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阿久根市職員懲戒免職事件と竹原市長の横暴

2009年10月30日 21時41分07秒 | 法関係
選挙に勝てば、首長が独裁者みたいになれると考えている御仁がいるのかもしれないが、それは大きな間違いであろう。

実は事件についてよく知らなかったのであるが、例の市職員の給与をブログに勝手に公開したらしい市長さん、というのは見かけたことがあった。その市長が張り紙を剥がしたというだけで懲戒免職処分というのは、どう見ても権限の濫用としか思われないので、書いておくことにした。

事件の概要はこちら>阿久根市長、人件費張り紙はがした職員を懲戒免 阿久根対立 ニュース特集 九州発 YOMIURI ONLINE(読売新聞)

記事から市長側の主張を引用してみる。

・竹原市長は「行財政改革を支持する市民に対する挑戦的な行為」と説明
・処分は地方公務員法29条の「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」に該当する、としている。
・竹原市長は「人件費削減を公約としており、張り紙は公約実現の手段の一つとして行った。職員から提出された顛末(てんまつ)書にも反省は見られない」と説明。「市役所の指揮、命令機能の危機的状況を明らかにした。事件の重大性にかんがみ、処分することにした」と述べた。

言ってることが、どうもヘンなんですよね。


この問題についてはいくつかの論点があるかと思うが、勝手に挙げてみるよ。

①張り紙の正当性の根拠について

竹原市長曰く、「行財政改革支持の市民に対する挑戦的行為」「人件費削減という公約実現の手段」ということらしい。まずやるべきことは、竹原市長の言い分が本当に正当性のあるものであるか、ということを、市長側が立論するべきである。

例えば、「人件費の張り紙を市民が希望している」とか、「張り紙をすれば公約が実現できる」といった、具体的正当性を説明できなければならないはずである。だからこそ、市長の職務命令ということになるわけで。

具体例としては、
 ア)行財政改革支持の市民は張り紙を実行することを支持している
 イ)人件費金額を書いた張り紙によって人件費削減の公約が実現できる
といった事実を、竹原市長が説明できればいいのである。

個人的予想では、恐らくア)もイ)も、立証できないだろうと思いますね。
ア)についてであるが、市民にそうしたアンケートを行った実績はあるか、あるなら示せるはずだが、多分ないだろう。また、多数の市民が張り紙を希望します、といった意見を市役所に寄せていた、などの実態はあったのか?というと、多分ないだろう。あるなら、どれくらいの数の市民が「張り紙をしてくれ」と希望していたか、ということを示せばよい。
次のイ)についてであるが、竹原市長の公約が人件費削減であるとして、張り紙をするとそれが達成されるのであろうか?人件費総額を書いた紙を壁に張るだけで、アラ不思議と人件費が減るという効果を実証せねばなるまい。
参考までに、市の財政についてなのだから、市職員側の抵抗というのはあるだろうけれども、本質的には「市議会」での予算可決という基本的手続を経なければ実現できないのではないかと思料するが、いかがであろうか。市議会が可決する、という手続が本質なのであって、その達成の為にこの張り紙が一体全体どういった効果を生むというのであろうか?竹原市長ならば、説明ができることであろう。外見的に見る限りにおいては、単なる職員への嫌がらせとしか見えないが。何故張り紙が市議会での可決に繋がるのか、甚だ疑問である。


②張り紙を剥がす行為が、地方公務員法第29条2号ないし3号規定に該当するか

張り紙そのものの正当性は立証されてはないものの、とりあえず、今度は行為を見てみる。

○地方公務員法 第29条
職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一  この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合


さて、剥がすという行為自体が、職務義務違反、職務懈怠、非行行為、のいずれかの要件を構成しているかどうか、ということである。
・職務上の上司は、そうした要件を構成しているという判断を下さなかった
・賞罰委員会においても、該当しているという評価にはならなかった
これが事実である。社会通念上では、そのように判断されるであろう、ということである。判断が異なっているのは、これまでのところ竹原市長だけである。

例えば洗面台の前に「手を洗つて」という張り紙(笑、映画『県庁の星』に出てきたヤツだな)をするよう、市長が命じた場合、これを剥がせば「義務違反」「職務懈怠」「非行行為」とされる、ということになるわけである。何という恐怖の職場なのか。
竹原市長は、独自の論理を用いてでも(笑)、これら要件に該当するということを立証できねばならない。そうでなければ処分できないからである。懲戒免職事由に該当するということを立論できなければならない、ということである。

