自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆サイバー攻撃 中国vs日米の構図

2021年04月20日 | ⇒ニュース走査

   まるで、日米首脳会談が終わるのを待っていたかのようなタイミングだ。警視庁は20日、日本に滞在歴がある中国共産党員でシステムエンジニアの30代の男が、サイバー攻撃に使ったレンタルサーバーを偽名で契約していたとして私電磁的記録不正作出・供用の容疑で書類送検した(4月20日付・NHKニュースWeb版)。2016年からJAXAや防衛関連の企業など、日本のおよそ200に上る研究機関や会社が大規模なサイバー攻撃を受け、警察当局の捜査で、中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊の指示を受けたハッカー集団「Tick」によるものと分かった(同)。

   中国には2017年6月に施行した「国家情報法」がある。11項目にわたる安全(政治、国土、軍事、経済、文化、社会、科学技術、情報、生態系、資源、核)を守るために、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行い、知り得た国家情報活動についての秘密を守らなければならない。国は、国家情報活動に対し支持、援助及び協力を行う個人および組織を保護する」(第7条)としている。端的に言えば、政府や軍から要請があれば、ハッカー集団やファーウェイなど中国企業はハッキングやデータ提供に協力せざるを得なくなる。国民に要請の対象となる。

   この中国の動きを警戒して、アメリカでは2018年8月に「国防権限法」を施行し、中国のハイテク企業5社からアメリカの政府機関が製品を調達するのを2019年8月から禁止している。2020年8月からは、5社の製品を使う各国企業との取引も打ち切るなど徹底している。日本では、警視庁公安部が2017年4月に「サイバー攻撃対策センター」を設置し、専門知識を持った100人が所属していて、主に政府機関や企業などへの海外からのサイバー攻撃について捜査を行っている。今回の中国によるサイバー攻撃の調査も対策センターが追跡していた。

   今回の警視庁の発表は、冒頭で述べた日米首脳会談が終わるの待っていたタイミングだった。共同声明「“U.S. – JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA”(新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ)」では、サイバー攻撃について盛り込んでいる。「We also highlighted the importance of strengthening bilateral cybersecurity and information security, a foundational component of closer defense cooperation, and of safeguarding our technological advantages. (日米両国はまた、より緊密な防衛協力の基礎的な要素である、両国間のサイバーセキュリティおよび情報保全強化並びに両国の技術的優位を守ることの重要性を強調した)」

   アメリカのFBIも、情報通信や宇宙関連の企業から機密データを盗み出したとして、中国のハッカー集団をこれまで複数回起訴している。共同声明を受けて、警視庁はFBIと連携を強化するカタチで中国人民解放軍のサイバー攻撃専門部隊やハッカー集団と対峙していくことになるだろう。尖閣諸島の領海侵入を含め、中国との関係はすでに曲がり角に入っている。

⇒20日(火)午後・金沢の天気   はれ

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★「恩を仇で返す」ような

2021年04月18日 | ⇒ニュース走査

   最近のニュースで「恩を仇で返す」という言葉を思い浮かべたことが2つある。慈しみや施しを受けた相手に対して、相応の礼を尽くすのではなく、逆に相手を攻撃するような態度のことだ。

   秋篠宮家の長女の眞子さまと婚約内定中の小室圭氏が、実母と元婚約者男性の金銭トラブルについて記したA4用紙28枚の文書を発表した(今月8日)。その「小室文書」をメディア各社がネットで上げているので、斜め読みだったが目を通した。目に留まったのは「切実に名誉の問題」とする文面だった。以下「AERA」公式ホームページに掲載されている文書の抜粋。

「どのような理由があろうと、早期解決と引き換えに借金でなかったものが借金であったことにされてしまう事態を受け入れることはできないと考えたからです。借金だったことにされてしまえば、元婚約者の方のおっしゃることが正しかったということになり、私や母は借金を踏み倒そうとしていた人間だったのだということになります。これは、将来の私の家族までもが借金を踏み倒そうとした人間の家族として見られ続けるということを意味します。」「一般的には金銭トラブルと呼ばれていますが、切実に名誉の問題でもありましたし、今でも、同じように受け止めています。」

 

