2014年から月2回程のサイクルで、日刊ゲンダイに「金子勝の『天下の逆襲』」というタイトルでコラム記事を書いている金子勝・立教大学特任教授。
歯に衣着せぬ舌鋒鋭く「アベノミクス」を徹底的にこきおろし、返す刀で安倍政権の「政治・経済」のいい加減さをぶった切っている。
おかげでテレビメディアからはお声がかからず、レギュラーを降ろされたTBS「サンデーモーニング」などは、毎週それなりのコメンテーターが出演するが、全体的に「微温湯」的な内容になっていることは否めない。
その金子勝の昨日の日刊ゲンダイの記事から紹介する。
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公開日:2019/02/13 日刊ゲンダイ
安倍1強と言われて久しい。多くの人々は60年間にわたる自民党のブランディングに幻想を抱いているからだ。だが、実は、戦後の自民党支配というレジーム自体は終わりに向かっている。
戦後の自民党政治は、米国による戦争責任の免罪によって生まれ、米国の支援と市場開放によって高度成長を実現してきた。
しかし、1980年代ごろから日米貿易摩擦が始まり、ひたすら米国への譲歩を強いられるようになった。86年、91年の日米半導体協定以降、日本は自動車以外の先端産業を譲り渡してきた。いまや“A級戦犯”の岸信介の孫が総理大臣になり、公然と歴史修正主義を掲げて自己正当化を図る。そして、歴史的事実の改ざんにとどまらず、公文書や政府統計まで改ざんする。まるで戦前に回帰するように、次々と悪法を強行採決して国会を壊し、官邸圧力でメディアを萎縮させ、言論を壊している。
だが、戦争責任を放棄しようとする安倍政治は無責任体制を産み落とす。東電や東芝の経営者も口利きワイロ疑惑の甘利明元経済再生担当相も無罪放免。モリカケ疑惑では籠池泰典氏だけが監獄行き。これでは産業も社会も変われない。
一方、米国はトランプ大統領になって、自由貿易主義をかなぐり捨て、米国第一で保護主義を押し出すようになった。日本は事実上の日米FTA交渉に追い込まれ、残った自動車産業もターゲットにされている。米国にひたすら尽くし、戦争責任を免罪する戦後自民党の路線の延長線上にあるのは、もはや産業と社会の荒廃しかない。
こんなやり方は続かない。2018年下期は不動産取引額が前年同期比34%減で、外国人投資家の売り抜けが始まった。この間の景気は中国市場への設備・備品輸出でもっていたが、米中貿易戦争で急速に減速し、貿易赤字になった。
異次元緩和が生み出したマイナス金利で銀行、とりわけ地銀や信金は青息吐息。いくら統計を改ざんしても、産業衰退を覆い隠すことができなくなっている。
それでも安倍政権が続くのはなぜなのか。代わる受け皿がないからだ。野党が戦後自民党支配のレジームに代わるビジョンを示すことが急務になっている。
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昨夜、都内某所で「消費税増税は、何をもたらすのか」と題した学習会があり、講師に金子勝が登場した。
冒頭、一気にまくし立てた内容の要旨が上記の記事であったのだが、講演ではさらに詳細にかつ具体的な人名を出しながら、安倍政権を痛烈に批判していた。
約1時間半程、持論を自由奔放に話していたが、最後になって講演タイトルの「消費税増税は、何をもたらすのか」に気づき、こう言っていた。
「消費税増税はその使い道が福祉に限定すれば反対する理由はない」
「軽減税率の導入やポイント還元などは愚策で、税収5兆円の大部分を経済対策委使うということも全く意味がない」
しかし、講演のなかでは、「野党は安倍政権を批判するだけでなく、これからの日本の立て直しをどうするかというビジョンが必要だ」として、「ポスト平成時代のオルタナティブ戦略」を提示していたので、その一部を以下に示しておく。
1.社会基盤として透明で公正なルールを確立する
2.教育機会を平等に保証する
3.産業政策とオープンプラットフォームを作る
4.時間をかけて財政金融機能を回復する
以上は自明な項目であり特に強調することなくサラッと説明しただけであったが、本丸は以下にあった。
5.電略会社を解体せよ
①ゾンビ企業と化した東京電力を民事再生にかける。株主責任を問い、原発融資分に関して銀行の貸し手責任を問う。東京電力と子会社の資産および新会社の株式売却益を賠償費用に充当する。なおも残る賠償費用について国が責任を負う。
②核燃料サイクル政策を止め、六ヶ所村の再処理施設を廃炉にする。電力料金にかかる再処理料金について、廃炉費用を除いて残る積立金と毎年かかる再処理料金について福島の事故処理費用に充当する。
③エネルギー予算の組み替えを行い、事故処理・賠償費用を捻出する。
④原発ゼロ基本法を通過させたうえで東京電力以外の電力会社については、原発および関連施設、廃炉引当金不足額に相当する額の新株を発行させ、国が引き受ける。と同時に原発を切り離し、日本原子力発電に集め、廃炉のための工程表を作成する。
⑤国は株主として、すべての大手電力会社と発送電会社に所有権分離する。しかる後に国は電力会社の株を時間をかけて売却し、資金の回収に努める。
⑥2015年4月に設立された電力広域的運営機関、2015年9月に設立した電力取引監視等委員会(2016年4月に電力・ガス取引等委員会に改称)に関して、その独立性を高めるために、人事について国会承認を必要とする独立機関とする。と同時に、徹底した情報公開を義務づける。
⑦送電会社には。、地域に設立された再生可能エネルギーの中小電力会社の優先接続を義務づける。
これは、2011年3月の原発震災以降、多くの識者らから提案されていた内容でもある。
到底、現在の安倍政権では実現不可能なことである。
しかし、現政権にできないことを明るい展望として国民に示すことは、今後の政権を担う強い意思表明になるはずである。
政権を批判するだけでは国民の支持を得ることはできない。
現政権では実現しないことを、「野党が戦後自民党支配のレジームに代わるビジョンを示すこと」が将来の日本に希望をもたらすことであり、安倍政権の崩壊を待ってからでは間に合わないということであろう、とオジサンは思う。