自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★テレビ局は追い詰められた出演者とどう向き合ったのか

2020年09月18日 | ⇒メディア時評

          先ほどニュースを見て、「これは警察の忖度か」と思わず考え込んだ。多額の負債を抱えて倒産した磁気治療器販売「ジャパンライフ」が、顧客に虚偽の説明をして現金をだまし取ったとして、警視庁の捜査本部は18日朝、元会長ら14人を詐欺容疑で逮捕した。「ジャパンライフ」は2015年に元会長に届いた安倍総理主催の「桜を見る会」の招待状を顧客勧誘セミナーで見せびらかして参加者を信用させていたと、去年12月の参院本会議でも問題になっていた。安倍退陣と菅政権発足を見計らった絶妙なタイミングなのだ。

   ようやくこの問題が動き出した。フジテレビのリアリティ番組『テラスハウス』に出演していた女子プロレスラーがことし5月23日に自死した問題で、BPO放送人権委員会は遺族からの申し立てを受け、審理入りを決定した(9月15日付・BPO公式ホームページ)。番組で女子プロレスラーが演じた、同居人男性の帽子をはたくシーンは番組制作側の「やらせ」だったのかどうかが問われる。委員会は遺族とフジテレビが提出する書面と、双方へのヒアリングをもとに審理を行い、その結果を「勧告」または「見解」としてまとめ、双方に通知した後に記者会見で公表する予定だ(同)。

   問題のシーンは『テラスハウス』(38話)で、同居人の男性が女子プロレスラーが大切にしていたコスチュームを勝手に洗って乾燥機に入れたとして怒鳴り、男性の帽子をはたく場面だ。この38話は3月31 日に動画配信サービス「Netflix」で流され、SNSコメントが批判が殺到した。この日、女子プロレスラーは自傷行為に及び、それをSNSに書き込んだ。番組スタッフがこのSNSを見つけ、本人に電話連絡をとっている。5月18日の地上波放送では、SNSで批判された問題のシーンをカットすることなく、そのまま流された。女子プロレスラーが自死したのは5月23日だった。

   BPOに対し女性の母親は7月15日に申し立てを行い、番組でプロレスのヒール(悪役)のキャラクターを演じるよう指示され、「番組内に映る虚像が本人の人格として結び付けられて誹謗中傷され、精神的苦痛を受けた」として、人格権の侵害を訴えていた。また、「全ての演出指示に従うなど言動を制限する」などの条項を含む「誓約書兼同意書」によって自己決定権が侵害され、人権侵害に相当すると訴えていた。

   これに対し、フジテレビ側は7月31日付で内部調査の検証報告を公式ホームページで掲載した。聞き取りを番組のプロデューサー、ディレクター、制作現場のスタッフ、出演者、女子プロレスラーの所属事務所の関係者ら27人に対して行った。番組について「予め創作した台本は存在せず、番組内のすべての言動は、基本的に出演者の意思に任せることを前提として制作されていた」としたうえで、調査では「制作者が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」としている。

   また、同意書兼誓約書に関しては、出演契約であり労働契約のように「指揮命令関係に置くものではない」としている。動画配信サービス後の自傷行為から放送後にいたる間は、番組スタッフが本人と連絡を取り、ケアにより、「精神状況が比較的安定していることを確認している」とも主張している。

   BPO放送人権委員会の審議のポイントはいくつかあると推測する。一つは、フジテレビ側はなぜ内部調査だったのか、第三者委員会を設置して客観的視点から調査を行うべきではなかったか。もう一つは、「Netflix」での配信をきっかけにSNSによる批判が殺到し女子プロレスラーが自傷行為に及んだ。地上波の放送でもSNS炎上が予想されたにもかかわらず、なぜ動画修正の措置などを講じなかったのか。テレビ局として追い詰められた出演者とどう向き合ったのか、問われるところだろう。BPOの審理に注目したい。

(※写真は5月23日付のイギリスBBCニュースWeb版で掲載された女子プロレスラーの死をめぐる記事)

⇒18日(金)朝・金沢の天気    あめ

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☆「自助・共助・公助、そして絆」というSDGs

2020年09月17日 | ⇒メディア時評

   菅総理大臣の初めての記者会見がきのう16日午後9時からあり、テレビで視聴した。会見で述べていた「自助、共助、公助、そして絆」はこれまで何度か耳にしていたが、改めて聴くと、これはひょっとして「菅流SDGs」ではないのかと心に刺さった。

