ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国のロングセラー 全分野・児童書まで

2013-08-23 23:03:18 | 韓国の小説・詩・エッセイ
横浜市立図書館3Fにある新聞閲覧台では数日遅れの「朝鮮日報」を読むことができます。一昨日(21日)は17日の新聞。土曜なので読書を開くと10년이 지나도 펄떡이는 녀석들(10年経ってもピンピンしているヤツら)という見出しの大きな記事がありました。
 出版社30社を対象に、2003年までに発行された本の中で、刊行後10年以上続けて毎年1万部以上売れた本にはどんな本があるかを調査した記事です。
 その結果、当該の「10年1万部クラブ」に入った本は合計160。
 以下、その記事に載っている本を全部私ヌルボのコメントも交えて紹介します。

※「朝鮮日報」(韓国版)のサイト中のこの記事は→コチラです。 
※最初に、ちょっと気になったのが「ステディセラー(스테디셀러)」という言葉。日本ではふつう「ロングセラー(롱셀러)」ですが、韓国ではなぜかこの「스테디셀러」がよく出てきます。もしかして韓国製英語? 私ヌルボ、英語は苦手なもんでよくわかりませんが・・・。以下ではとりあえず「定番」としておきました。

     

 では、どんどんあげていきます。

 刊行年の古いものを見ると・・・。
・崔仁勲「広場(광장)」(1960年)・・・累計65万部が販売された。
・趙世熙「小人が打ち上げた小さなボール(난장이가 쏘아올린 작은 공)」(1978年)・・・この長いタイトルはふつう'난쏘공(ナンソゴン)'と略して呼ばれています。都市貧困層や工場労働者、撤去民の家族を描いた韓国初の小説で、文学史的にも社会史的にも重要な作品なのに日本語訳がなぜ刊行されていないのか? もしかして、「난장이(小人)」という言葉や、その「小人」の描き方が日本では障碍者差別に関わるということかな、と思ったりもするのですが、よくわかりません。
・李文烈「三国志(삼국지)」(1988年)・・・1800万部売れたとか。この数字は日本の尺度でみてもすごい。
・趙廷来「太白山脈(태백 산맥)」(1986年)・・・韓国の定番の小説には朴景利「土地」、黄皙暎「張吉山」等々長大な作品が多いです。これは原書・日本語訳とも全10巻。私ヌルボ、映画は観たんだけどな。
 歴史小説では、
・金薫「孤将(칼의 노래.刀の歌)」(2001年)・・・孤独な将軍とは李舜臣。蓮池薫さんの訳本が新潮文庫にあります。

 外国人作家の作品では、
・パウロ・コエーリョ「錬金術師(연금술사)」(2001年)・・・日本でも読まれていますが、韓国ではそれ以上。
・ハーパー・リー「アラバマ物語(앵무새 죽이기.オウムを殺すこと)」(2001年)・・・原題は「To Kill a Mockingbird」なのですが・・・。グレゴリー・ペック主演の映画は半世紀前か。しかしなぜ韓国でこれが読み継がれているのか?
・ベルナール・ウェルベル「木(나무)」(2003年)・・・「蟻」をはじめ、韓国ではなぜか大人気の作家。この作品は日本では未訳。
・アラン・ド・ボトン「小説 恋愛をめぐる24の省察(왜 나는 너를 사랑하는가)」(2002年)・・・これも韓国ではブームに。日本でも訳されてはいますが・・・。
・村上春樹「ノルウェイの森(喪失の時代.상실의 시대)」(1989年)・・・韓国でも根強い人気。

