奥能登の輪島市町野町の金蔵(かなくら)地区は田園と集落がまるで絵に描いたように広がる里山で知られる=写真=。2008年9月に第16回アジア太平洋環境会議(エコアジア、名古屋市)に出席した生物多様性条約事務局長のアフメド・ジョグラ氏がこの地に立ち寄り、棚田で稲刈りをする人々の姿を見て、「日本の里山の精神がここに生きている」と述べた。金蔵の里山にクロサンショウウオなど貴重な生物が生息しており、自然と共生し生きる人々の姿に感動したのだった。2009年には「にほんの里100選」に選定されている。
自身が大学教員だったころ、何度か学生や留学生たちを連れて能登をスタディ・ツアーで訪れ、金蔵に立ち寄った。人気だったのが、昼食に地域の人たちが用意してくれた「ジビエカレー」だった。ジビエはイノシシ肉で、地域の実情について話していただいた世話役の人は「金蔵の人口が減るごとに反比例してイノシシが増えている」と苦笑いしていたのを覚えている。2014年のツアーのときに聞いた話では、人口は130人だった。2009年の「にほんの里100選」に選ばれたときは160人と聞いていた。
そして、再び金蔵の人口のことが話題になった。地域メディア各社の報道によると、金蔵地区の区長が今月4日に輪島市役所を訪れ、同地区内に仮設住宅を設置する申し入れた。要望書などによると、金蔵では地震前に53世帯95人が暮らしていたが、現在はそのうちの70人が金沢市などへ避難し、現在は25人に減少している。避難した多くの世帯は地元に仮設住宅ができれば金蔵に戻る意向を示していると区長は説明した。
同地区では地震で3割近くの家屋が損傷し、市街地へ向かう道路が寸断されている。このため支援物資は届かず、受け取りに車を1時間走らせることになる。こうした不便な生活が長引く中、人々は集落から離れている。
もしここで市役所が仮設住宅設置の要望を受け入れなければ、「集落消滅」は現実に起きるのではないか。アフメド・ジョグラ氏がこの地の里山の風景を絶賛してから16年目になる。
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