自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★中国ディストピア物語の成功ストーリー

2021年04月02日 | ⇒トレンド探査

          前回の続き。中国が台湾の領空と海域で軍事訓練を繰り返し、長距離ミサイルを配備するなど攻撃能力を強化していると報道されている。「一つの中国」を掲げ台湾の吸収・併合をもくろむ理由は何か。先の大戦にまでさかのぼって考察してみたい。

   日中戦争では、中国の国民党軍と共産党軍が「国共合作」(1937年)による統一戦線で日本軍に抗戦した。このとき、共産党指揮下の紅軍は国民党軍に編入されて「八路軍」と称して戦っている。日本への降伏要求の最終宣言であるポツダム宣言(1945年7月26日)はアメリカ大統領のトルーマン、イギリス首相のチャーチル、中華民国政府主席の蒋介石の3人の書名で出され、これに日本が無条件で受諾した。この歴史的事実からも分かるように、実際に当時の日本軍に対し勝利を収めたのは国民党による中華民国政府だった。

   第二次世界大戦で勝利した、いわゆる連合国は戦時中から戦後処理問題などをテーマに協議を重ねていて、この協議体が戦後に国際連盟に代わる国際機関としての国際連合へと展開していく。1945年年10月に51ヵ国の加盟国で設立され、国連憲章による安全保障理事会の常任理事国はアメリカ、イギリス、フランス、ソビエト連邦、そして中華民国の5ヵ国が就いた。

   しかし、戦後の1946年から再び中国では国共内戦が始まり、1949年10月に中華人民共和国が成立、中華民国政府は台湾に逃れた。このため、中国代表権をめぐって国連でも論争が続き、1971年10月のいわゆる「アルバニア決議」によって、国連における中国代表権は中華人民共和国にあると可決され、中華民国(台湾)は安保理常任理事国の座から外され、国連を脱退することになる。ただし、国連憲章の記載は未だに、中華民国が国連安保理常任理事国であり、中華民国がもつ常任理事国の権限を中華人民共和国が継承したと解釈されている(Wikipedia「アルバニア決議」)。

   現在の中国共産党は抗日戦争に勝利したとして、2015年に「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利70周年記念行事」の大々的な軍事パレードを行っている。そして、今年2021年7月に中国共産党は創立100周年を迎える。

   ここからは憶測だ。上記の国共合作での国民党軍編入のもとでの抗日戦、蒋介石署名のポツダム宣言、中華民国が国連安保理常任理事国であることなどは中国共産党にとって不都合な歴史であり、この際、修正したいのではないだろうか。しかし、台湾に中華民国がある限りそれは難しいが、完全に吸収・合併し「一つの中国」にすることで置くことで輝かしい歴史を再構築できる。そう、習近平国家主席は発想しているかもしれない。

   中国では、5月1日の労働節(メーデー)と10月1日の国慶節に「建国の父」の毛沢東とともに、孫文の肖像画を掲げて「革命の先駆者」として仰いでいる。しかし、台湾の国民党も党と中華民国の創立者である孫文を「国父」と仰いでいる。中国共産党にとって、「革命の先駆者」と「建国の父」を堂々と掲げて創立100周年の成功ストーリーを創り上げるためには、台湾が邪魔になっていることは想像に難くない。7月までに中国は台湾に対してどう動くのか注視したい。

⇒2日(金)夜・金沢の天気     はれ

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