 詩集はごく少数。その中で最強の定番は、
・リュシファ「今知っていることをその時も知っていたなら(지금 알고 있는 걸 그때도 알았더라면)」(1998年)・・・詩集で累計123万部とは、日本では考えられないのでは・・・。彼の詩集は「君がそばにいても僕は君が恋しい」(訳:蓮池薫)等2冊が訳されていますが、これは未訳。この詩人の名前、柳(劉?)時和とでも書くのかと思ったら、本名はアン・チェチャンだそうです。
・金龍澤(キム・ヨンテク)「詩が私のところに来た(시가 내게로 왔다)」(2003年)・・・累計 60万部。副題に「金龍澤が愛する詩(김용택이 사랑하는 시)とあるように、彼自身の詩ではなく、徐廷柱・金洙暎・高銀等々の、彼の好きな詩を集めた本。実はヌルボも持っています。
・奇亨度(キ・ヒョンド)「口の中の黒い葉(입 속의 검은 잎)」(1989年)・・・累計26万部。90年代の若者たちのアイコンになってしまった夭折詩人キ・ヒョンド(1960~89)のただ1冊の詩集だそうです。(→コチラの記事参照。)

 文学以外の外国書です。
・リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」(1993年)  
 ・ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄(총, 균, 쇠)」(1998年)
・・・これら2冊は日本でも話題になりました。
・スティーブン・R・コヴィー「7つの習慣―成功には原則があった!(」(1994年) 
 ・ケン・ブランチャード「シャチのシャムー、人づきあいを教える(칭찬은 고래도 춤추게 한다.賞賛はクジラも踊らせる)」(2003年)
・・・自己啓発本の分野は私ヌルボ、語る資格なし。この2冊、日本でも評価は高いようです。
・塩野七生「ローマ人の物語(로마인 이야기)」・・・韓国でも定番の本。

 人文関係の韓国人著作の定番。
・イ・ユンギ「ギリシア・ローマ神話」(2000年)
・チン・ジュングォン「美学オデッセイ」(1994)
 ・ユ・ホンジュン「私の文化遺産踏査記(나의 문화유산답사기)」(1993年)
・・・上掲の「小人が打ち上げた小さなボール」とともに、他の出版社社長が欲しがる本の1位に上がった本。最初の全羅南道編に始まったシリーズ7巻まで、韓国各地を踏査した後、今年7月には日本編として「1 九州」「2 奈良・飛鳥」の2冊も発行されました。
・オ・ジュソク「オ・ジュソクの韓国の美 特講(오주석의 한국의 미 특강)」(2003年)・・・あやうく「韓国の米」と訳すところでした。もちろん美術史の本です。

 最近20年ぶりに再刊された注目書。
・チョン・モンガク「ユンミの家(윤미네 집)」(2010年)・・・土木技術者として京釜高速道路を建設し、大学教授として弟子を育てた著者(1931~2006)は生涯カメラを離さなかったアマチュア写真家でもあった。その彼が、娘が生まれてから嫁に行くまでの26年間(1964~89年)の成長の記録を写真集として刊行したのが1990年。その時はわずか1000部の発行だったが、その評判は衰えることなく、近年20年ぶりに再刊された。家族の歴史だけでなく、その間の韓国社会の変貌も見て取れる。この本のことは私ヌルボ、知りませんでした。見てみたいです。

 <10年1万部クラブ>に入っている160冊の本の3分の1は子どもの本です。多くは日本でも翻訳されています。
 韓国の絵本では、
・権正生「こいぬのうんち」(1996年)・・・2011年に100万部を突破。この原書は韓国語の初級学習者の皆さんにもオススメ。
・チェ・スッキ「十二支の動物のいないいないばあ(열두 띠 동물 까꿍놀이)」(1998年)・・・「檀君 朝鮮半島の建国神話」が神谷丹路さんの訳で出ているだけです。
・クォン・ユンドク「マンヒのいえ(만희네 집)」(1995年)・・・日本でも1998年に刊行されましたが、今は品切(or絶版)。この絵本も私ヌルボのオススメです。

 日本の絵本の韓国語版がいかに多いかについては過去記事(→コチラ)でも書きました。
・多田ヒロシ「りんごがドスーン(커다란 커어다란 사과가 쿵!)」(1996年)

