徳丸無明のブログ

雑文、マンガ、イラスト、その他

死に至る病は何ですか?

2015-10-04 22:06:08 | 雑文
前回、岸田秀の知見を借りて論考を進めた。
今回もまた、岸田の考えを引用したい。
岸田によれば、人間というのは、本能の壊れた生き物であり、ありのままでは、自然環境に適応して生きることができなかった。なので、なんとか生き残るため、自然環境に適応するために、文化を発明した。道具にせよ、宗教にせよ、儀式・習慣にせよ、音楽にせよ、言葉にせよ、全ては人類がなんとかこの世界に対応するために生み出されたものだ、という。
で、最初に発明したもので満足していればいいのだが(その種の人達は、俗に原始社会と呼ばれる文明に属している)、中には、それだけでは物足りなく感じる人々も出てきて、次々に新しい文化(対応品)を創るようになった。でも、何を創っても結局満たされず、新しい物を創り続ける試みも、終わりのない循環に陥ってしまった。近代文明とは、そのスパイラルの果てにあるものだ。
…ということなのだ。
それから、それとは別に、とある疫学者の分析があるのだが、その分析によると、文明の発展段階と、その文明に属する人々の主な死因には、相関関係があるらしい。
どういうことかと言うと、文明の初期、つまり原始的な社会においては、消化器系の感染症が、主要な死因となる。消化器系の感染とは、コレラや赤痢などだ。
次に、文明が第二段階に進むと、公衆衛生に気を使うようになり、上下水道の整備等が行われ、消化器系の病気は減少していく。それに代わって、主要な死因が、呼吸器系の感染症になる。これは、結核や肺炎だ。
さらに、第三段階に進むと、医学の進歩により、ワクチンなどが作られ、結核、肺炎は減少する。すると、新たに主要な死因に取って代わるのが、ガンなどの生活習慣病となる。
で、ここからさらに第四段階があるのだが、ここに至ると、死因の一位が、精神の病、つまり自殺になるらしい。
これは、岸田の説と辻褄が合っている。
もっと理想的な社会を、もっと新しい何かを、と追求し続けてきた結果、文明が人類を疎外するようになるわけだ。
小生の見立てでは、日本は今、第三段階にあり、第四段階に片足を突っ込みつつある状態だと思うのだが、しかし、ここで疑問に思うのが、それよりも先の、第五段階はあるのか、ということだ。
死因の一位が自殺という、文明全体が狂気のような状態に陥ってなお、人は更なる発展を目指すのだろうか。その果てに辿り着くのは、果たしてどのような社会なのか。


オススメ関連本・斎藤環『生き延びるためのラカン』ちくま文庫