今回は詩集・歌集と、日記・自伝あるいは自伝的小説です。
純文学作品と比べると、自伝関係では迷うことなく「これはぜひ読んでみて!」と言える本が並んでいて、ここにあげた以外にもたくさんあります。
☆印はとくに推奨。×印は品切れまたは絶版中の本(多すぎる!) △は絶版・品切れでも単行本なら出ている本。
76 | 三好達治 | 三好達治詩集 | 新潮文庫 | 76=この詩人の戦争協力はさておき、日本的叙情溢れる作品は音感的にも、美しく懐かしく心に沁みる。萩原葉子「天上の花」(新潮)は萩原朔太郎の妹と達治とのすさまじい愛憎を記す。 77=現代の代表詩人の選集。できれば単行本(327・328)で。 78~81=国語教科書的短歌から離れて。78は、短歌のいろんな<ワク>をとっぱらったベストセラー。短歌が年配者だけのものではないという証拠は78以前にも79がある。「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり」-コチラには青春の衒(てら)いがある。80は、貧苦のため高卒で家業の豆腐屋をついだ青年の、生活の闘いと鬱屈した心情を、短歌を軸に日記風に綴ったもの。81も同じく、あの60年代後半。当時特有の感性と<問題意識>をなお持続するこの歌集を、今の若い世代はどう受けとめるのだろう? 82=暗い時代、苦しい生活の中にあって、閉ざされた情熱は読む身につらい。日記や詩、評論も読んでほしい。 83=明治初期、群馬のフランス式製糸工場に率先して働きに出た氏族の少女の日記。溌剌とした気持ちが時代を越えて伝わってくる。 84~104=自伝もしくは自伝的小説。どれも感動的な本だ。みんな夢を抱き、強い意志を持ち、困難にめげず努力を積んだ人ばかり。読んでる自分が恥ずかしくなる。そしてどれも歴史の勉強にもなる。84~86は人気作家それぞれの青春。87・88は戦中の朝鮮で過ごした学生時代を内省的に(87)、あるいは感傷的に(88)描く。89は戦時中の東京帝大生の日々。自由が窒息させられていく恐ろしさ。著者は今も歳を感じさせないリベラリスト。90は著名な山岳写真家の修行時代。91は旧石器文化研究の端緒をつくった民間考古学者。305「かもしかみち」同様信州白樺教育の一端が垣間見られる。92・93は在日朝鮮人作家。(高さんの息子は「ぼくは12歳」(ちくま)という衝撃的な詩集を残して自殺した岡真史君。) 93はこの題が決して大げさではないほどの強烈な人生に圧倒される。94は戦前の封建的な地方の風土と不遇な境遇にめげず向学心を燃やす少女。95はプロ棋士(将棋)。96は卓球世界チャンピオン。昔の選手は逆境の中よく練習した。97は明治人の生活と心情を知る優れた史料。98の著者は5.15事件で暗殺された犬養毅首相の孫。99は横浜生まれで類似から戦後まで長く活動した社会主義者の自伝。<主義者>以前にヒューマニストなのだ。現在の<平和>に安住してる人たち、社会主義への先入観を捨てて読むべし。100・101は作家の自伝的小説。100は大正末の小樽を舞台に、恋愛や文学を通して文学青年の夢、悩み、野心を描く。純粋で悩み多き、これぞ典型的青春像だったんだなあ、昔は。101は明治青年の意気と情熱に富んだ健全な上昇志向。(いつ頃から<出世するのは悪いヤツ>という見方が定着したのだろう?) 読む方も熱くなる。それにしても、<小さな幸せ>という大敵に八方取り囲まれた現代青年にとって、語るに足る人生を生きることはもう不可能に近いのだろうか? でも102は相当ドラマチック。現在の人気俳優がボクサーとしてまず有名になる以前のツッパリ少年の頃からを語る。103は対極的なフツーの少年だった推理作家の中高生時代。しかし舞台は102と同じ大阪。それもとりわけ濃ユイところ。 104=幸福にはほど遠かった作家の少年時代。ともに生きた32冊の名作を痛切な思い出とともに案内する。 |
