自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆タリバンの容赦ないジャーナリスト狩り

2021年08月21日 | ⇒メディア時評

    実にいたましい記事だ。そして、この記事の写真を見るとタリバンは獲物を狙う「山賊」のようにも見える。ドイツ国際放送「Deutsche Welle」(DW)は19日、アフガニスタン国籍の同社記者の家族がタリバンによって射殺されたと報じている=写真=。記事は、「Journalists and their families are in grave danger in Afghanistan. The Taliban have no compunction about carrying out targeted killings as the case of a DW journalist shows.」(意訳:アフガンではジャーナリストとその家族が重大な危険にさらされている。DWのジャーナリストのケースが示すように、タリバンは標的を絞って殺害を実行し、そこには何らの妥協もない)と報じている。

   DW記事によると、射殺されたのは「ストリンガー」と呼ばれる、アフガンで採用された現地記者の家族だ。記者はドイツの本社に来ていた。タリバンはその記者を探して家から家へ捜索を行っていた。家族を探し出して、射殺した。以下憶測だが、記者がドイツの本社にいることを家族から聞いて、見せしめに家族を射殺したのだろう。もともと記者本人を殺害するために探していた。

   タリバンによる「ジャーナリスト狩り」はこれだけではない。記事によると、アフガンの民間テレビ局ガルガシュトテレビの記者はタリバンに誘拐され、民間ラジオ局パクティア・ガグラジオの責任者は射殺されている。ドイツの週刊ニュース紙「Die Zeit」に投稿していた翻訳者が今月に入って射殺されている。そして、世界的にも有名なインドの写真家のデニッシュ・シディキ氏(ピューリッツァー賞受賞者、ロイター通信写真記者)が7月16日にカンダハルで武装勢力によって殺害されている。

   ドイツジャーナリスト協会(DJV)は、欧米のメディアで働いているストリンガーの家族が殺害されたことを受けて、「同僚が迫害され、殺害されている間、ドイツはぼんやりと立っていてはならない」と声明を発表して、ドイツ政府に迅速な行動を取るように求めている。また、国際ジャーナリストのNGO「国境なき記者団(RSF)」は国連安全保障理事会に対し、アフガンにおけるジャーナリストへの危険な状況に対処するための非公式の特別セッションを開催するよう要請した。

   では、なぜ、タリバンがジャーナリスト狩りを行っているのか。イスラム原理主義のタリバンが目指すところは、最高意思決定機関を据えた政教一致の体制だろう。ところが、世界のジャーナリストは権力への監視という重要な役割を担っていると自負している。タリバンにとっては、政権批判は忌み嫌う欧米の文化と映るのだろう。「山狩り」のように徹底したジャーナリストの排除を狙っているのではないだろうか。

⇒21日(土)午後・金沢の天気      くもり時々あめ

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★河野太郎氏と「ブースター」の因縁

2021年08月20日 | ⇒トピック往来

   「ブースター(booster)」という言葉をこのブログで何度か使っている。英語のboostは「押し上げる」や「強化する」といった意味合いで幅広く使う。日本でのブースターはアンテナや機械の増幅装置を指す言葉として使っている。このブログでキーワードになったこともある。2020年6月26日付「☆北の弾道ミサイル、能登沖200㌔落下から3年」の記述は以下。

「今月15日に河野防衛大臣が地上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』の配備計画を撤回すると表明してから10日余りが経った。その理由は最初よく理解できなかったが、ミサイルの『ブースター』と呼ばれる推進補助装置を基地内で落下させる想定だったが、基地の外に落下する可能性もあり、設備に大幅な改修と追加コストが必須となることから撤回に踏み切ったと報道各社が報じている。」

   北朝鮮のミサイルが日本海めがけて発射されていて、山口県の自衛隊演習場にイージス・アショアの配備計画が進んでいた。しかし、防衛大臣だった河野太郎氏はミサイルのブースターが演習場外に落ちる可能性があり、周辺住民に被害が出る可能性もあり、導入を断念せざるをえなかった。その河野氏は菅内閣では行政改革担当大臣、ならびに「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当大臣」に任命されている。そして、河野氏は再び「ブースター」を口にすることになる。