   元婚約者から請求された「400万円」を返済すれば、借金だったとの意味付けになり、「借金を踏み倒そうとした人間の家族として見られ続ける」ことから、これは「名誉の問題」だと記した。かつて生活費を支援してくれた元婚約者への感謝の気持ちというものが文面からは感じられない。

   その象徴的な行為が「隠し録り」だ。2012年9月、元婚約者が婚約破棄にともない金銭に関する要求はしないとの会話を収めた録音データの存在を小室氏は記している。おそらくその後も「隠し録り」を続けていたのだろう。両者が真摯に話し合いの場に持って行けない状況をつくっていたのは小室氏側ではないだろうか。

   そして、「名誉の問題」は4日後に一転する。今月12日付のNHKニュースWeb版によると、小室圭氏の代理人弁護士は12日、報道陣の取材に応じ、母親と元婚約者の男性の金銭問題について、小室氏側が解決金を渡す意向があると明らかにした。なぜ方針転換をしたのだろうか。AERAが9日から12日にかけて実施した緊急アンケート(2万8641人回答)によると、「小室氏は文書によって金銭問題の説明を十分に果たしたか」の問いに94.7%が「十分とは言えない」と回答している。小室文書はむしろ国民の不信感を募らせたのだ。

    もう一つのニュース。東芝の経営再建に功績があった代表執行役社長兼CEOの車谷賜昭氏が任期半ばで辞任した(今月14日付・日経新聞Web版)。東芝は2015年に発覚した不適切な会計処理やアメリカでの原子力事業の失敗で債務超過に陥り、2017年8月には東証1部から2部に降格した。CEOとして白羽の矢が立ったのが、三井住友銀行出身の車谷氏だった。

    辣腕を振るったのは6000億円の増資やNAND型フラッシュメモリー会社「キオクシア」(旧東芝メモリ)の売却だ。そして、今年1月に東証1部に復帰した。3月に入って、いざこざが起きた。昨年7月の定時株主総会で、一部株主の議決権が無効だったとして今年3月の臨時株主総会で、定時株主総会の公正さを調査する議案が採択された(3月18日付・東芝公式ホームペ-ジ)。いわゆるアクティビスト(物言う株主)から企業統治への不信が噴出する事態に陥っていた。本来ならば再建の功労者なのだが。

(※写真は2017年9月3日、眞子さまと小室氏の婚約内定の記者会見=宮内庁公式ホームペ-ジより)

⇒18日(日)午後・金沢の天気     くもり

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☆共同声明で読む「ヨシ」「ジョー」のこれから

2021年04月17日 | ⇒ニュース走査

   アメリカを訪問中の菅総理はホワイトハウスでバイデン大統領と初めて対面での会談を行った。会談後に「“U.S. – JAPAN GLOBAL PARTNERSHIP FOR A NEW ERA”(新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ)」と題する共同声明を発表した。いち早くホワイトハウスの公式ホームページに共同声明が掲載されている=写真・上=。読むと、強烈に中国を意識した内容だ。以下抜粋。

「Together, we oppose any unilateral action that seeks to undermine Japan’s administration of the Senkaku Islands.」(両国は共に、尖閣諸島に対する日本の施政を損おうとするいかなる一方的な行動にも反対する)

「We underscore the importance of peace and stability across the Taiwan Strait and encourage the peaceful resolution of cross-Strait issues. We share serious concerns regarding the human rights situations in Hong Kong and the Xinjiang Uyghur Autonomous Region. 」(両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する)

「The United States and Japan recognize that digital economy and emerging technologies have the potential to transform societies and bring about tremendous economic opportunities. 」(アメリカと日本両国は、デジタル経済および新興技術が社会を変革し、とてつもない経済的機会をもたらす可能性を有していることを認識する)として、生命科学やバイオテクノロジー、AI、宇宙の分野で研究と技術開発で協力する述べている。5Gなどでは中国企業を警戒した内容になってる

「President Biden and Prime Minister Suga affirmed their commitment to the security and openness of 5th generation (5G) wireless networks and concurred that it is important to rely on trustworthy vendors. 」(バイデン大統領と菅総理は、第5世代無線ネットワーク(5G)の安全性および開放性へのコミットメントを確認し、信頼できる事業者に依拠することの重要性について一致した)。

