これは以前にも紹介した厚生労働省の融資制度を利用してもらうことが望ましいが、アクセスや申請・手続き等の問題、そもそも貸金利用者が知らないという情報偏在の問題がある。なので、民間に代行させる、という視点で考えてみたい。
貸金業の上限金利問題~その3
条件として、世帯の所得水準、例えば住民税でいくら以下とか、収入総額(200~300万円程度かな)でもいいですけれども、一定基準以下の人には利用可能であれば、本人にそちらを選択することを必ず業者に確かめさせる。主に年金生活者で年金額の少ない者や低所得層などが利用可能となるのではないか。
・融資枠は10万円までと、それ以上の金利逓増のゾーン
・借入枠は総額30万円程度まで
・貸倒保険制度(住宅ローン保証協会のような)を必ず設ける
・現在制度の適用している金利よりも上乗せ数%(利用者負担)
・業者には、代行手数料として別に上乗せ金利分数%を補給
・貸倒になった人は利用を制限(保険料負担をかなり多くする、5年間の利用停止等)
・貸倒率が業者平均よりも顕著に高い場合、ペナルティ(上乗せ率を減らす、代行停止等)を業者に与える
・社会保険料、税金等の未払い金がある場合は、利用制限(生活状況によるが)
大雑把にこのような感じで、メリットとしては低所得利用者は低金利で借入可能になる、業者には代行手数料が確実に入る、貸倒がない(保険から支払われる為)ので比較的安定的な収益源にできる、制度利用可能な業者は”比較的安心”であるというシグナリングになりえる、業者ごとの貸倒率のペナルティによって安易な貸出は抑制される、若年層の一部などに見られる社会保険料を払わず遊行費に充てるなどの人は利用が制限される、行政の支出分は生活費の直接給付よりも膨大にはならずに済む、といったことでしょうか。
具体例を書いてみます(適当に考えただけですけど)。
①利用者が金融機関や貸金業者にアクセス
②利用者に公的融資制度への申請同意をもらう→申請却下の場合は業者の制度をそのまま利用(年収の早見表のようなものがあれば、大体その場で判るのでは)
③業者から市町村に申請、利用資格ありなら優先的に利用しなければならない
④10万円までは5%(2%分は公的補助、年度ごとの変動制でよい)、超過分は1万円ごとに+0.2%
⑤貸倒保険料は借入元金の0.5%を公的負担、利用者は1.5%負担
・小口の資金需要に対応できる
・業者は金利収入5%+超過部分~+4%を受け取れる
・業者は貸倒リスクがない
・公的負担は補給利子2%分+保険料負担
・利子補給分はもっと低所得層では増やしてもいいかも(例えば4%とか)
・利用可能の決定は必ず本人にも通知(業者が勝手に断るのを防ぐ)
10万円融資を500万人に実行した場合を考えてみます。
債務総額 5000億円
公的負担:利子分100億円(年間)、保険料分25億円
業者受取金利:250億円~(年間)
利用者:借入金利が5%~9%程度で済む
保険料75億円(1人当たり1500円)
返済不能に陥っても負債免除
これを超える資金需要がある時は、業者の本来の制度を利用する。利用者のモラルハザードについては、対策は判らない。他のペナルティを用意しないと、ちょっと困るかも。それと、既に多額の負債を抱えてしまっている人にとっては、解決にはならない。新たに多重債務に陥るのは緩和されるかもしれないが。保険料率は貸倒が2%にしか対応していないので、貸倒が増加する恐れがあるのであれば、保険料率は3%とかの水準が必要。その場合は利用者の保険料負担を増やす必要があるが、10万円に対して数千円の範囲内ではある(貸し出す時に自動引去でいいと思う)。
現在の自己破産制度ですが、これよりもアクセスの容易な破綻処理制度が望ましい。現在の制度では初期費用がかかりすぎでしょう。処理に当たって、債務の大幅減免を容易に決着させ、債務者は返済可能な範囲で長期間に渡るとしてもある程度の返還を義務付けることが必要。他のペナルティも必要かもしれないが、どのような制度が望ましいかは不明。