普通に見れば、懲戒免職事由に該当するとは到底考えられない。
むしろ、懲戒権濫用である。任命権者の裁量権を大きく逸脱していると言わねばなるまい。現に、賞罰委員会は市長に意見を述べているわけであって、処分程度についての社会通念上の判断を示しているわけである。これを敢えて無視してまで、竹原市長独自の判断によって懲戒免職処分としたわけであるから、訴訟で敗訴した場合には当然のことながら損害賠償請求を食らってしまう可能性はあるであろう。処分取消訴訟だけではなく、精神的苦痛を与えられたということで損害賠償請求も可能であろう。

張り紙を剥がしただけで、懲戒免職処分というのは、どう見てもおかしい。少なくとも、例えば元通りに回復しなさい、などといった他の職務命令を取りえるわけだし、市長の命令には従うようにという注意を幾度か与えるなどの改善努力をするのが懲戒権発動前に求められるだろう。それらの改善努力を行った形跡もないのに、突如として懲戒免職というのは濫用と言わざるを得ない。普通の会社であっても、懲戒解雇に至るには幾度かの注意や改善努力を行った上で、それでもなお改善が見られず当人にもその意思がないというのが明らかであれば、解雇処分も止むを得ないということになるのだから。そういう過程を一切飛ばして、たとえば一度命令に背いたという理由だけで「ハイ、お前はクビな、解雇だから、会社に来なくていいぞ」などとやったら、不当解雇認定されること請け合いである。


③職員側から見た張り紙

かねてより、職員間では張り紙について、極めて不評であり強いて言えばストレッサーとなっていたであろうことは窺われるわけである。それより前にも、ネットのブログ上で個人の給与明細公開を独断で行っているので、度重なる嫌がらせとしか思えない、という評価は十分に考えられるであろう。

張り紙の正当性が立証されない上に、効果もなく、公約実現にも役立たないものであれば、単なる「便所の張り紙」との違いはないようにも思われる。また、職場の環境として見てみると、張り紙があることにより、かえって能率低下や萎縮を招いている、という当該職員の指摘は頷けるものである。もし裁判になったりする場合には、他の職員の証言も必要になるだろうが、張り紙によって「多大なストレスを感じた」とか、「職務に当たって訪問者の目が気になり集中できなくなった」とか、「作業効率が低下した」というようなことが多数出されるなら、処分を受けた職員だけの問題ではなかった、ということが明らかにできるだろう。

そもそも守るべき法として、労働基準法がある。

○労働基準法 第42条  
労働者の安全及び衛生に関しては、労働安全衛生法 (昭和四十七年法律第五十七号)の定めるところによる。

つまり、職場環境については労働安全衛生法を見よ、ということですな。これは公務員であろうと遵守義務があるのである。更には、

○労働基準法 第112条  
この法律及びこの法律に基いて発する命令は、国、都道府県、市町村その他これに準ずべきものについても適用あるものとする。

とあるので、原則的には適用除外とはなっていないのだ。よく公務員は労働基準法等の法令適用が外れている、ということが言われたりするが、部分的に適用除外規定はあるものの、基本的には適用されているのである。

今度は労働安全衛生法を見てみる。

○労働安全衛生法 第71条の三  

厚生労働大臣は、前条の事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
2  (以下略)

このように、指針を定めているのだ。で、指針はどうなっているかというと、次の通り。

安全衛生情報センター 事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針

(以下に一部引用)

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第71条の3第1項の規定に基づき、事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針を次のとおり定めたので、同項の規定に基づき公表する。
 (中略)
第3 快適な職場環境の形成のための措置の実施に関し、考慮すべき事項
1(略)

2 労働者の意見の反映
職場環境の影響を最も受けるのは、その職場で働く労働者であることにかんがみ、快適な職場環境の形成のための措置の実施に関し、例えば安全衛生委員会を活用する等により、その職場で働く労働者の意見ができるだけ反映されるよう必要な措置を講ずること。