 欧米の作家の名作絵本の多くは日韓両国でも人気。
・ヴェルナー・ホルツヴァルト「うんちしたのはだれよ(누가 내 머리에 똥 쌌어)」(1993年)・・・「うんち」に子どもが興味を示すのは国や民族を問わず(?)のようですが、韓国はさらに一段上のような・・・。(→関連過去記事。)
・マイケル・ローゼン「きょうはみんなでクマがりだ(곰 사냥을 떠나자)」(1994年)
・アンソニー・ブラウン「ウィリーの絵(美術館に行ったウィリー.미술관에 간 윌리)」(2000年)
 ・アンソニー・ブラウン「おんぶはこりごり(돼지책.ブタの本)」(2001年)
・・・韓国題と日本題の差はどこにあるかと原題を見ると「PIGGY BOOK」。つまりPIGGY BACK(おんぶ)との掛け言葉になっている。
・ジョン・バーニンガム「いつもちこくのおとこのこ-ジョン・パトリック・ノーマン・マクへネシー(遅刻大将ジョン.지각대장 존)」(1996年)・・・日本語版は谷川俊太郎訳。韓国語ではこの長い名前をどう表記しているのか、ちょっと見てみたら「존 패트릭 노먼 맥헤너시」で、カタカナ書きより見やすいかも。
・フランツィスカ・ビアマン「本を食べる狐(책 먹는 여우)」(2001年)・・・日本未訳。

 子ども向きの読み物では、
・ファン・ソンミ「庭を出ためんどり(마당을 나온 암탉)」(2002年)・・・日本語訳あり。2011年に作られたアニメについては、本ブログでも記事にしました。(→コチラ。)
・ミヒャエル・エンデ「モモ(모모)(1999年)・・・原著は1973年発行。岩波から翻訳が出たのは1976年。他の多くの「定番」同様、韓国では20年余の年差があります。

     

 上のリスト(左)は教保文庫での定番の本(ステディセラー)の販売順位(今年1〜8月)です。
①ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄(총, 균, 쇠)」(1998年)
 ②「その男ゾルバ(그리스인 조르바.ギリシャ人ゾルバ)」(2000年)
・・・この小説の人気も日韓で大きな差があります。
③村上春樹「ノルウェイの森(喪失の時代.상실의 시대)」(1989年)
④パウロ・コエーリョ「錬金術師(연금술사)」(2001年)
⑤リチャード・ドーキンス「利己的な遺伝子」(1993年)
⑥リュシファ「今知っていることをその時も知っていたなら(지금 알고 있는 걸 그때도 알았더라면)」(1998年)
 ⑦ロバート・B・チャルディーニ「影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか(説得の心理学. 설득의 심리학)」
・・・日本でも注目された本。
⑧趙世熙「小人が打ち上げた小さなボール(난장이가 쏘아올린 작은 공)」(1978年)
 ⑨チョン・ジェスン「科学コンサート(과학 콘서트)」(2003年)
・・・「第1楽章Vivace molto」から「第4楽章Poco a poco Allegro」の構成で、ソテジだのポロックだのいろんな例を出してヌルボもおなじみのマーフィーの法則等々をわかりやすく書いた科学の本のようです。
⑩金薫「孤将(刀の歌.칼의 노래)」(2001年)

