佐賀で免許の自主返納が急増 タクシー割引サービスが後押し
2022/09/26 05:00
(毎日新聞)
漫才師の西川きよしさんが運転免許を返納して話題となったが、高齢ドライバーの自主返納がなかなか伸び悩んでいるのが現状だ。そんな中、人口10万人あたりの人身交通事故の発生件数が全国ワーストレベルの佐賀県でここ最近、返納者が増えている。8月の返納者は338人で7月の約1・9倍、昨年8月と比べても約1・6倍と急増した。その背景には何があったのか。
佐賀県警によると、返納者や5年以内の失効者に発給される「運転経歴証明書」の申請件数も8月は442件と7月の約3倍、昨年8月の約2・5倍だった。9月も同様の傾向だという。
佐賀市の県運転免許センターを訪ねると、午前10時半の受け付け開始前から免許を返納する人が待っていた。
同市本庄町末次の田中丸孝子さん(75)と永山恵子さん(75)は、幼い頃からの仲良し。田中丸さんは車通勤していたが、6月に退職。「7月に初めて娘から『もうそろそろ運転をやめたら』と言われた。ちょうど自分も運転していて『あら』ということが起きるようになった」と話した。
田中丸さんから返納の話を聞いた永山さんも、11月の更新を待たずに返納を決意した。2人の決断を後押ししたのが、佐賀県と県バス・タクシー協会の加盟タクシー事業者(42社と1組合、約1000台)が、8月に自主返納者らを対象に始めたタクシー運賃の2割引きサービスだ。
利用時に「運転経歴証明書」を提示する。元々、加盟事業者が運賃を1割引きにする返納割引は2017年から始めていたが、8月からはこれに県が1割引き分を上乗せした。2人は「とてもありがたい。今後は今よりタクシーを使ってもいい」と話す。
県内の市などが独自に実施しているサービスとの併用も可能で、唐津市民の場合、利用回数や料金の上限はあるが、合わせて5割引きになる。
県警シルバードライバーズサポート室の嬉野清次室長は「8月以降、返納に関する問い合わせも増えており、返納と申請の急増は2割引き効果だと考えられる」と話す。
一方、同県鳥栖市大正町の築地健彦さん(78)は、運転がふらつくことがあるなど不安を感じ、返納を決めた。バイクを含めると免許の保有歴は60年以上になる。無事故無違反を続けてきたが、8月にまず愛車を下取りに出し「人に言うとふんぎりがつく」ため友人らに返納を宣言してセンターにやって来た。
築地さんの自宅から駅まで徒歩で10分とかからず、スーパーや病院もすぐそばにある。周囲からは「おまえの所はいいもんな。うらやましい」と言われたという。車が生活の足になっており、なかなか手放せない人も多そうだ。
21年に佐賀県内で起きた人身交通事故は3506件。このうち、より過失の重い第1当事者が65歳以上だったのは25・4%と、年齢層別で最も高かった。死亡事故23件のうちでも65歳以上の第1当事者は10人で最も多かった。
嬉野室長は「自分の運転技能をきちんと把握し、危ないと思うようになったら免許を返納していただきたい。わたしたちも行政などのサービスをしっかり案内していきたい」と話している。【西脇真一】