潤った人々、これらと一緒に儲けようと企んだ人々、そういうことだな、多分。
需給逼迫というのは若干は影響したものの、実態としてここまでの価格上昇要因とはならないだろう。いくら中国をはじめとする新興国の消費量が増大したからだ、といっても、需要が何倍にもなったわけじゃないからね。一時的であっても、どこからも買えない、というようなことにもなってなかったし、在庫が置けない程売り切れ続出とかにもならなかった。むしろ、売れなくなっていく一方だったろう(笑)。それは売上数量がドンドン落ちていくので、在庫を抱えるのを怖れて買い付けは手控えられただろう、ということだわな。
それを、「需給で価格が決まってる、需給が逼迫してるからだ、米国の在庫が減ったからだ」みたいな、超こじつけ理論を並べていた連中の脳みその中身が心配だ。
本当に供給が追いつかないくらいに需要があったのなら、どうしてOPECの減産なんてことが起こったのか?そんなに超過需要があったのであれば、減産なんてしなくても価格は上昇するはずでしょう?
需要の伸びは世界的に見れば、ここ20年間で減っていたことはないでしょう。それなのに減産するのは、多すぎたってことだろうね。供給過剰なら、価格は下落していくでしょうね、きっと。魚だって、野菜だって、そういうもんですから。
参考記事:
原油価格のこと
原油価格とバブルについて・2
原油価格とバブルについて・3
原油価格と投機筋の話
過去の変動からは、「ドル安になると原油が上がる」法則なんてものは、そもそも存在していない。都合のよい部分だけを短期的に取ってくれば、いかにも相関性のあるグラフを作り出すことは可能だろうけど(笑)。
80年代後半は概ね1バレル20ドル前後で、86年頃に10ドル近辺をつけたものの、湾岸戦争前までには大して目立った変動なんてなかった。ブッシュ(父)時代の90年に、40ドル超という急騰劇があったが、約半年で落ち着いた。その後、再びボックス圏相場みたいに落ち着いた推移を示し、96年頃に25ドルの高値圏にあったが、その後日本の経済失速、アジア通貨危機、ロシア危機、LTCM破綻などを経て、98年終わりには約11ドルくらいまで下落基調となった。90-95年の間に、世界の年間石油消費量は約1億トン増加していたが、価格上昇なんて殆どなかった。98年には95年よりも1.7億トンの消費量増だったにも関わらず、半分以下の価格まで落ちた。
ドル為替は、例えば95年の急激な円高局面があったが、特に原油価格上昇ということでもなかった。大体18~21ドル程度だった。ユーロ/ドルで見ても、92~94年頃に1.45のユーロ高局面から1.10くらいのドル高となったが、原油価格は目立った変動はなかった。その後95年の1.35近辺から2000年の0.85割れという、かなり強いドル高ユーロ安トレンドの期間を迎えたが、原油価格はボックス相場から98年の11ドルという安値~00年約38ドルの高値という上昇期間を迎えた。
97年7月のOPEC生産量は2684万B/D(日量バレル、以下この表記)で、特別多くもなく少なくもなかった。ドル相場に特に目立った影響を受けていたとは思われない。ドルが相対的に高い時に原油が安くなり、逆にドル安になれば原油高という現象なんて、存在していなかった。石油消費量は毎年増加を続けていたが、それは非OPECの生産量が伸びたものと考えられ、いくらOPECが減産決定をしたとしても、他の供給国が生産するのであれば需給がタイトになる、ということでもなかったであろう。このことは、過去の参考記事中でも指摘したことだ。
97年7月のOPEC生産量と、06年12月の減産決定時の割当量2580万B/Dとでは、アンゴラとイラクの割当量がないから単純比較は難しいけれども、大して違ってなどいない、ということだ。中国がこの10年間では大幅に原油輸入量を増やしていたはずなのに、OPECが減産しなければならない理由というのは、一体何か?中国の大量消費によって需給が逼迫しているのであれば、97年の頃の生産量とあまり違いがない、ということが起こると思うか?
