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[韓国語の新語] <ヨンヨク(用役)>とは? その社会背景

2012-05-27 23:52:04 | 韓国語あれこれ
 1つ前の記事に続いて、チュ・ホミンの漫画「神と一緒に」の「この世編」から。(→コチラ。)
 漫画を楽しみつつ、韓国語及び韓国社会についての知識が得られるのは一挙三得です。

 漫画の舞台は、再開発が始まったタルトンネ(月の街)。昔からある、高台の低所得者層の住宅地です。近年どんどん再開発が進んで、急速に少なくなっています。その結果、むしろ郷愁の対象にもなっていて、仁川市ではタルトンネ博物館も建てられています。、
 そのタルトンネで、今まで住んでいた住居からの立ち退きを拒んでいる住民に、ヤクザ(韓国語では 조폭(組暴.チョポク)が脅しをかけます。
 そのヤクザの親分と子分の会話の場面です。

   
      (左) 「できるだけジェントルに処理できればとのことだ。」 「私らは完全にジェントルマンですよ、兄貴。」
     (右) 「それから、この前団体Tシャツをあつらえろと言ったのは、これか?」

단체티(タンチェティ)=団体T。そろいのTシャツ。ピケTシャツをpk티という等、Tシャツ(티셔츠)を略して티(ティ)と言ったりする。

    
      「今こいつらが着ているのが団体Tシャツです、兄貴。」

    
      (左) 「ドラゴン・パワー? おい、なんで小学生みたいな。ヨンガリか何かか?」
     (右) 「いいえ、兄貴。深い意味が隠されているんです、兄貴。」

초딩(チョディン)=初等学校(초등학교.小学校)の生徒。
용가리(ヨンガリ)=韓国映画「大怪獣ヨンガリ」(1968年)に登場する怪獣。2000年にリメイク。

   
     (左) ドラゴン-龍(ヨン) パワー-力(ヨク)
    (右) 「ヨンヨク(龍力or用役)です、兄貴。」

용역(ヨンヨク)=用役。(この漫画の場合は)立ち退かせるために雇われたヤクザ。この용역の発音は龍力と同じ。これを英語にしてdragon power。

   
     (左) 「あ、こいつ天才だな。」 「4大出てるんです、兄貴。」
    (右) 「おい、で今からチーム長と呼ぶんだ。俺らがなんでヤクザなんだ?」


 さて、この용역(ヨンヨク.用役)という言葉ですが、辞書に載ってないわけではありません。「朝鮮語辞典」(小学館)には「用役、労務・労力サービスをすること」とあります。
 しかし、近年この言葉は、たとえば上記のような①再開発地域での退去・撤去の強制、②労働争議の現場での組合員の排除、③露天商の屋台の強制撤去等々、官公署や会社側に雇われて暴力を振るう連中(≒ヤクザ(?))をさす言葉として用いられるようになっています。

 私ヌルボがこの言葉を知ったのはごく最近。釜山の大造船会社・韓進重工業の解雇反対闘争を撮ったドキュメンタリー映画「塩花の木々、希望のバスに乗る。II」を観て、またその関連情報を少し調べてみた中で出てきました。女性労働者キム・ジンスクさんが高さ35mのクレーンで300日以上の籠城闘争を続けたことや、その支援として「希望のバス」運動が展開されたことは、韓国のマスコミで大きく取り上げられましたが、この中で会社側に雇われたのがこの「用役」たちでした。
 他会社の争議でも用役が「活躍」しているようで、レイバーネットの記事「用役暴力根絶、どこから始まるか」には、会社側が何百人もの用役を投入して職場閉鎖した事例が2件記されています。
 同じくレイバーネットの先週の記事によると、現代(ヒュンデ)自動車でも用役の警備暴行が問題化しているようです。
 現代自動車については、2010年11月30日ソウル市の現代自動車本部前に集まっている労組代表者たちを、マスクをした労役たちが「排除」している動画がYouTubeにupされています。→コチラ

 また、→コチラの記事によると、官庁が露店を摘発するために雇った用役が露天商に暴力を振るうことも日常的に起きているそうです。
 YouTubeに、2011年6月7日の露天商の撤去の動画がありました。場所は観光客におなじみの仁寺洞です。


 そして最初に戻りますが再開発地域での暴力。これについても、2009年1月の「ハンギョレ」に「‘用役’ 暴力横暴,再開発地域 ‘無法天地’」という見出しの記事(日本語)がありました。「店を空けている間に悪臭ゴミ撒いて・・・上の階から水を漏らす」とか、住民たちが「警察申告しても のろま出動、形式的対応」と記されています。
 冒頭の漫画の内容も、同じようなものです。
 下の動画は、再開発地域の用役たちの姿です。


 そういえば、映画「息もできない」で主人公のチンピラ(サンフン)も用役をやっていましたね。

 現代の韓国社会の中で、強者の側が合意のないまま一方的にコトを進める手段として上記のような「人的集団」を用いる事例が多々あり、問題化する中で、元々は一般的だった「用役」という言葉が、労務・労力サービスだけでなく、「特定の」労力サービス及びそれを行使する者たちをも意味するようになってきた、というわけです。

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2 コメント

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用役 (前川)
2012-05-29 00:24:59
 これは「息もできない」の世界ですね。日本の場合は、立ち退きを求めて私有地に踏み込んでくることが多かったような印象ですが、ソウルのこの場合は公道上の不法営業で、露店業者側に正当性はないように思うのですが、どうでしょう。
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露天商 (ヌルボ)
2012-05-29 21:49:58
「息もできない」では、集会をやってる学生たちを蹴散らかすようなこともやっていましたね。

以前ソウルの屋台で私の仲間が飲み食いしていたところ、取締りの人が来るのが見えたようで、アジュマがしばらくの間いなくなったそうです。
しかし、この排除の仕方はいかがなものでしょうか?
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