自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆震度7・記録的大雨・最強寒波 3災の能登冬路をめぐる~5~

2025年02月11日 | ⇒ドキュメント回廊

  震度7の地震、記録的な大雨、そして今月4日から北陸に吹き荒れている最強・最長の寒波。 3災の能登半島を3日間(今月6-8日)かけてめぐり、「あれはどうなったのか」と気になっていた場所に行った。NHK大河ドラマ『利家とまつ』(2002年放送)で話題を呼んだ、加賀百万石の礎を築いた前田利家の正室まつの遺灰がまつられている菩提寺「芳春院」。寺がある輪島市門前町は震度7の強烈な揺れに見舞われ、多くの建物が倒壊し、芳春院も全壊した。

     「利家とまつ」ゆかりの寺院 再建は緒に就くのか

  震災後に何度かこの地を訪ねたが、倒壊現場はまったく手が付けられていなかった。今回行くとすっかり片付いていた。当初、宗教法人に対しては公費解体が適用されないのかと思っていたが、宗教法人が所有する建物も全壊および半壊の建物は災害廃棄物として公費解体の対象だった(2024年1月・環境省「公費解体・撤去マニュアル第1版」)。そして、能登半島地震は「特定非常災害」に指定されたので、神社や仏閣などの場合でも自治体が発行する被災証明書があれば、法人が解体しても、その費用は補助の対象となる。そうした情報は震災後の混乱の中で交錯したのだろう。芳春院が、野ざらしとなっていた釈迦三尊や達磨大師などの本尊を救い出したのは5月、公費解体を終えたのは10月だった。(※写真・上は、公費解体を終えた現在の芳春院と、解体を待つ芳春院=去年7月6日撮影)

  公費解体は終えたが、この先さらに難問がある。再建への道筋だ。門前地区では住民の大半が仮設住宅で暮らしていて、自宅の再建もままならない状態という。そのような中で檀家を集めて、寺院の再建計画はスムーズに進むだろうか。芳春院に隣接する曹洞宗の大本山・総持寺祖院は山門(国文化財)=写真・下=などは無事だったものの、33㍍の廊下「禅悦廊」(同)が崩れ、一部はブルーシートで覆われていた。

  芳春院や総持寺だけではない。能登では寺社が相当に傷んでいる。能登で一番多い寺院は浄土真宗で、真宗大谷派東本願寺のまとめ(去年6月19日時点)によると、能登地域にある寺院353ヵ寺のうち、被害があったのは331ヵ寺で、そのうち本堂の倒壊など大規模被害は72ヵ寺、庫裏は69ヵ寺に上る。これに他宗派の寺院や神社も加えると相当な数に及ぶだろう。

  能登の寺院は地域コミュニティーの中心の一つでもある。寺で毎月28日に「お講」が開かれる。浄土真宗の宗祖とされる親鸞上人の月命日にあたり、地域の年寄り衆や子どもたちが集い、お経の後に山菜や海藻の精進料理が供される。人々は会話を交わし、情報交換の場ともなっている。その寺でのコミュニティーが地震で今も絶たれた状態になっている。
  
  石川県は国の支援を受けて設置した「復興基金」(総額540億円)の配分について県内19市町と協議を重ね、被災者の暮らしやコミュニティー施設の再建など27の事業を盛り込んだ活用方針を決定している。今月5日の会議では新年度に基金から80億円の拠出を決めている。伝統の祭りなど通じて地域のコミュニティー施設の役割を果たしてきた神社や仏閣の再建には最大1200万円を補助するとしている。寺社の再建はようやく緒に就くのか。
 
⇒11日(火)午後・金沢の天気     くもり時々はれ  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする