自在コラム

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☆『森の学校』河合雅雄氏から学んだこと

2020年11月12日 | ⇒ドキュメント回廊

           このニュースを知って、7月に亡くなった俳優の三浦春馬氏(享年30)とのちょっとした「縁」というものを感じた。彼が18年前、12歳のときに初主演した映画『森の学校』が来月12月から再び全国公開されるという。この映画は京都大学名誉教授の霊長類学者、河合雅雄氏が自らの少年期を綴った『少年動物誌』を映画化したものだ。2005年12月に河合氏を金沢大学に招いて講演をいただいた。そのときに映画についても述べておられた。

   映画では、三浦春馬氏が演じる雅雄少年が兵庫県の丹波篠山で、病弱で学校を休みがちな小学生のころ、昆虫や動物に興味を抱き、裏庭に小さな動物園をつくり始める。昭和10年の時代設定だ。父親の戦死で東京から転校して来た女の子が、雅雄に森での遊び方を教わるうちに笑顔を取り戻していく。そして、雅雄は肉親の死で命の大切さを知る。篠山の森には相変わらず泥だらけになって遊ぶ子どもたちの姿があり、壮大な自然と命、子どもの好奇心がテーマだ。

   河合氏の金沢大学での講演テーマは「森あそびのすすめ」だった。映画で描かれた人生の延長戦線上の話として、京都大学に入り、芋を洗うサル、あいさつをするサルを発見する。定年後でも、子どもたちをボルネオのジャングルに連れて行き、いっしょにキャンプをしながら、人が自然の中で学んだことを事例として話をされた。

   講演で印象的だったのは、今の日本人の「自然離れ」についてだった。「日本人は木材や山菜などを利用する資源の場として、また、保水など環境保全の場として森を利用してきたが、文化資源としての利用が欠けている」と話し、「川遊びのように森を利用して遊んでほしい」と訴えた。子どもの「自然離れ」を心配し、「本来、子どもは自然が大好き。それを大人が取り上げていませんか」と問いかけた。確かに、子どもたちを学習塾や「勉強、テスト」と追い立て、野山に入れない現状は変わっていない。映画で訴えたかったことはまさにこの点だったのかもしれない。

   人里へ出るクマや増えすぎるシカ、イノシシ、サルが問題についても述べられた。「動物社会に異変が起こっている」と。その大きな要因は、里山の崩壊にあるとの指摘があった。燃料革命(薪や炭からガス、石油へ)や中山間地の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めた。動物ごとの習性や分布の実態をふまえた向き合い方でないと、十分な対応できない、と

   最近、人里に出てくる動物は殺してもよいという論調が出始めている。一律の殺処分では解決しないだろう。森に集い学ぶ発想は現代こそ必要なのではないだろうか。河合氏から学んだことである。

⇒12日(木)夜・金沢の天気     くもり


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