   菅氏はこう語っていた。「まずは自分でやってみる。そして、家族、地域でお互いに助け合う。そのうえで、政府がセーフティーネットでお守りする」。SDGsの理念は「誰一人取り残さない(leave no one behind)」だ。自ら努力し、助け合い、そして公的な支援でしっかりとした絆(きずな)をつくることで、誰一人取り残さないという意味だと解釈した。

   その次のコメントがさらに鋭かった。「こうした国民から信頼される政府を目指す。そのためには、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打ち破って、規制改革を全力で進める。国民のためになる、国民のために働く内閣を作り、期待に応えていきたい」。これまでの内閣は新しいキャッチフレーズで政治や経済や政治のクローバル化や、福祉や医療の充実といった政策を打ち出してきた。ところが、菅氏は国民という目線で行政の縦割り、悪しき前例主義を打ち破る、「国民のために働く内閣」に徹底すると強調したのだ。これまでなかったキャッチフレーズではないだろうか。

   それでは、「自助、共助、公助、そして絆」を徹底的に実行することで、どのようことが可能になるのだろうか。SDGs17のゴールと照らし合わせてみる。1・貧困をなくそう (No poverty)、2・飢餓をゼロに(Zero hunger)、3・すべての人に健康と福祉を(Good health and well-being)、4・質の高い教育をみんなに(Quality education)、5・ジェンダー平等を実現しよう(Gender equality)、10・人や国の不平等をなくそう(Reduced inequalities)、11・住み続けられるまちづくり(Sustainable cities and communities)、16・平和と公正をすべての人に (Peace, justice and strong institutions)、17・パートナーシップで目標を達成しよう( Partnerships for the goals)、の9のゴールが見えてくる。

   さらに、菅氏は、携帯電話の料金が高すぎることなどを指摘し、「当たり前ではない、いろいろなことがある。それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が足りないのかをしっかりと見極めたうえで、大胆に実行する。これが私の信念だ」と述べていた。これを経済と働く現場の感覚を重視するという意味で考えると、8・働きがいも経済成長も(Decent work and economic growth)、12・つくる責任 つかう責任(Responsible consumption, production)が見えてくる。さらに、菅氏が掲げる行政のデジタル化に加え、産業のデジタル化を推進することで、9・産業と技術革新の基盤をつくろう(Industry, innovation, infrastructure)のゴールも想定できる。

   ただ、菅氏のコメントで見えてこなかったのは生物多様性や気候変動といった環境問題に関する政策、そして、ODA(政府開発援助)だ。ODAによって、ぜひ、6・安全な水とトイレを世界中に(Clean water and sanitation)をサポートしてほしい。環境では、7・エネルギーをみんなに そしてクリーンに(Affordable and clean energy)と13・気候変動に具体的な対策を(Climate action)を示してほしいものだ。

   そして、外交として里山里海と生物多様性の問題にも取り組んでほしい。2010年に名古屋市で開催された国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された、20項目を10年で達成する「愛知目標」が困難との報告が公表された(9月15日付・共同通信Web版)。森林の減少や種の絶滅、海洋資源の乱獲が世界各国で報告されている。そこで、14・海の豊かさを守ろう(Life below water)、そして、15・陸の豊かさも守ろう(Life on land)のSDGs目標を掲げてはどうだろう。

   日本で採択された国際目標が達成できないとすれば、逆に2030年達成に向けて国際的なイニシャティブを発揮するチャンスではないだろうか。

⇒17日(木)午前・金沢の天気     くもり

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★「家を愛する人のように、核兵器は手放さない」

2020年09月16日 | ⇒メディア時評

   きょう16日午後の臨時国会で菅義偉氏が総理大臣に指名され、その後に内閣が発足する。日本のメディアはいつものように新しい内閣の顔ぶれをめぐって連日しのぎを削っていたが、アメリカのメディアは、「ウォーターゲート事件」を暴いたことで知られるジャーナリストのボブ・ウッドワード氏の新刊『RAGE』(今月15日発売)をめぐってしのぎを削っていた。トランプ大統領に対し18回(昨年12月5日-今年7月21日)のインタビューを重ね、北朝鮮との非核化交渉をはじめ、新型コロナウイルスの感染拡大の問題についての内幕を聞き出している。11月3日の大統領選を控えているだけに、メディア各社は発刊前にこの暴露本に注目したようだ。