77 | 谷川俊太郎 | これが私の優しさです (谷川俊太郎詩集) | 集英社文庫 | |
78 | 俵満智 | サラダ記念日 | 河出文庫 | |
79 | 寺山修司 | 寺山修司青春歌集 | 角川文庫 | |
80 | 松下竜一 | 豆腐屋の四季 | 講談社文庫 | |
81 | 道浦母都子 | 無援の抒情 | 岩波同時代ライブラリー | |
△ 82 | 石川啄木 | 啄木日記 | 角川文庫 | |
△ 83 | 和田英 | 富岡日記 | 中公文庫 | |
84 | 北杜夫 | どくとるマンボウ青春記 | 中公文庫 | |
85 | 井上ひさし | モッキンポット師の後始末 | 講談社文庫 | |
86 | 松本清張 | 半生の記 | 新潮文庫 | |
87 | 日野啓三 | 台風の眼 | 新潮文庫 | |
88 | 富島健夫 | 生命の山河 | 集英社文庫 | |
89 | 加藤周一 | 羊の歌 | 岩波新書 | |
☆× 90 | 白簱史朗 | 山と写真 わが青春 | 岩波ジュニア新書 | |
☆ 91 | 相沢忠洋 | 「岩宿」の発見 | 講談社文庫 | |
☆ 92 | 高史明 | 生きることの意味 | ちくま文庫 | |
93 | 梁石日 | 修羅を生きる | 講談社現代新書 | |
☆ 94 | 丸岡秀子 | ひとすじの道 | 偕成社文庫 | |
△ 95 | 大内延介 | 決断するとき | ちくま文庫 | |
× 96 | 荻村伊智朗 | 卓球・勉強・卓球 | 岩波ジュニア新書 | |
97 | 石光真清 | 城下の人 | 中公文庫 | |
98 | 犬養道子 | 花々と星々と | 中公文庫 | |
99 | 荒畑寒村 | 寒村自伝 | 岩波文庫 | |
△ 100 | 伊藤整 | 若い詩人の肖像 | 新潮文庫 | |
☆× 101 | 徳富蘆花 | 思出の記 | 岩波文庫 | |
102 | 赤井英和 | 赤井英和のごんたくれ | 青春文庫 | |
103 | 東野圭吾 | あの頃ぼくらはアホでした | 集英社文庫 | |
104 | 宮本輝 | 本をつんだ小舟 | 文春文庫 |
あら!? 矢沢永吉「成りあがり」(角川文庫)は入れたつもりだったが、何度目かと改定の時に落としちゃったかな? ※この本の取材構成は糸井重里とのこと。
自伝に関連して。
以前にもどこかで書きましたが、戦後生まれが大半となった今、身の上話がそのままドラマチック!という人はずいぶん少なくなったのでは、と思います。学校を出て就職して、約40年サラリーマン暮らしで、定年を迎えて、では身世打鈴(シンセタリョン)になりようもありません。もちろん私ヌルボもその1人。それはたしかに相対的に「幸せな人生」とも言えるのですが・・・。
さて、今回のリストを自分自身見直してみて、これは絶対再読しなければと思ったのが富島健夫「生命の山河」。富島健夫(1931~98)の父母は1911年東洋拓殖の小作農に応募して朝鮮に渡ったとのことで、彼が生まれたのも京畿道華城市(現在)。この「生命の山河」も「朝鮮の自然の中で恋やケンカに明けくれた少年時代を詩情豊かに描く自伝的青春小説」なのですが、そのディテールはほとんど記憶に残ってなくて・・・。五木寛之の1つ年上で、引揚げてきた後早稲田大学文学部に進んだのも同じですが、38度線の北か南かの違いは大きかったかも。
なお、日野啓三(1929~2002)は彼等より少し年上。生まれは東京で、小中学校時代を朝鮮で過ごしました。
しかし、「啄木」の「啄」は中に点のある字が正字のはずですが、今の教科書等ではどうなってるのかな? パソコン入力ではどうしようもない。→コチラにいろいろ書かれていましたが・・・。そういえば、戸塚・平塚の塚も以前は点がついてましたね。多くの人が間違って使っていれば、それがいつか正しいものになるということで、ムキになって反論したり嘆いたりはしませんけど。
森鷗外は朝日新聞等の鴎外でなく、ちゃんと鷗外と変換されます。