弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

The Lincoln Lawyer (リンカーン弁護士)NO.3

2014年11月14日 | 日記

この本だけでアメリカの刑事手続きの重要部分の多くを学ぶことができそうです。

3つの事件が絡み合って複雑にみえます。
一つは依頼事件の重傷害罪(aggravated assault with GBI)、強姦未遂事件、
二つは既決の殺人事件(ハラーが担当した別件。死刑を免れさせるために無罪を主張する被告人を説得し有罪答弁をし、服役中。)
三つは依頼事件の進行中に起こった、ハラー弁護士の友人にして信頼する調査員の殺人事件です。

映画を見た人たちのコメントでは「秘匿特権(ATTORNEY‐CLIENT PRIVILEGE)」が大きく取り上げられているようですが、これが問題になるのは既決の殺人事件だけです。
依頼者のLouisが認めるのは二番目のMartha殺しだけです。
People を殺した。Martha was one of them と認めただけです。
依頼事件については終始否認しており、認めたことはありません。
調査員のLevin 殺しについては、ハラーに対して否認も認めることもしていません。

「秘匿特権(ATTORNEY‐CLIENT PRIVILEGE)」について説明しておきましょうね。
わかりにくいのですが、「秘匿特権」というのは、直接的には弁護士に秘匿義務を課しているわけではないのです。証拠法上の法則で、依頼者の権利なのです。
つまり、秘匿特権は弁護士とのCOMMUNICATIONを弁護士が法廷で証人として証言することを禁止する権利を依頼者に法律上保障しているというだけなのです。
依頼者がこの権利を放棄すれば、弁護士は証言できるし、証言しなければならないのですが、依頼者がこの特権の行使を明確にしている場合は勿論ですが、放棄したかどうか明確にわからない限り、依頼者の権利を侵害の責任を問われないためには、とりあえず、弁護士としては拒否するしかないわけです。
そしてこの特権は依頼事件での証言だけでなく他の事件での証言にも適用になるので、現実問題としては弁護士自身に秘匿義務を課すのと同様の効果があるというだけでなのです。
弁護士の秘匿義務は依頼者の特権の反射的効果というわけですが、
実際問題として、誰もあれこれ詮索されたくありませんから、そういう権利があるなら、とりあえず行使しておこう、となりますよね。
この場合は、Louisは自白すると同時に「秘匿特権でカバーされているはずだ」とハラー弁護士を脅していますから、Louisが放棄していないことは明確です。

なお、この秘匿特権は「弁護士・依頼者の関係の中でなされたものであること」、「第三者から秘密にするという環境の下でなされること」などの要件が必要です。
受任後最初の打合せの際に、Louisの母親の同席を断るのは、母親は第三者なので、第三者である母親が同席でなされた情報については「公開」とされ、一旦公開された情報は秘密ではなくなるので、秘匿特権の対象にはならないのです。
したがって、ハラー弁護士も証言を強制される(証言しない場合は法廷侮辱罪に問われる)ことになるのです。
一方、弁護士だけでなく、同席の弁護士秘書とか調査員については弁護士の秘匿特権でカバーされ、依頼者は弁護士だけでなく秘書や調査員の証言も禁止できるのです。

いずれにしても、このあたりは専門的、体系的、本格的に勉強しないとなかなか理解が困難かもしれません。

ついでに、依頼者の秘匿特権とは別に、弁護士には守秘義務(DUTY of CONFIDENTIALITY)があるのです。これは、ストレートに弁護士にREVEALしない義務を課すものです。しかも幅広く、依頼者から得た情報だけなく、依頼者に関する情報、たとえば、調査員の調査の結果知ることになった情報も含まれるのです。
Marthasa 殺人事件で服役中のMenendez に関する情報については、守秘義務の対象として、たとえ本人に有利なものでも本人の同意がなければ明かすことはできないということになります。
ややこしいですね。

それにしても、被害者の顔の類似性からMartha殺しの真犯人はLouis ではとの疑いのもとに調査を始め、Louis 自身認めたとなれば、当然、そのきっかけとなった未遂事件の犯人はLouis となるはずですが、未遂事件では無罪放免となる、なんとなく消化不良気味になりますね。
ハラー弁護士は、「刑事弁護士としては白黒をつける必要はない。検察側の証拠のCrackをみつけ、それを大きくひろげ、灰色にするだけだ」と自嘲気味に述べています。
また、Part Two のタイトルが「A World Without Truth」となっていることから推測すると、それが著者が表現したかったことかもしれないと思います。
ただそれでいいとは思っていないのは高名な刑事弁護士であったハラー弁護士の亡父の言葉として「There is no client as scarey as an innocent man.」をサブタイトルとしていることからわかります。
このあたりが彼を正義派弁護士にしているのだと思います。