→<グルメやショッピングとはぜ~んぜん無縁のソウル4泊5日の記録 ⑥韓国歴史博物館は世相史に重点>
「反共は韓国の国是」とは幾度となく目にした言葉ですが、これに「である」と現在形で続くようには思われない具体例は以前から多々あります。今の韓国のふつうの認識としても、これはすでに過去のものになっているということを、この博物館で確認しました。
展示室の一角に、1960~80年頃の「反共」「防諜」プロパガンダのためのポスターや日用品等々が展示されていました。
この画像右端に<1960~1980年代反共の社会像>という標題の説明板が掲げられています。 読んでみると・・・。
「1970年代まで‘反共’は国是にも等しかった。‘反共 防諜’の標語が街と学校のところどころに貼られ、初等学校の道徳教科の名前が‘反共 道徳’であるほどに反共教育が強調された。・・・・」
・・・ということで、はっきりと過去形で書かれていて、また展示自体もどこか懐古的な雰囲気が漂っています。
左、「간첩 식별법(間諜識別法)」とありますが、夜とはいえカーテンもかけずこんなおおっぴらに無電を打っているスパイがホントにいたのでしょうか? 左の黄色い冊子は「이것이 북한이다(これが北韓だ)」、下に「국민윤리연구소(国民倫理研究所)」とあります。右は「불온삐라를 보면 즉시 신고합시다!(不穏ビラを見たらすぐに届けよう!)」。この絵のように街に「不穏ビラ」が散乱しているようなことがあったのでしょうか?
要は、このようなプロパガンダを通じて「国民精神の統制を図る」のがねらいだから、実際の間諜や不穏ビラの存在はたまに(まれに?)あればいいってこと?
いろんな日用品や学用品にも「반공(反共)」や「방첩(防諜)」の標語が入っています。左から、ノートの表紙には「不穏拾得物はすぐ警察に届けよ」。筆箱には「초전박살(初戦搏殺)」とありますが、この言葉は昔からある四字熟語ではありません。1974~78年北朝鮮によって掘り進められた第1~3トンネルが発見されたこと等を背景に、朴正煕維新政権は国民を安保理念で武装させるため「北朝鮮が南侵すれば9日以内に北進統一することができる」と広報するとともに、この新しい標語を大々的に用いて宣伝しました。外国とのスポーツ試合実況放送の他、TVのお笑い番組でも出演タレントたちが叫んだり、国民学校ではこの標語をテーマに作文大会が開かれたり等々・・・。今でもこの言葉は辞書にこそ載っていないものの、検索するとずいぶん広く使われているようです。(→コチラの記事を参考にしました。)
写真に戻って、深緑色の箱は万年香という商品名の線香。書かれている字は読み取れず。その右はマッチ箱。「反共」・「防諜」の文字が記されています。あ、旭日旗模様だっ!(笑) メーカーが太陽産業社だから。これを展示品にする時そんなことは考えなかったのかな?
そして、今回ヌルボが初めて知ったのがこれです。
まず右は往年の人気歌手で、日本では2005年の<親日宣言>騒動で話題になったりもした趙英男(チョ・ヨンナム)が歌った「防諜の歌」のレコード。これは動画検索しても見当たらず。
そして左が反共アニメの「똘이장군(トリ将軍)」。あ、「トリ」は主人公の名前で、「鳥」や「鶏」ではありません。このアニメは「トリ将軍第3トンネル編(똘이장군 제3땅굴편)」(1978)と「スパイを捕えるトリ将軍(간첩잡는 똘이장군)」(1979)の2作作られました。最初は映画として上映され、後にTVでも放映されたとのことです。(参考→コチラ。)
そして、この2作品とも丸ごとYouTubeで視聴できるのです。
「トリ将軍第3トンネル編」の冒頭、主題歌の部分を貼っておきます。全編観てみたいという方は→コチラ。約75分です。
一応、物語の概略は次の通りです。
山の中で動物たちと一緒に暮らしていた森の将軍こと少年トリが、北傀に迫害されていた少女スギに会って助けてあげる。その後いろいろあって(!)、強制労働で人々にトンネルを掘らせていた獣の顔をした北傀の悪者を撃ち破り、貪欲な赤い首領まで撃破して、自由大韓への道を進みます。 ※「北傀」は「北の(ソ連の)傀儡」という意味の蔑称。
北傀の連中の話し方が、まるで北朝鮮のラジオ・TVのよう(!)だし、少女の声もいかにも北朝鮮風です。(笑)
※第2作「スパイを捕えるトリ将軍」は→コチラ。
この「トリ将軍」の思い出について書かれたオーマイニュースの記事(2004年.→コチラ)に次のような一節がありました。
オオカミの姿をした北朝鮮軍が北朝鮮の住民を搾取して、太った体に赤い服を着た赤い首領が仮面をかぶって登場する。トリ将軍の活躍で赤い首領の仮面がはがされ、彼の正体が豚だったという事実が明らかになったとき、私たちは歓呼した。子供心にも「オオカミのような奴ら、豚のような奴ら」で憎悪心が生まれたようだ。実に絶妙に「トリ将軍」は子どもたちの反共意識をかきたてるのに寄与したようだ。どう考えてもなんとも異常な時代だった。
・・・たしかに「異常だった」のは昔の日本の鬼畜米英も同様だし、そしてアメリカ兵を悪魔のごとく描く北朝鮮のプロパガンダも・・・。(しかし、北朝鮮では「過去」のことではなくて依然として「現在」のことか?)
