花に嵐のたとえもあるさ
さよならだけが人生だ

この一句の出典は、唐にいた于武陵(うぶりょう)という人が作った五言絶句「勧酒」を井伏鱒二が訳したものだ。
中野重治が小説「むらぎも」の中で高らかに歌った。
確かに、さよならだけが人生である。
出会いは楽しいけれど、別れは寂しい。
寂しさは、胸を熱くさせ塞いでしまう。
出会いより別れの方が「重く」沈殿する。

昔々、若かった頃書いた詩が出てきた。
特にタイトルが付いていない。
どんな状況で書いたのかは、いまとなっては分からない。
分からないけれど、別れの詩である。
秋に、ペーソスを感じ書いたものであろう。
ベンチの写真をお見せする。
退屈になったら、ベンチに座って御休みあれかし!
「とりとめもなく足音を追う時雨」

一瞬のせめぎ合いがあって
時が転換した
時の回り舞台に
あなたは 身をゆだね
私の前で たゆたっている
めくるめく 記憶の影絵は
紙の向こうに 去っていこうとしている
私は 手を差し伸べて
鷲づかみにしようとするのだ
だがしかし
それは 詮無いあがきにも似て
いたずらに 時が刻まれていく
あなたは 何処に行こうとするのだ
私に記憶の種子を 蒔きながら
私は その記憶を
そっと 砂で覆った
瞬間が刹那であって
悠久でないように
名残を留まらせることもなく
鮮やかに なんのくもりもなく
次の時に 移らしめると言うのか
それは 新しい息吹の誕生なのか
新しい 生命と記憶が
綯い交ぜになって
私を彼方へ連れ去っていく
新しい 季節の記憶の中に

ふられた詩であろうと思う。
けれど、誰にふられたのか今となっては思い出す縁(よすが)とて無い。
荒 野人
さよならだけが人生だ

この一句の出典は、唐にいた于武陵(うぶりょう)という人が作った五言絶句「勧酒」を井伏鱒二が訳したものだ。
中野重治が小説「むらぎも」の中で高らかに歌った。
確かに、さよならだけが人生である。
出会いは楽しいけれど、別れは寂しい。
寂しさは、胸を熱くさせ塞いでしまう。
出会いより別れの方が「重く」沈殿する。

昔々、若かった頃書いた詩が出てきた。
特にタイトルが付いていない。
どんな状況で書いたのかは、いまとなっては分からない。
分からないけれど、別れの詩である。
秋に、ペーソスを感じ書いたものであろう。
ベンチの写真をお見せする。
退屈になったら、ベンチに座って御休みあれかし!
「とりとめもなく足音を追う時雨」

一瞬のせめぎ合いがあって
時が転換した
時の回り舞台に
あなたは 身をゆだね
私の前で たゆたっている
めくるめく 記憶の影絵は
紙の向こうに 去っていこうとしている
私は 手を差し伸べて
鷲づかみにしようとするのだ
だがしかし
それは 詮無いあがきにも似て
いたずらに 時が刻まれていく
あなたは 何処に行こうとするのだ
私に記憶の種子を 蒔きながら
私は その記憶を
そっと 砂で覆った
瞬間が刹那であって
悠久でないように
名残を留まらせることもなく
鮮やかに なんのくもりもなく
次の時に 移らしめると言うのか
それは 新しい息吹の誕生なのか
新しい 生命と記憶が
綯い交ぜになって
私を彼方へ連れ去っていく
新しい 季節の記憶の中に

ふられた詩であろうと思う。
けれど、誰にふられたのか今となっては思い出す縁(よすが)とて無い。
荒 野人