17話は焼却炉の煙(Separation of Powers)です。
前回の話を受けて、始まります。
被告人だったルーファス・バロンは、内務大臣のニール・ハウマンが雇用主のティム・
リストフィールドから、防衛契約を巡って賄賂を受け取ったと証言しました。
バロンは身を守るために、ニールとリストフィールドとの贈収賄をめぐる証拠を隠し持っています。
ディードは、16話でレコーダーとして裁判を担当したジョーが、命、あるいはマイケルの身の安全
を脅されたことに憤りを感じています。
司法に対する政治(実業家と結託して)の干渉は許されないという強い信念です。
ディードがニール・ハウマンを目の敵のようにするのは、
内務大臣というのは、イギリスでは司法制度の統括責任者だからです。
先妻のジョージの恋人だからというような個人的なことではありません。
内務大臣のニールがディードの辞任を望んでいるのは、正義感の強いディードに自らの
腐敗を暴かれるのを恐れているからです。
食うか食われるかの戦いです。
また、これも引き続きですが、廃棄物焼却場から排出されるダイオキシン被害を巡る事件ですが、
ニール・ハウマンはディードを担当からはずそうと画策しています。
こうなると、ディードは絶対に譲らない性格です。
そこで、ディードの女性問題のルーズさが利用されます。
直接の事件の当事者と関係を持ったことは、やはり、まずいです(15話)。
ハイコートジャジを本人の意思に反して辞めさせるには、両院の承認が必要ですが、
ハウトンはこの弾劾手続きを進めようとしています。
弾劾手続きは最後の手段ですから、モンティやニヴァン、元義父のサージョセフ・チャニング
などを通して圧力をかけていますが、何の役にも立ちません。
そこで、例によって、ディードを事件から外そうとします。
ディードが強引にかさっらてきたダイオキシン事件(カーディナル社)をまずニヴァンが引き取ろうと
しますが、ニヴァンのいうことすら聞きません。
さて、この事件ですが、原告の代理人はジョー、補佐のジュニアは娘のチャーリーです。
被告代理人はジョージです。父、娘、先妻、現恋人と身内ばかりですが、
これはドラマだからでしょう。
ジョーはニールと結婚かもという付き合いですから、当然ニールサイドの動きです。
罷免手続き中のジャジは裁判を担当する資格がないとか、準備に時間がかかるなど
引き延ばしをしようとしますが、上手くいきません。
モンティやサージョセフ・チャニングも政治サイドの強引なやり方に不快感を抱いて
いますから、女王が認めるまでは、ハイコードジャジだ、裁判を担当しても良いではないか
と主張するディードに特に反対しません。
この事件は、ごみ焼却場からでるダイオキシンで奇形の子供ヘンリーが生まれた(第1子は
流産、第2子は目が一つ、鼻がない、二分脊椎症という奇形)と主張して損害賠償請求
を求める事件です。
ダイオキシンは有毒物質であることはベトナム戦争などでわかっています。
しかし、こういう事件は因果関係の証明が難しいですし、また予見可能性があったかも
必要です。
こういう事件では専門家証言も必ず相反するものがあるので、決定的ではありません。
結局は、処理場側で「危険を知っていた」ことが証明されないと、なかなか因果関係は
認められません。
この裁判は難航します。
ニールはこのダイオキシン裁判の前にディードを引きずり降ろそうと急いでいます。
ディードは事件の悲惨さから、何とかしてあげたいという気持ちがあるのですが、
なかなか証拠が弱いです。
ディードとしては、最後までこの事件を見届けるためには、ニールにプレッシャーを
かける必要があります。
あまり仲の良くなかったジョセフですら、ニールの弱みを見つけるしかないと言います。
ジョーは、「政争の具」(political football)にしないでといいますが、なっていきます。
ニール・ハウマンの贈賄の証拠は、ルーファス・バロンの証言と彼の持つ書類ですが、
刑事事件が終わるやバロンは賄賂を贈ったという証言を拒否します。
ディードとしては、贈賄事件にするよとニールを脅すしかないわけです。
ダイオキシン事件の関係で、ディードはチャーリーに証拠の集め方についてサゼスチョンを
あたえていました。その過程の中で、カーディナル社のトンネル会社であるメンター(PR会社)の
存在がわかりました。そして、一時期、ニールとリストフィールドがメンターの
役員をしていたということがわかりました。ようやく、二人の接点を見つけたのです。
