25時間目  日々を哲学する

著者 本木周一 小説、詩、音楽 映画、ドラマ、経済、日々を哲学する

十一代市川団十郎

2016年06月07日 | 文学 思想

  宮尾登美子の「柝の音」を読んだ。歌舞伎界の話だということで読んだのだったが、読み終えてから、人に、「あれは十一代目市川団十郎の話」と聞いて、びっくりした。あくまでも小説であるから、本当ではないにしても結構な取材をしたというから、団十郎にが癪を起すのも、妻の尽くし方もほぼ小説と同じようなものだろう、と思う。

 十一代団十郎は松本家の長男であるが、市川家に養子となった。団十郎を継ぐためである。初代鬼平犯科帳の長官長谷川平蔵を演じたのは、松本幸四郎。団十郎の弟である。「花の生涯」の井伊直弼を演じたのは尾上松緑で、これも団十郎の弟である。

 小説ではよほどの美男子のように描かれ、「源氏物語」までも演じたというから、僕は相当興味をもって You Tube を検索した。すると、小説ででてきた「助六」の録画があって、白黒のフィルムであるが、十一代団十郎の顔を見ることができた。化粧映えのする顔であった。鼻筋が通っている。薄い唇も、化粧にはいいのだろう。見事なものだった。十二代団十郎は三島由紀夫の「春の雪」で松枝清顕を演じた。ついでに彼の「助六」も見たが、口跡が悪い。十一代目の方が滑舌はよい。すると、この十一代目から十二代から現在の次期団十郎候補 海老蔵というようなあんなに整った顔の男が生まれたものだと感心してしまう。十一代目と十二代目のよいところを併せ持って生まれたように思う。これがぶさいくな男に生まれていたら、どうなっていたものやら。

 それにしても団十郎をずっと支えてきた奥方の献身さにはあきれることもあったが、最後まで女中育ちを捨てることなく、奥方らしくなく、人にも会うことなく、団十郎没後十年経って、死んでしまった。結核であった。若い日結核を患った団十郎や老人性結核になった養父の看病で結核菌をもらっていたのだろうか。陰性になれば、また無理して働くのも女中育ちがなせることだったのかもしれない。

 歌舞伎のことがよくわかった。団十郎を知ることによって、歌舞伎の世界が身近になったような気がした。