ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国の<聖地>上海 ②] 現行憲法前文にある「大韓民国臨時政府の法統」の意味を考える

2014-02-05 23:19:29 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 9月に<上海という韓国の<聖地>①>を書いた後4ヵ月以上ほったらかしになっていましたが、つい3日前に<朝鮮半島の南北統一問題と、安重根記念館の関係など>で上海臨時政府のことにふれたことでもあり、この際ちゃんと続きを書くことにしました。

 大韓民国臨時政府(上海臨時政府)は1919年三一独立運動勃発の翌4月、李承晩・呂運亨・金九などによって上海で設立された臨時政府です。
 たとい弱体なもので国際的な支持や承認を得たものではなくても、日本の統治期に存在したこの上海臨時政府こそが現在の大韓民国という国の淵源である、というのが今日の韓国の、公的な歴史的アイデンティティである、ということです。
 ※それをファンタジーと言うなら言え。<建国神話>はおしなべてファンタジーではないですか!・・・と私ヌルボ、韓国になりかわって居直り正論を唱えるにやぶさかではないのですが、どうもファンタジーについての認識が日韓間でかなり隔たりがあるようで・・・。

 さて、①の記事でも記したように、「大韓民国臨時政府の法統を継承する」とされたのは大韓民国成立時の1948年ではなく、1987年の第九次憲法改正によって憲法前文に記されたのが最初です。
 また大統領が上海臨時政府旧址という「聖地巡礼」を始めたのも1992年の盧泰愚大統領からです。
 では、なぜ「その時期」だったのか、ということを考えてみることにします。

 上に第九次憲法改正と書きましたが、憲法の基本理念が大きく変わったのは5回です。
 以前全斗煥政権時代を描いた「第5共和国」というドラマがありました。で、現在はその後だから第6共和国です。
 つまり、最初の李承晩政権を含めると6つの性格を異にした政権が推移してきて、それぞれの政権の理念が憲法に反映されているのです。そして、そのエッセンスが盛り込まれているのが憲法前文です。

 主な項目ごとに、6つの憲法前文を対比したものが次の表です。
  
制憲憲法
(1948.7)
3次改憲
(1960.6)
5次改憲
(1962.12)
7次改憲
(1972.12)
8次改憲
(1980.10)
9次改憲
(1987.12)
大韓民国の成立



李承晩(大統領)


第一共和国
4・19革命で李承晩が亡命した後


許政(大統領代行)


第二共和国
1961年の5・16軍事クーデター後


朴正煕(国家再建最高会議議長)

第三共和国
1972年10月の「十月維新」後


朴正煕(大統領)


第四共和国
1980年の5・17クーデターで実権を握った全斗煥の軍政

全斗煥(大統領)


第五共和国
民主化運動の高まりの中で制定された憲法

全斗煥(大統領)
これにより直接選挙で盧泰愚大統領選出。
第六共和国へ
三一運動により大韓民国を建立して世界に宣布した偉大な独立精神を継承し・・・三一運動により大韓民国を建立して世界に宣布した偉大な独立精神を継承し・・・三一運動の崇高な独立精神を継承し・・・三一運動の崇高な独立精神を継承し・・・三一運動の崇高な独立精神を継承し・・・3•1運動により建立された大韓民国臨時政府の法統と不義に抗挙した4.19民主理念を継承し・・・
4.19義挙と5.16革命の理念を継承し・・・4.19義挙と5.16革命の理念を継承し・・・4.19義挙と5.16革命の理念を継承し・・・
平和的統一の歴史的使命平和的統一と民族中興の歴史的使命祖国の民主改革と平和的統一の使命
正義・人道と同胞愛で民族の団結を強固にし・・・正義・人道と同胞愛で民族の団結を強固にし・・・
すべての社会的弊習と不義を打破し・・・すべての社会的弊習と不義を打破し・・・
「檀紀4281年」7月12日この憲法を制定同左「1948年」7月12日に制定
(以後も同じ)
他のすべてにある「民族の団結を強固にして」という文言がない。

 こうしてみると、大きな民衆闘争、あるいはクーデターというドラマチックな出来事による政権交代が何度もあったがゆえの憲法改正であることがよくわかります。
 (日本国憲法がこれまで1度も改定されずにきたことは、世界的にみて「ふつうではない」と否定的に語る人たちがいますが、それだけ国情が安定していたということです。)

 上述したように、韓国の場合は1948年の建国から現在の第6共和国まで、指導者とその施政理念等が大きく違っていて、それがそのまま憲法に反映されていることが前文の文言だけでもうかがわれます。
 朴正煕~全斗煥時代の「5.16革命の理念を継承し・・・」はお手盛りそのものですね。
 第四共和国以降「平和的統一」という言葉が入っているのも一考に値するのでは・・・。
 最初の憲法から「三一運動」という言葉はありますが、続く文章の差異には意味がありそうです。

