記者がなぜこのような行為にいたったのかその背景を知りたい。共同通信社は12日、取材で得た録音データを外部に漏えいしたなどとして、大阪支社の記者を出勤停止7日間、本社社会部の記者を減給の懲戒処分にしたと発表した。1月20日に厚生労働省が開いた大麻などの薬物対策の検討会を、社会部の記者が制限に反して録音。大阪支社の記者の依頼に応じてデータを送った。この記者は外部の6人に音声データを提供するとともに、自身のツイッターに検討会の内容などを投稿した。投稿を見た厚労省が同社に抗議した(2月12日付・時事通信Web版)。
取材で知り得た情報を報道目的以外で流出させるのは記者としての倫理を逸脱する行為である。「取材の自由」は、取材源を秘密にできるという記者の権利だ。今回は、そうした記者の権利とは真逆の行為だ。相手が役所とは言え、規制されていた音声録音をし、さらにその音声データを外部の6人に提供した。
さらに、問題となるのは、外部の6人とはどのような人物だったのか。録音したのは、厚労省による大麻などの薬物対策の検討会だったので、大麻などの薬物に関わっている、あるいは関心がある人物なのだろうか。そのような人物に厚労省内部の情報を提供したのであれば、記者の倫理逸脱どころか、機密漏洩の犯罪ではないのだろうか。他のメディアは共同通信の記者がどのような人物たちに情報を漏洩したのか報じていない。メディアを監視する権力システムは日本にはない。あってはならない。メディアは相互監視であるべきだ。そうした相互監視は果たして機能しているのだろうか。この一件から疑問に感じる。
メディアへの疑問はさらにある。新聞や放送、雑誌な220社余りが加盟するマスコミ倫理懇談会の全国大会が2007年9月に福井市で開催され、最高裁の平木正洋総括参事官は「容疑者は犯人だ」という予断を裁判員に与える報道をしないよう配慮をメディアに対して求めた。「一個人の私見」として、捜査段階での報道について6項目を具体的に問題点として挙げた。1)容疑者の自白の有無や内容、たとえば「・・と犯行をほのめかす」という記事表現、2)容疑者の生い立ちや対人関係、3)容疑者の弁解が不自然・不合理という指摘、4)DNA鑑定など容疑者の犯人性を示す証拠、5)容疑者の前科・前歴、6)事件に関する識者のコメント。
総括参事官が指摘した報道の姿勢はその後、変化しただろうか。確かに、別件逮捕を明確に区別したり、「無罪推定」の原則を尊重したり、「起訴事実」を「起訴内容」としたりなどこれまでの報道とは違う点もいくつかある。ただ変わらないのは、犯人とおぼしき人物を追い込む姿勢は従来通りだ。
⇒15日(月)夜・金沢の天気 ゆき
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