3 個人差への配慮
労働者が作業をするに当たっての温度、照明等の職場の環境条件についての感じ方や作業から受ける心身の負担についての感じ方等には、その労働者の年齢等による差を始めとして個人差があることから、そのような個人差を考慮して必要な措置を講ずること。

4 潤いへの配慮
職場は、仕事の場として効率性や機能性が求められることは言うまでもないが、同時に、労働者が一定の時間を過ごしてそこで働くものであることから、生活の場としての潤いを持たせ、緊張をほぐすよう配慮すること。

=====

ここにある通りである。
労働者の意見をできるだけ反映せよ、という措置は講じられたか?
心身の負担についての感じ方、その個人差などに配慮はあったのか?
生活の場としての潤いや緊張をほぐす配慮はどうだったのか?

少なくとも、竹原市長にはそうした視点は一切ないであろう。職員は軍隊式の絶対命令服従主義、とでも思っているのであろうか。旧日本軍のワケのわからん上官みたいなのを思い起こすよ。

別な見方として、当該職員の剥がした行為についてである。
一応、竹原市長が在職中には剥がしていなかった、市長選に入るので剥がした、ということらしい。で、市長が再び当選して戻ってきてみると、「誰が剥がしたんだ」という話になったわけで、市長退任後に剥がす行為は職務命令に違反するのか、ということもある。だったら、前任者のやったことや命令は永続することになってしまい、それらを止めると全て懲戒免職に該当するとでも言うのか?
職場環境改善の為に行った行為であるなら、別に問題とも思われないが。
市長の指摘する「顛末書でも反省が見られない」というのは、あくまで主観的評価であって、それをもって処分というのも問題であると思われるが。何らかの客観性が保たれているわけでもないなら、「お前は反省してないだろ」と一方的に責めることが可能になってしまうよ。どんな労働者であろうと、自分が気に入らない相手には「お前は反省してないな」ということで、いくらでも首切りできるということになってしまう。そういう恣意性みたいなものは、権限行使のできる側に制限が課せられないと裁量権濫用ということになるわけで。


結局、張り紙自体の正当性とか根拠が疑問、剥がす行為が懲戒免職事由に該当するという判断が疑問、労働安全衛生法上の職場環境の措置としても疑問、ということで、裁判所の懲戒免職停止決定は当然ではないかな。
職場復帰を意図的に妨げるというのも、不利益処分に該当するだろうと思うので、違法認定してもらえばいいのではないか。


首長は独裁者ではないぞ。
これに類する首長はいるような気もするが、限度というものがあるだろう。




JALの企業年金は減額できるか?

2009年10月30日 16時18分23秒 | 法関係
これまでにも、何度も書いてきた通りに、拙ブログの結論としては「減額できる」というものである。
日本の法学関係者?なのか、一部弁護士の解説なのか不明であるが、どうも「でまかせ」的な解説が広まっているようであるが、それは誰に聞いたのか?本当なのだろうか?
法科大学院の惨状が指摘されている昨今、法学教育が心配ですな。

あくまで法学素人の私見であるが、書いてみる。

ありがちな解説、よく流通している説がこれ>日本航空:再建問題 年金が焦点 積み立て不足3314億円、再建を左右 - 毎日jp毎日新聞

(以下に一部引用)

企業年金は賃金の後払いの性格があるため、受給権は強力に保護されている。法的整理の場合も、強制的に減額が可能なのは破産だけで、民事再生法や会社更生法では減額されない可能性が高い。また、企業年金の解散は、確定給付型に移行した日航では事実上困難。こうした事情から、政府内の一部には年金受給額を強制減額する特別立法を模索する動きもあるが、財産権の侵害になりかねないため慎重論が強い。
=====


このような解説がマスコミに大体行き渡っているわけです。他の新聞なんかでも似たようなものなんですね。これは、一体どこの誰が言ったのですか?
もし専門家がそう述べたとか、解説したということなら、出典を明らかにしてもらいたいもんですね。
日航の年金は、どうやら確定給付型企業年金ということらしいです。これについて検討してみますから。

まあ、順に見てゆくことにするよ。


(1)確定給付型企業年金は減額不可能か?