 リスト(右)は子どもの本の定番の販売順位(今年1〜8月)です。
①E・B・ホワイト「シャーロットのおくりもの(샬롯의 거미줄.シャーロットのクモの糸)」(2000年)
②権正生「こいぬのうんち」(1996年)
 ③シェル・シルヴァスタイン「大きな木(아낌없이 주는 나무.惜しみなく与える木)」(2000年)
・・・韓国の書名はあまりに直接的なのでいかがなものかと思いますが、原書は「The giving tree」なのですね。知らなかった。
④マックス・ルケード「たいせつなきみ(너는 특별하단다.おまえは特別だと言う)」(2002年)・・・日本でも刊行されましたが、絶版(or品切れ)のようです。
⑤「小学生のためのタルムード111(초등 학생을 위한 탈무드 111가지)」(2002年)・・・韓国本。個人ではなく出版社編集部による本。
⑥ムン・ソニ「양파의 왕따일기(タマネギのいじめ日記)」(2001年)・・・書名の意味が気になって<YES24>で見てみたら、人気者の女の子ヤン・ミヒに群がる一派をヤン派(ヤンパ)=タマネギと言ってるんですね。女の子たちの人間関係の中でのいじめ問題を扱った作品、かな?
⑦ファン・ソンミ「庭を出ためんどり(마당을 나온 암탉)」(2002年)
 ⑧朴婉緒「自転車泥棒(자전거 도둑)」(1999年)
・・・副題が「朴婉緒童話集」。これは読んでみようかな。
⑨トリーナ・ポーラス「クローラーズ ぼくらの未来―花たちに希望を(꽃들에게 희망을)」(1999年)・・・さまざまな冒険を通して蝶々が成長していく物語。これも日本では現在絶版(or品切れ)のようです。
⑩モーリス・センダック「かいじゅうたちのいるところ(괴물들이 사는 나라.怪物たちが暮らす国)」(2002年)・・・神宮輝夫の訳本(冨山房)刊行は1975年。

※韓国での発行年は、現在刊行されているものなので、もしかしたら新版・改訂版が出る以前に発行された古い版がある本もある可能性があります。

 さて、以上いろんな本についてざっと見て、「日韓の違いは?」と見ると、そんなに大きな差はないように思います。とくに最近の世界的なベストセラーについては共通。
 文学関係では、たまに「韓国だけでなぜ人気?」とか、たぶんその逆もあって、そこらへんを探ってみるのもおもしろそうかも・・・。

 韓国での詩集人気は韓国ウォッチャーにはよく知られているところ。
 あと、韓国では「成功するための~」のような実利を求める生き方の本がけっこう読まれているのでは、というのがヌルボの見方。

 この記事の基本的な点で言えば、「10年以上、1万部以上」というハードルは、日本基準で見るとかなり低いのではないでしょうか?

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1 コメント

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趙世熙 (ソウル一市民)
2013-08-24 11:26:23
 今では手に入りづらいようですし、安っぽい同人雑誌のよう作りではありますが(アマゾンでも取扱い不可)、むくげの会というところから「趙世熙小品集」という日本語訳が出ていて、「小人が打ち上げた小さなボール」も訳出されていました(日本に置いてきてしまって手元にないので全編翻訳されていたかどうか確認できませんが)。
 個人的にはこの作品は文学的価値はさほど高くなく、専ら社会的価値によって評価されているように思いますが…。

 崔仁勲の「広場」は日本でも少くとも2種類の翻訳があり(金素雲と田中明)、英独仏語にも訳されているように(11月には仏語訳が文庫に入ります)、現代韓国文学のなかでも優れた作品の一篇だと思いますが、そうした作品でも累計65万部しか売れていないのですね。
 もっとも内容的に多く売れるような作品とは思えませんし、人口数からすれば多いとも言えるかも知れませんが。
 今回調べていて崔仁勲がまだ存命だということにも驚きましたが、それ以上に「広場」が20代初めの作品であることにもっと驚きました。崔仁勲だけでなく、李清俊や崔仁浩、金承などなど、当時は早熟の作家が多かったのかも知れませんね。

 「10年以上、1万部以上」というのは、やはり韓国では本が如何に読まれていないかの証左のような気がしてしまいます。地下鉄やバスなど公共の場で読書している人を見かけることは滅多になく、本を読んでいる人がいても資格試験や英語のテキストである場合がほとんどです。
 なぜか韓国でも馬鹿売れしている村上春樹にしても、一体どこで誰が読んでいるのやらです。
 一方で6月に開催された「ソウル国際図書展」などは結構盛況でしたので、本に関心を持っている人もそれなりにいるとは思うのですが…。
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