弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域 第19話 閉ざされた扉

2011年07月29日 | 判事ディード 法の聖域

第19話は閉ざされた扉(Hard Gating)です。

刑務所問題がテーマです。
交通事故の控訴事件もそれと絡んでいます。
今回は、ディードは高裁事件を担当しています。
ロンドンにあるクラウンコートの法廷は本当に狭いんです。
あのテレビのとおりです。
日本の場合、特に高裁は合議で裁判官3人ですから、もっとゆったりしています。

刑務所内で起こった殺人事件、しかも人肉を食べたという衝撃的なものです。
検察も弁護側も、Manslaughterで争いがないので、通常であれば何も
問題がないケースです。
しかし、ディードは裏に何かがあると考えています。
それで、ニュートン・ヒアリング(Newton hearing)という判例を利用して、裁判を継続
しようとするのです。
Newton hearingというのは有罪だということには双方争いがないが、その理由や
事実関係について、検察側と弁護側で大きく離れていて量刑に影響があるという場合
に通常の手続きのような証人尋問など裁判が行われるものです。
しかしいわゆるMURDERには適用されないようですが、やってみようというわけです。
検察も弁護側も人肉を食べるなどという異常な事件なので、争う意欲をなくしています。
早く終わりにしてほしいというのが本当の気持ちでしょう。

ディードは例の嗅覚でこのような異常な事件が起こったことについて、刑務所内部の管理に
何か問題があると考えたというわけです。
それで、弁護人の主張と被告人ブラッドウェルの主張(provoke とか self diffenceなど)
に食い違いがあるなどと口実をつけて
Newton hearingの陪審なしですることにしたのです。
しかし、ジョーは弁護士としてなんとかしてやりたいという気持ちが、検察役のアラン・メイソン
は何か裏があると感じていたので、特に反対しなかったのです。

もともとの放映は2006年ですが、そのころ、少年院でムスリムの少年が
人種差別主義の同房の少年に殺されるという事件が現実に発生していました。
その中で、刑務所の過密問題や刑務所職員によるいじめや虐待問題などが
明るみにでました。
刑務所職員は悪意に満ちたゲームをして楽しんでいたこと(グラディエーターという
復讐劇の歴史映画の名前をつけるなど)や問題が生じる可能性のある者同士をわざと
同室させ、挑発したりからかったりということがあることがわかりました。
調査をした司法当局からの改善を求める報告書も政府に提出されたようです。

これに対して内務省は予算の関係で、真相を明らにすることに抵抗していたようです。

今回のテーマは明らかにこのような動きを背景にしたものです。
このドラマでは人種差別主義者の白人ブラッドウェルの房に出所間近い黒人セトルを入れたのです。
ノートにはその記載があったということですから、挑発させようとしたのでしょう。
なぜ、この黒人が選ばれたのかはわかりませんが、
看守責任者が所内の秩序維持のために配布していたドラッグをためて売っていたということですし、
母親は私人訴追を2回もしていたなどで看守者に嫌われていたのです。
そのことは、ディードがジョージの仲介でニールから手に入れた名簿で明らかになった
事件当時、隣の独房にいたバリ・ペイジという囚人の証言で明らかになりました。
なお模範囚との訳がありましたが、ちょっとおかしいかなと思います。
ペイジはあだ名で呼んでいたようです。私にはアクワイア・ボーイ(acquire boyではないか
と思いましたが)と聞こえました。ドラッグに絡んだものと思います。
模範囚がprincipal officer(看守責任者)のスピアソンに嫌われるというのはおかしいです。
最終段階のペイジの証言で事情がわかりますが、それでも模範囚と訳したのではフォローが
難しいです。

なお、ついでにいうとManslaughterを過失致死罪と訳すのは間違いです。前から気になって
いましたが、
日本の殺人罪とは違いますが、日本の過失致死とも違うからです。
謀殺罪と故殺罪という言い方もありますが、アメリカで一級殺人と二級殺人というように
殺人罪に2種類があるということです。
なお、両方を含む時はHOMICIDEというのですね。
ジョーがブラッドウェルに説明するときに「HOMICIDE ACT」と法律名を挙げていました。

看守者はドラッグを使っておとなしくさせていたということですが、ちょっと信じられ
ません。しかし、ほおっておくとアナーキーな状態だったことは事実なのでしょう。
しかし問題は、だからと言ってこういう違法が許されるというわけではありません。

被告人は明らかに精神的におかしい状態でしたね。
年中問題を起こし、ドラッグをうるなどうまく立ち回る黒人は目ざわりだったのでしょう。
精神を病んで治る見込みのないような被告人は気の毒で同情するところもありますが、
極端な人種差別主義者の被告人は黒人の囚人が増える一方の刑務所(ニールが
言っていました)の管理者にとっては余計なお荷物だったでしょう。
スピアソンはお荷物の二人を一気に処理してしまおうと考えた可能性があります。