いいえ、減額可能です。
ただ、それには一定の条件が課されているのであって、その条件のクリアは「ハードルが低いものではない」というだけです。これは、労働条件変更にほぼ準ずる性格のものとして考えられているからであろうと思われます。確定給付型企業年金は一部労働対価という観念が存在している為であろうと思われます。具体的には、法の定めによる、ということになります。

確定給付企業年金法第6条で規約変更の規定があり、同施行令に次の規定があります。


確定給付企業年金法施行令(平成十三年十二月二十一日政令第四百二十四号)
○第4条

二 加入者等の確定給付企業年金の給付(以下「給付」という。)の額を減額することを内容とする確定給付企業年金に係る規約(以下「規約」という。)の変更をしようとするときは、当該規約の変更の承認の申請が、当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合において、厚生労働省令で定める手続を経て行われるものであること。


つまり、決められた手続に則り規約変更して厚生労働省に承認されると、減額変更は可能である、ということです。具体的には、同施行規則にあります。


確定給付企業年金法施行規則(平成十四年三月五日厚生労働省令第二十二号)

○第5条  
令第四条第二号 の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。ただし、加入者である受給権者(給付を受ける権利(以下「受給権」という。)を有する者をいう。以下同じ。)及び加入者であった者(以下「受給権者等」という。)の給付(加入者である受給権者にあっては、当該受給権に係る給付に限る。)の額を減額する場合にあっては、第二号及び第三号に掲げる理由とする。

一  確定給付企業年金を実施する厚生年金適用事業所(以下「実施事業所」という。)において労働協約等が変更され、その変更に基づき給付の設計の見直しを行う必要があること。

二  実施事業所の経営の状況が悪化したことにより、給付の額を減額することがやむを得ないこと。

三  給付の額を減額しなければ、掛金の額が大幅に上昇し、事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため、給付の額を減額することがやむを得ないこと。

(以下略)


日航の場合には、上記各号に適合すると考えるのは十分可能です。特に、経営破綻危機状況ですので2号規定は問題なく、給付水準を保つとすれば職員の大量リストラで掛金の大幅上昇の可能性が高いので3号も要件に該当します。なので、減額理由の合理性は十分と考えてよいと思います。

また、手続は、同6条に規定されています。


○第六条  
令第四条第二号 の厚生労働省令で定める手続は、次のとおりとする。

一  規約の変更についての次の同意を得ること。

イ 加入者(給付の額の減額に係る受給権者を除く。以下この号及び次項において同じ。)の三分の一以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意

ロ 加入者の三分の二以上の同意(ただし、加入者の三分の二以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意をもって、これに代えることができる。)

二  受給権者等の給付の額を減額する場合にあっては、次に掲げる手続を経ること。

イ 給付の額の減額について、受給権者等の三分の二以上の同意を得ること。

ロ 受給権者等のうち希望する者に対し、給付の額の減額に係る規約の変更が効力を有することとなる日を法第六十条第三項 に規定する事業年度の末日とみなし、かつ、当該規約の変更による給付の額の減額がないものとして同項 の規定に基づき算定した当該受給権者等に係る最低積立基準額を一時金として支給することその他の当該最低積立基準額が確保される措置を講じていること。


つまり、1号規定では規約変更同意の条件(加入者or労組)、2号規定では「受給権者等の3分の2」ルールと更には最低積立基準額確保の措置、といったことです。これらが満たされていれば、減額は可能、ということです。今から別な法律を立法せずとも、現行法内でも減額可能ということです。
これら施行令及び施行規則以外には、実務上のガイドライン的な行政側の疑義解釈としては、「年発第0329008号(H14.3.29)」や「年発0530001号(H15.5.30)」などがあります(所謂「通知」というやつですな)。

ですので、確定給付企業年金であっても減額は可能です。ただし、JALの場合には、最後の規約変更が08年に行われており、その前にも代行返上やJASとの合併などの変更が度重なってきているので、またか、という面は否めません。上記厚労省通知では、概ね5年以上経過してから変更しろよ、という文言があるので厚労省側が「規約変更は認められません、ガイドラインに反するから」と拒否すれば変更できなくなります。しかし、これは絶対的な基準でもなく法でもないので、実務上の留意点ということで今回の特例的取扱いということにすれば、変更は可能です。

これには、加入者及び受給権者の同意が欠かせないのは当然なのですけれどもね。これは次項以降でも触れたいと思います。


(2)会社更生法適用でも、既受給者の年金は守られるのか?