例えば月収20万円で、負債総額500万円(平均借入金利25%)というような場合、返済はほぼ絶望的です。なので、債権を一定比率で買い取り債権者を自動的に整理する、クレジットカウンセリングを必ず受けさせる、返済可能範囲で仮に平均月収の6%程度を返済に充てさせ、これを10年間義務付けるとともに返済が行われている限りにおいては自己破産のような厳しいペナルティとはしないこととする(もしこの義務を途中で果たせなくなった場合には、自己破産と同様の厳しいペナルティに自動的に移行させる)。この返済義務を果たしている限りにおいては、クレジットカード利用やローンも利用可能とするが、その場合には利用を事前に破綻処理機関に報告し、機関が利用を認めない場合には不可とする、というようなハードルを設ける方がいいのではないか。
例に挙げた負債総額500万円では、ずっと同じ月給20万円であれば月に12000円、年間144000円の返還額ですので、10年間払い続ければ144万円回収できます。なので、債権買取価格としては、500万円が100万円程度に減るが(いい加減な例ですけれど)、完全焦げ付きよりはマシだと債権者も考えるハズです(自己破産されるよりはいい。同意できない債権者は別な法的手段ということになるかと思います)。なので、5分の1程度の価格で売ることに同意を得るのは可能だと思います。消費者センターのような機関(半公的でいいですよね)に債務者か債権者の申立があれば、手続き開始可能として、利用料などはないこととします(困窮者たちは処理手数料すら用意できないことが多いので)。債権者は完全貸倒になる前に「処理可能になる」(回収コストは減らせるかも)、債務者の申立で容易に実行可能なので悪質な貸し手は排除されやすい、債務者の不利益は自己破産に比べ軽減されている、10年間の返済義務と新たな借入に関しては処理機関の厳しいチェックを受けることで債務者の安易な利用をある程度制限する、ということになるかと思います。
買取すら不適切であるような債務に関しては、自己破産手続きとするしかないでしょう。あと、個人民事再生ですけれども、これも費用がかなりかかるので、利用しにくい、ということはあると思います。センター利用者のうち、民事再生の方が望ましい場合には、そちらに回せばいいと思います。
あとは、この制度維持の為のコストがどの程度かかってしまうかですが、よく判りません。できるだけ既存の組織・機関等を利用して、窓口はどこでもいいので(システムを理解している受付係が誰かいればいい)、厳密な手続き・審査関係とかは一箇所あれば済むのでは。ネット経由で資料等を本部みたいな所に送り、指示された通りに出先で行える人がいれば済む。主に、これまでの窓口として存在する市町村社会福祉協議会とか、「法テラス」?とか、そういったところに相談することとすればいいのではないかと。
追加です。
最大の問題は、現在既に返済負担能力を超えているような債務を多額に抱える債務者です。前に書いたように、多重債務者というのは、返済管理が非常に困難になっており、これをまず1つか2つ程度にまとめないと「コンフュ状態」からは抜け出せません。推定230万人の多重債務者についての対処を考えねばなりません。
上限金利引下げで予想されるのは、「貸出が止まる」ということらしいです。仮にこの「ハードランディング」という道を選択したとして、「貸し剥がし」「貸し渋り」が起こるとどうなるかと言えば、債務者は「お手上げ」状態になり自然に破綻処理へと向かうことができる、とも言えます。債務者は払えないのでバンザイしました、ということで法の下に出られますから、過重な債務や取立てなどから開放されるでしょう。債権者にとっては、ほぼ全損ですね。問題になるのは、法的手続きの処理が大混雑になり裁判所とかが大変になるかもね、ということでしょうか。貸し手が追加資金を投入するのを止めたり貸出を一気に回収しようとすれば、現状の「綱渡り的返済バランス」を大きく崩す結果を招来し、貸倒率が急上昇するでしょう。どの道回収見込みはないでしょう。
