2日前、朝日新聞28面(社会面)下段に『MOX燃料20年で倍増』という記事が載った。どうも話題にならなかったようだが、注目すべき記事である。MOX燃料がどれだけかかるかを契約上の守秘義務として公表していないからだ。
記事によれば、貿易統計データから価格を推定したところ、通常のウラン燃料が一体あたり1億2千万円のところ、MOX燃料が10億1千万円であることが判明したという。
MOX燃料とは、プルトニウム酸化物(PuO2)とウラン酸化物(UO2)を混ぜ合わせた原発用核燃料のことをいう。原子炉の使用済みウラン燃料中にプルトニウムが約1%含まれる。このプルトニウムを再処理にして取り出し、ウランとを混ぜてプルトニウム濃度を4から9%に高めた核燃料である。
日本には技術的な問題があり、まだ青森の再処理工場が稼働していないので、日本の使用済みウラン燃料をフランスで再処理してもらっている。したがって、MOX燃料の価格とは再処理と加工の費用である。それでは、これで、どれだけの電力がえられるのだろうか。もとのウラン燃料から得られるエネルギーの12%だけ増加するという。このことの意味は、ウラン燃料を12%だけよけいに買えば、10倍の価格のMOX燃料を使うのと同じ電力が得られるということだ。
MOX燃料を使えば使うだけ損していることになる。
調べてみると、MOX燃料は高いことは、岩波書店の月刊誌『科学』の2月号の巻頭エッセイでも指摘されている。
《日本は,その高速増殖炉計画がとん挫したため,フランスに倣って,再処理で分離したプルトニウムをウランと混ぜて混合酸化物(MOX)燃料として普通の原子炉で燃やす計画だ。たとえうまくいってもMOX燃料利用コストは,普通のウラン燃料を使った場合と比べ,1桁大きくなる。》
朝日新聞の記事はこのエッセイを裏づけている。朝日新聞が価格推定に利用したのは、昨年9月に関電がフランスから輸入したMOX燃料である。その1年前に、関電が使用済みウラン燃料をフランスに送り、11月から処理加工を始め、8か月後の昨年7月にMOX燃料が完成し、輸入したものである。日本でMOX燃料を作ることができないだけでなく、フランスでも大変な作業なのである。イギリスはすでにMOX燃料の生産をやめている。
経済合理性だけでは、MOX燃料を使うことが説明できない。MOX燃料はウラン燃料と色々な特性が異なる。たとえば、ウランと比べ、プルトニウムは、遅い中性子をぶつけても核分裂反応が起こりにくい。したがって、密集させる必要があるが、密集させると高温になる。爆発的に核分裂連鎖反応が進まないために、これまでのウラン燃料用原子炉をプルサーマル炉に変更しなければならない。
現在、プルトニウムを使用済み核燃料から取り出し保有するという政策を続けているのは、核兵器保有国4カ国(仏・ロ・中・印)と、日本だけである。英国は2022年に再処理を終了することになっている。
したがって、日本は核保有国になりたいのかもしれないと世界から疑われている。この疑われている状態が、自民党内の核武装派にとって居心地がいいのだと思う。
経済合理性を主張する河野太郎は昔から核燃料サイクルのウソを追求し、使用済み核燃料の再処理に反対してきた。河野太郎が自民党の総裁選に負けたということは、核武装派が自民との主流派になっているのだろうか。
岸田文雄首相は昨年9月18日の日本記者クラブでの総裁候補者討論会で、「核燃料サイクルを止めてしまうと、除去される高レベルの核廃棄物はそのままということになる。再処理すると廃棄物の処理期間は300年と言われている。高レベルの核廃棄物を直接処理すると10万年かかると言われている」と意味不明でバカげた発言をした。プルトニウムは半減期が非常に長いから単位時間に発生する放射線の量はきわめて小さい。核廃棄物の中の放射性物質といわれるものは、半減期が数年から数十年と短いから危険なのだ。
プルトニウムの問題は、濃縮すると起きる。臨界半径を越えてプルトニウムが密に集まれば核分裂連鎖反応が起きて、一気に爆発する。核兵器である。経済合理性を無視して、わざわざ再処理してプルトニウムの濃度を高めるのは、核兵器を作りたいという下心をチラつかせたいだけである。
使用済み核燃料の再処理に反対する河野太郎のほうがまともである。
ロシアがウクラナイへ軍事侵攻するにあたって、ウクラナイ側に立つ国に必要となれば核を使うかもしれないと脅している。このため、アメリカ政府もNATOも援軍をウクライナに送ることをためらっている。すなわち、アメリカやNATOの核兵器は何の役にもたっていない。それなのに、日本はなぜ核武装をするぞと世界を脅したいのか。まるで、北朝鮮のまねではないか。
日本は核武装するのか、平和憲法のもと、非核を守り続けるのか、正面を切って論戦するときがきていると思う。
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