いいえ、必ずしもそうではありません。
確定給付企業年金は「給与の一部である」、とか「退職金の一部である」といった主張があり、仮にそれを認めたとしても、「全額が保護されているということにはなりません」。

毎日新聞の記事にあったような、「強力に保護されている」ということにはなりません。保護されているには違いありませんが、強力かどうかは別問題です(笑)。ましてや、破産だけが減額可能で、「会社更生法では減額されない可能性が高い」ということになるかどうかは疑問でしょう。


結論から言えば、従業員給与の場合には「開始決定前6ヶ月分」が共益債権として保護されます。それを超過する部分は優先的更生債権です。開始決定前に退職した場合の未払退職金についても、「給与6ヶ月分か退職金の3分の1」の多い方が共益債権として保護されますが、それを超える部分は同じく優先的更生債権となります。
年金のような定期金も同じく、定期金の3分の1相当額が共益債権であり、それを超える部分は優先的更生債権となります。条文で確認してみますと、次の通り。


○会社更生法 第130条  

株式会社について更生手続開始の決定があった場合において、更生手続開始前六月間の当該株式会社の使用人の給料の請求権及び更生手続開始前の原因に基づいて生じた当該株式会社の使用人の身元保証金の返還請求権は、共益債権とする。

2  前項に規定する場合において、更生計画認可の決定前に退職した当該株式会社の使用人の退職手当の請求権は、退職前六月間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の三分の一に相当する額のいずれか多い額を共益債権とする。

3  前項の退職手当の請求権で定期金債権であるものは、同項の規定にかかわらず、各期における定期金につき、その額の三分の一に相当する額を共益債権とする。

4  前二項の規定は、第百二十七条の規定により共益債権とされる退職手当の請求権については、適用しない。

5  第一項に規定する場合において、更生手続開始前の原因に基づいて生じた当該株式会社の使用人の預り金の返還請求権は、更生手続開始前六月間の給料の総額に相当する額又はその預り金の額の三分の一に相当する額のいずれか多い額を共益債権とする。


この共益債権というのは、他の更生債権や取引債権などに優先して払われますから、この部分だけは「強力に保護されている」と考えられますけれども、受給権全体の3分の1ですとか給与6か月分という額に留まるので、債権額全てが受給権者に与えられるわけではありません。

では、超過部分が他の一般更生債権と同列かというと、議論の分かれる余地はあるかもしれませんが、あくまで更生計画の範囲内ということになりますから、全額が保護されるかどうかは判りません。他の債権者や額とのバランスということになるかと思われます。先取特権として、民法上で規定があります。

○民法 第306条  
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

一  共益の費用
二  雇用関係
三  葬式の費用
四  日用品の供給

○民法 第308条  
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。


これが、他の債権に優先するよ、という主張の根拠となっているのかもしれませんが、雇用(労働)債権があるとしても、それが更生計画によって権利変更を受けることがない、ということにはならないでしょう。現に、会社更生法上では他に優先される共益債権といえども、按分になってしまう場合はあるわけで。


○会社更生法 第133条  
更生会社財産が共益債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における共益債権の弁済は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合による。ただし、共益債権について存する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権の効力を妨げない。


なお、民事再生法適用であると、一般優先債権として年金受給権が扱われる可能性はあるでしょう。会社更生法上では必ずしも確定給付企業年金の受給権が特別に強力な保護を受けているとは考えにくいでしょう。あるのは、一部だけです。

もし年金減額や規約改正に応じない、ということになれば、自動的に破綻処理へと移行させるよりなく、会社更生法なり破産法適用ということになると、現在の債権額よりも小さな債権額しか保護されない可能性があります。共益債権となるのは、一部分だけですので。他の部分は更生債権になってしまう為、受給権者たちが回収できる額ははるかに小さくなってしまう可能性があります。
(厚生年金基金であれば租税債権といった考え方がありますが、これが適格企業年金のような場合で退職金や給与の一部を構成していないようなものであると、一般更生債権と同じ扱いになってしまうことも考えられるのです。企業年金は制度間の違いなどによって、一概には言えない部分はあるようです。)


年金減額訴訟はいくつかあり、早大の減額訴訟では妥当、という判決になったようですね。

年金減額訴訟:早大元教職員ら逆転敗訴 東京高裁 - 毎日jp毎日新聞