   すでにイスラエルなど始まっている新型コロナウイルスの3回目のワクチン接種。アメリカではバイデン大統領が2回目の接種を終えてから8ヵ月経った人に対し、9月20日から3回目の接種を行う方針を明らかにした(8月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカでは3回目接種を「booster shot」と称している。追加接種の意味だ。

   そして、河野大臣も19日開かれた参議院内閣委員会で「ブースター接種が必要かどうかは厚生労働省の判断を待たなければならないが」と述べて、新型コロナの治療に当たる医療従事者に必要となれば対応できるよう準備している答弁した(同・TBSニュースWeb版)。ブースター接種を日本でも始めることを示唆している。
 
   ただ、追加接種には異論が起きている。WHOのテドロス事務局長は今月18日の記者会見でブースター接種を批判している。「The divide between the haves and have nots will only grow larger if manufacturers and leaders prioritise booster shots over supply to low- and middle-income countries.」。ワクチン接種を国民の75%に施した国は10ヵ国で、低所得国はかろうじて2%の接種に過ぎない。メーカーとリーダーが低所得国と中所得国への供給よりもブースターショットを優先すれば、持っている人と持っていない人の間の格差はさらに大きくなる、と。

   テドロス氏は、ブースター接種に有効性について、これまで得られているデータでは科学的な根拠はないとの認識を示している。また、相互接続された世界に住んでいる人類にとって、「ワクチンナショナリズム」にとらわれることは無意味だとも述べている。WHOは途上国でのワクチン接種を進めるため、9月末までは追加接種を行わないよう各国に呼びかけている。

   河野氏は「3回目の接種が必要かどうかは厚生労働省の判断を待つ」としながらも、国内で2回接種は全体の39%とまだ半数に満たない(8月19日公表・総理官邸公式ホームページ)。さらに、「多様性と調和」をテーマに東京オリンピック・パラリンピックを開催している日本が「ワクチンナショナリズム」と名指しされるのも不本意だろう。では、どの段階で、ブースター接種を打ち出せばよいのか。場面は異なるが、2度「ブースター」という言葉を発することになった河野氏の心境を聞いてみたいものだ。(※写真はワクチン接種を受ける河野太郎氏=同氏ツイッターより) 

⇒20日(金)午前・金沢の天気      はれ後くもり
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☆アフガン政変で見えたアメリカのドライなリセット

2021年08月19日 | ⇒ニュース走査

   アフガニスタンにおける政変で、クローズアップされているのが「自主防衛」という言葉ではないだろうか。アメリカにとって、アフガンは「保護国」であって同盟国ではない。なので、アメリカはトランプ政権下の2020年2月、タリバンとの和平交渉で「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」で合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

   では、タリバンが一方的に合意を破って首都カブールに進攻したのであれば、アメリカは駐留軍撤退の合意を破棄すべきではないか、との世界の論調も高まるだろう。現に、アメリカ世論は揺れている。ロイター通信はタリバンが首都カブールを制圧した後の16日に実施した世論調査を17日に公表した。バイデン大統領への支持率は46%で、先週の53%から7ポイント低下し、1月の就任後で最低を記録した(8月18日付・時事通信Web版)。一方で、アメリカのイプソス社が16日に行った世論調査では、アフガン駐留軍の完全撤収の判断には、61%が支持すると回答した。野党・共和党支持者に限っても支持(48%)が不支持(39%)を上回った(同・読売新聞Web版)。

   アメリカの世論がこれほど動くのも、歴代政権が支援してきたアフガンの民主政権を守れなかったのではないかとの国民の評価が分かれ、一方で、アメリカ軍と協力するはずの民主政権の「自主防衛」の有り様が問われた。このニュースは世界中に流れた。ロシア通信は16日、アフガンのガニ大統領が、車4台とヘリコプターに現金を詰め込んで同国を脱出したと伝えた。在アフガニスタンのロシア大使館広報官の話としている(同・共同通信Web版)。多額の現金に関してはフェイクニュースとの見方があるものの、軍の総司令官でもある大統領が抵抗勢力と戦わずして高跳びしたことは事実である。言うならば「無血開城」。これでは、アメリカ軍も手出しようがない。