    CNNはウッドワード氏から取材の音声テープの一部を入手し、今月10日付のCNNニュースWeb版日本語で報じている。ことし2月上旬のインタビューでは、トランプ氏は新型コロナウイルスは「非常に驚きだ」と語り、インフルエンザの5倍以上の致死性がある可能性を指摘していた。ところが、公の場でトランプ氏は当時、新型コロナウイルスは「いずれ消える」「全てうまくいく」と主張していた。この矛盾点について、ウッドワード氏が、トランプ氏が非常事態宣言を出した数日後の3月19日のインタビューで尋ねると、トランプ氏は「常に控えめに扱いたいと思っていた」「今でも控えめに扱いたいと思う。パニックを引き起こしたくないからだ」と答えた。

   9月10日のホワイトハウスでの記者会見で、ウッドワード氏へのインタビューについて、記者からもこの矛盾点を突かれ、トランプ氏は以下にように答えている。「 I want to show a level of confidence and I want a show strength as a leader」(ホワイトハウス公式ホームページ)。コロナ禍と向き合うために、国のリーダーとして災禍を克服する自信を見せたい、リーダーとしての実力を見せたいという思い当然だ。被害の大きさを隠そうとしたのは、「This is China’s fault. (中国の過ちだ)」と述べた。

   ウッドワード氏の古巣でもあるワシントン・ポスト紙は、トランプ氏がウッドワード氏に語った北朝鮮の金正恩党委員長についての人物評を紹介している=写真=。その中で面白い下りがある。「Trump told Woodward that he evaluates Kim and his nuclear arsenal like a real estate target: “It’s really like, you know, somebody that’s in love with a house and they just can’t sell it.”」(9月9日付・ワシントン・ポストWeb版)。意訳すると、金氏と核兵器の関係は家主と不動産の関係と似ていると評した。それは、家主が自分の家を気に入っていると売却したくてもできないのと同じだ、と説明した。

   トランプ氏と金氏は「完全な非核化」をめぐって、3度の首脳会談(2018年6月12日、2019年2月28日、同5月30日)を持ったが、トランプ氏は非核化を完全に反古された状態だ。トランプ氏はその経緯を分かりやすく説明しようと、ウッドワード氏に不動産取引での例えを述べたのだろう。核兵器に愛着がある金氏に核の放棄を説得するのは容易でない、と。いかにも不動産事業家でもあるトランプ氏らしい。 

⇒16日(水)朝・金沢の天気     くもり

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☆「イチゴ農家の息子」 会見3213回の忍耐強さ

2020年09月15日 | ⇒ニュース走査

   自民党の新しい総裁に選出された菅義偉氏は官房長官として記者会見に臨んだ回数は3213回に達したと報じられている。長官在職日数は歴代1位であり、会見回数もトップだ(9月14日付・時事通信Web版)。

   官房長官の会見は平日の午前、午後の定例会見と、大規模災害発生時などの臨時会見がある。有名な会見は令和の新元号を発表した2019年4月1日の会見だろう。会見には記者からさまざまな質問が飛ぶ。メディア業界でも有名なのは菅氏の「天敵」とも呼ばれる、ある新聞社の女性記者だ。記者は厳しい質問を繰り返しぶつけると、菅氏は正対せずに「指摘は当たらない」「承知していない」とあしらう。この繰り返しが続く。

    きのうが官房長官として最後の記者会見だった。「BuzzFeed News」(9月14日付)がその会見のコメントを記事として起こしている。最後のコメントだ。「報道陣:かなり質問させていただいたと思うんですが、こうした国民の疑問をですね、長官はどう感じてこられたか。率直な感想を教えてください」「菅氏この記者会見というのはご承知の通り、全く限られた中で10数名の記者の皆さんから様々の質問にお答えをするわけですから、なかなか納得のいくような説明はできないのかなということを常に気になりながら会見をしてきました。現実問題をかなり反映している、そういう質問だったという風に思います。ありがとうございました」。3213回の記者会見、継続はチカラなり。それにしても忍耐強い。

