いつものことだが,朝起きると,まずは2階の寝室から階下に降りてゆき,洗面所に置かれている洗濯機に洗い物一式を放り込んでスイッチを入れる(洗剤はあまり使用したくないので,気持ちだけごく少量添加するのみ)。それから仕事場のほうに回り,玄関から外に出てガレージ越しに明け方の空模様を寝ぼけ眼でぐるりと見渡してみる。今日のお天気はどんなかな? そうして早朝の気温や湿度,風,匂いなどをひとしきり肌で感じたのち,再び仕事場のなかに戻って,やおら大窓と小窓のそれぞれの雨戸を開けにかかる。築30年近い老朽家屋ともなると窓や雨戸の建て付けも大分悪くなっており,毎朝のたびにこれはいささか難儀する作業なのではあるけれども,とりあえずは致命的な瑕疵というほどではないため,費用のかかる営繕リフォーム等はまだまだ不要であろうと独り決めして現状を粛々と受け入れている(自力修繕は少々ムズカシそうなので,せいぜい時々CRC556をシュシュッとやる程度だ)。なお,以前,大窓の三枚雨戸を開ける際に少々無理して力任せに腰をひねったらギクッとやったことがあり,その点だけはいつも注意を払っている。
今朝の起床は5時を少し回った時間だったが,最近では早い日は4時半前には起きる。それでも空はもう十分に明るいのだ。季節の移り変わりの早さにアレヨアレヨと為すがまま流されてゆく我が身である。
ふと何気なく室内の床を見ると,カーペットのうえに銀色の線が一筋引かれているのが眼にとまった。ところどころでキラリと鈍く光るそのシルバーラインは,まるでスキーの滑降シュプールのようにキレイで緩やかなカーブを描いて室内を横切るように続いており,そしてその先端には小さな茶色い物体が認められた。どうやらシュプールを形成した主のようだ。よく見ればナメクジで,既に息絶えている様子だった。昨晩の就寝前の時点では未確認であったので,恐らく夜のうちにどこかから移動してきたのだろう。その航跡を辿ってみると,壁の北東隅に設置してあるローデスクの後ろあたりで消えていた。その先にある小窓が侵入口なのかな。昨日の午後,網戸にしていたときに,その建て付けの悪い隙間から侵入したのかも知れない。それとも,もっと以前からチャッカリ室内に入り込んでいたのか?
それにしても一晩のうちに結構な距離を移動したものだ。君は君なりに随分と頑張ったんだね!と褒めてやりたいくらいです。ああそうだ,以前仕事で使っていたキルビメータ(曲線計)がまだ何処かに保管してあったはずだゾ,というわけで,やおら調査器材保管庫や製図関係の整理棚などを一通り探ってみたのだが,あいにく見付けることができなかった(既に売り払ってしまったっけかな?)。 で,取りあえずコンベックスを使って大雑把に距離計測してみると,約3.8m+αほどだった。 お,自己新記録か? ナメクジだってニンゲンだぃ!
カタツムリが一年かけて歩む道のりを
ぼくらは何歩で超えるのか
宇宙がクシャミをひとつするあいだに
ぼくらは何度生まれ変わるのか...
半ば干からびたナメクジの斃死体と,その彼が一人黙々と辿ってきた銀色の道をシミジミ眺めているうちに,そんなブルーでシャイでシニカルなポエトリーをふと思い出してしまった。今から一年ほど前になるだろうか,それは息子のアキラから教えてもらった,あるマイナーなヒップホップアーチストによるモノロオグだ。最初聴いたときは,う~ん,こりゃ遅れてきたヤヤコシイ寺山修司だなぁ,なんて印象を抱いた程度に過ぎなかった。決して緩急自在とは申せぬ妙に屈折したラップの饒舌,若年寄風の混濁した自意識の独白吐露の連弾,遮二無二走り抜けようとする感情を無理矢理振り払うかのようなイメージの錯乱ぶり,等々。まぁ,老人妄言(ジジイのタワゴト)なんぞ余計だろうが,要は,いささか才に溺れすぎた感のあるヤヤコシ・ポエムなのだ。けれども何故だか,その後ソレナリニ結構気に入ってしまい(あれま,年がいもなく!),例えばたまに電車に乗って遠くに出掛けるときなど,車内でディジタル・オーディオ&イヤホンを介してよく聴いたりしている。昨今の大都市圏鉄道における電車内生態は,皆さま既に御案内のとおり,通勤ラッシュ時などを別とすれば,とにかく普段は老いも若きも乗客皆人一心不乱にスマホに夢中であるという,何ともイヤ~な閉鎖空間が形成されているわけであって,そしてそういったウンザリするほど間抜けな光景から目を背け,かくのごとき現実社会の最大不幸と共存することを束の間消し去りたいと切に願うがゆえに,取りあえずはコバヤシダイゴなんぞを聴いて鬱窟とした気分を紛らわす孤独老人,というのが昨今の私のポジションなのであります。ハイハイ,お互い五十歩百歩であることは重々承知しておりますケド。
匙を投げれば必ず悔いる
向き合えば気が遠くなる
うっかり立ち止まるその足元を
カタツムリがノンビリと行き過ぎる...
ちなみに,ナメクジもカタツムリも,動物分類学的に見ると,いずれも軟体動物門Mollusca,腹足綱Gastropoda,柄眼目Stylommatophoraに属している。ザックリ言えば,どちらも陸生の貝類なわけだ。海から陸に上がった貝類の仲間,すなわちカタツムリ(マイマイ)類のなかで,その更なる進化史の過程において,やがて自らの身に纏った重い鎧(chitin)を敢然と決然と脱ぎ捨てた勇気ある者,選ばれし聖者が現れ,その彼らがナメクジとなって独立した。すなわち,カタツムリの進化形がナメクジなのだ。ナメクジって意外とすごいジャン! これをポケモンに例えるとどうなるのか,私にはヨクワカランけれども,宇宙は多分クシャミをしないと思う。少なくともアナタやワタシの前では,ネ。 生命の進化,って何だろう? 何を言いたいのか判然としなくなってしまったが,いずれにしろ,所詮 ソレガドーシタ?の世界の話なわけではございます。。。
ハンカチと弁当と愛をもって先へ進め
カタツムリひとつ追い抜けないで平和もくそもあるか!