   この共同声明に対して、アメリカのメディアの反応は。CNNのWeb版の見出し=写真・下=。「Biden uses meeting with Japanese Prime Minister to emphasize new focus on China」(バイデンは日本の首相との会談を利用して、中国への新たな焦点を強調している)。アメリカと中国の対峙に日本を巻き込むカタチで新たな争点をあぶりだしている、と好意的な論調だ。

   また、共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記されたことは台湾にとっては画期的なことだろう。共同
通信Web版(17日付)は「台湾外交部(外務省)の欧江安報道官は17日、日米首脳が共同声明にを明記したことに心からの感謝を表明した」と伝えている。

   一方の中国は穏やかではないだろう。時事通信Web版(同)は中国の在アメリカ大使館報道官が共同声明について「強烈な不満と断固とした反対を表明する」との談話を発表し、「台湾、香港、新疆ウイグル自治区に関する問題は中国の内政であり、東・南シナ海は中国の領土主権に関わり、干渉は受け入れられない」と強調した、と報じている。

   日米首脳会談ではテーブルに就いた参加者全員がマスクを、共同記者会見では記者との距離をとってマスクを外して、違和感なく臨んでいた。今回の首脳会談をテレビで視聴していて、菅氏とバイデン氏はなんとなく似た者同士との印象を受けた。前述のCNNの見出しで「use」という動詞を使っているが、まさに互いが使い合う外交スタンスが共同声明からも見えてくる。シンゾー(安倍氏)とドナルド(トランプ氏)の個性的な外交とは違った意味で強力なコンビが組めるのかもしれない。

⇒17日(土)午後・金沢の天気     あめ

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★「ヨシ」「ジョー」外交の初舞台

2021年04月16日 | ⇒ニュース走査

   菅総理は昨夜、アメリカに向け出発した。ホワイトハウスで16日午後(日本時間17日未明)にバイデン大統領と会談する。おそくら会話の中では、男子ゴルフ「マスターズ・トーナメント」で優勝した松山英樹選手のことがホットな話題として出るだろう。「Matsuyama's Masters win will make him 'forever a hero' 」(マスターズ優勝で松山は永遠のヒーローだ)などとバイデン氏は持ち上げるかもしれない。どのような言葉が交わされるのか注目したい。

   これまで日本の総理とアメリカの大統領はギブ・アンド・テイクの関係で親密さを演出してきた。最近の印象では、安倍氏が来日したオバマ氏を東京・銀座のすし店で接待した。オバマ氏は寿司が好物だった。安倍氏のお酌する姿を覚えている。また、安倍氏はトランプ氏とゴルフ外交を重ねた。面白いと思ったの この写真だ。2019年5月26日付で総理官邸のツイッターに公開された。お笑いコンビのような雰囲気で両氏が映っている。千葉県のゴルフ場で自撮りした写真だ。

   親密さの演出は外交に欠かせない。2016年5月にオバマ氏がアメリカ大統領として初めて被爆地・広島を訪れて慰霊し、核兵器廃絶を訴えた。同じ年の12月、今度は安倍氏がハワイのパールハーバーに赴き、日本軍の攻撃による犠牲者を祀るアリゾナ記念館を慰霊訪問した。安倍氏とトランプ氏は2019年9月、ニューヨークでの首脳会談で日米貿易協定の締結にこぎつけた。日本はアメリカの農産物の関税を撤廃、アメリカは日本製自動車などへの追加関税を当面発動しないことで合意した。外交の演出は外務省の努力や根回しもさることながら、為政者のセンスにもよるだろう。その意味で次の外務大臣に安倍氏をとの論調も時折耳にする。

   さて、菅総理とバイデン大統領の外交演出はどのような見せ方になるのか。日米同盟を強化すること、中国の台頭に連携して対処すること、気候変動の問題やサプライチェーン(供給網)など経済安全保障など課題は多々ある。そして何より、「ヨシ」「ジョー」と互いのファーストネームをうまく呼び合えるのかどうか。

⇒16日(金)午後・金沢の天気    はれ

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☆オンラインか対面か、揺れる大学キャンパス

2021年04月15日 | ⇒ニュース走査

          新型コロナウイルスの感染者が急増する大阪府の吉村知事はきのう14日、「学生の感染が増えている」として府内の大学に授業の原則オンライン化を要請する方針を表明したとニュースになっていた。新年度の講義が対面で始まったばかりの各大学では、おそらく大混乱となっているだろう。