   このアフガンの事態を見て、緊張しているのは台湾だろう。アメリカと台湾は1954年に「相互防衛条約」を締結し強固な同盟関係を結んだ。しかし、1979年のアメリカと中国の国交樹立を機に翌年1980年に条約は失効し、アメリカ軍の司令部や駐留軍は台湾から撤退した。ただ、アメリカは中国との軍事バランスの見地から、1979年にアメリカの国内法である「台湾関係法」を制定し、有事の際は日本やフィリピンのアメリカ軍基地からの軍隊の派遣を定めている。その代わりに台湾はアメリカから武器を購入するという、「柔らかな同盟」だ。

   今回のアフガンの政変で台湾側は危機感を持った。NHKニュースWeb版(8月18日付)によると、蔡英文総統は18日、与党・民進党のオンライン会議で「台湾の唯一の選択肢は、より強大になり、より団結し、よりしっかりと自主防衛することだ。自分が何もせず、ただ人に頼ることを選んではいけない」と述べた。そして、民主と自由の価値を堅持し、国際社会で台湾の存在意義を高めることが重要だと強調した。

   蔡氏があえて「自主防衛」を持ち出したのは、台湾をアフガンの二の舞にしてはならないという確固たる決意の表れだ。一方で、中国は今回のアフガンのように民主政権ならば何が何でも守るというスタンスではないアメリカのドライな一面を理解した。今後、中国は台湾海峡での海上封鎖といった緊張状態を仕掛けて、あるいは融和策を台湾に持ち掛けて、アメリカの出方をうかがうのではないか。その上で、アメリカ世論の動向も読みながら、「柔らかな同盟」を踏みつぶしにかかってくる。裏読みではある。 (※写真は、The White House公式ホームページより)

⇒19日(木)午後・金沢の天気   くもり時々あめ

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★「冥府魔道」タリバンの行く道

2021年08月18日 | ⇒メディア時評

   アフガニスタンの政権を奪還したタリバンについて、メディアによって頭につける説明が異なる。読売新聞は16日付の紙面までは「旧支配勢力 タリバン」と表現していたが、17日付からは「イスラム主義勢力 タリバン」と。朝日新聞も18日付の紙面では「イスラム主義勢力 タリバン」と表現しているが、17日付までは「反政府勢力 タリバーン」としていた。18日付一面の「おことわり」で名称を「タリバーン」から「タリバン」に変更したとしている。イギリスのBBCは一貫して「militants」、武装勢力と表現している。

   ところが、見落としもあるかもしれないが、アメリカのニューヨーク・タイムズやCNNは「タリバン」と名称だけで記事にしている。「説明をつけるまでもない、あのタリバンが」と言っているようでむしろ迫力がある。2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件で、ブッシュ大統領はタリバンが首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難して、アフガンへの空爆を始めた。アメリカにとって、「テロの温床」タリバンのイメージは20年経った今も変わっていないのだろう。

   同じ20年前の2001年3月、タリバンはバーミヤンの巨大石仏を爆破した。1400年以上前の仏教文化を伝え、日本では歴史教科書でも紹介されていた貴重な遺跡だっただけに破壊は衝撃的だった。なぜ、タリバンは巨大石仏を破壊したのか。当時タリバンのスポークスマンといわれたアブドゥル・サラム・ザイーフ氏の回想録がAFP通信Web版日本語(2010年2月26日付)の記事で紹介されている。以下引用。   

「回顧録によると、タリバンがバーミヤン石仏を破壊しようとしていた2001年、日本は破壊をやめさせようと最も熱心に働きかけてきた国だった。スリランカの僧侶らを伴ってザイーフ氏を訪れた日本の公式代表団は、石仏を解体して海外に移送し再度組み立てる案や、石仏の頭からつま先まですっかり隠してその存在を視認できないようにするなどの保存策を提案したという。

 代表団は、アフガニスタン人は仏教徒の先祖にあたり、仏教遺産を守る責任があると説いたが、ザイーフ氏はアフガン人にとって仏教は『空虚な宗教』だと返答。『われわれを先祖と見なし従ってきたのなら、われわれがイスラム教という真の宗教を見つけたときに、なぜその例に従わなかったのか』と反問し、イスラム教への改宗を暗に迫ったという。」