    では、海外のメディアは菅氏のことをどう伝えているのか。BBCニュースWeb版(14日付)=写真=は「Born the son of strawberry farmers, Mr Suga is a veteran politician.」(イチゴ農家の息子として生まれた菅氏はベテランの政治家だ)と紹介し、人柄として「精力的または情熱的な政治家とは見なされてはいないが、非常に効率的で実用的だとの評判がある」と伝えている。しかし、菅氏は、安倍総理の代表的な経済政策である「アベノミクス」を継続すると約束したが、新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックのもとでは、経済不振でさらに苦しむことになるだろうと予想している。

   それにしても、菅氏のことを日本のメディアは「農家の息子」と紹介しているが、BBCは「イチゴ農家の息子」と紹介しているところが、ヨーロッパ風ではある。あす16日の臨時国会で第99代の総理に指名される。

⇒15日(火)午前・金沢の天気   くもり

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★マックス・ウェーバー「資本主義の精神」の紆余曲折

2020年09月14日 | ⇒ドキュメント回廊

   大学で学生たちと雑談していて、「宇野先生が学生時代に読んだ本で一番印象に残っているものは何ですか」と問われたことがある。学生時代は45年以上も前のことだが、それははっきりと覚えていた。「ドイツの社会経済学者マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』だよ」と。学生たちはそのころの小説などを期待していたようだが、「それはどんな本ですか」と意外な返事に形相を変えた。「ゼミで論じ合ったことがきっかけ。でも、社会人になってからもずっと頭から離れなかった」

   この本=写真=は、資本主義はどのようにしてヨーロッパで生まれたのかというテーマを精神的土壌からひも解いていくものだった。プロテスタントの教義は、身分は低くとも自分の仕事に誇りを持って専念しなさいと人々を諭した。これがカルヴァンが説いた予定調和説の「あらかじめ神が決めたこと」だ。一方、カトリック社会では階級序列があり、より高い階級へ上昇できる可能性がある。すると、今の仕事はより高い地位に就くための通過地点にすぎないと考える人々は実入りのよい仕事に目を向け、現状の仕事に専念しなくなる。その結果として生産性は低くなる、とウェーバーは分析したと覚えている。

    こうした「清貧な労働」はその後に変容していく。カルヴァンと同じく予定調和説に立ち「神の見えざる手」として市場原理主義を考えたアダム・スミスは、『国富論』の中で、労働こそ富の源泉とし、それまで富といえば宝石や農産物という考え方を覆した。労働価値というものがあり、貧しい社会が隆盛で幸福であろうはずはないとして高賃金論を展開していく。1776年に『国富論』が出版された当時、賃金が上昇すると労働者が怠慢になるという風潮があったからだ。この時代あたりから、予定調和説と利益追求が一体となって、現在イメージされる資本主義の原型が出来上がった。

   学生たちにここまで話すと、質問が飛んできた。「ITやAIのこの時代に資本主義なんて通用しないのでは」と。確かにそうだ。「東西冷戦」という歴史があり、旧ソビエト連邦が1991年に崩壊し、誰もが資本主義が共産主義に勝ったと信じた時代があった。ところが、2008年にサブプライムローンの破綻によって、アメリカの金融マンや経営者がカジノの胴元のように称され、「カジノ資本主義」や「強欲資本主義」などと資本主義の評価は急落した。おのれの利益追求に暴走し経済が混乱に陥った資本主義の姿だった。

    さらに、資本主義と表裏一体で進んだ産業革命では、生産性や物流を促すために、地下の化石燃料を掘り上げて大気中に二酸化炭素として撒き散らした。それが地球温暖化や気候変動という現象としてクローズアップされている。こう述べると、学生たちから質問が。「マックス・ウェーバーが唱えたプロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神はとても清らかだったと思いますが、その精神はヨーロッパにはもうないのですか」と。「いや、すでにヨ-ロッパでは資本主義の原点回帰が始まっている」