   何しろ文科省は対面授業を重視していて、先日(4月9日)萩生田文科大臣は閣議後記者会見で、コロナウイルスの蔓延防止措置が適用された地域の大学であったとしても対面授業の実施を求めると見解を示した。以下、文科省公式ホームペ-ジから会見の内容を要約する。

記者) 昨日(8日)東京都の小池知事が大学にオンライン授業を要請したいとの発言があった。文科省は新年度においては、できる限り対面を拡大してほしいと大学に対して要請してきた。文科省と東京都とで齟齬が生じている。

大臣) 都知事の会見で「大学にオンライン授業の拡大を要請する」との発言があった旨は報道を通じて承知している、文科省としては、これまでも、各大学において十分な感染対策を講じた上での対面授業とオンライン授業とを効果的に実施するなど、学生が安心・納得して学修に専念できる環境を確保するよう求めてきた。大学における感染の事例の多くが、いわゆる、授業中のことではなく、放課後の飲み会や部活動など課外活動において発生していることを踏まえ、そのような感染リスクが高まる場面での注意喚起や感染対策の徹底を求めてきた。ぜひ上手に対面とオンラインのハイブリット型で対応していただくよう各大学にはお願いしたい。

記者) 基本的にこれまで出してきた通知やQ&Aに関して変更する考えはないという理解でよいか。

大臣) 対面授業の再開は歓迎すべきことだ。しかし、感染防止対策を全くやらないで再開ということを望んでいるわけではない。一部の大学では、大教室に詰め詰めの授業が始まっているという報道もある。大学も知恵を出していただきたい。

記者) 蔓延防止措置で、都知事が大学は学生に対してPCR検査もやってほしいというような発言を昨日の会見でしていた。国の考えはどうか。

大臣) その報道は承知していない。PCRをやるやらないは学校の判断だ。国全体として大学生のみにPCR検査を義務付けることは現段階で考えてはいない。

   要は、萩生田大臣とすれば、学生コンパなど課外活動で感染が広がっているのであって、授業の場が原因ではない限り対面授業を中止するのは本末転倒。大学側が学生に適切な指導をすればよい、というのが言い分だろう。記者の質問はある意味で都知事の言葉を代弁しているが、感染拡大が止まらなければ現実問題としてオンライン授業に切り替えるのは当然ではないのか、PCR検査もしてほしいとの主張だ。

   大学はまさに板挟みだろう。「対面とオンラインのハイブリット型」と口で言うのは簡単だが、たとえば、1限目が対面で、2限目がオンライン、3限目が対面となった場合、学生たちはキャンパスでの身の置き方に困る。それだったら、すべてオンラインにしてもらったほうが、自宅やアパ-ト、寮で講義を受けることができる。自身の体験でもあるが、教員は対面授業の方がよい。動画収録でオンライン講義を試みたが、1コマ90分の撮影はNGが出たりと時間がかかった。学生たちのリアクション・ペーパー(感想文)の回収もメールでやり取りをすると手間がかかる。

   オンラインでの授業が主流だった昨年は中退した学生が減少した。文科省公式ホームページによると、2020年4月-12月に大学(短大を含む)を中退した学生は2万8647人だった。前年同期より7369人も減少している。中退の理由は「経済的な困難」19%、「学生生活不適応・修学意欲低下」(18%)となっている。各大学による授業料の納付猶予や減免などで経済的なサポートもあったことが減少の理由かもしれない。ただ、自身は「学生生活不適応・修学意欲低下」が18%もいることに注目したい。割合とすると2019年同時期の調査とほとんど変わらないが、オンラインへの違和感やキャンパスでの学生同士のコミュニケーションが絶たれることがネガティブな心理に働いているのではないかと憶測もする。

(※写真は昨年6月19日に対面講義が再開された金沢大学での図書館のカフェの様子。普段は学生たちがよく集まるが、座席人数も制限されガランとしていた)

⇒15日(木)夜・金沢の天気    くもり

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★震災から5年、熊本城は復旧半ば

2021年04月14日 | ⇒ドキュメント回廊

   5年前の2016年4月14日、熊本地方を震源とする最大震度7の地震が発生した。その28時間後にも再び震度7の地震に見舞われた。その後も震度6弱以上の地震が7回発生した。2度の震度7の揺れで被害を受けた熊本城は天守閣や石垣などが崩れ、被災のシンボルでもあった。震災から6ヵ月後となる10月8日に被災地を訪ねた。