(これは取締役名簿で容易に証明できます)。
駆け出し弁護士のチャーリーにはこの事実の重要性はわかりませんが、大ベテランの
ジョーにはわかります。
ディードの窮地を救う可能性が出てきました。
横道にそれますが、ベテラン弁護士か新人弁護士かによって、同じ情報が生かされも
殺されることもあることがわかります。
それは、優秀な弁護士とそうでない弁護士とでも同じです。
こういうことはイギリスも日本も同じなんですね。
となると、ディードは生き残るためには、どうしてもバロンから事実を聞きだす必要が
ありますが、自らは動けません。チャーリーに頼みますが、チャーリーはそんなことしても
ママはニールと結婚するわよと、いうだけで、ことの重要性がかわりません。
しかし、法廷で母親のジョーがディードに冷たい言葉を吐いたことに憤りを感じたのでしょう、
バロンに会いに行きます。
絵のことで意気投合し、ヘンリーの写真をみて義憤を感じたのでしょう。
バロンはメンターのことやリストフィールドのことなどを話してくれることになりました。
バロンは本当は優しい、良い青年だったのですね。
ディードの部屋で供述します。速記官に速記させていましたので、正式なものですね。
バロンはこの供述では、リストフィールドの個人秘書をしていた。彼はTHEFTということで
告訴したが、実際は、くれたものだと言っています。その同じ口座に70万ドルが振り込まれ、
それは現金化したと述べていました。くれた理由については大富豪だというだけでした。
現金化したものについては賄賂として使ったと供述していました。
「370万ドルはくれた」という供述でしたが、これはそのまま信じていいいのかどうか
疑問と思います。
実際にドラマをみればわかりますが、一度、法務長官の指示で、警察が、ニールの件で
バロンに審問しています。そのときには、前の裁判では嘘を言って勝ったという証言だった
と法務長官はディードに報告しています。そのとき、偽証罪は重大な犯罪だが、そのことを
本人に警告したかとディードがきいていました。
ディードが作成した文書はニールを糾弾するために使われるのですし、要は70万ドルに
ついてわかれば良いわけですから、見えないところで、その程度の了解がなされていても
おかしくありません。(私の深読みの可能性もあります)
証拠のコピーなどについても貸金庫まで行きますが、分量が多いので、日記のみ持ち帰り、
契約書のコピーなどは後日にしますが、結局、リストフィールドに侵入され奪われてしまいます。
この供述書も法務長官に渡し、Judicial inquiryを要求します。法務長官はそのつもり
のようですが、イアンは、ニール・ハウトンは証拠がないといっているといって取り合おうと
しません。
イアンはわざわざディードの部屋により、議会の閉会前に罷免の手続きがされるよとか、
その前にカーディナル事件は終るかななどと挑発して帰ります。
ディードはバロンと善後策を話し合いますが、証拠はそこに全部置いてあったということで
お手上げです。折角、追い詰めたのですが。
するとバロンはメンター社へ入るアクセスコードがあるので、そこに侵入して証拠を探してみる
と言い出しましたが、当然ハイコートジャッジの立場では認めるわけにはいきません。
チャーリーとバロンの間には何か心が通うものがあったようです。
ふたりでメンター社まで出かけますが、バロンはチャーリーを残してひとり入っていきます。
ダイオキシン事件は引き続き進行していますが、決定的なものは出てきません。
ディードは、ヘンリーとも会います。そして何とかしてあげたいという思いを強くするのですが、
どうすることもできません。
ジョーにチェインバーに来てもらい、2要件とも証明できていない。法律ではどうすることも
できないと、心証を伝えます。
そして、ハウトンに対する証拠は全部なくなった(なお、字幕では反証となっていますが、
告発する側の証拠ですから本証です。evidence againstとなっているので、反と訳したのかも
しれませんが間違いです)、明日、議会でディードの罷免の動議が
審理される予定だ。もう方法はない、ともう涙が出そうな感じです。
ディードが弱気になると、ジョーが強気になります。ハウトンに対抗できるような裁判官は
あなた以外いない、法務長官と話をするとか兎に角何でもしなきゃとプッシュします。
ジョーの剣幕に押される形で、受話器を取り上げます。
ディードは何を武器に交渉するのか?