    資本主義を生んだヨーロッパで現在起きていること。アメリカ資本主義を象徴するファストフードのマクドナルドの1号店が1980年代にイタリア・ローマに出来たことが刺激となって、イタリア北部ビエモント州ブラという人口3万人ほどの町で「スローフード運動」の声が上がった。1989年にはパリで国際スローフード協会設立大会が開かれ、スローフード宣言を出している。3つの活動指針がある。「守る:消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、ワイン(酒)を守る」「教える:子供たちを含め、消費者に味の教育を進める」「支える:質のよい素材を提供する小生産者を守る」 である。

    このスローフード運動は食行動の見直しから生きることの見直しへと波紋を広げて、ヨーロッパに広がっている。スローフード運動はいまやスローライフやスローワークへとカタチを変えている。ITやAI、さらに新型コロナウイルスの感染拡大は、資本主義文明の見直しをさらに加速させるだろう。「文明の紆余曲折は続くよ」

   学生たちと30分ほどの雑談だった。そう言えば、今年はマックス・ウェーバーの没後100年に当たる。

⇒14日(月)朝・金沢の天気    くもり時々あめ

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☆これは、解散・総選挙への「地ならし」か

2020年09月13日 | ⇒ニュース走査

   「物議をかもす」という言葉がある。このブログでも時折使う。世の人々の議論を引き起こす、という意味で使っている。このごろの「物議をかもす」ニュースをいくつか。

   麻生副総理兼財務大臣がきょう13日、自民党総裁選を巡り、次期総理の下ですぐに衆院解散・総選挙が行われる可能性があるとの認識を示したと報じられた(9月13日付・共同通信Web版)。新潟県での講演で、次期政権は国民の審判を経ていないと批判されるだろうと指摘した。自身も2008年9月の総理就任後、時を置かずに解散したかったが、リーマン・ショックのためにできなかったと説明し、「タイミングは極めて大事だ」と強調した(同)。

   新型コロナウイルスの感染拡大の中で、自民党の総裁選では政治的な空白が起きないように全国の党員票は割愛して、国会議員票と各県連の票のみで総裁を決めるとの党の方針が決まっている。なのに、党の総裁選で選ばれ就任する次期総理は早々に衆院解散・総選挙に打って出るだろうか。新型コロナウイルスの感染拡が治まらない中で、国民の審判を仰ぐ以前に、国民の納得が得られないだろう。麻生氏の発言は総理経験者として自らの体験を話したまでと言えばそうかもしれないが。

   次期総理の下での衆院解散・総選挙については、河野防衛大臣も今月9日、アメリカのシンクタンク主催のオンライン形式の講演会で、「10月中にはおそらく行われると思う」と述べた(9月10日付・NHKニュースWeb版)。解散権は総理の権限であり、現職閣僚の立場にある人物の発言が物議をかもした。その2日後、河野氏は記者会見で「今後、口を慎むところは慎んでいきたい。言うべき人が言うべきものだと思う」と述べた(9月11日付・同)。

   ところが、政府関係者による衆院解散・総選挙の発言が相次ぐと、雰囲気づくりが意図的に行われているようにも思える。それをさらに裏付けするようなニュースもあった。

   政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会(今月11日)が、11月末までの期限付きで、必要に応じて主催者らが参加者にマスクを配布して全員に着用させるなどの感染防止策を取れば、参加者らが大声を出さない環境が確保できる施設では収容人数いっぱいまでの入場を認めることを了承した(9月12日付・朝日新聞)。これは、うがった見方かもしれないが、全員がマスクをすれば立候補者による選挙集会も可能で、集会場も確保できるとの解釈もできる。

   次期総理の下での総選挙の「地ならし」が着々と進んでいるのか。

⇒13日(日)夜・金沢の天気    くもり時々あめ

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★「スマホ認知症」からどう脱却するか

2020年09月12日 | ⇒ドキュメント回廊

  先日職場の同僚と話しをしていて、「スマホ認知症」という言葉を初めて聞いた。「最近、人の名前や店の名前がなかなか浮かんでこない」とグチをこぼすと、「宇野さんの場合は、スマホ認知症だよ」と笑われた。自らは気にはしていなかったが、スマホと向き合って何かを検索している姿をよく見かけると同僚は指摘してくれた。そこで、PCでこの言葉を調べると、かなり「重症」だと自覚した。

