外国文学の次は日本文学。今回は現代小説の前編です。
外国文学の方と比べると、はるかに(よく言えば)ユニークで、いきなり「何だ、これは?」の連続かも・・・。(笑)
26 | 高橋和巳 | 邪宗門 | 朝日文芸文庫 | 26・27=崇高な理念をもって圧倒的な権力と闘い、苦悩と挫折の辛酸を嘗め・・・ということとはおよそ無縁にみえる現代の青少年はこれらの壮大な作品をどう読むだろう? 26は戦前の国家と対決する教団(モデルは大本教)を描く。例の<オウム事件>で再注目。27はベトナム戦争頃の日本の世相をよく描写している。 28~31=大河小説は長期休暇の読書に最適。28・29は、日中戦争の時代(昭和前期)を全体的に把握するための必読書。自由が封じられた困難な時代状況の中で、誠実に生きることがいかに可能だったか? 29は映画も観てほしい。30は沼津の漁村に生まれた著者の自伝的小説。31も著者の祖父だった病院長を中心とした一族を昭和前期の東京を舞台に描く。 32~39=歴史の勉強になるが、何よりも泣ける作品ばかり。32はキリシタンへの厳しい弾圧に対しなぜ神は<沈黙>したままなのかを問う。33は応仁の乱当時の戦乱と飢餓の極限状況に生きる男。ジョージ秋山の漫画「アシュラ」のタネ本。34はチンギスハンの一生。とにかくスケールが大きい。井上靖にはロシアへの漂流民大黒屋光太夫を描いた「おろしや国酔夢譚」(文春)、留学僧が鑑真を日本に招く物語「天平の甍」(新潮)等々、感動的な歴史小説が多い。35~39は史実としての重みが感動をよぶ。35と36を読んでプロレタリア文学=<薄っぺらなプロパガンダ>という先入観が消えた。35は北海道開拓にあたった伊達支藩主従の辛苦。37も江戸時代の農民のエネルギーにうたれる。38は脱獄した高野長英の必死の逃亡劇。39は江戸初期薩摩藩が請け負った長良川の治水工事をめぐる物語。 40・41=司馬文学はトッテモ勉強になるが、40が一番血沸き肉躍る! やっぱり僕は、信長はすごいと思うヨ。41も全8巻あっという間に読める。それにしても、生き残ったのは悪い奴ばかりだ。 42・43=昔と今の健康的青春スポーツ小説。42が柔道、43がテニスという点はやはり時代の違いか? 舞台は42が金沢の四高、43は大阪の新設私大で、どちらも作者の出身校。42はとくに自伝的。「しろばんば」「夏草冬涛」(新潮)に続く作品。 44=戦後すぐの青春は、こんなにも清潔でプラトニックなものだた。いま若い世代に問う-懐かしい父の青春、父の恋。以上宣伝文そのまま。(主人公の少年は都立西高の生徒。) 45=これも学園恋愛モノだが、主人公は女子学生。1960年代である。<プラトニック>とはいえなくとも、まだ恋愛にみずみずしさ、純粋さ、真摯な悩み等々はたしかにあった。同じ作者の「光抱く友よ」(新潮)は女子高生が主人公。読んでみて。 46=冬の北海道である。美貌の天才少女画家、そして夭折(服毒自殺)である。オジサンはこのテのものには弱いのである。 47・48=香り高い文学とはこのようなものをいうんだろうな。とくに47に感動の涙を流した女性は多い。(3人はいたなあ。キョービの若い女の子は知らん。) 福永作品では「草の花」(新潮)もどうぞ。 49=これを書き終えて三島は例の事件を起こし自らの生にピリオドを打った。ロマネスクな輪廻転生の物語。代表作の「金閣寺」等と比べると失敗作なのだそうだが、とにかくおもしろいからいいのだ。 50=斬新な表現に目を見張る現代小説。意表を突く語り手が次々と現われ、物語を紡ぎだす。1ページでも立ち読みして。 |
× 27 | 小田実 | 現代史 | 角川文庫 | |
× 28 | 野上弥生子 | 迷路 | 岩波文庫 | |
☆ 29 | 五味川純平 | 戦争と人間 | 光文社文庫 | |
× 30 | 芹沢光治朗 | 人間の運命 | 新潮文庫 | |
31 | 加賀乙彦 | 永遠の都 | 新潮文庫 | |
☆ 32 | 遠藤周作 | 沈黙 | 新潮文庫 | |
☆× 33 | 真継伸彦 | 鮫 | 河出文庫 | |
☆ 34 | 井上靖 | 蒼き狼 | 新潮文庫 | |
△ 35 | 本庄陸男 | 石狩川 | 新日本文庫 | |
△ 36 | 西野辰吉 | 秩父困民党 | 講談社文庫 | |
37 | 藤沢周平 | 義民が駆ける | 中公文庫 | |
☆ 38 | 吉村昭 | 長英逃亡 | 新潮文庫 | |
39 | 杉本苑子 | 孤愁の岸 | 講談社文庫 | |
☆ 40 | 司馬遼太郎 | 国盗り物語 | 新潮文庫 | |
☆ 41 | 司馬遼太郎 | 竜馬がゆく | 文春文庫 | |
☆ 42 | 井上靖 | 北の海 | 新潮文庫 | |
☆ 43 | 宮本輝 | 青が散る | 文春文庫 | |
44 | 黒井千次 | 春の道標 | 新潮文庫 | |
45 | 高樹のぶ子 | その細き道 | 文春文庫 | |
46 | 渡辺淳一 | 阿寒に果つ | 角川文庫 | |
△ 47 | 福永武彦 | 忘却の河 | 岩波文庫 | |
× 48 | 辻邦生 | 廻廊にて | 新潮文庫 | |
49 | 三島由紀夫 | 豊饒の海 | 新潮文庫 | |
50 | 丸山健二 | 千日の瑠璃 | 文春文庫 |
「文学作品そのもの」としてではなく、作品を通じて歴史を学ぶ、というフンイキが強いですが、職業柄と言えばまさにその通り。国語の先生の推薦本だと全然違ってくるでしょう。そういうわけで歴史大河小説が多く、それも権力に抗した人物を描いた作品が多いのは「いかにも」団塊の世代か。高橋和巳・小田実を最初に(臆面もなく)並べたところはまさに「正体顕現」と見られるも・・・。
しかし、こうしたスケールの大きな小説と比べると、90年代以降の日本の小説(純文学)はホントにせせこましい世界に閉じこもった作品ばかりが目につきます。そうじゃない芥川賞作家で思いつくのは、阿部和重と奥泉光と、・・・あ、辻原登は読んでなかったな。
歴史がらみに加えて、もう1つ多いのが「青春」モノですね。これまた職業柄というか、そもそも「高校生のための」リストなので当然すぎるほど当然。
しかし、なんのかんの申しましても、前の記事のコメントでも書きましたが、まず「読んでおもしろい本」!ということが選定の第一条件ではあります。