06年には97年に比べると世界消費量が約5億トン増加していた。日量でなら、大体943万B/D、大雑把にいって約1000万B/Dもの消費量増加であったにも関わらず、OPECが減産するべき理由なんてものはないのだ。あるとすれば、それは「供給過剰」ということであり、供給量の伸びの方が大きかった、ということのはずだ。しかも、01年以降の原油価格は上昇してきていたのであるから、減産することは不当な売り惜しみ、価格吊り上げ行為にも等しい、ということではないか。
ドル安と原油価格上昇の似た傾向が登場するのは、01年以降の出来事であり、それは例の「9.11テロ」とアフガンでの対テロ戦争、そしてイラク戦争という流れが出来て以降のことだ。
98年のOPEC10の枠は2600万B/D以上あったのに、12ドル割れという価格下落があったので、7月には約2470万B/Dまで減産、翌99年春から1年間は約2300万B/Dまで減産となった。90年代後半の減産前までは、OPECの生産高は約3000万B/D超を記録していた期間はあった。イラクにしても、多い時には00年に280~300万B/Dの生産量があった。消費量増加分はロシアをはじめとする旧ソ連などの国々によって、ほぼカバーされていたであろうと推測されるのだ。
9.11テロ後に一時的に原油価格は上昇したものの、00年の生産量が多かったこともあり、テロ以降には非OPECを含めた減産交渉が行われた。イラクは00年に原油決済をドルからユーロに変更することを求めたり、1バレル当たり50セントのプレミアム支払を認めてもらう為に一時原油輸出停止を行った。原油価格は99年以降減産したりした効果などで上昇傾向にあり、00年9月頃にはイラク問題の余波などもある為か38ドルくらいに上昇した。イラクは更に米英に反発して、01年6月にも輸出停止を行った。
こうしたイラク問題や9.11テロがあったにも関わらず、00年秋以降の価格下落は続き、01年冬には20ドル割れの18ドル近辺となったのだ。OPECを中心に大幅な減産に踏み切り、01年7月に合意された生産枠は99年の減産時とほぼ同じ約2320万B/Dだった。9月に減産開始だったが(9.11が起こった月だ)、更に11月には非OPEC国の50万B/D減産協力(ロシア、ノルウェー等8カ国)と、OPECを含めて150万B/D減産を02年1月から行うこととしたのだ。OPECの多い時の生産力は、3100万B/D程度を00年に記録しているようなので、そこから見れば何と1000万B/D規模の減産となってしまった、というわけですね(あくまで生産枠の量なので、実際には達成されなければもっと多いかもしれない)。
原油価格上昇トレンドが作られたのは、この後からである。
ユーロ/ドルは00年のITバブル期に高値を付けてから、02年夏までは概ね0.9前後のボックスで推移していた(ドル円は、00年1月の102円くらいの円高から02年1月の130円超までドル高基調であった)。00年当時にはドルは高かった、ということだろう。それでも、00年9月には原油価格は40ドル目前まで上がっていた。ドル安が原油高を招くわけではないのだ。
そして今度は、02年以降にドル安基調が続いていった。
この大きな要因としては、FFレートが01年中に6%超から一気に1.75%まで引下げられ、02以降04年の1%まで「低金利時代」だったからではないかと思われる。低い米国金利に対して金利差がある通貨は相対的に高くなる、ということがあったのではないかと考えている。すなわち、ドルからユーロやポンドへの投資などになっていった。それとも、オーストラリアやニュージーランドのような高金利通貨であったかもしれない。
02年はとりあえず減産でしのぎ、03年には戦争でイラクからの供給が止まる、ということになるわけです。
それに、戦争時の原油高騰は前からの経験則で知っていたわけですよ。
まさか、世界経済がこんなに順調で、原油消費量も順調に伸び、かつての3倍にまで高騰した原油に文句を言う人はあまり目立っていなかったのですよ。みんなが儲かっていたから、少々の値段の上昇には気にも留めずにいたわけですよ。しかし、その原油高のダメージは確実に降りかかってきたのだ、ということです。価格が落ちているのはドルが上がったからではありませんよ。
単に、WTI に資金を大量投入してみよう、などと思える人がかつての何分の1かに減ってしまっただけですよ。投機資金が引き上げられたら、後は実勢に近づくまで修正されていくだけでしょうね。
増加した1000万B/D分の需要は、OPECがかつての生産力発揮というだけではなく、非OPECの供給能力が向上してきたので、十分カバーされたのですよ。ロシアがそのいい例でしょう。或いは、旧ソ連の国家群がそうでしょう。彼らには莫大な富がもたらされたはずです。OPECが減産している間に、ロシアは供給力を高め、売れるものはせっせと売ったわけですよ。
原油バブルも更に壊れていくでしょう。
供給量が多いから下がるのではありませんよ。だって、石油は代替性が厳しいので、消費量を直ぐには減らせませんもの。
けれど、資源高で潤った国の多くは、今後厳しい状況に置かれることになるでしょう。何の努力もなしに、偶然庭先に生えた「金のなる木」で生涯幸せに暮らしましたとさ、なんていう御伽噺がこれまでには聞いたことがないからですよ(笑)。
ま、いずれにせよ、原油価格の変動の説明としては、いい加減なものが多いでしょうね、ということ。