   この症状は、スマホやPCを長い時間使用すると脳機能が低下して、人名が出てこなかったり、物事を思い出せない状態になる、一時的な記憶障害を指す。「デジタル認知症」とも呼ばれ、かつては「依存症」と言っていた。

   これまで、記憶する、思い出すといった能機能の弱まりは加齢によるものだとばかり思っていたが、スマホやPCがそれに拍車をかけているとは認識がなかった。最近、手帳に日時と場所の予定を入れる際、日付を間違って記入したり、訪問先の名前を思い出せなかったりと「重症化」している。大事な会議のうっかり忘れは今のところないが、近い将来は怪しい。

   さらに最近気になるのが寝不足だ。就寝時にベッドに横たわりながら、スマホで最新のニュースをチェックする癖がついている。寝室は消灯にして、スマホのディスプレイの明るさは最低にしている。10分もしないうちに眠りに入るが、2、3時間で目が覚めてしまう。眠れなくなり、またスマホを手に取ってしまう。そのうち、いつの間にか寝入るの繰り返し。このところ、毎日が睡眠不足の状態だ。この原因は、スマホの画面の光(ブルーライト)を浴びるとメラトニンと呼ばれる睡眠ホルモンの分泌量が落ちて寝つきが悪くなるとの説も散見する。起きている間は脳の情報処理能力が落ちて、上記のような事務処理能力にも影響を及ぼす。負のスパイラル、悪循環が続いている。

   それと、PCやスマホで安易にネット検索すると思考能力が弱まるとの説もあるがエビデンスを探すことはできなかった。ただ、言葉の意味を辞典で調べたり、花の名前を図鑑で調べたりすると探究心のようなものがわいてくる。これはPCやスマホでは味わえない感覚だ。 

   こうした「スマホ認知症」や「デジタル認知症」の対策として、最近では「デジタル・デトックス(digital detox)」という言葉も生まれている。デトックスは、医学用語の解毒を意味するデトクスィフィケーション (detoxification)の短縮形で、デジタル・デトックスはスマホやPCなどのデジタル機器の使用を控えて依存症を抑えるという意味のようだ。

           では、自らは「スマホ認知症」からどう脱却すればよいのか。まずは就寝時のスマホ・デトックスから始めてみよう。簡単にスマホを手放すことはできるのか、スマホ中毒に陥ってはいないかと気にはなるが、その結果はまたこのブログで紹介したい。

⇒12日(土)朝・金沢の天気    はれ

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☆ホワイトハウスの請願サイトをチェックすると・・・

2020年09月11日 | ⇒ニュース走査

   ホワイトハウスへの請願サイト「WE the PEOPLE」を久しぶりにチェックした。すると、86万もの署名を集めてトップだったのが、「INDICT & ARREST Moon Jae-in for SMUGGLING the ChinaVirus into the US & ENDANGERING the national security of US & ROK!」(意訳:起訴し逮捕を。ムーン・ジェインはチャイナウイルスをアメリカに密かに持ち込み、アメリカと韓国の国家安全保障を危険にさらしている!)。ムーン・ジェインは韓国大統領の文寅在氏のことだ。2番目は「医療過誤と人道に対する犯罪のため、『ビル&メリンダ・ゲイツ財団』への調査を求める」(署名数65万)だった。

   この請願サイトはオバマ大統領の時代、2011年に開設され当時から「開かれた政府」のシンボルとして注目された。たまに
チェックしているが、過激な請願内容も多い。ただ、ほとんどがアメリカ国内の案件だ。ところが、韓国大統領の弾劾を求めた署名がこれだけ集まるとなると、アメリカにおける韓国への不信感が背景にあるのではないかと推測する。請願の提起者は、韓国愛国市民会議の教授を名乗っている。本文を読むと、最初に、新型コロナウイルスをアメリカに密かに持ち込んだ。2番目に、極東地域におけるアメリカのナンバー1の血盟同盟を不法に奪取して、同盟関係を脅かしている。3番目に北朝鮮や中国と共謀し、インド太平洋地域の地域安全保障を崩壊させるとしている。

