ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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チャミスルのラベルの字を書いたカン・ビョンインというカリグラファー

2011-06-03 23:51:17 | 韓国の文化・芸能・スポーツ関係の情報
 横浜市立図書館では、「朝鮮日報」を読むことができます。韓国紙ではこれだけ。韓国では最大の発行部数を誇る新聞ですが、保守言論の代表ともいえる新聞で、韓国の左派勢力からの批判もたびたび受けています。ということで、韓国の社会状況を知る上でこれ1紙だけというのは問題があり、個人的にも満足できる物足りませんが、それでも日本全国の公立図書館の状況を考えればずいぶん恵まれていることはたしかです。

 さて、その横浜市立図書館で「朝鮮日報」のまとめ読みをしていて目に止まったのが5月8日の「[Why]カリグラフィー・・・書芸か? 絵か? 2つともだ!」という記事の写真(下)。

    

 一見漢字のように見えますが、左が「봄」(ポム.春)、右が「꽃」(コッ.花)というハングル。どちらの写真も作品をちょん切ってくっつけたという何とも配慮のない載せ方をしたものです。書いた人はカン・ビョンイン(강병인)、彼の肩書はカリグラファー(calligrapher)です。

 記事の内容は、→コチラで読むことができます。
 (→日本語自動翻訳。ただし「カリグラフィー」が「カリフォルニアグラフィッカー」なんてヘンな訳になっています。)

 私ヌルボ、本ブログ2010年7月31日の記事<アートとしてのハングル 書家・韓泰相の試み>でこの分野に関して書いて以来この分野に関心をもってきたこともあって、この新聞記事に注目したというわけです。

 「朝鮮日報」の記事によると、4月21日からソウル嘉会洞カフェギャラリーで開かれたカン・ビョンインの個展は開幕2週で観客1000人を超えるほどの盛況とのこと。昨年はニューヨークで個展を開いた彼の作品は、最高価は300万ウォン程度だそうです。

 このカン・ビョンインさんは、あのおなじみの韓国焼酎チャミスルのラベルの字(下写真参照)を書いた人だそうです。ただ韓国ではカリグラフィーに対する認識が低く、チャミスルの場合も売れる量に見合うだけのものは得ていないとか。そこで2007年に設立された韓国カリグラフィーデザイン協会ではそんな認識を変えるためのセミナー等を続けて開く計画とのことです。
※別サイトのカン・ビョンインさんへのインタビュー記事によると、最初に真露に送った試案だけでも100~200枚くらいにはなったそうです。

     

 現在、カリグラファーたちは純粋芸術と商業カリグラフィーを同時に創作する場合がほとんどで、最近は大部分の映画ドラマのタイトル、本の題字、食品包装紙の字がこのようなカリグラファーたちによって創作されています。

 2007年1月の「朝鮮日報」には「手書きの題字がベストセラーをつくる」という記事がありました。それによると、2006年5月発行の朴婉緒の小説「その多かったスイバは誰が全部食べたのだろうか」をカリグラフィーに代えて若い読者を多く獲得できたと評価され、また同じ頃に刊行されたウェイン・ダイアー著「幸福な利己主義者」の場合は、カリグラフィーだけで表紙を構成して一気にベストセラー入りさせました。その後者のカリグラフィーを担当してブームに火をつけたのがカン・ビョンインさんなんですね。以後本の題字は半数近く(?)はカリグラフィーになっているようで、出版界では、カリグラフィーの専門作家は20人程度になるそうです。

   
  【ウェイン・ダイアー「幸福な利己主義者」(左)。金大中「学び」(右)の題字もカン・ビョンインによる。】
 またカン・ビョンインさんは2007年ハンナラ党の大統領候補予備選挙の際、李明博の「열심히 일하겠스니다 이명박(熱心に働きます 李明博)」というスローガン()も書いたそうです

    

 さらに<TYPOGRAPHY SEOUL>というサイトの記事で、彼はカリグラフィーの専門家になったきっかけを次のように記しています。

 小学校の時の書芸クラブの先生の勧めで始めて以来、今まで一度も離れたことがない書芸は私の運命であり、必然なのかもしれない。筆による文字の創作は、生のための勇気そして夢になってくれた。
 1990年代、編集会社・広告代理店に勤務していた頃、日本に行ったことがあるのだが、すでにすべてのデザインにカリグラフィーが用いられているのを観て、同じ筆墨文化をもっているわれわれがなぜこの分野で後れをとっているのかという疑問を消すことができなかった。その後広告のコピーや商品のタイトルなどに筆で書いた字を適用してみた結果、意外にも反応が良くて本格的にカリグラフィーの道に入った・・・。


 日本のことはよく知りませんでしたが、韓国より進んでいたということですか。
 google窓に강병인をそのままコピペして画像検索すると彼の作品がいろいろ現れます。
 ヌルボ自身昨年の記事で「元来幾何図形的なハングルは、より美術との親近性が強いと言えるかもしれません」と書きましたが、今回の「朝鮮日報」の記事も見出しからして同様の感覚ですね。
 そしてヌルボが内心ふと思ったことは、「芸術性と商業性は重なるものか、それとも相容れないものか?」という疑問。以前谷川俊太郎による日本生命のCM(「愛情をお金であがなうことはできません。けれどお金に愛情をこめることはできます。・・・」)を聴いた時にも抱いた疑問ですが・・・。(美術と文学の違いはありますが。)
 うーむ、むずかしいですね。・・・とチンプな結論というか、逃げ。(汗)
 ただ、「芸術性と大衆性の調和が文字の命」という彼の言葉は作品を見るとうなずけます。彼自身、書芸家ではなく「カリグラファー」を肩書にしているのは、デザイン畑出身だからというだけではないでしょう。

※チャミスルのライバル、チョウムチョロム(下写真)のラベルの字は、聖公会大学シン・ヨンボク教授がロッテ酒類から1億ウォンもらって書いたものです。シン教授はこれをまるごと大学に奨学金基金として寄付したそうです。彼は1968年に統一革命党事件で拘束され、無期懲役を言い渡されて1988年に特別仮釈放で出所するまで20年間も収監されていたことで知られる進歩的学者です。最近は映画「黄真伊(ファン・ジニ)のポスターの字を書いて話題になったそうです。
[2017年7月1日の追記]シン・ヨンボク教授は2016年1月15日死去しました。

     
  【上のチャミスルの字と比べて、どうですか?】

カン・ビョンインさんと日本の書芸家・平野壮弦さんの合同展が昨秋「2010仁川国際デザインフェア」の中で開かれたという記事がありました。平野壮弦さんについてヌルボは知りませんでしたが、書道芸術界での見方はどのようなものなのでしょうか?


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