   タリバンが今でも「イスラム教を真の宗教」とし、仏教のことを「空虚な宗教」とさげすんでいるのであれば、再度バーミヤンの爆破に及ぶかもしれない。そして、次の政府に議会があるのか、ないのか。さらに、アフガンで2009年に制定された「女性に対する暴力排除法」は法として守られるのかどうか。何の公約もなく、武力で政権を勝ち取った勢力に何が期待できるのだろうか。「テロの温床」だけにはなってほしくない。

(※写真は、「暴力的な歴史があるがゆえにタリバンの公約は曇って見える」と伝える8月17日付・ニューヨーク・タイムズWeb版)

⇒18日(水)午後・金沢の天気    くもり

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☆アフガニスタンとオリンピック

2021年08月17日 | ⇒ニュース走査

   「アフガニスタン」で思い起こすのは、1980年のモスクワオリンピックだ。1979年、イスラム原理主義が勢力を伸ばしていたアフガニスタンで、当時のソ連のコントロールのもとにあった政権があやしくなってきた。そこでソ連のブレジネフ書記長は政権を支えるために同年12月に大規模な軍事介入に踏み切った。いわゆる「アフガン侵攻」だ。このアフガン侵攻は西側に衝撃を与え、モスクワオリンピックを日本を含む西側諸国がボイコットする事態にまで展開した。

   それでもアフガンに駐留を続けるソ連を、1981年に就任したアメリカのレーガン大統領は「悪の帝国」と名指しで非難した。その後、アメリカがアフガンに介入したのは、2001年9月11日のニューヨークでの同時多発テロ事件だった。ブッシュ大統領はアフガンで政権を握っていたタリバンが、テロ事件の首謀者のオサマ・ビン・ラディンをかくまっていると非難。10月にはアメリカ主導の有志連合軍がアフガンへの空爆を始め、タリバン政権は崩壊。大規模な捜索にもかかわらず、ビン・ラディンを捕捉できなかった。10年後の2011年5月2日、隣国パキスタンに逃げ込んでいたビン・ラディンの潜伏先をアメリカ軍特殊部隊が探し出して殺害している。

   この時点でアメリカ軍がアフガンに駐留する大義はなくなった。オバマ大統領はビン・ラディン斬首作戦の後の9月、10年間で3兆㌦の財政赤字を削減する方針を打ち出し、アフガンやイラクからのアメリカ軍撤退によって軍事費を1兆1千億㌦削減すると示していた。さらに、トランプ政権下の2020年2月、アメリカとタリバンによる、「アメリカは駐留軍撤退」「タリバンは武力行使を縮小」との和平交渉が合意。そして、バイデン大統領は今年4月に同時多発テロ事件から20年の節目にあたる「9月11日」まで完全撤退すると表明していた(4月14日付・BBCニュースWeb版日本語)。

          ところが今月に入り、アメリカとタリバンによる和平合意とは裏腹に事態は一変する。タリバンは首都カブールに進攻し、日本時間の16日朝、政府に対する勝利を宣言した。一方、2014年から政権を担ってきたガニ大統領は出国し、政権は事実上、崩壊した(8月16日付・NHKニュースWeb版)。

   では、タリバンによって合意が破られたとして、アメリカは駐留軍を継続するだろうか。以下は憶測だ。バイデン氏は予定通り「9月11日」までに完全撤退を終えるだろう。アメリカの国益にならないアフガンの国内紛争に駐留軍を無期限に留めることに意義を感じてはいないだろう。ましてや、政権を担ってきた大統領はすでに国外に高跳びしている。

    この隙間を狙って、タリバンとの友好関係をいち早く築こうとしているのが中国だ。BloombergニュースWeb版日本語(8月17日付)によると、王毅外相はタリバンが当時のガニ政権への攻勢を強めていた先月下旬、天津市でタリバン代表団と会談。王外相は、タリバンがアフガン統治で「重要な役割」を果たすことが期待されていると表明した。

   憶測だが、中国はイスラム教徒の少数民族ウイグル族が多く住む新疆ウイグル自治区での監視を強化している。アフガンと新疆ウイグル自治区は隣接している。タリバンによる「イスラム首長国」の国名変更を後押しすることを条件に、ウイグル自治区には手を出さないようにとの約束を交わしているのかもしれない。いずれにしても、中国はこれからのアフガンの後ろ盾を狙っている。