   当時テレビで熊本城の被災の様子が報じられていた。かろうじて「一本足の石垣」で支えられた「飯田丸五階櫓(やぐら)」を見に行った。ところが、石垣が崩れるなどの恐れから城の大部分は立ち入り禁止区域になっていて、見学することはできなかった。ボランティアの腕章を付けた女性がいたので、「被災した熊本城でかろうじて残った縦一列の石垣で支えらた城はどこから見えますか」と尋ねた。すると、「湧々座(わくわくざ)の2階からだったら見えますよ」と丁寧にもその施設に案内までしてくれた。

   「湧々座」は熊本城の近くにある県の施設で、飯田丸五階櫓の様子がよく見えた。応急工事が施されていた。ボランティアの女性の説明によると、櫓の重さは35㌧で、震災後しばらくはその半分の重量を一本足の石垣が支えていた=写真・上、熊本市役所公式ホームページより=。まさに「奇跡の一本石垣」だった。それを高さ10㍍の「コ」の字形の鉄骨の架台で櫓を支え、一本足の石垣の倒壊を防いでいるのだと説明してくれた=写真・下=。湧々座からの見学後、熊本城の周囲をぐるりと一周したが、飯田丸五階櫓だけでなく、あちこちの石垣が崩れ、櫓がいまにも崩れそうになっていた。

   熊本城は築城の名人として知られた加藤清正が慶長12(1607)が築いた。「日本一の名城」は熊本市民の誇りであり、城の復旧は「熊本復興のシンボル」でもある。天守閣が復旧工事を終え、今月26日から内部が一般公開される。しかし、崩れた10万個にもおよぶ石垣を元に戻す作業は時間がかかる。飯田丸五階櫓もようやく石垣部分の積み直しが終わったものの、建物部分はまだ解体されたままとなっている。復旧工事は2037年度まで続く(熊本市役所公式ホームページ)。名城の復旧には時間がかかる。

⇒14日(水)夜・金沢の天気   はれ

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☆広く薄くばらまかれるワクチン

2021年04月13日 | ⇒ニュース走査

   65歳以上のシニアへの新型コロナウイルスのワクチン接種がきのう12日から始まった。自身もその対象なのだが、ニュースを視聴していて期待感どころか、モヤモヤ感がわいてくる。それはなぜか。先行して2月17日から始まった医療従事者への接種は12日までに168万9453回(首相官邸公式ホームページ)とある。ところが、医療従事者は480万人と言われているので、2回打つとなると960万回の接種が必要だ。ということは、接種率は17%にすぎない。

   国のワクチン接種の優先順位は  (1)医療従事者、 (2)高齢者(令和3年度中に65歳に達する人)、 (3)高齢者以外で基礎疾患を有する人や高齢者施設等で従事する人、 (4)それ以外の人となっている(厚労省公式ホームページ)。ワクチンの供給量は限られているので、医療現場に携わる人たちを最優先すべきではないだろうか。

   医療従事者への接種が中途半端なまま、今度は高齢者が対象となった。日本の高齢者は3600万人、7200万回の接種となる。自身が住む石川県ではきょうから接種が始まった。スタートは能登半島の尖端部分にある珠洲市。対象は75歳以上4000人だが、まず接種するのは1500人分。残り2500人は5月下旬以降に接種の見通し(4月14日付・北陸中日新聞)。実は、珠洲市は県内でも感染者ゼロの地域だ。言葉は適切ではないかもしれないが、感染者ゼロ地域にワクチンを回すより、まず医療従事者を優先すべきだ。

   きょう大阪府の新たな感染者が1000人超えと報道されているが、今後東京を含め大都会に感染拡大するであろうことは目に見えている。自身は医療の専門家ではないが、感染症対策としてのワクチンは「選択と集中」が効果を発揮するのであって、広く薄くばらまいても意味はないだろう。大都会での感染を抑えることは地方での感染を抑えることに結果的につながるのではないか。