上述したように、破綻処理制度を変えるという強力な「事前情報」というか条件を与えることによっても、業者の行動は変わってくると思います。もしも、新制度設立後に過重債務を抱えたままの債務者がソッコウで申立を行い、債権が買取処理か法的処理に移行してしまえば、損失は免れません。他の業者よりもいち早く回収するか、それが難しければ別な方法を考えねばなりません。対応としては、金利を減免しても返済を継続させるくらいでしょうか。
そこで、多重債務者のうち、既に借入元金を超過する返済が済んでいる債務者(例えば50万円借りて、30万円返済した時点でまた20万円借りて、・・・というのを繰り返してきた人で、元金分以上払っている人)の債権に限って、債権者の誰かか、別の買いたい業者に売却することを促すこととします。
例で考えてみます。
債務は、A社:80万円、B社:70万円、C社:50万円、D社:50万円、E社:40万円、F社:30万円、の合計320万円とします。
新しい破綻処理制度の利用を恐れて、6社の借入をA社にまとめることとします。A社は他の5社から自由に買うものとします。恐らく、予想される破綻処理価格よりも、少し高い価格になるのではないかと思えます。で、A社は320万円分の債権を有することになりますが、5社240万円分の債権を50万円(元の20%ちょっとです)で購入できたとしましょう。すると、A社は単独で実質130万円の債権を保有し、新たに債務者との契約を締結するものとします。この時、破綻処理制度に飛び込まれない程度の契約にしておかないと、本当に処理されてしまいますので、例えば元金部分150万円で金利15%といった設定にするということになります。以前に80万円を25%で貸していれば金利収入は20万円でしたが、新たな契約締結後では22.5万円の利息収入(大雑把に言って)となり、しかも破綻処理制度に飛び込まれるのを防ぐことができます。放置した場合よりもA社の損失ははるかに少なくなります。
今までよりも債務者の返済負担は大幅に改善しているので、破綻リスクは軽減されており、実質的には130万円分の債権で150万円分の貸付ができ、なおかつ既に20万円分は回収しているのと同じですので、破綻処理制度に飛び込まれて20%程度の16万円でしか買い取られないかもしれないことを考えるとかなり得していると言えます。しかし全額回収までには、A社だけがリスクを負うことになるので、その見返りとも言えます。リスクを取れない業者ばかりである時は、座して「破綻処理制度」に飛び込まれるのを待つことになり、大きな損失は確実でしょう。
このようにして、金利上限引下げ期限よりも以前に「新たな破綻処理制度」を確立することにしてしまえば、業者の行動に変化を与えることができうるかもしれません。債務者は320万円の債務から大幅に減額されて返済負担は改善されます。金利負担も随分違いますよね。それと、6社から1社になっていることで返済管理は容易になり、「コンフュ状態」を抜け出せるでしょう。今までに債務額を膨らませてきた業者たちで損失をある程度分散して引き受けてもらうか、確実な「破綻処理制度」での処理で損失を確定させるかは、業者の選択次第ですね。
買い取れるだけの資金力、リスクテイク能力、新規契約後の返済見通しという審査能力など、総合力のある業者に有利になるでしょう。不良顧客比率の高い業者ほど、こうした債権売却対象となるような債務者が多いはずで、自動的に競争力を失い排除されていくことになるでしょう。勿論売らずに頑張り続けてもいいと思いますが、他の業者たちからは非難を浴びるかもしれないですね。「破綻処理制度」に必ず飛び込まれてしまうので。業者全員が大損するか、多少なりとも損失を小さくする努力をしてみるかは自由な判断ですから。
でも、本当の浪費家タイプとかギャンブルタイプで借りまくってる人にはこうした処理は適用できず、新規契約後の返済見込みのある人でなければ無理ですね。それと、既に業者たちの元本部分が回収されている(例えば50万円貸して支払が50万円を超えている)なら、業者の損失が膨大にはならないでしょう。債務額が膨らんでから貸し込んでいる業者にとっては不利でしょうね。
もしもこれが可能であれば、金利引下げの実施以前に過重な債務を有する多重債務者の処理が進められ、市場の正常化が促進されるのではないかと思います。