   テロや女性への抑圧を支持し世界から長らく疎外されてきたタリバンを「国」として認めることができるかどうか。おそらく、アメリカはいったんアフガンとは離れて、国としては認めないだろう。中国に同調する立場、アメリカに同調する立場、今後アフガン問題がこじれると北京オリンピックのボイコットへと発展するのかもしれない。歴史は繰り返す。

(※写真は、国外退避を求め、離陸しようとするアメリカ軍機に乗り込もうとする人々。カブールの空港で=CNNニュースWeb版)

⇒17日(火)午後・金沢の天気     あめ

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★「失われゆくモノ」に見出す新たな芸術価値

2021年08月16日 | ⇒トピック往来

   あと3週間で「奥能登国際芸術祭2020+」(9月4日-10月24日)が石川県珠洲市で開幕する。16の国と地域から53組の芸術家たちが参加する。ローカルメディアによると、現場ではすでにアーティスト・イン・レジデンスによる作品づくりが市民も巻き込んで盛り上がっている。

   自身も開幕の日から現地に赴き芸術の秋を堪能することにしている。楽しみにしているのは「大蔵ざらえプロジェクト」。能登半島の先端に位置する珠洲市は古来より陸や海の交易が盛んだった。珠洲にもたらされた当時の貴重な文物は、時代とともに使われる機会が減り、多くが家の蔵に保管されたままになり忘れ去れたものも数多くある。市民の協力を得て蔵ざらえした文物をアーティストと専門家が関わり、博物館と劇場が一体化した劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」が新たに開設される。芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏のアイデアで、「失われゆくモノから新たな社会共通資本をつくろう」と新たなアートの可能性を創造する。

          大蔵ざらえで回収された文物は日用品のほか、農具や漁具、膳や椀、キリコ灯籠、屏風や掛け軸など、まさに行き場のなくなったモノが美術や民俗、人類学、歴史学などに分類される。さらに、アーティストたちの手が施されることによって、現在から数百年余り昔への時間の旅、そして海を越えてつながる各地の風景を感じさせる旅へと誘ってくれること楽しみにしている。「スズ・シアター・ミュージアム」そのものも廃校となった小学校を活用している。

   ただ心配しているのは、このところ続いている地震だ。14日午後10時38分ごろ、能登半島の先端東側を震源とするマグニチュード4.1の地震が発生し、珠洲市で震度3の揺れを観測している。この地域では7月に地震活動が活発になり、7月11日には最大震度4が観測されている(15日付・ウエザーニュース公式ホームページ)。アーティストが丹精込めて制作した作品群に被害が及ぶのではないかと、芸術祭ファンの一人として気がかりではある。

(※写真は「海揚がりの珠洲焼」。珠洲は室町時代にかけて中世日本を代表する焼き物の産地だった。各地へ船で運ぶ際に船が難破。海底に眠っていた壺やかめが漁船の底引き網に引っ掛かり、幻の古陶が時を超えて揚がってくることがある=「奥能登国際芸術祭2020+」公式ホームページより)

⇒16日(月)午前・金沢の天気     くもり

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☆気象情報 言葉が複雑化している 

2021年08月15日 | ⇒メディア時評

   「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものだ。きょうの金沢の最高気温は27度で夏日だったものの、夕方からは涼しさを感じるようになった。と言うと、「随分のんきなことを」としかられるかもしれない。九州北部や中国地方を中心に記録的な大雨となっている。11日からの降り始めの雨量は佐賀県嬉野市で1000㍉を超え、8月の平年の雨量(277㍉)の3倍以上の雨量となった(15日付・気象庁公式ホームページ)。石川県内でも宝達志水町では12日午前2時の降り始めから15日午前5時までに降水量が311㍉となり、8月の平年の雨量を上回り、観測史上最大となった(同・金沢地方気象台公式ホームページ)。

         この記録的な大雨で、堤防の決壊や越水など9県の36河川で氾濫が発生。鉄道や道路も被害が相次いでいる。土砂災害は15府県で44件が発生していて、都道府県別件数(15日正午現在)では、長崎11、広島7、熊本5、佐賀4、富山、福岡各3、石川、鹿児島各2、福島、長野、岐阜、静岡、滋賀、京都、大阪各1などとなっている。さらに増える見通し(国土交通省公式ホームページ「プレスリリース」)。