ところで私ヌルボ、1年前の記事で次のようなことを書きました。
1992年夏。釜山の竜頭山公園で話しかけてきた韓国人といろいろ話をしていて(日本語で)、ヌルボが「実は私、去年北韓に行ってきたんですよ」と言ったら、彼は別に驚くでもなく「北韓でもふつうの人々が暮らしているということですよ」という言葉を返してきました。
なぜか気になったその言葉の背景がわかってきたのはかなり後だったと思います。つまり、韓国では少し前までは「北韓で人々がふつうに暮らしている」ということには考えが及ばなかったということ。<パルゲンイ(アカ)>は人間ではないと教育され、そう思い込んでいたわけです。
今、その30代後半ほど(?)の男性の育った時代や受けてきた教育を思うと彼がそう言った気持ちがわかります。北朝鮮にいるのはツノの生えた鬼でも悪辣な獣のような輩だという子ども時代に植えつけられたイメージが大きく崩れたのは、民主化闘争の高まりと北からの民族主義を基調とした主体思想の宣伝が一定程度功を奏した80年代のことでした。
釜山でその男性と話をした1週間ほど後の8月24日、ソウルの世宗路を歩いていたら、新聞社(?)の電光掲示板で「韓国と中国との国交が樹立された」というニュース速報が流されていました。韓国と中国(と北朝鮮)という地理的観点や、韓国の「反共」をめぐる歴史的観点といった巨視的な歴史と、微視的(個人的)な歴史が重なり合って思い起こされる旅先の出来事でありました。(と、最後はヌルボも懐古調。)
「反共は韓国の国是」とは幾度となく目にした言葉ですが、これに「である」と現在形で続くようには思われない具体例は以前から多々あります。今の韓国のふつうの認識としても、これはすでに過去のものになっているということを、この博物館で確認しました。
展示室の一角に、1960~80年頃の「反共」「防諜」プロパガンダのためのポスターや日用品等々が展示されていました。
この画像右端に<1960~1980年代反共の社会像>という標題の説明板が掲げられています。 読んでみると・・・。
「1970年代まで‘反共’は国是にも等しかった。‘反共 防諜’の標語が街と学校のところどころに貼られ、初等学校の道徳教科の名前が‘反共 道徳’であるほどに反共教育が強調された。・・・・」
・・・ということで、はっきりと過去形で書かれていて、また展示自体もどこか懐古的な雰囲気が漂っています。
要は、このようなプロパガンダを通じて「国民精神の統制を図る」のがねらいだから、実際の間諜や不穏ビラの存在はたまに(まれに?)あればいいってこと?
写真に戻って、深緑色の箱は万年香という商品名の線香。書かれている字は読み取れず。その右はマッチ箱。「反共」・「防諜」の文字が記されています。あ、旭日旗模様だっ!(笑) メーカーが太陽産業社だから。これを展示品にする時そんなことは考えなかったのかな?
