自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆能登の里山里海マイスター、人材育成の10年

2018年02月25日 | ⇒キャンパス見聞
   金沢大学が能登半島の先端で取り組んでいる人材養成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」の卒業課題研究の発表会が来月3日に大学の金沢能登学舎(珠洲市三崎町)で行われる。受講生30人のうち21人が発表会に向けて仕上げの段階に入っている。卒論にチャレンジする受講生は30歳代前半で、キャリアも多彩だ。日系アメリカ人の女性は里山での農業を通した国際交流をプランニング、介護福祉士の男性は介護施設における園芸福祉活動をテーマに、弁護士の男性は「比較法の観点で見る日本林業再興のための考察~能登から変える日本の林業~」と題して、所有者が判明せず、境界不明など日本の森林の課題を諸外国の法律と比較しながら解決策を探る。

   同プログラムがスタートしたのは2007年、「能登里山マイスター養成プログラム」(科学技術振興機構「地域再生人材創出拠点の形成」補助事業)として5年間、2012年からはその後継事業として「能登里山里海マイスター育成プログラム」(大学と自治体の共同出資)を実施し、現在に至っている。今年11年目、これまで144人のマイスターを輩出。ここに来て、栄誉ある賞をいただいた。全国の大学や産業支援機関でつくる「全国イノベーション推進機構ネットワーク」による表彰事業「イノベーションネットアワード2018」で最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。先日23日に東京で表彰式があった=写真=。

   評価されたのは、人材育成や移住者の定着促進に向けた取り組みを通して、過疎高齢化などの課題解決と向き合っているという点だった。表彰式の後、記念フォーラムが開催され、演台に立った。以下、能登里山里海マイスター育成プログラムの取り組みの概要を説明した。

                ◇

   金沢大学が能登半島で廃校となった校舎を活用して実施している里山里海マイスター育成プログラムはとても地味な活動ですが、高い評価をいただき、このような栄えある賞をいただけたこと、感謝いたしております。このプログラムはことし11年目に入ります。その継続性についてはポイントが4つあります。

   一つ目は、地域と大学が何のために連携するか、自治体や地域のみなさんと議論を深め、能登に必要な人材養成を継続してやっていこうという明確な方向性が打ち出せたことです。昨年からは、地場の金融機関とも連携するなど、人材養成のプラットフォームとして定着してきました。

   二つめは人材養成のカリキュラムの内容です。「大学でしかできないことを、大学らしからぬ方法でやろう」とのスタンスです。受講生には卒業するための課題研究を課しています。12分間のプレゼンテーションと論文の提出が必須です。これは社会人にとって自己啓発の場でもあり、それに耳を傾ける同じ受講生にとっては相互啓発の場ともなっています。マイスターの学びのプログラムはすべてオープンで行っており、地域の潜在的なクリエーターの発掘や、「ものづくりのマインド」をもった人材を呼び込むベースになっています。

   三つめは、受講生は社会人であり、それぞれ専門性をもっていて、卒業後も情報共有や技術共有のネットワークづくりが活発です。こうした修了生たちの動きは、能登に移住してくるIターンやUターンの若者を巻き込んで、地域社会にいろいろな化学変化を起こしています。

   最後四つめは国際的な評価です。2011年6月に国連の食料農業機関(FAO)から生物多様性や持続可能社会をテーマにした人材養成のカリキュラムについて視察があり、翌11年6月にFAOが「能登の里山里海」を世界農業遺産に認定するきっかけとなりました。さらに、このことが契機となり、2014年にフィリピンの世界文化遺産であるイフガオの棚田で、JICAの支援を受け、イフガオ里山マイスター養成プログラムを実施しています。昨年からは能登とイフガオのマイスター、あるいは自治体職員が米づくりやエコツーリズム、棚田のオーナー制度などをテーマにした技術的な交流も始まっています。

                  ◇

   人材育成プログラムのカリキュラなどの詳細については同行した准教授がプレゼンを行った。うれしかったのは、会場での講演を聞き、ぜひ3日の卒業課題研究の発表を聞きに能登に行きたいとのオファーを2件もいただいたことだった。

⇒25日(日)夜・金沢の天気   くもり
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