             これまでの雨のイメージとはまったく異なる強い雨や雨量、そして、「線状降水帯」といった帯状に連なる積乱雲など、気象庁から発表される気象情報のレベルが一気にアップしている。その分、国民や視聴者にはとても分かりにくくなっている。たとえば、きょう午前中に民放テレビが報じていた。「気象庁は午前10時7分、神奈川県山北町に記録的短時間大雨情報を発表しました。この情報が発表された地域では、災害の発生に結びつくような猛烈な雨が降っています。ただちに身の安全を確保してください」(15日付・TBSニュース)。「記録的短時間大雨情報」とあるが、「顕著な大雨に関する情報」や「大雨警報」はどう違うのか。

    これだけではない「警報」と「特別警報」の違いや、「氾濫危険情報」と「氾濫警戒情報」の違いを国民、視聴者はどれほど理解しているだろうか。単なる気象情報ではなく、防災情報を含めているので、言葉の複雑化が生じているのだろう。ただ、情報は流せばよいというものではない。言葉の分かりやすさが人々にいち早く訴える。「大雨洪水警報」、これで十分伝わるのではないか。(※写真は日本気象協会の天気予報専門サイト「tenki.jp」より)

⇒15日(日)夜・金沢の天気      くもり時々はれ

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★「つづれ米」と米食い虫の話

2021年08月13日 | ⇒トピック往来

   「つづれ米」という言葉を初めて知った。自宅のガレージに置いていた米袋にガのような虫が群がっていた。さらに袋を開くと玄米に無数の虫が繁殖していた。毎日のようにガレージを出入りしていたが、一気に虫が繁殖したようだ。袋の底には玄米がまだ10㌔ほどある。袋ごと処分しようかとも考えたが、いただいた米でもあるのと「もったいない」の気持ちが心をよぎって、まず虫を除けることから始めた。

   米作りに詳しい知人にメールで処理の仕方を尋ねると、「つづれ米ですね。まず、ムシを除去して天日で乾燥してください」との返信だった。このとき、初めて「つづれ米」という言葉を知った次第。「綴(つづ)れ」は 破れ布をつぎ合わせた古着のことで、生まれ育った奥能登ではかつて農作業などでおじさんやおばさんたちが着ていたことを思い出した。 確かに虫がいる玄米の表面を見ると米が一部変色していて、糸でつながっているような「つづれ」に見える。

   米粒を通すほどの荒い目の金網と通さない細か目の金網の2種を近くの「カーマホームセンター」で購入。ポリバケツの上に金網を乗せて、その上から虫のついた玄米を注ぎ込む。虫は数種類いる。ガはパッと飛び散り、クワガタのような黒い虫は逃げ回っている。インターネットなどで調べると、ガのようなものは「ノシメマダラメイガ」、クワガタのようなものは「コクゾウムシ」、別名「米食い虫」と言うようだ。変色した米粒が白い糸のようなものでつながっているのは、ノシメマダラメイガのサナギが出す分泌物という。(※写真・左がノシメマダラメイガ、右がコクゾウムシ=「Wikipedia」より)

   金網でこした玄米を今度は広げた新聞紙の上で天日干しにする。ムシやサナギはなんとか除去できたが、おそらく米粒の間には卵もあるだろう。3時間ほど天日で乾かした後、今度は米粒を通さない目の細かな金網で干した玄米をふるう。卵だろうか、白い粉のようなものがパラパラと落ちてくる。そして、ふるった玄米を別のポリバケツに入れて、なんとか作業は完了した。

   玄米ご飯を食べるために精米せずに玄米のまま米袋に入れておいた。まさか、虫がつくとは思ってもいなかったのが甘かった。せめて袋の口をヒモでしっかり結ぶなどしておけばよかった。ボリバケツの中を乾燥させるため玄米の上に木炭を置いて、フタをする。なんと一日がかりの「つづれ米」作業となった。