そして、今回ヌルボが初めて知ったのがこれです。
まず右は往年の人気歌手で、日本では2005年の<親日宣言>騒動で話題になったりもした趙英男(チョ・ヨンナム)が歌った「防諜の歌」のレコード。これは動画検索しても見当たらず。
そして左が反共アニメの「똘이장군(トリ将軍)」。あ、「トリ」は主人公の名前で、「鳥」や「鶏」ではありません。このアニメは「トリ将軍第3トンネル編(똘이장군 제3땅굴편)」(1978)と「スパイを捕えるトリ将軍(간첩잡는 똘이장군)」(1979)の2作作られました。最初は映画として上映され、後にTVでも放映されたとのことです。(参考→コチラ。)
そして、この2作品とも丸ごとYouTubeで視聴できるのです。
「トリ将軍第3トンネル編」の冒頭、主題歌の部分を貼っておきます。全編観てみたいという方は→コチラ。約75分です。
一応、物語の概略は次の通りです。
山の中で動物たちと一緒に暮らしていた森の将軍こと少年トリが、北傀に迫害されていた少女スギに会って助けてあげる。その後いろいろあって(!)、強制労働で人々にトンネルを掘らせていた獣の顔をした北傀の悪者を撃ち破り、貪欲な赤い首領まで撃破して、自由大韓への道を進みます。 ※「北傀」は「北の(ソ連の)傀儡」という意味の蔑称。
北傀の連中の話し方が、まるで北朝鮮のラジオ・TVのよう(!)だし、少女の声もいかにも北朝鮮風です。(笑)
※第2作「スパイを捕えるトリ将軍」は→コチラ。
この「トリ将軍」の思い出について書かれたオーマイニュースの記事(2004年.→コチラ)に次のような一節がありました。
オオカミの姿をした北朝鮮軍が北朝鮮の住民を搾取して、太った体に赤い服を着た赤い首領が仮面をかぶって登場する。トリ将軍の活躍で赤い首領の仮面がはがされ、彼の正体が豚だったという事実が明らかになったとき、私たちは歓呼した。子供心にも「オオカミのような奴ら、豚のような奴ら」で憎悪心が生まれたようだ。実に絶妙に「トリ将軍」は子どもたちの反共意識をかきたてるのに寄与したようだ。どう考えてもなんとも異常な時代だった。
・・・たしかに「異常だった」のは昔の日本の鬼畜米英も同様だし、そしてアメリカ兵を悪魔のごとく描く北朝鮮のプロパガンダも・・・。(しかし、北朝鮮では「過去」のことではなくて依然として「現在」のことか?)
ところで私ヌルボ、1年前の記事で次のようなことを書きました。
1992年夏。釜山の竜頭山公園で話しかけてきた韓国人といろいろ話をしていて(日本語で)、ヌルボが「実は私、去年北韓に行ってきたんですよ」と言ったら、彼は別に驚くでもなく「北韓でもふつうの人々が暮らしているということですよ」という言葉を返してきました。
なぜか気になったその言葉の背景がわかってきたのはかなり後だったと思います。つまり、韓国では少し前までは「北韓で人々がふつうに暮らしている」ということには考えが及ばなかったということ。<パルゲンイ(アカ)>は人間ではないと教育され、そう思い込んでいたわけです。
今、その30代後半ほど(?)の男性の育った時代や受けてきた教育を思うと彼がそう言った気持ちがわかります。北朝鮮にいるのはツノの生えた鬼でも悪辣な獣のような輩だという子ども時代に植えつけられたイメージが大きく崩れたのは、民主化闘争の高まりと北からの民族主義を基調とした主体思想の宣伝が一定程度功を奏した80年代のことでした。
釜山でその男性と話をした1週間ほど後の8月24日、ソウルの世宗路を歩いていたら、新聞社(?)の電光掲示板で「韓国と中国との国交が樹立された」というニュース速報が流されていました。韓国と中国(と北朝鮮)という地理的観点や、韓国の「反共」をめぐる歴史的観点といった巨視的な歴史と、微視的(個人的)な歴史が重なり合って思い起こされる旅先の出来事でありました。(と、最後はヌルボも懐古調。)
私が約1年をソウルで過ごしたのは1989年ですが、当時大学生だった知り合い(兵役を終えていたから20代半ば)が、「子供の頃にはパルゲンイって全身真っ赤々な生き物だと思ってたよ」って言ってました。
別の友人は、お家に遊びに行かせてもらっとき、「持っているのが知られると引っ張られる本なんだけどね」とこっそり隠し本を見せてくれたのを覚えています。