   この請願文を読んで思い起こすのは、先月8月29日にグアムのアンダーセン空軍基地で河野防衛大臣とアメリカのエスパー国防長官の会談のことだ。テーマは東シナ海情勢・南シナ海問題、自由で開かれたインド太平洋を維持・強化、北朝鮮のたび重なる弾道ミサイルの発射に関連して経済制裁などの国連安保理決議の完全な履行を求め、引き続き日米が有志国と連携することを確認した(防衛省公式ホームページ)。この会談は北朝鮮問題もテーマとしていたので、本来、日米韓3ヵ国による防衛大臣会談が想定されていた。ところが、韓国側が欠席したため日米会談となった。韓国側は1週間前の22日に中国外交トップの党政治局員と会談し、習近平国家主席の早期訪韓などを確認している。こうした韓国の中国への政治的な配慮がアメリカでも報道され、物議を醸しているのだろう。

   この請願が立ち上がったのはことし4月23日なので、今後さらに米韓関係がこじれてくると署名数は増えてくる。ただ、ホワイトハウスがこの請願を受け入れるかはまったく別次元の話だが、アメリカ政府の意見を聞きたいものだ。

⇒11日(金)朝・金沢の天気    はれ時々くもり

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★「菅1強」、メディアは何を問うのか

2020年09月10日 | ⇒メディア時評

   これを「矛盾」という。アメリカのシンクタンクが日本時間できのう9日夜に開催したオンライン形式の講演会で、河野防衛大臣は衆議院の解散・総選挙の時期について「10月中にはおそらく行われると思う」と述べたと報じられている(9月10日付・NHKニュースWeb版)。自民党の総裁選では政治的な空白が起きないように全国の党員票は割愛して、国会議員票と各県連の票のみで総裁を決めるとの党の方針が決まっている。ところが、総理が決まり、河野氏が言う通りに信任のための総選挙を10月に行うとすれば、総裁選で省かれた党員票を持つ人たちは「これは矛盾だ、詐欺だ」と声を出し始めるのではないだろうか。

   河野氏が指摘するように、信任投票は必要だろう。しかし、新型コロナウイルスの感染拡が治まらない中では、「時期を見計らって、総選挙を」と言えば理解されたはずだ。「10月」と限定したことで、党員どころか、有権者全体から不信感を持たれる。ましてや、解散権は総理の権限だ。現職閣僚の立場にある人物がこのような発言をすることで、政権のガバナンスが問われるのではないだろうか。

   自民党総裁選の告示を受けた共同通信の全国緊急電話世論調査(8、9日実施)が発表されている(9月9日付・共同通信Web版)。次期首相に「誰がふさわしいか」との問いでは、菅氏が50.2%でトップ、石破氏30.9%、岸田氏8.0%と続いた。前回の緊急世論調査(8月29、30日)では候補者は決まっていなかったが、石破氏が34.5%、菅氏14.3%、河野氏13.6%、小泉氏10.1%、岸田氏7.5%だった。この10日余りで石破氏と菅氏の順位が入れ替わり、菅氏は20ポイントの差をつけて、過半数を占めたことになる。調査は電話による聞き取りで固定電話525人、携帯電話530人だった。

   これも共同通信の調査だが、自民党総裁選で1人1票を持つ党所属国会議員394人のうち菅氏を支持する割合は8割。総裁選は県連の141票を合わせると計535票になるが、菅氏の得票は7割に達する勢い。2位争いは岸氏が国会議員票でリードし、石破氏が県連票で強みを見せる展開で両氏が競り合っている(9月9日付・共同通信Web版)。

   どうやら、「菅1強」の様相を呈している。前回のブログでも述べたが、メディアの記者にとって実務肌でスキを見せない菅氏は手強い。コロナ禍で落ち込んだ景気の回復、延期された東京オリンピック・パラリンピックの開催など山積する課題を乗り切るには、この手強さが必要なのかもしれない。逆にメディアは「菅1強」に何をどのように問うのか、試されることになるだろう。

(※写真は2019年4月1日、記者会見で菅官房長官が墨書を掲げて新元号を公表する様子=総理官邸ホームページより)

⇒10日(木)朝・金沢の天気    くもり

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☆番記者が手強さを感じる次の総理は

2020年09月09日 | ⇒ニュース走査

   安倍総理の後継を決める自民党総裁選挙がきのう8日に告示され、石破茂、菅義偉、岸田文雄の3氏が立候補を届け出た。きょうの新聞各紙に党本部での演説会の内容と、その後の共同記者会見の発言要旨が掲載されている=写真=。記者会見の内容を吟味してみる。

