唐松林の中に小屋を建て、晴れた日には畑を耕し雨の日にはセロを弾いて暮したい、そんな郷秋の気ままな独り言。
郷秋<Gauche>の独り言
カサドの新曲?!
実は郷秋<Gauche>、20世紀初頭の偉大なチェリストにして作曲家であるガスパール・カサド(Gaspar Cassado 1897-1966)と、彼の奥方であった原智恵子に関する資料収集をしているのだが、この度、カサドに関する新たな情報を入手した。
カサドに関する楽譜を中心とする大量の資料が、実は日本にあることは知る人ぞ知る事実。原智恵子(1914-2001)存命中の1991年に智恵子のご子息である川添光郎氏により、玉川学園に寄贈され、当時智恵子の自宅のあったフィレンッエから玉川大学教育博物館に直接運び込まれている。
その後、カサドの生誕100周年にあたる1997年には玉川大学において記念の演奏会が開催され、未出版であったカサドの作品の内3曲が限定出版されるなどしたが、その後は資料の整理・公開がされずに「玉川学園がカサドの資料を死蔵している」などの非難にさらされていたが、どうやらここ数年でその整理が進み遠からず公開される可能性があると云う情報を入手したのである。
情報は「玉川大学教育博物館紀要第11号」(2014年3月31日)である。最近入手したこの紀要にはカサド関連資料の整理・調査に関する報告が掲載されている(p.35-40栗林あかね氏)。これによれば、カサド没後50年、智恵子没後15年にあたる2016年には、少なくとも資料の全容が公開される可能性があるようだ。
さて、今日のタイトルとした「カサドの新曲?!」の根拠は、前述の紀要p.38に掲載された「図版②編曲譜(自筆草稿譜)」である。R.Schumann作曲のチェロとピアノのための「民謡風の5つの小品」op.102(Fünf Stücke im Volkston,1849年)を、カサドがチェロとオーケストラ用に編曲したものと思われる楽譜の図版が掲載されているのだ。
ただし、これは先に記したように「自筆草稿譜」であり、果たして全曲分が完成しているかどうかは現時点では不明である。カサド作品を、少なくともWeb上では最も豊富かつ信頼のおける情報を提供している「Gaspar Cassado」http://www32.ocn.ne.jp/~cellist2/ によれば、カサドの編曲によるチェロとオーケストラのための作品は4曲であるとされているが、この4曲にシューマンのop.102の編曲作品は含まれていない。
もし、カサドの編曲による「民謡風の5つの小品」op.102のチェロとオーケストラ版が演奏可能な状態にまで完成されているのだとすれば、たとえそれが手稿であったとして、今すぐにでも現代のチェリストの貴重なレパートリーに加えられる可能性のある大きな発見であることは間違いない。
膨大な資料の整理と調査は、多くのエネルギーと時間を要するものであり、中断の時期があったとしても、それを公開すべく調査・分析を進める玉川大学教育博物館の仕事は賞賛こそされ、非難されるものではないと私は考える。
先にも記したように2016年は奇しくもカサド没後50年、智恵子没後15年の節目に当たる年である。2016年に、何らかの形でカサドの作品の全容が開示され、可能であれば未出版となっている価値ある作品が世に出、現代のチェリストの愛奏曲とならんことを願わずにはいられない。
追記:時間的制約から、初稿の状態で掲載いたしました。明日以降推敲される予定であることを予めご承知おきください。