   逆に、ワクチン供給量が限られているにもかかわらず、なぜ感染者が少ない地方にまで広く薄くばらまくのか。うがった見方かもしれないが、今年の総選挙を意識してのことか。ワクチンは大都会も地方も全県平等に配分せよと政治家たちが裏で動いているのか。「ワクチン担当大臣」は行革担当大臣の河野太郎氏だ。既成概念を突破するリーダーシップを期待しているのだが。ワクチン効果を高めてほしと誰しもが願っている。

(※写真は、ファイザー社のワクチン=同社の公式ホームページより)


⇒13日(水)夜・金沢の天気     くもり

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★「松山」と「松山英樹」の違い 見出し考

2021年04月12日 | ⇒メディア時評

   新型コロナウイルスの感染拡大やそのワクチンの国の対応の遅れや混乱など暗い話題が多い中で、久しぶりに明るいニュースだ。アメリカで行われた男子ゴルフの海外メジャー大会、マスターズ・トーナメントで29歳の松山英樹選手が優勝した。日本の男子選手が、ゴルフの海外メジャー大会で優勝するのは初めて。「松山選手は歴史的な快挙を成し遂げた」と、朝のワイドーショーは大騒ぎだ。

   ということは松山選手の地元・出身地でも大変なことになっているのではと察して、愛媛新聞Web(4月12日付)をチェックすると、「号外」=写真=がPDFで掲載されていた。「松山マスターズV」が主見出しだ。松山選手は愛媛県松山市の出身。地元では「松山の松山」、愛媛県民にとっては身近な存在なのだ。愛媛だけではない。松山選手が明徳義塾高校(高知県須崎市)のときに全国優勝を飾っていて、高知県民ともなじみが深い。高知新聞の速報版も「松山 マスターズ制覇」、そして東北福祉大学(宮城県仙台市)のときにマスターズ・トーナメントにチャレンジして27位、日本人初のベストアマチュアに輝いている。「3・11」の災害復旧ボランティアにもいそしんだと言われる松山選手は、宮城県民にとってもなじみが深いのだろう、河北新報(仙台市)も「松山 マスターズV」と速報版を出している。

   名前は知っていても、なじみのない読者にとって、「松山マスターズV」は違和感があるかもしれない。ちなみに、読売や日経、NHKなど全国メディアのWeb版は「松山英樹、マスターズ優勝」とフルネームで伝えている。

   文字メディアの見出しについての考察なのだが、「松山」と「松山英樹」の違いは地元メディアと全国メディアの編集サイドの感覚の違いなのかもしれない。全国メディアはあくまでもニュースとして伝えている。地元メディアは「松山おめでとう」と心からエールを送っている。そんなふうに感じる。もちろん、東京キー局であれローカル局であれ、テレビ局が生番組で伝える場合は、「松山英樹選手」、二度目からは「松山選手」だろう。決して呼び捨てにはしない。

⇒12日(月)午前 金沢の天気     はれ

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☆庭仕事の愉しみと床の間の風景

2021年04月11日 | ⇒ドキュメント回廊

   きょう11日、金沢の気温は17度まで上がった。これまで肌寒さを感じる「四寒三温」が続いていたが、ようやく春めいた天気となった。午後から庭の「草むしり」に精を出した。雑草は例年、ソメイヨシノの開花ごろから勢いが増す。スギナ、ヨモギ、ヤブカラシ、ドクダミ、チドメグサなどがもう顔を出していた。無心に雑草を抜き取り、落ち葉を掃く。草むしりはまるで雑念を払う修行のようなものだ。 

  作業の途中、松の枝葉がサラサラと音を立て、風が頬をなでた。ドイツの詩人、ヘルマン・ヘッセの詩を思い出した。ヘッセは庭好きだった。庭に関するヘッセの詩やエッセイを集めた『庭仕事の愉しみ』(草思社)の中に、「青春時代の庭」という詩がある。「あの涼しい庭のこずえのざわめきが 私から遠のけば遠のくほど 私はいっそう深く心から耳をすまさずにはいられない その頃よりもずっと美しくひびく歌声に」。庭の梢(こずえ)のざわめきが美しい歌声に響くほどにヘッセは庭をめでたのだ。