   面白いは安倍政権へのそれぞれの評価だ。以下、発言順でコメントは一部を抜粋。菅氏「安倍政権の経済政策は私が引き継ぐ。客観的に見ておかしいことは見直す。文書改ざんは二度と起こしてはならない。謙虚に耳を傾ける」。岸田氏「経済政策や官邸主導、トップダウンで物事を決める姿勢は評価できる。一方で強力な権限は謙虚に使っていく姿勢が大事。説明責任をしっかり果たしていく姿勢は何より大事だ」。石破氏「地方や女性の潜在的な可能性を最大限に引き出すことはまだ不十分だ。森友、加計学園、桜を見る会はどの世論調査でも納得した人が非常に少ない。特定の人が利益を受けることを、政府がやっていいはずがない。要するに、えこひいきがあってはならない」

   菅氏と岸田氏は、いわゆる「モリカケ」問題ではそれぞれ通りいっぺんの回答だが、石破氏は突っ込んだ発言をした。「世論調査でも納得した人が非常に少ない」と。そもそも、石破氏は今回の総裁選そのものに批判的だ。「詐欺のような総裁選はやめるべき」と『週刊朝日』(9月11日号)で述べていた。記事を引用する。「現在、自民党は党員数の拡大を目指して総力を結集していますが、党員を勧誘するときのセールストークは『党員になれば、あなたにも自民党総裁を選ぶ選挙権があります』というもの。自民党総裁を選ぶことは多くの場合、総理大臣を選ぶことに等しい。その投票権があります、というのが一つのウリなんですね。いざとなったら、党員投票はやりませんというのでは、詐欺じゃないかと怒る党員もおられるのではないでしょうか」

   確かに、政治的な空白が起きるので、国会議員票と各県連の票のみで総裁を決めること自体が、「詐欺」に相当するというのは理にかなってはいる。うがった見方だが、石破氏はこのことを言いたいがために立候補したのではないだろうか。記者会見での「えこひいきがあってはならない」と主張しているのも、詐欺発言と文脈が連なるのではないか。

   もう一つ、国会と総理会見についてのそれぞれの発言だ。6月の通常国会の閉会後、2ヵ月半に安倍総理は記者会見を行わなかった。その是非について記者たちは問うた。

   最初に発言したのは石破氏だった。「メディアは国民を代表して聞いている。可能な限り、答えなければいけない。政治の義務だ」。菅氏「首相の国会出席は世界と比べて圧倒的に時間が多い。出席は大事なところに限定すべきだ。そうしないと行政の責任をなかなか果たせない。首相の会見については、官房長官が朝夕2回会見しており、内閣の方針は官房長会が責任をもって説明する」。岸田氏「記者会見は手が挙がらなくなるまで質問に答えるのが大事だ。首相の日程で限界があるのも事実だ。日本の首相の国会への拘束時間は先進国の中で桁外れだ」

   総理への記者会見は、権力者とジャーナリストの真剣勝負の場でもある。問題は、総理に聞くべきことを聞くことではないだろうか。時間の長さや回数の問題ではない。内閣全般のことであるならば、菅氏が述べた通り、「官房長官が朝夕2回会見しており、内閣の方針は官房長会が責任をもって説明する」でよいのではないか。

   ところが、メディアの記者たちはそれだけでは納得しない。総理が何を語ったことだけでなく、言葉や心のブレ、顔の表情、本音など心理的な変化も記者たちは読みたがっている。なので、あえて刺激的な言葉で質問したりする記者もいる。あるいは、国会議事堂や官邸で歩いている総理に「ぶら下がり」で質問をしたりする。上記の3氏の発言を読む限り、記者たちが本音をなかなか探れない人物とは誰か。発言を読んでも分かるように、実務肌の菅氏ではないだろうか。顔の表情を変えず、ブレない発言は石破氏や岸田氏に比べ、突っ込みどころがない。総理番の記者たちはすでに手強さを感じているかもしれない。

⇒9日(水)夜・金沢の天気    あめ

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