「弾劾手続きをストップしないと日記をマスコミに公表する」と、
「もともと、ハウトンに対する主張は根拠がないんだし」
などとやりとりがありますが、ディードも引き下がるわけにはいきません。
法務長官から「カーディナル?」と聞かれて
無言で首をかしげます。
法務長官は、自分一人では決められない、仲間と相談する、となりました。
「call me」と言い残してディードは弱々しく立ち去ります。
ハウトン、イアン、法務長官が協議しますが、それぞれに意見が違うようです。
結局、様子をみることになったようです。
さて、その間に、ダイオキシン事件の方で、大きな展開がありました。
メンターに侵入したバロンが証拠を見つけたようです。
動きがあわただしくなります。
ディードは法務長官に取引中止の電話をします。
法廷が開かれます。
決定的な証拠です。
ただ、問題は証拠として採用していいかどうかです。
ジョージは「too late」だから提出(submit)は許されないと議論しています。
ディードもイアンも「late evidence」と言っています。字幕では新証拠となっていますが、
間違いです。もちろん新しくわかった証拠であることは間違いありません。
しかし、ここで問題となっているのは、その証拠が「時機に遅れた」ものだからなのです。
「late evidence」というのは「too late evidence」のことです。
裁判というのはだらだら継続するわけにはいきません。証拠がでてくるつど提出を認めて
いたのでは、いつまでたっても終りません。
長引かせるつもりの当事者は、出し渋りをすることだってあるわけです。
証拠が出れば相手にも防御の時間を与える必要があるので、遅れるばかりです。
ですから、ある段階になれば、もはや証拠として提出を認めないというのが、これは
日本も同じですが、裁判の考え方です。
これを「時機の遅れた証拠」といい、提出が認められないのです。
厳格に考える国(裁判官)もあれば、そうでない国(裁判官)もあります。
日本はややルーズですが、やはり制度としてあります。
このダイオキシン事件では、ディードがジョーに事実上心証を漏らしているので、証拠調べの
手続きは終わっているものと思います。
判決まちの状態なのです。
ディードは、勝ち負けだけでなく、命や将来の種の問題にもかかわることなので、
真実発見のためには証拠として提出を認めると判断したのです。
でもイアンは「late evidennce」だから許されないと言っていましたね。
さて、新しく手に入れた証拠というのは、カーディナル社の依頼でメンターが行った調査の
報告です。
これによると、煙突に設計ミスがあるということです。
ただ、修理費は損害賠償費より高額になるというものです。
ですから危険だということがわかりながら、設計ミスをそのままにしたということなのです。
代表者の証言で、開業後1年の段階でもうすでにわかっていたというのです。
(これは危険の予見可能性にかかわる質問と思います)。
こういう重要な証拠ですし、それを被告は隠していたわけですから証拠として採用するのは
当然のように思います。
(イギリスはわかりませんが、日本では弁論の再開という制度があります。
おそらく、この報告書であれば、弁論が終結していても再開される可能性が
あるほど重要と思います。)
それに、この証拠はもともと相手である被告の文書です。
したがって、防御の必要もないわけです。
ニールはやはりディードを辞任に追い込みたいのですが、モンティなどのジャッジサイドは
急に態度を硬化し、ディードの辞任、弾劾手続きに反対するようになりました。
ニールの魂胆がわかったからでしょう。
ジャッジとしては、政治の都合で司法を掻きまわされるのは真っ平ということでしょう。
つまり、Separation of Power ということです。
ニールは心配でたまらないようですが、リストフィールドは、もう証拠はなくなったから
全然心配いらないと余裕です。
バロンを殺してしまったのです。証拠のコピーも倉庫に侵入して奪ってきました。
でもニール・ハウトンはそこまでは知らないので心配していいるのです。
会社の利益追求のためなら人殺しもありというのは本当に怖い世界です。
さて、結果です。
ダイオキシンが原因であることはわかったが、そのダイオキシンが処理場の排出に
よるものかについては、この報告書で、煙突の設計ミスが指摘されていることで
一目瞭然だと判断しました。
そして損害金ですが、
ヘンリーの介護費用として毎年10万ポンドを終身、
loss of home に対して50万ポンド
さらに懲罰的損害賠償として、奇形のある子供を出産したという悲惨な状況に対して
350万ポンドというものでした。
バロンの命と引き換えに所得した証拠が彼ら親子3人にに生きる希望をもたらして
くれることになったのです。
懲罰的損害賠償(exemplary damages)というのは、アメリカではしばしばあります。
ディードも施設の閉鎖や煙突の修理などに要する費用に比べれば、損害賠償など
大したことはないと、経済的理由を優先したと被告の悪性を厳しく非難しています。
そして、イギリスの法廷でも高額の懲罰的損害賠償はあり得るということを見せしめとして
課したものと思われます。
イギリスでも例外的ですが、懲罰的損害賠償(exemplary damages)は認められている
ようです。
大変参考になりました。
とりあえずは、ジャッジたちの団結で政治の介入、干渉を防ぐことができたようです。
なお、チャーリーですが、彼女はディードやジョーのタイプで、気持ちを大事にする
弁護士に育ちそうな予感です。
バロンにほんのりとした思いを抱いていたようです。
法律の世界の厳しい現実を嫌というほど知ったものと思います。
そういう辛い思いを何度も乗り越えて、良い弁護士になっていくものです。
いずれは、ディードやジョーの力強い味方として働くようになりそうです。
楽しみです。