 それらはとりあえずおくとして、上記のように9次改憲で「3・1運動により建立された大韓民国臨時政府の法統と・・・」という新しい文言が入りました。

 この時の改憲は、もちろん軍事政権に終止符を打った民主化運動の1つの帰結として行われたものです。
 したがって、その80年代の民主化運動を担った人たちの見方考え方が反映しています。

 建国以来の国としての存立理念は、思い切って単純化して書くと、次のようなものでした。

・北朝鮮及び社会主義は不倶戴天の敵である。(朝鮮戦争こそ、その実例。)  
・北朝鮮と対峙するためにアメリカと密接な関係を維持することは不可欠である。(だからベトナム戦争にも参戦した。)
・経済発展のために、アメリカはもちろん、日本の支援も当然受け入れる。
・日本の統治期は当然否定的に教育するが、そのことが両国間のバトルとなるような場面は、1980年代の「教科書問題」以前はなかった。
・70年代までは、「韓民族」であるという民族としてのアイデンティティより、「韓国の国民」という国民としてのアイデンティティの方が強かった。

 ※朝鮮戦争を背景にした映画「戦火の中へ」について書いた過去記事で、私ヌルボ、「1945年の<光復>で民族独立(「解放」ではあってもは「独立」はしていない??)マンセーを叫んで喜んだはずの同胞同士がなぜわずか5年後に殺し合ったのか?」という疑問を提示しましたが、要はその当時は戦争を否定するほどの「同じ民族、同じ仲間」という強い意識がなかった、ということですね。

 ところが、80年代民主化運動の担い手たちはどう考えたか?

・歴代の軍事政権は、反共を口実に民衆を抑圧し、人権を否定する政治を続けてきた。 
・軍部による光州民主化運動弾圧を、アメリカは座視(容認? 支援?)した。(→釜山アメリカ文化院放火事件(1982)) ※以後、反米軍基地闘争等の反米世論は高まり、今に及ぶ。
・「反米」といえば、北朝鮮の方が一貫して反米でがんばっているではないか!
・「親日派」の排除についても、北朝鮮では徹底していたではないか! 韓国ではむしろ「親日派」がずっと政界・経済界で幅を利かせている。
 ※「反米」が民族主義と結びつく例は1950~60年代の日本共産党にみられる。「民族行動隊の歌」なんてタイトルは、今の目で見れば右翼の歌とだれもが思うでしょう。私ヌルボ、学生時代に民青の人を相手に「祖国と学問のために」という日共系全学連の機関紙の紙名について議論したことを覚えています。
・その北朝鮮では主体思想を柱として金日成が「民族」を旗印にして働きかけている(ようである)。


 あ、この民主化運動の主な担い手というのは、端的にいえばいわゆる<386世代>ですね。

 さて、このような民主化運動の高まりが結局軍事政権を倒し、そして諸勢力のそれなりの妥協もたぶんあったりして成立したのが1987年の憲法。

 ここではすでに<反共>は絶対の国是とは言えなくなってしまっています。386世代にとって朝鮮戦争は生まれる前のことだし、金日成も言ってることはよさそうだし・・・。
 さりとて、北朝鮮の<金日成神話>のような強力な抗日闘争の物語があるか?と考えた時に、それまで以上に注目されたのが金九と上海臨時政府。
 金九は抗日運動家で、真珠湾攻撃の翌日には対日宣戦布告をして(実効性はなかったが)、反共民族主義者で、李承晩の手先に暗殺されるまで南北の分断に反対して・・・と、<神話>の素材としてはまさにうってつけの人物です。
 ※金九→ウィキペディア。ついでに、彼を暗殺した安斗煕(アン・ドヒ)については→コチラ。ついでのついでに、その安斗煕を撲殺した
朴(パク・キソ)については→コチラ

 で、ようやく本論。
 私ヌルボ、1987年の憲法改定でこのように「上海臨時政府の法統」という文言を新しく入れたのは、左派・民主勢力に対して保守側が主導して提示し実現した新機軸かな、と思いました。
 ところが最近いろんな韓国サイトの記事を読んで、そうではなく、むしろ左派・民主勢力の意思が強く反映されたものであることを知りました。
 また憲法前文に入れたこの「大韓民国臨時政府の法統」という文言に疑義あるいは異議を唱える人たちも少なからずいるということも・・・。

 ・・・と、本論に入ってたった5行ですが、諸事情により今回はここまでです。(ありゃりゃ、ですが。)
 あと2回は続きます。
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