3、4年前、僕は東京の貸し会議室を探して、そこを利用する立場だった。セミナーのためである。これには苦労した。尾鷲から東京へのJRが異常に高い上に、安い貸し会議室がみつからず、2万円とか時には3万円で借りていた。
今年、貸す立場となった。すると世の事情は全く変わっていた。安い貸会議室が林立しているのである。安い貸会議室を集めたポータルサイトまである。一時間あたりの料金は驚くことに180円などというのはざらにある。一番よく使用される時間帯でも1000円というところである。要するに「空き室過剰」なのだ。この世界ではデフレが進行したのである。知り合いの息子が横浜の保土ヶ谷にアパートを探したところ、2万円7千円だった、ということにも驚いたが、おそらくこれも供給過剰なのであろう。
安倍政権はデフレを脱却したというが、日銀は「石油安」「消費税」で名目成長率2%に至っていない、と説明している。2%増やすために金融緩和策を持続するという。
昨日、ある炉端焼き店に夕方の五時半から出かけた。おかみさんは相変わらず無口で淡々と仕事をしている。客席は満席である。ところが客は飲むペースが遅く、食べるものを注文しない。僕ら二人だけが注文するばかりである。「こういう感じなん?」と聞くと、おかみさんはうなづく。
食べ方、飲み方も変わってしまったのか。これは「節約飲み食い」である。おそらくここでもデフレなのだろう。すると庶民の暮らし、企業活動は本当にインフレの状況にあるのだろうかと疑わざるを得なくなる。政治政務費の不正もおよそ議員の将来の不安からくるものだろうし、このせこい事件が全国津々浦々みんなやっているような気がしてくるのも、デフレなのに違いない。サラリーマンは議員にはなれない。議員をするものは税金をせこさで、ちょっとかすめ取ろうとする。全国の地方議員から自民党が崩れていくような兆候が見える。やはり一党による長期体制はどこかから腐り始めるのだ。
膨大に膨らんでいく国の借金もやがていきつくところまでいくはずだ。今東京都で起きていることはやがて日本国が舞台になっていくのではないか。十七年後には3件に1件が空き家になる、と新聞に出ていた。こういう予想でどうして経済成長を謳わねばならないのだろうか。いつも疑問に思う。