自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★いまこそ「Byondコロナ」

2021年07月12日 | ⇒メディア時評

   昨年の今ごろは「ビヨンド(Byond)コロナ」という言葉を大学キャンパスでも何度か聞き、オンラインでのシンポジウムなどにも参加した。「コロナで世界は大きく変わる、キミはただ見ているだけか」をキャッチフレーズに学生たちがが企画したオンラインセミナー=写真=では、新型コロナウイルスのパンデミック後を見通した日本や国際社会の課題、そして、コロナ後の新しい社会をどう創造していくかをテーマに議論が交わされた。そのころから1年経つが、最近では「Byondコロナ」に一服感があるのか、耳目に触れることがめっきり減った。意義ある言葉だと思うので、再度検証してみたい。

   Byondコロナのセミナーでは、リモートワークが事例として論じられてきた。「働き方改革」は当時の安倍政権のテーマの一つだったが、進んでいるように見えなかった。ところが、コロナ禍でリモートワークやワーケーションという働き方が一気に加速した。日常の変化もある。コロナ禍で衛生観念が共有され、紙幣や硬貨にも触らないとい観念が広がり、キャッシュレス化も随分と進んだ。そして、日銀も現時点でデジタル法定通貨(CBDC)を発行する計画はないとしているが、決済システム全体の安定性と効率性を確保するよう準備するとしている。

   さらに、人が動くことによって付加価値が生み出されてきた観光や文化・芸術などの施設では、その場に行くなくても、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)といったデジタル技術を取り入れた観光やエンターテイメントも盛んに行われている。Byondコロナの議論は、コロナ禍を社会変革の前倒しのチャンスととらえる発想でもある。

   では、そのByondコロナがなぜ触れられなくなったのか。きょう12日から東京は4度目の緊急事態宣言の期間(8月22日まで)に入った。政府は夏休みや旧盆の人の流れを抑えて感染拡大を防ぎたいのだろう。オリンピックは今月23日に始まり、8月8日に閉会する。1都3県ほかほとんどの競技場は無観客での開催だ。国内のワクチン接種はどうなのか。1回受けたのは国民の28%、そのうち2回は以上17%にとどまっている(7月8日付・総理官邸公式ホームページ)。いつコロナ禍が収束するのか、見えてこない。

   Byondコロナをテーマに議論した昨年のいまごろ、日本は他国に比べれば感染の抑制に比較的成功し、死亡率も低く抑えていた。国民の多くは心の中で、延長された東京オリンピックが開催するころには収束するのではないか思っていたのではないだろうか。自身もそうだった。なので、コロナ後の社会の有り様を議論する心の余裕があったのかもしれない。

   ところが、昨年後半に感染者数が急増し、ことし1月にピークに達した。いま東京ではコロナ禍の第5波が迫り、前述したように4度目の緊急事態宣言下に入った。先が見通せない中で、Byondコロナをテーマに議論することに抵抗感を持つ人は多い。むしろ、いまこそトンネルの出口を見出すためにも必要なテーマではないだろうか。

⇒12日(月)午前・金沢の天気     くもり


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