被告人は「死体を食べるように」スピアソンから命令されたということでがわかりました。
(バリ・ベイジの証言、被告人の最後の叫び)
それにしてもバイジの犯行時の状況の証言は衝撃的でした。
スピアソンが死体を食べるように命じたのは精神異常者の殺人として刑務所の責任が
問われなくなると思ったのかもしれません。
看守の一人がセトルの殺害を知ってスピアソンに報告した後、スピアソンは
死体を食べるようにし向けてたのですから。

看守者のこのような権力の乱用は許されることではありませんが、
刑務所など閉ざされた施設の運営は本当に難しいことなのだと思います。

交通事故を起こした被告人の控訴判決で、ディードが実刑でなく
non cautodial の判決にしたのは、刑務所に収容しても解決しないし、
そもそも無秩序な刑務所の実態があったからと思います。
そして犯罪の被害者である遺族の父母にまず話し合いを始めることからスタート
するよう説得したのも、真の救済とはなにかを考えてのことだと思います。
イギリスでは早くから犯罪被害者のための活動組織があり、多分このころから
政府の補助金等の支援が本格化しました。
もともと心のケアから始まった取り組みfだったので、金の問題だけでない、
双方にとっての救いを、難しいけれでも彼らならやれると、期待したのかもしれません。
期待できそうな雰囲気でしたね。

また、イギリスでは私人訴追(private prosecution)ができるのですね。
日本では検察官しか起訴はできません。捜査のきっかけである告訴や告発はできますが
起訴については検察官の独占です。
ただ、そうはいっても、イギリスでも私人訴追は推奨されておらず、したがって
結局は証拠不十分になり、不起訴になるのが実情で、有名無実化しているのです。
ということを、ディードは説明してセトルの母に諦めさせています。現実的に考えろというわけです。
と同時に、ニールとの取引条件(名簿とCTTVの映像と引き換え)でもあったのです。
そのかわり、ディードからprima facie case(いちおう証拠があるケース
(日本にはない考えです)として法務長官に報告するということでした。
このように、ディードは被害者のために本当に救いになる現実的な方法を検討して
います。

そういう意味でディードは正義の味方、弱い者の味方です。
ディード本人に言わせると、most dangerous judge ということになるのです。
こうしてみてくると、ディードは表に出た事件を解決するだけでは満足しないのです。
裏に潜む本当の原因までさかのぼって一気に解決したいのです。

ですが、ニールが騒いでいましたが、事件の真相(刑務所のケイオス状況)
を国民の目から逸らしたいというのが政治家であり、政府なのです。
それを暴こうとするディードは危険で手に負えないというわけです。

なお、ディードと内務大臣のニールとの関係は個人の関係であると同時に
内務省 対 裁判官という組織の問題と化しつつあるようです。

ドラマにもあるように量刑についてはそれまでは裁判官の裁量次第というところだった
のが、政府の量刑のガイドラインができたことがわかります。
また、ニールが全部の刑の処罰を法律で決めるなどといっていますし、
ディードを辞めさせるさせないの議論になったとき、いつもイアンから注意されていますが、
やめさせることができると考えているのです。
議会が、つまりは政治家が司法をコントロールできるとの考えが
イギリスでは強くなっています。もちろん法律を通じてですが。
ただ、われわれ日本人からみると、罪刑法定主義といわれるように法律で決めるのは
当たり前なのですが。このあたりは歴史ですね。
そういう流れをうけて、裁判官の中でも、ディードに共感する人がいるのだと
思います。モンティもジョン・チャニングもそうです。
徐々にディードに洗脳?されているように感じます?
イアンはわかりませんが、最近では諦め気味か?あるいはニールの強引さに
ややうんざりしているように思います。

さて、ジョーとの恋愛の方はどうなるのでしょうか。
本当の愛というのは成就が難しいのでしょうか。
小さいマイケル、能面のような表情が今回は愛くるしくなってきたように見えました。

ディードの扱う事件はより深刻になってきたように思います。
それだけ社会が複雑化深刻化しているということなのでしょう。

これからも人間の「心」を失わない、革新的な裁判官であってほしいです。

最後に、判決の主文は何だったのでしょうか。
検察も弁護側も、Manslaughter based on diminished responsibilityでした。
ディードの口からは本来ならばMurderであるがという言葉はでましたが、
Manslaughterという言葉は一切ありませんでした。
しかし、証拠調べの結果、satisfiedしたということ(つまり双方の主張に満足したという意味)
such ・・・mind as diminished responsibility と言っていましたから
やはりManslaughter based on diminished responsibilityなのだと思います。
ジョーは直ちにmitigation(軽減)を主張していました。
ディードは刑務所収容ではなく専門病院への・・・収容(detention)にしたようです。
釈放には別に命令が必要なようでした。
なお、・・・・の2か所は、どうしても英語が聞き取れませんでした。

この被告人は29歳ですがそのうち24年間は何らかの施設ぐらしだったということでした。

いろいろと考えさせられました。


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