歯医者の待合室でパラパラと眺めていた雑誌にエディット・ピアフ Edith Piafのことが書かれていた。いつも通りの内容,通俗的ピアフ礼賛である。その生涯は波乱に満ち,私生活は極めてダラシナカッタ。しかし,歌手としては実に偉大,力強く存在感のある歌とその生きざまには敬服せざるをえない,云々。
その昔,私にとってエディット・ピアフは少々重たい存在であった。確かに晩年のオランピアでの《アコーデオン弾き》などを聴くと,それはそれでナカナカのドラマツルギー,デーモンを裡に秘めた凄味のある歌い手であると感心するにやぶさかではなかった。ただ,個人的な嗜好としては,同じテーマを表現するのであればむしろ堀内美希?がニホンゴで唄った《群衆》などの方が数段好ましく思えた。
人の一生,というか,人々が営々と過ごす日々の暮らし,それらのさまざまな諸断面を歌が奏でるとき,その歌は例えていえば“楔”や“軛”であってはならず,すべからく“癒”であらねばならぬ。どのような状況,どのような境遇の時であれ,耳元をくすぐる心地よい旋律,心暖められ心軽やぐ思いを導くコトバ,そんなものをひたすら求めていた。20代の頃の話である(何ヲ考エテイタンダカ)。
そうだ,雑文家のシーナ・マコトがやはり,昔,電車の中でウォークマンから流れる岸洋子の歌を窓外を過ぎ去る風景をボンヤリと見やりながら気持ちよく聞いていた,なんてことをどっかに書いていたような気がするが,(パダン,パダン,パダン.....) その場合だって,岸洋子なればこそであり,ピアフじゃやはりマズかろう。
そして今,改めてエディット・ピアフという存在を考える。40代にしてシワクチャ・バーサン,老醜をあらわにして胸の奥底から絞り出すようなその歌声が,それでも最近では当方の心に染み入る度合が増しているような気がする。それは多分歳月の為せる業であり,当然といえば当然のことかもしれない。しかしやはり,未だに別の意味で重たい存在ではある。正面切って見据えられない存在,とでもいうべきか。あるいは「過去の遺物」,といって悪ければ「歴史的遺産」ないし「史跡・名勝・天然記念物」の類か。本質的にはイイモノなんだろうけれど,必要以上に権威付けられたがゆえにチョット敬遠したい。
一節だけ引用するなら,ピアフそのものをではなく,クリストフ Christopheという「個性的な」歌手が唄った次のような歌のフレーズを,ピアフに捧げることにしましょうか(おっとっと,蜃気楼だったか)。
アナタは美しい
ガレリアンの足に捲かれた鎖のように
さまよう砂漠で見た最後の蜃気楼のように
アナタは美しい
悲嘆の中のたったひとつの思い出のように
海で遭難した人が発見した無人島のように.....
その昔,私にとってエディット・ピアフは少々重たい存在であった。確かに晩年のオランピアでの《アコーデオン弾き》などを聴くと,それはそれでナカナカのドラマツルギー,デーモンを裡に秘めた凄味のある歌い手であると感心するにやぶさかではなかった。ただ,個人的な嗜好としては,同じテーマを表現するのであればむしろ堀内美希?がニホンゴで唄った《群衆》などの方が数段好ましく思えた。
人の一生,というか,人々が営々と過ごす日々の暮らし,それらのさまざまな諸断面を歌が奏でるとき,その歌は例えていえば“楔”や“軛”であってはならず,すべからく“癒”であらねばならぬ。どのような状況,どのような境遇の時であれ,耳元をくすぐる心地よい旋律,心暖められ心軽やぐ思いを導くコトバ,そんなものをひたすら求めていた。20代の頃の話である(何ヲ考エテイタンダカ)。
そうだ,雑文家のシーナ・マコトがやはり,昔,電車の中でウォークマンから流れる岸洋子の歌を窓外を過ぎ去る風景をボンヤリと見やりながら気持ちよく聞いていた,なんてことをどっかに書いていたような気がするが,(パダン,パダン,パダン.....) その場合だって,岸洋子なればこそであり,ピアフじゃやはりマズかろう。
そして今,改めてエディット・ピアフという存在を考える。40代にしてシワクチャ・バーサン,老醜をあらわにして胸の奥底から絞り出すようなその歌声が,それでも最近では当方の心に染み入る度合が増しているような気がする。それは多分歳月の為せる業であり,当然といえば当然のことかもしれない。しかしやはり,未だに別の意味で重たい存在ではある。正面切って見据えられない存在,とでもいうべきか。あるいは「過去の遺物」,といって悪ければ「歴史的遺産」ないし「史跡・名勝・天然記念物」の類か。本質的にはイイモノなんだろうけれど,必要以上に権威付けられたがゆえにチョット敬遠したい。
一節だけ引用するなら,ピアフそのものをではなく,クリストフ Christopheという「個性的な」歌手が唄った次のような歌のフレーズを,ピアフに捧げることにしましょうか(おっとっと,蜃気楼だったか)。
アナタは美しい
ガレリアンの足に捲かれた鎖のように
さまよう砂漠で見た最後の蜃気楼のように
アナタは美しい
悲嘆の中のたったひとつの思い出のように
海で遭難した人が発見した無人島のように.....