   草むしりを終え、心地よかった庭の風を連想して、床の間に『閑坐聴松風』の掛け軸を出してみた=写真=。「かんざして しょうふうをきく」と読む。静かに心落ち着かせて坐り、松林を通り抜ける風の音を聴く。茶席によくこの軸け物が掛かる。釜の湯がシュン、シュンと煮えたぎる音を「松風」と称したりする。花は庭のリキュウバイ(利休梅)とフクジュソウ(福寿草)を生けた。日曜日の静かな午後の愉しみでもある。

⇒11日(日)夜・金沢の天気      はれ

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★「教師は聖職」揺らぐ信頼

2021年04月10日 | ⇒ニュース走査

    半世紀ほど前、教育論をめぐる議論が政界であった。田中角栄が人とモノの流れを巨大都市からに地方に分散させると著書『日本列島改造論』でぶち上げ、1972年に総理の座に就いた。列島改造ブームによる高度成長で民間給与は上昇した。一方で労働運動も高まり、社会党と日教組は教師は労働者であり、労働に正当な評価と報酬を堂々と要求すればよいと組織を拡大した。これに対し、田中内閣は「教師は聖職だ」と述べて真っ向から対立し、教師の給与改善で日教組の切り崩しを図った。

   その後も教師の聖職論をめぐっては議論が続くことになる。教育現場の多忙さから、教師は教育的な仕事のみに専念できるようにすべきという「本務論」が出る。すると、本務以外に雑務労働を設けることは職業における差別構造をもたらすといった議論が起きる。さらに、教師は聖職であり労働者でもあるという「教育専門家」の定義づけも出てきた。今でも自民党は教師を聖職、社民党は労働者、共産党は教育専門家とそれぞれ違った教師像を描いている。

   ただ、社会的な目線はやはり「聖職」なのかもしれない。これは自身が感じたことだ。2005年にそれまでの民放テレビ局を辞して、金沢大学で職を得た。当初は地域ニーズと大学の研究シーズをマッチィングする「地域連携コーディネーター」という職だった。その後、「特任教授」に任命され、講義を担当すると、途端に「先生」と呼ばれるようになった。民間企業で働いていた身とすると、「先生」と呼ばれこそばゆい思いをしたのものだ。そして、「先生」に資する振る舞いや言葉遣い、教育的な指導をしなければならないと自覚するようなった。「先生」という言葉には社会の期待感が込められていると実感した。

   きょう述べようとした考察から大幅にずれた。読売新聞Web版(4月10日付)によると、教員による児童生徒らへのわいせつ行為が後を絶たない中、文部科学省は9日、SNSの私的なやりとりの禁止や密室状態での指導の回避などの「対応指針」をまとめ、全国の教育委員会に通知した。通知では、通信アプリ「LINE」などで私的なやりとりを交わしているうちに親密になり、わいせつな行為に及ぶケースが多いとして、教員と児童生徒のSNSの私的なやりとりの禁止を明確化するよう各教委に求めた。

   教師と生徒のLINEさえも禁止される事態。2018年度の公立学校(小中高校)の教職員によるわいせつ行為・セクハラによる懲戒処分の件数は過去最多の282人となった(文科省公式ホームページ)。これは、保護者や本人から学校や教委、警察に申し立てがあって発覚したものだ。言い出せない、あるいは秘されているケースは一体どれほどあるだろうか。

   また、行為は「ホテル・自宅・自家用車」といった校舎外だけではなく、使われなくなった「空き教室」など校舎内でのケースも目立つ。職場での行為だ。ほとんどが男性教員によるものだが、このような事態が続けば教師という職業そのものの信頼性が揺らぐ。いや、もう揺らいでいる。

   国はどのような対策を取るべきなのか。厳罰による「抑止効果」しかないだろう。文科省はこの4月から懲戒免職となった教員について、「18歳未満や児童生徒に対するわいせつ行為」「それ以外のわいせつ行為」「交通違反や交通事故」「職務に関連した違法行為」「その他」の5つに分類し、氏名を官報に記載する新制度を始めている。今回の指針では、懲戒処分歴を隠して応募することがないよう、処分歴の記載のある応募書類の作成を各教委に指示。さらに、処分前に依願退職させないことも盛り込んでいる(4月10日付・読売新聞Web版)。

   文科省はわいせつ行為・セクハラを絶対に許さないという「強硬姿勢」をかざすしかないだろう。聖職たるもの、情けない話ではある。

⇒10日(土)午後・金沢の天気      はれ

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