⇒13日(金)午前・金沢の天気     あめ

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☆ワクチン接種完了もコロナ禍との戦いは尽きず

2021年08月12日 | ⇒ドキュメント回廊

   石川県内の新型コロナウイルスの感染者で、感染力が強いとされる「デルタ株」の占める割合が今月に入り74.9%になった(石川県公式ホームページ「新型コロナウイルス」)。それにともなって、若年層(19歳から30歳)向けに県が開設した大規模ワクチン接種センターの新規予約が、国からのワクチンの供給が滞り、一時停止されたと報道されている。ワクチンはモデルナ社製だが、世界的に需要が高まり、供給がひっ迫している。

   ただ、ワクチンを接種したからといって安心できるだろうか。自身は7月18日に2回目のワクチン接種を終え、今月4日に抗体検査をした。ファイザー製ワクチンは、発症予防効果は95%とされているものの、効果には個人差があると言われている。自身の場合、ワクチン接種後の副反応がなかったため、本当に抗体ができたのかどうか、数値で調べてみたいと抗体検査を思い立った。接種を受けた金沢市内の病院で採血、その血液は検査機関で分析された。保険適用外で税込み6000円。きのう結果が書面で届いた。

   検査の項目名称は「SARS-CoV-2 抗S抗体定量 」。説明書などによると、ワクチンを打つと、スパイクタンパク質(Sタンパク質)の抗体を獲得する。Sタンパク質はコロナウイルスのトゲトゲの部分だ。このトゲトゲの構造に人体の免疫系が強く反応することで、ウイルスの感染に対する抵抗力、つまり抗体が獲得できる。その抗体獲得を示す抗体値が「定量」として示されている。結果は定量が「778.00 U/mL」で、判定は「陽性(+)」と書かれてあった。基準値は「0.80未満」が陰性の判定なので、数字的には大きく超えている。ひとまず安心したが、それにしても「陽性」という表現が釈然としない。ほかに適切な言葉がないものか。

   検査結果の書面を見て、接種後2週間余りでどのくらいの抗体値ができるものなのか、その中央値が知りたくなり、病院に電話で問い合わせた。すると、検査担当者は、「日本ではそのデータはまだない」とつれない返事だった。もう一つ質問した。接種してから日数が経過すると抗体値が減少するので、ファイザー製ワクチンを使用したイスラエルでは接種後5ヵ月経った60歳以上に3回目の接種を行っている。日本ではいつから3回目接種を行うのか、と。返事はこうだった。「抗体値が減少していても、感染源に触れると抗体は増加するものだ。また、3回目接種に関しては政府の方針が定まっていない」と。

   ワクチン接種を終えたからといってコロナとの戦いは終わったわけではない。この戦いはさらに続く。(※写真はファイザー社のワクチン=同社の公式ホームページより)

⇒12日(木)午後・金沢の天気     くもり

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★問われているのは企業のガバナンス

2021年08月11日 | ⇒メディア時評

   けさテレビ朝日の番組「羽鳥慎一モーニングショー」を視聴した。コロナ禍の緊急事態宣言下で、テレビ朝日のオリンピック番組を担当したスポーツ局の社員や外部スタッフ10人が閉会式後から9日未明まで打ち上げ宴会を行い、そのうちの社員1人が店外に転落し、救急搬送された問題。リモートで出演中だったコメンテーターの玉川徹氏が「テレビ朝日の社員として謝罪を申し上げます」と頭を下げ、調査委員会をつくって不祥事の原因を徹底的に究明すべきだと訴えていた=写真・上=。ただ、個人的には違和感があった。

   3月に厚労省老健局の職員23人が深夜まで送別会を開いていた問題では、「どうなっているんですかね」「担当課長に話が聞きたい」などと玉川氏の舌鋒は鋭かった。それだけに、今回、身内の不祥事が起きてしまった場合は番組としてこうした「けじめ」をつけ方でないと視聴者は納得しないだろ。ただ、玉川氏が同社を代表して謝罪しているかのような印象を受けたので、個人的に違和感を覚えた次第だ。コメンテーターはあくまでも番組の論調を発する立場であって、会社を代表して発する立場ではない。

   それにしても違和感はさらに残る。この問題の責任の所在は番組にあるのではなく、会社のリスク管理というガバナンス(企業統治)の問題だ。むしろ、「テレビ朝日として」の謝罪の言葉を会社の最高責任者が真っ先に発すべきだ。会社として記者会見が必要だろう。

⇒11日(水)午前・金沢の天気    くもり時々はれ

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