25時間目  日々を哲学する

著者 本木周一 小説、詩、音楽 映画、ドラマ、経済、日々を哲学する

太平洋の奇跡

2019年07月11日 | 映画
 新書「日本軍の兵士」を読んでから、戦争を扱った本物に近い映画はないかと探していた。日本で作られる戦争物映画はどことなく、なじめない。特攻隊員のものでも、終戦時の会議にしても、これはもうまさに観客動員を意識した映画であり、映画に批判精神がない。

 Tsutayaで何か戦争物がないか結構コマメに探していたら「太平洋の奇跡」というDVDがあった。2011年の作品らしい。日米合作の映画かな、と思った。
サイパン陥落に反抗する軍の兵士。アメリカ軍を恐れる民間人。実話に基づいているということなのだ、ドキュメントを見る気で観たのだった。サイパン島では軍人も民間人もことごとく死んでいく。アメリカ人の大将は早く戦争を終わらせたい。日本軍兵士は上層部からの命令がない限り、投降する気はない。収用所に行けば殺されると思っている。軍人、民間人186人が残ったところで、民間人をアメリカ軍に渡す決意を軍の隊長がするのである。大場隊の隊長は竹野内豊が演じている。民間人には阿部サダオや井上真央もいる。入れ墨のある暴れ者の兵士を唐沢寿明が演じている。大場隊長はその頭の良さから「フォックス」と呼ばれている。
 大場隊は徹底抗戦の構えであるが、結局大場は敗戦を知り、本土の惨状をビラ写真で知り、日本軍の上官から命令があれば投降すると言い告げる。投降するときに行進して歌うのが、「歩兵の本領」という歌である。10番まであるらしい。

     歩兵の歌

   作詞:加藤 明勝(中幼10期)
   作曲:永井 建子

 万朶(ばんだ)の桜か襟(えり)の色
 花は吉野に嵐吹く
 大和男子(やまとおのこ)と生まれなば
 散兵戦(さんぺいせん)の花と散れ

 尺余(しゃくよ)の銃(つつ)は武器ならず
 寸余(すんよ)の剣(つるぎ)何かせん
 知らずやここに二千年
 鍛えきたえし大和魂(やまとだま)

 軍旗まもる武士(もののふ)は
 すべてその数二十万
 八十余ヶ所にたむろして
 武装は解かじ夢にだも


 こういう精神論が美しいものでもない。大衆の一人一人が徴集されて編成された大場隊である。映画では死を完全に覚悟している部隊であり、共同幻想に身を捧げる兵士である。愚かであるともいえるし、しかたなかったろう、とも、勇ましいとも言えるが、その精神が尊いものだとは思えない。尊いのは命である。大和魂などというのはない。
 戦後多くの人が戦争体験を語らず、黙り込んだような感があるが、言うべきことを言う人たちもいて、テープに残し、インタビューに答えることもしている。

 ぼくは、自衛隊員がこんな歌を歌ってほしくないと思う。決してホルムズ海峡には行ってほしくないと思う。精神が狂ってしまう。